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番外編 ガルラさんのお願い

誤字報告ありがとうございます!

ただ本文中に出てくる『レアトス様』は誤字ではなく、レアなフェルトス様の略で『レアトス様』と表記しているので誤字ではありません。本編中にも使った覚えがあったので大丈夫だと慢心し説明を飛ばしてしまいました、すみません!以後気を付けます!!


2024/10/22追記

誤字報告ありがとうございます。

「なぁメイ。頼みがあるんだけどさ……」

「う? なぁに、ガーラしゃん」


 お昼寝も終わり、まったりソファの上で午後を過ごしていた私にそっと近付いてきたガルラさん。

 小声でお願いを申し出てきたガルラさんも珍しいけど、それ以上になんだか妙に真剣な表情をしてるのが気になる。何かあったのかな。


「実は……」


 口元に手を添えて内緒話をするように顔を近付けてきたので、私もガルラさんの口元に耳を向ける。

 ゴニョゴニョと話すガルラさんの声がこそばゆいが、それ以上にお願いの内容に驚いてしまった。


「ダメか?」

「うーん。ダメじゃないけど……わたし作り方とか知らないよ?」

「それはオレが知ってるから大丈夫。なんなら場所もオレが整えるし」

「むぅー。それならまぁ、いいよ」

「ほんとか!?」

「うん」

「ありがとなぁメイ! 優しい妹を持って兄ちゃん嬉しいぞぉ!」

「みぃー!」


 いきなり抱き上げてちゅっちゅとほっぺにチューをしてくるガルラさん。

 ちょっとテンション上がりすぎじゃないでしょうか。まぁ、私も別に嫌ではないので拒否するほどでもありませんが、びっくりはしますよ。


「……なんの話だ?」

「えっちょむぐっ――」

「あー。フェルにはあんま関係ない話」

「むっ……」


 実はずっと隣にいたフェルトス様。

 私がガルラさんからのお願い事の内容を話そうと口を開いたんだけど、すかさずガルラさんに封じられてしまった。

 ガルラさんからの返事にムッと眉を寄せたフェルトス様。

 別に隠すほどのことでもないと思うんだけどなぁ。


「それじゃオレ達ちょっと出かけてくるから留守番よろしく。晩飯までには帰ってくるから心配すんな」


 それじゃ! と私を抱えたままそそくさとフェルトス様から離れていくガルラさん。

 ジト目のフェルトス様の視線が追いかけてくるのも構わずに、翼を広げて家から飛び立った。


 バッサバッサと飛び続け、やってきたのは畑です。

 到着してすぐ地面に下ろしてもらった私は、若干瞳がキラキラしているガルラさんを見上げる。


「うし。それじゃまず場所を決めるか」

「ねぇねぇガーラしゃん」

「ん?」


 つんつくガルラさんのズボンを引っ張り注意をこちらへと向ける。


「なんでフェルしゃまに内緒にしたの?」

「あー。反対されそうだから?」

「しょうかなぁ?」


 別に好きにしろって言われそうな気もするけどね。

 私がじっとガルラさんを見上げていれば、次第にもじもじとし始めた。


「いや、その、なんだ。子供に酒を造らせよう(・・・・・・・)としてる(・・・・)って……なんか後ろめたくて、つい」

「あー。にゃるほどね」


 たしかにそれはなんとなくわかる。

 私は中身中途半端に大人だからあれだけど、本物の子供だとしたらそりゃ後ろめたい気がするのもわかる。


 多分私が作ったら美味しいのができるんじゃないかって、今までの経験からガルラさんは思ってるんだろう。

 だから頼んだのはいいけど、人に言うには後ろめたいと。わからなくはない。


 ぶっちゃけ私も飲めるなら飲みたいし、お酒。

 強くはないけど飲むのは嫌いじゃないかったからね。なので別に私自身はお酒造りに否やはありませぬぞ。

 むしろちょっと興味があります。


「それにフェルは酒飲まねぇから興味もないかなぁと思ってさ」

「はぇー。フェルしゃまはおしゃけ嫌いなの?」

「嫌いというか、アイツそもそも生き物の血液以外飲まないヤツだったし」

「あっ」


 そういえばそうでした。

 最近はご飯もりもり食べてるから忘れてたけど、フェルトス様元々吸血蝙蝠でした。怖や怖や……。

 でも私が作ったら飲むかなぁ? ワインとか似合いそうだね。真っ赤な赤ワイン。


 ワイングラス片手に優雅にワインを嗜むフェルトス様を想像する。……うん、めちゃくちゃ似合うな。中身血液って言われても不思議じゃないけど。


「私が造ったらフェルしゃまも飲むかなぁ」

「あーどうだろうな。最近知ったがアイツ結構な甘党だし」

「果物でおしゃけ造ればいいんじゃない?」

「それもアリだな」


 ワインって確かブドウからできるんじゃなかったっけ?

