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5 謎の美女登場

 声のした方へと滲む視界を向ければ、フェルトス様の向こう側に誰かがいた。

 いつの間に現れたのだろう。


 その誰かはそのままフェルトス様の背中からひょいっと顔を覗かせた。


「はぇ」


 茶髪の美女がそこにいた。ものすごい美人さんです……。

 出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。素敵プロポーション。

 女の私から見ても見惚れます。


 お洋服はフェルトス様とは対照的に露出が少ない服。だけど体のラインにそうようなドレス、なのかな。それを見事に着こなしたお姉様です。


 フェルトス様もお姉様に気が付いたようですけど、なぜだかとても嫌そうな顔で彼女を見ていますね。もしかしてお知り合いの方でしょうか?


「……何しに来た、セシリア」


 セシリアと呼ばれた謎の美女さんがフェルトス様を見上げた。


「何しにって。引きこもりのアンタが珍しく外に出てきたうえ、食べ物を欲しがったから何事かと思って見に来たのよ。そうしたら、あんたがちみちゃんを脅かせて泣かせてるのを見ちゃったってワケ。まったく……ほーらよしよし。泣かないでおチビちゃん。陰湿蝙蝠にいじめられて怖かったわね、もう大丈夫よ」


 そういいながら謎の美女さんはフェルトス様を押し退け、私の前にしゃがみこんだ。

 そしてどこからか綺麗なハンカチを取り出すと、そっと私の涙とその他もろもろを拭ってくれる。


 あ、鼻水ついちゃった……。


「あぅ。ごめんちゃい」

「ふふ、いいのよ。気にしないで」


 またもやどこかにハンカチを仕舞った謎の美女さんは、次に私の抱えていたトマトを一つずつ取り上げ地面へと置いた。


「う?」


 その行動を疑問に思うのも束の間。謎の美女さんは綺麗な笑顔を私に向けると、そのままひょいっと抱き上げてあやしてくれました。

 さらには背中と頭を撫でてくれるオマケ付きで。ふへへ、役得です。


 この謎の美女さんはふわふわで柔らかくて、とっても良い匂いがしましたよ。落ち着きます。

 私のお母さんとはタイプがまったく違うけど、不思議とお母さんに抱っこしてもらっているかのような安心感がありますね。


「ふふっ。いい子ね」

「にぇへへ」


 そうこうしていたら、いつの間にか私の涙は止まっていた。

 だけど謎の美女さんは私を降ろさずにそのままフェルトス様へと向き直る。


「で、この子どうしたの? 誘拐でもした?」

「そんなわけがないだろう。落ちてきてたから拾っただけだ」

「は? 落ちて……ってことは、もしかしてこの子『落とし子』?」

「そうだ」

「へぇ。生きたまま冥界(こんなとこ)に落ちるなんて、おチビちゃんはよっぽど運がないのね。それとも逆にあるのかしら?」

「う?」


 また出ましたよ『おとしご』なる言葉。

 二人の会話から察するに、どこからか落ちてきた子で『落とし子』でしょうか?

 だとしたらまんまじゃないですか! たしかに私は自分の部屋から落ちましたけども!


「どうせソイツはもう帰れん。ならば拾ったオレが好きにしても問題はなかろう」

「うーん。たしかに?」


 謎の美女さんの言葉に驚き、その美しいお顔を凝視する。


 そこ同意するんですか?

 あとそこも気になったんだけど、今フェルトス様が大事なことを言っていた気がする。


「帰れ、にゃい?」


 待て待て待て待て。どういうことですか?


「あれ? あんたこの子に何も説明してないの?」

「別にする必要もないだろう」


 いやあるよ! 大いにありますよ! むしろなんでいらないと思ったんですか!?


 慌てて説明を求めるようにフェルトス様を見つめても、ジトッとした視線しか返ってこない。


 なぜに! 説明プリーズですよフェルトス様!


「……あぅ」


 なんとなく。本当になんとなくですが。これが夢じゃないのは薄々察していました。

 だけどさ、さすがに帰れないのは想定外なんですけど。


「どうちよぅ……」


 仮にこれが現実だとして、絶対にここは地球じゃないよね?

