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6 人間辞めました

ブクマがまさかの10件という二桁大台に乗ってました。評価もブクマも皆様ありがとうございます。いいねまで頂けてとても励みになってます。

 聞きたくなかった言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。


 ここが地球じゃない? どういうこと? なんでこんなことになったの? 私、何かしたのかな? ただ部屋でゲームをしていただけなんだけどな? 突然床が消えて、落下先が別の世界とかいうやつで?


 今まではまだこれは夢かもしれないっていうわずかな希望に縋ってたから耐えられた。

 でも、こうもハッキリと宣言されるとキツイものがある。


 神様とか名乗る人外さんが本当に存在しているこの世界。

 そんな世界で私は生きていけるのかな。

 こんな子供の姿になって、これからどうすればいいんだろう。


 そんなことを考えていたらまた涙が出てきた。

 ここに来てから私は泣いてばかりだな。


「うぅ。うちに、帰りちゃぃ……」

「何を言っている。すでにここが貴様の家だろうが」

「はぇ?」

「オレの眷属となるのだから当然だろう」


 何を当たり前のことを言っているんだお前は。とでも言わんばかりにフェルトス様が私を見る。


 私が、眷属? それにここがお家? こんな何もない所が私の新しいお家? ここは壁も床も屋根も何もありませんけど? 野晒しと同義ですけど?


 驚きすぎて涙も引っ込んじゃいました。


「うぅ」


 それでもやっぱり嫌だ。

 だってここには娯楽が何もないんだもん。娯楽がないなんて退屈で死んでしまう!

 いや、それだと娯楽があったらオッケーみたいだな。それはちょっと違うし……。


 あともう一つ。気になったこともある。


「ん……? けんじょく?」

「そうだ」


 誰が? 私が? フェルトス様の眷属になる?

 それはつまり――就職先が決定したということでしょうか。しかも住み込みの就職先ですか。

 たしかにこれからのことは不安だったから、フェルトス様の提案はものすごくありがたい。

 この世界がどういう世界かまだわからないから、少しでも知ってる人がいるなら安心できる。


 それに、ここを追い出されたとしたら一つだけ確実に言えることがある。

 それはこんな子供の姿じゃ、一人でなんてとても生きていけないってこと。

 正直。大人のままここに落ちて来てたとしても自力で生きていける可能性は低いけどね。


 堕落した現代人を舐めないでほしい。


 帰れないという事実はものすごく。ものすっごく悲しいけど。いつまでもうじうじと泣いていても仕方ないもんね。少しずつでも受け入れて前を見るしかない。


 だから私は決めました。


 ごめんねお母さん、お父さん、あとついでに弟。

 斎藤冥(さいとうめい)、改めメイは、こっちで頑張って生きていこうと思います。


 決意を新たに顔を上げると、眉を下げたセシリア様の顔が目に入った。


 そんなお顔も素敵です。


「あら、残念。可愛い子だから私が譲ってもらおうと思ってたのに」

「ふざけるなよセシリア。いくら貴様でも横取りは許さんぞ」


 セシリア様のお言葉に反応してフェルトス様の眼光が鋭くなった。

 人を殺せるんじゃないでしょうかこれ。というか、睨まれているのは私じゃないのに、ものすごく怖い。

 体がぷるぷる震えて、思わずセシリア様にくっついちゃうくらいには怖いです。


「わぁおっかない。そんな怖い顔してたらおチビちゃんに嫌われちゃうんじゃない? ねー」

「うぅ」

「ぐっ……」


 なんだかフェルトス様がたじろいでいる……気がする。

 さっきまでの冷たい空気が一気に和らいだ感じでしょうか? 圧迫感がなくなりました。


「おチビちゃんだってこんなこわーい陰湿蝙蝠なんかの眷属なんて嫌よねー? 私の方がいいわよねー?」


 私の顔を覗き込むようにして聞いてくるセシリア様。

 美しいご尊顔が目の前に。うっ、目がっ! 眩しい!


「私の眷属になればこんな辛気臭い場所じゃなくて、もっと明るくて綺麗で楽しいところに住めるわよぉ」

「……辛気臭くて悪かったな」

「それに、美味しいものだってたーっくさんあるわよぉ」

「はぇ……おいしいもにょ……」


 セシリア様の言葉にごくりと唾を飲み込む。それはとても魅力的なお誘いですね。

 フェルトス様はちょっと怖いし、どうせ眷属になるなら優しそうなセシリア様の方がいいかもしれない。


「ふふっ。もう一押しかしら?」

「チッ。おいメイ!」

「ひゃい! なんでしゅむぐっ!」


 フェルトス様に呼ばれそちらを見れば、何かを口に突っ込まれました。


 え、何ですかこれ? 指? フェルトス様の親指が何故か私の口に突っ込まれています。

 なんでですか? いや本当になんで?