 うーん、覚えてないから自信ないな。でも合ってた気がする。

 それにワインがダメでも果実酒とかならフェルトス様も気にいる可能性あるよね。


 それもダメならトマトジュースかな。うん。

 さっきの想像上のフェルトス様が持つものがワイングラスからジョッキに入ったトマトジュースに変わる。

 優雅さの欠片もなくなっちゃった……。


「とにかくオレが造ってほしいのは清酒だから、まずは清酒を造ってくれよ。他はまたおいおいで」

「あーい」


 清酒って日本酒のことだよね?

 この世界日本酒あるんだ。

 ガルラさんどこで日本酒飲んだんだろう……いやでもこの世界お米もあるし、清酒だってあるか。


 というわけでガルラさん主導で清酒造りが始まりました。

 まずは場所確保ということで、適当な場所に移動してガルラさんによる整地開始。

 私は役には立てないので後ろで見てるだけです。頑張れー。


 それにしても、私の畑の周辺にはいろんなものができますねぇ。

 世界樹の次は酒蔵ですか?

 次は何ができるんだろうね、個人的には果樹園とかいいなと思います。


「果樹園か、良いと思うぞ」

「ふぁ!?」


 ルンルン気分で整地を始めたガルラさんを遠い目をして眺めていたら、突然心の声に返事がありました。

 びっくりして声のした方を見上げれば、そこにいたのはフェルトス様。


 いつの間に!? というか心を読みましたか!?


「全部声に出ているぞ」

「しょんな!」


 まさかの心の声がダダ漏れでした。


「そんなことより、ガルラの頼みとは酒を造ることだったのか?」

「あい。しょうでしゅよ」

「そうか」


 そこで会話が終わってしまったので、今度は私から質問してみる。


「おしゃけ造ったらフェルしゃまも飲みましゅか?」

「ふむ……正直に言えばあまり興味はない。が……貴様が造るのなら一度くらいは飲んでみてもいいな」

「うーん。しょれなら甘いおしゃけとかも造れたら造ってみましゅ!」

「甘い酒か……それなら興味はあるな。気長に待っていよう」

「あい!」


 レアな笑顔で笑いながら頭を撫でてくれてるフェルトス様。そんなレアトス様の期待を裏切りたくはないので頑張ってみようと思います!


 その前に清酒がちゃんと造れるか、まだわかんないんだけどね。

 あんまり自信ないけど、気合は入りましたよ。


「よーし。こんなもんでいいだろ――って、フェル!?」


 整地が終わったのか笑顔で振り返ったガルラさんの顔が、フェルトス様の姿を見つけた瞬間に一気に引き攣った。

 イタズラがバレて怒られる直前の子供のような雰囲気を漂わせている。


「どうした」

「あ、いや、その、なんでここに……?」

「オレがオレの領域のどこにいようと勝手だろう」

「まぁそうだけど……」


 なんだかいつもと違ってもごもごしてるガルラさん。

 滅多に見れない珍しい光景だからまじまじと見ちゃうのは許してほしい。


「そんなことよりガルラ。貴様、メイに酒を造らせたいそうだな」

「あー。えーっと、そのぉ……はい」

「…………貴様は先程から何をそんなに怯えている? オレは別に怒ってなどいないぞ?」

「はぇ? そうなのか?」

「あぁ。オレもメイに甘い酒とやらを供えさせる約束をしたしな」

「へ、へぇー。そうなんだ」

「で、だ。貴様はどうやってここでメイに酒なんぞを造らせるつもりだったんだ?」


 腕を組みガルラさんを見つめるフェルトス様は純粋な疑問をぶつけているようでした。

 ガルラさんもフェルトス様が怒ってないとわかったのか、いつもの調子が戻ってきてるように見える。


「あぁ、えっと――」


 ガルラさんが自分の後ろ、整地した場所へチラリと視線を送る。

 こじんまりした空間がそこには広がっていた。


 私もお酒をどうやって造るのかは知らないけど、そんな小さな空間でできるものかは疑問がありますね。

 いろんな道具置いたらすぐにいっぱいになりそう。


「これはフェルに見つからないように、ひっそりやろうと思って最低限の広さを確保したんだけど……バレたんならもういいか。うん、よし。いっそ今後のことも考えてもっと広げるか!」