 少なくとも日本ではない。『フェルトス』なんて神様の名前は聞いたことがないもん。

 それにここは冥界って言ってたけど、日本だと地獄とかあの世だもんね。


 なら海外のどこかだったり?

 私は海外の神様には詳しくないから、絶対に違うとは断定できない。


 頭の中がごちゃごちゃして考えが纏まらない。

 それなら目の前にいるこの人達に聞いてみた方が早いよね。


 そう考えた私はちらりとフェルトス様へ視線を向ける。


「……なんだ?」

「みぃ」


 ジロリと睨まれた気がして咄嗟に目を逸らす。


 フェルトス様は少しだけおっかないから、こっちの優しそうなお姉様に聞きましょう。そうしましょう。


「あ、あにょ……」


 もう最悪。さっきからずっと活舌が甘々だ。ものすごく恥ずかしい。

 綺麗なお姉様相手だから余計に気にしちゃう。


 だけど謎の美女さんは私の甘々活舌なんて気にもせず、微笑みを向けてくれた。


「ふふっ。何かしら?」

「あぅ」


 お姉様の素敵笑顔が直撃し、あまりの眩しさに目を覆う。美しすぎます!

 くすくすとおかしそうに笑う美女の声を聞きながら改めて顔を上げる。

 失敗は気にせず聞きたいことを聞きましょう。


「あっ」

「ん?」


 でもまずは自己紹介しないとですね。

 多分この人も神様だと思うし、失礼のないようにしないと。今更とか言わないでほしい……。


「えっちょ。遅く(おしょく)なりまちたが、わたしはメイっていいましゅ。よろちくお願いちまちゅ」


 まったく舌が回らない。もうこれは年齢的にも無理なんだと許してほしい。


 とりあえず開き直ってセシリア様にぺこりと頭を下げた。


「あら。ご丁寧にどうも。私はセシリア。地の神のセシリアよ。よろしくねおチビちゃん」

「わぁ……」


 やっぱりこの人。いや、このお方も神様でしたね。

 でももう驚きませんよ。ふふっ。


 遠い目になりそうなのをぐっと堪えて口を開く。


「あにょ、しぇしりあしゃ……うっ、ちゅみまちぇん」

「気にしなくて良いわよ。小さいから仕方ないもの。なら……そうね。私のことは『リア』って呼んで。それなら呼べるでしょう? ふふっ、おチビちゃんにだけ特別よ」

「はわっ! リア、しゃま。ありがとごじゃましゅ」


 うぉぉ、至近距離で美女のウインクを頂いてしまいました! 照れます! しかも私だけ特別だって!

 えへへ、そんなことを言われたら顔がにやけるじゃないですか。


「それで、何かしら?」

「はっ!」


 いけないいけない。ニヘニヘしてる場合ではなかった。

 緩む頬をパンパンと叩き、セシリア様と目を合わせて再度口を開く。


「あにょ。ここってどこなんでしょうか?」


 頼む。知っている名前が出てきますように! せめて地球のどこかでお願いします!


 祈るような気持ちでセシリア様を窺う。

 対するセシリア様は細い指を顎に当てて「うーん」と考えるように声を漏らした。


 ところで。もしかしてセシリア様、いま私のことを片手で支えていますか?

 非力そうな見た目なのにすごいですね。さすが神様です。

 おっといけない。思考が変な場所にいっている。戻さないと。


 改めてセシリア様を見上げて答えを待つと、ゆっくりとセシリア様が口を開いた。


「ここはフェルトスの管理する冥界よ。――と言いたいところだけど、おチビちゃんが聞きたいのはそういうことじゃないのよね。うん。それじゃあこうかしら? おチビちゃんがどこから落ちてきたのかは知らないけど、ここはもうあなたがいた世界じゃない。それだけはたしかよ」


 にっこりと笑いながら告げられたその言葉に絶望する。

 その言葉だけは聞きたくなかったです。うわー、もう最悪だー!

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