 訳も分からず頭が混乱する。


「ちょっと。ずるいじゃないフェル。私がまだ勧誘してるでしょ!」

「うるさい。コイツはオレのだ。貴様に取られてたまるか」

「だからって急に女の子の口に指を突っ込むのはどうかと思うんだけど」

「フン。知るか」


 二人が言い争う中、私はむーむー言いながらフェルトス様の手を退かそうと試みる。

 しかし大人の力に勝てるわけもなくあっけなく敗北し、もうなすがままです。


「むぃー」


 といいますか。苦しいので早く手をどけてほしいんですけど――。


「あぇ?」


 なんだろう。口の中に甘い味が広がってる。よくわからないけど美味しいですこれ。

 フェルトス様の指、とても美味しいんですけど? どうなってるんですか?


 まるで甘いジュースを飲んでいるかのような。そんな感じです。


「――よし。もういいな」

「あーあ。ざーんねん染まっちゃった(・・・・・・・)。でもこれはこれでかわいいわね。フェルと違って可愛げがあるわ」

「あっ――」


 美味しくて夢中で食べていたら、突然口から指が抜かれてしまった。


 むぅ、もうちょっと食べていたかったです。


「ふっ、喜べ。これで貴様はオレの眷属だ」

「むぇ?」


 え、いつの間に眷属になったんです?

 もしかしてさっき口に指を突っ込まれたけど。あれが何かの儀式だったのでしょうか。だとしたら変な儀式ですけど。


「ほーらおチビちゃん。私の鏡、貸してあげるから見てみなさいな」

「う? ありがとごじゃましゅ?」


 名残惜し気にフェルトス様の指を見ていた私をセシリア様が地面へと降ろす。

 そしてまたもやどこから取り出したのか、綺麗な手鏡を渡されたのでありがたく借りた。


 ちょっと重い。


 落とさないように気を付けながら、両手でしっかり持って鏡を覗き込む。

 するとそこにいたのは想像通り、黒髪黒目の昔の私――


「…………だあれ?」


 ――は、いなかった。

 正確にはちゃんと私なんだろうけど、髪と目の色が思っていた色と違いました。

 フェルトス様と同じ濃い紫色の髪の毛と真っ赤な目になっています。


 いつのまに!


 目をぱちくりさせて驚いた顔をしている鏡の中の存在。

 なんとなく口を開けてみれば小さな牙がありました。


 おぉ……すごく尖ってる。


 さらに頭を左右に振ってみたり、傾げてみたりする。

 当然のごとく鏡の中の存在も私と同じように動いた。


「はぇ」


 うん、やっぱり間違いない。これは私だ。でもなんでこんな姿に?


「姿が変わったのはオレの血を取り込んだからだ。貴様はまだ小さいゆえ翼などはまだだが、成長すればそのうち生えてくるだろう」

(ちぃ)!」


 もしかしてさっき食べた甘い物の正体は血ですか!

 なんてものを食べさせてくれたんですかフェルトス様このやろう。とても美味しかったです! もっとください!


 ……こほん。いったん落ち着こう。


 フェルトス様の言う事を信じるなら、どうやら眷属とやらになると見た目が変わるみたいですね。

 最終形態はフェルトス様のようになるのかな?

 翼は憧れるけど、あの手足はちょっと嫌かもしれない。せめて人間の姿は保ちたい。


「あにょ、どのくやいで姿が変わるんでしゅか?」

「ん、そうだな。落とし子の眷属なぞ初めてだからよくは知らんが……恐らく百年くらいではないか?」

「ひゃくっ……」


 思いもよらない数字に驚きすぎて言葉を失う。


 いや長すぎです。普通の人間の一生より長いじゃないですか!


「ちょっとフェル。適当言ったら駄目じゃない」

「なんだと?」


 驚きすぎて放心していると、セシリア様の待ったが入りました。

 そうですよね。さすがに百年は言いすぎですよね。よかった。


「そんな早いわけないでしょ。見た感じおチビちゃんは成長が遅そうだし……うーん。五百年はかかるんじゃない?」

「そうか?」

「そうよ」

「ならば五百年だ」

「ごひゃく……」


 増えてるんですけど? 聞き間違いですか?

 私をじっと見つめたあとに出したセシリア様の答えがフェルトス様のより増えてるんですけど?


 私……成長遅いんですね。知らなかった。ははっ。


「ちなみに言っておくが、貴様の場合は翼が生える程度でオレのような姿にはならんぞ。残念だったな」

「え?」


 ニヤリと笑い、私へそう言い放ったフェルトス様。


 かっこいいですね。いやそんなことより、私はフェルトス様のようにはならないっていうのは本当ですか? やったー!

 もしかしたら今までで一番嬉しい情報だったかもしれないですね!


 だから、思わずにっこりと笑ってしまった私は悪くないはずです。

ようやく人間辞めれました。これからも子蝙蝠になったメイをよろしくお願いします。

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