 そういってまた整地を始めたガルラさん。

 杖をぶんぶん振って生えてる木を切ったり、根っこを引っこ抜いたりと忙しそう。


 それにしても今後のことってどれだけお酒を造らせる気なんでしょう?

 清酒と甘いお酒はもう造るって決めてるからいいけど、個人消費だろうしそんな広い場所いらなくない?


 どったんばったんと整地が進んでいるけど、不思議と土埃とかは全然舞ってない。魔法ってすごいね。

 ところでもうそれくらいで良いんじゃないでしょうか……広い広い……怖っ。


 思わずフェルトス様の足にぴったりくっついちゃいました。

 この広さを一人で管理って無理があるよ! 私まだ子供ですよ!

 絶対ガルラさんにも手伝わせてやるからな! これ二人の酒蔵だからなぁ!


「うしっ、こんなもんかな」

「広くないか?」

「狭いよりいいだろ。後から付け足すより大きめに場所取っといた方が楽だし」

「それもそうか」


 そういえばフェルトス様もこの辺り一帯を神域にするって言って、場所確保してましたもんね。

 そのおかげで今もこうして場所を気にせずいろいろできてるから、結果的には大正解なわけか?


「それで、これからどうするんだ?」

「一旦終わりかな。ここまできたらティルキスのヤツにも手を借りようかなって」

「……アイツか」

「てぃるきしゅしゃんってだぁれ?」


 若干フェルトス様がウンザリした顔をしているのは気のせいでしょうか。

 フェルトス様にこんな顔させられるなんてすごい人なんじゃ……?


「ティルキスってのは酒の神だ。何百年かに一度神達が集まって宴をすることがあるんだけど、その宴で飲む酒は全部ティルキスが造ってるんだよ」

「おしゃけの神しゃま……」


 訂正。ティルキス()でした。

 でもガルラさんが呼び捨てにしてるってことは仲は良いのかな?


「あの女は苦手だ……」

「ハハハ。フェル酒飲まねぇのに無理強いしてくるもんな」

「それにきゃんきゃんとやかましいからな」


 アルハラの神だ! お酒の強要は駄目だと思います!

 よし、今度からは私がフェルトス様を守ってあげなければ!?


 まだ見ぬティルキス神からフェルトス様を守ると拳を握り、謎の使命感に燃えている私。

 その最中、ふと思ったことがあります。


 ガルラさんがそのお酒の神様とお友達ならその方から分けていただけばいいのでは、と。もしかして法外なお値段取られちゃうとか、意地悪で分けてくれないとかなのかな。


「ねぇねぇガーラしゃん」

「どした?」

「わざわざわたしが造らなくても、そのてぃるきしゅしゃまに分けてもらうのじゃダメなんでしゅか?」

「あー……」


 頬をぽりぽりと掻いて視線を逸らすガルラさん。やっぱり何か理由があるのか。


「確かにヤツのところには大量の酒があるが、それはすべてヤツが自分で飲む分の酒だ。頼んだからといって分けてくれてやるようなヤツではないな」

「へ?」


 ガルラさんの代わりにフェルトス様が答えてくれたけど、とんでもない答えが返ってきた。


「そういうこと。宴用の酒だってしぶしぶ提供してるところがあるもんなぁ。しかもほとんど自分で飲むし」

「わ、わぁ……しょれはまた……」


 やべぇ神様かもしれない。

 アルコール中毒とか大丈夫ですかね。


「だけど、やっぱり酒の神ってだけあって造る酒はうめぇんだよ。でも好きに飲めないからこうして自分らで造ろうとしてるってわけ」

「なりゅほど」


 理由はわかったけど、そんな人がお酒造りに手を貸してくれるのかな?

