48 ぬいぐるみ
「むきぃ! 当たらにゃいぃ!」
「あははははは! ヘッタクソだなぁメイは」
子供用の小さなおもちゃの銃を持って私は地団駄を踏む。
そう、ここは射的場。お祭りなんかでよく見るあれですね。
ただし並んでいるのは番号が書かれた札で、景品は別に展示してある。
欲しい景品の番号を確認して、並んでる番号札を倒すと景品が手に入るって方式です。
商品の人気に応じて番号札の大きさが異なっており、人気がある商品は的も小さく、難しい位置に置いてあって当てずらい。
そんな中私が狙ってるのは一番人気らしいデフォルメされたフェルトス様――人間の姿に何故か蝙蝠の羽がついてる――のぬいぐるみ。かなり出来が良かった。
しかも一番人気よろしく番号札はかなり小さいし、空中に吊るされてブラブラ揺れてる。
もう五回はプレイしているのにかすりもしないよ、ちくせう!
ちなみに一プレイ五百ガルグで十発の弾が貰えます。
今までも何回かここに通ったことがあるけど、フェルトス様ぬいぐるみなんて初めて見たから絶対欲しい。
前までは動物のぬいぐるみとかお菓子とかおもちゃとかの景品が多かったらしいけど、最近は冥界グッズが出始めてる影響か景品も冥界関連が多くなってるようだ。
このあたりにはこういう遊び場がたくさん集まってるので、ここにいると時間が溶けていくようになくなりますよ。お金もね。
「うぅ。フェルしゃまぬいぐるみほちぃ……」
「よぉし。そんなしょんぼりメイちゃんの代わりに、兄ちゃんがフェルぬいぐるみを取ってやろうじゃないか!」
「ほんとぉ!」
「まかせろぃ!」
腕まくりの真似事をしたガルラさんに私はお金を渡す。
そのお金をそのままガルラさんが店員のおじさんに払って、代わりに銃と弾を受け取った。
私はわくわくしながら静かに銃を構えるガルラさんを応援する。頑張れ頑張れ。
「――――案外ムズイな、これ」
「ガーラしゃんも下手くしょじゃん!」
あらぬ方に飛んで行った弾を見送った私は、きょとんとした顔をしたガルラさんに抗議する。
実はガルラさんは今回が初めての射的です。いつもは私が遊んでいるのを後ろで見てるだけだったりします。
「まぁ待て落ち着けよメイ。まだこれからだって」
「むぅー!」
パンッパンッと軽い破裂音が響くが的には当たらない。
それでも一発目よりかはだんだんと的に近くはなってきている。もしかしたらいけるんじゃないか?
ガルラさんは器用だし、なんでもできちゃうから期待が膨らむ。絵は下手だけど。
両手を組み最後の一発になった銃で狙いを定めるガルラさんを固唾を呑んで見守った。
「わぁ!」
「――うしっ!」
スパンって小気味良い音が射的場に響き、番号札がポトンと床に落ちる。
「おめでとうございまーっす!」
ガランガランと手で持つタイプの鐘を鳴らして店員のおじさんが景品棚から景品を持ってきてくれた。
「おめでとうございます、景品のメテオルぬいぐるみです!」
「どうもー。ホラよメイ。やるー」
「わぁーい! ありあとーガーラしゃーん――ってなんでやねーん! ちがうでしょー!」
「あっはははははは! ナイスノリツッコミ!」
「むぅー!」
だむだむ地面を踏み鳴らしながら頬を膨らませてガルラさんを睨む。
めちゃくちゃ笑ってるガルラさんには何も効いてないみたいだけど。
というか欲しいのはこれじゃない。いや、これも欲しかったけどさ!
メテオルぬいぐるみも、なんならモリアさんぬいぐるみもあるんだよ景品に!
もっというと、ガルラさんと多分私っぽいぬいぐるみもあるんだよ。全部かわいくデフォルメされたぬいぐるみが。
全部限定品だし、人気っぽいし難しい。私のぬいぐるみが二番人気なのが驚きだ。
まさか自分のグッズが、しかも知らないところで出ているなんてビックリするよ。
でも正直私のはともかく、メテオルのぬいぐるみも、モリアさんのぬいぐるみも、ガルラさんのぬいぐるみも全部欲しかったけど取れないだろうからフェルトス様に絞ってただけだし!
だから、嬉しいけど……嬉しいけど違うんだよぉ!
むいむいメテオルぬいぐるみに顔を押し付けながら、世の中の理不尽さを噛み締める。
やっぱり世の中そんなに上手くは――
「お、おめでとうございますぅー。ハ、ハハ……」
「むぇ?」
ぬいぐるみから顔を上げると、視界に顔を引き攣らせた店員のおじさんがいた。
何があったのかよくわからないままガルラさんを見上げると、ガルラさんがおじさんに手を差し出しているところだった。
なんぞ?
「あ、メイ。追加で一回分のプレイ料金払ってくれるか?」
「ふぇ? いいけど、またやりゅの?」
「もうほぼ終わった」
「んむ?」
首を傾げているとおじさんが景品棚からいくつかの景品を抱えて戻ってくる。
あ、あれは……!
「ど、どうぞ……」
「どうもー」
笑顔で景品を受け取るガルラさん。
その手の中にはガルラさん、モリアさん、私、そして――フェルトス様のぬいぐるみ。
「ホレ」
「いちゅのまに……」
「メイがメテオルぬいに顔埋めて唸ってる間に」
「はぇー」
「全部……は持てねぇよな。ならフェルのだけ持つか? ほれ、いったんメテオルぬいこっちに寄越せ」
「あ、あい」
ボケッとしてる間にテキパキ動くガルラさんにフェルトス様ぬいぐるみを持たされて、他のぬいぐるみをリュックに入れられた。
「フェルしゃまだぁ……」
私は手の中にあるフェルトス様ぬいぐるみを眺めて、ようやく現状の理解が追いついた。
私が理不尽を嘆いている間に二回目のチャレンジをかましたガルラさんが、一気に欲しかった景品を全部取ってくれたのだ。
「あ、お金!」
そういえばまだ払ってないことを思い出した私は、まだ引き攣った顔をしているおじさんに一回分の料金を払います。
うん、わかりますよ。まさか高難易度をそんないともたやすく何個も取っていく人がいるなんてね。そんな顔にもなりますよね。うんうん。
しかも景品のモデルになってる人が取ってるもんね。
「ガーラしゃんしゅごいねぇ。二回目でこれ全部とっちゃったの?」
「まだあと六発分残ってるぞ。何か欲しいもんあるか?」
「ふぇ?」
六発残ってると言い放ったガルラさん。
つまりノーミスでぬいぐるみ達を撃ち落としゲットしたのですか……凄すぎませんか?
冥界一家ぬいぐるみしか目に入ってなかったので、他に目を付けてたものは特にない。
なので改めて景品棚を眺めてから、ガルラさんに欲しいものを要求してみた。
「んちょねぇ、あの星の飾りがいいなぁ。残りはお菓子がいい」
綺麗な星の飾りがあったのでそれを取ってほしいとお願いした。私のカバンにつけたいと思います。
「りょうかーい」
軽快にぱすぱすと銃を撃っていくガルラさん。
一発も外すことなく全ての弾を撃ちつくすと銃を置いて景品を貰ってた。
「うわぁ。ガーラしゃんしゅごしゅぎ」
「にしし。だろ?」
「あい」
さすが器用兄さん。その器用さ少しだけ分けてほしいですね。
私のリュックに貰った景品を詰め込んでもらい、私達は射的場を後にした。
「まだちょっと時間あるな。遊んでいくか?」
「あい!」
フェルトス様ぬいぐるみをしっかりと抱え、あいている手をガルラさんと繋ぐ。
私はフェルトス様ぬいぐるみが手に入り正直満足してしまったので、他のお店は適度に冷やかしつつ時間を潰した。
そしていい時間になったら冒険者ギルドにお肉を引き取りに行く。
一緒に素材の買い取りもしてもらい、もろもろの精算を終わらせギルドを出る。
帰り際に目を付けていた大きなテーブルとセットの横長イス、そして大きなパラソルなどを購入し、すべての用事を終わらせた私はガルラさんとともに満足げに帰路についたのだった。