 疑問が顔に出てたのか、ガルラさんが笑って教えてくれた。


「完成した酒を少し分けてやるって交渉すればイケると思うぞ。アイツ最近は自分で作るのもめんどくさいとかほざいていたからなぁ」

「それで前回の宴の時に貴様が駆り出されてたのか」

「そうそう。もう全然手を付けてなくて、そこの従業員と泣きながら作業してたわ。ははは……思い出したら憂鬱になってきた」


 遠い目をして笑ってるガルラさんを見ながら私は思う。

 すっごく不敬だけど――その人駄女神様なんじゃ……。

 話を聞いただけだけど、私の中で評価がどんどん下がっていくよ。大丈夫か?


 とにかく後のことはガルラさんにお任せして、私はフェルトス様と一緒にお家に帰りました。

 なんかガルラさんがもろもろ設備とか整えてくれるらしい。

 それで、完成したら一緒に作る手筈になりました。


 そうそう。

 なんかもろもろ完成するまで私は酒蔵近辺に立ち寄るのを禁止させられました。

 フェルトス様とガルラさんがティルキス様に会わせたくないんだって。

 私の教育に悪いとかなんとか。どれだけヤバい神様なんだろう。怖くなってきた。



 ティルキス様との交渉も順調に済み、数日の内に見事酒蔵が完成したようだ。


 いつも思うんですが、神様達は仕事が早すぎる!


 あの広かった空き地にはかなり大きな建物が建っていて、中に入ってみるといろんな設備がすでにあった。でも何にどうやって使うのかはさっぱりです。


 そこからはガルラさんと一緒にお酒造り開始。

 ガルラさんの指示のもと魔法を使いながらテキパキと作業を進める。


 私がなんとなく知ってる工程を人間式としたら、神様式はまったく違ってびっくりした。

 魔法ってなんでもありなんだなって……。


 それでも最初は上手くできなくて何度もやり直しをしたけど、今はだんだんと味の精度が上がってきた。私は味見できないからいつも味見はガルラさんにお願いしてる。


 そうやってお酒を造り始めて二か月程経った頃、ようやく満足できるものができたのでまず初めにフェルトス様に献上した。

 美味しいって褒めてくれて嬉しかったですまる。えへへ。


 まだ清酒が完成しただけで甘いお酒は手を付けてないけど、ガルラさんとも相談しつつ次は挑戦してみようと思います!


 余談ですが、約束通り完成した清酒をガルラさんがティルキス様に持っていったらかなり気に入ってくれたらしい。

 私が造ったことは伏せて渡したらしいんだけど、どこから知ったのか私の存在がバレちゃってティルキス様が畑仕事をしている私を襲撃。

 いきなり酔っ払いお姉さんに絡まれて驚いた私は泣き叫んで逃げまどっちゃった。

 そうしたらフェルトス様(保護者)が駆けつけてくれて、トラロトル様の時と同じように殺伐とした空気に……はならなかった。

 多分相手がよっぱらっててお話にならなかったからかな?


 ちゃんと謝ってくれたけど、フェルトス様がかなりティルキス様を威嚇してた。

 その後はティルキス様にもっといろんなお酒を造ってくれって頼まれて、断ったけど半ば強制的に造ることになりました。

 こっちの話も聞かずに酒蔵に材料を置いてお帰りになったのですよ。いやーまいったまいった。

 本当にヤベェ神様ですよあの人……酒は飲んでも飲まれるな。


 まぁ結果的に量はあんまりできないけど、いろんなお酒を作れるようになったので私としては別にいいかなって。

 ガルラさんも喜んでくれるし、私も大きくなったら好きなだけ一緒に飲めるしね!


 それに個人消費するには十分な量ですから。


 ちなみにティルキス様には毎月造ったお酒を各種一本ずつお供えするってことで手を打ってもらってます。

 最初は渋られたけど、嫌ならもう渡さないって言ったら折れてくれました。良かった良かった……ははっ。まさか良い大人のガチ泣きを見る事になるとは思ってませんでしたよ。忘れましょうね。


 そういえばフェルトス様御所望の甘いお酒、リンゴで果実酒も造りました。

 結構気に入ってくれたみたいで、晩酌でガルラさんと一緒にお酒を良く飲むようになったらしい。

 私は寝ちゃうからガルラさんに聞いた話だけどね。


 私も早く大きくなって二人と一緒にお酒を飲みたいな。

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