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47 時が経つのは早い

 フェルトス様とトラロトル様の喧嘩があった日からはや二週間。


 さらに気が付けば私がこの世界に落っこちてきて一ヶ月が経とうとしています。

 最初はどうなることかと思ってたけど、一ヶ月も経てばこの世界の暮らしにも慣れてなんだかんだ毎日楽しく暮らしています。


 そして私の日常も一ヶ月前とはすっかり変わった。

 冥界の中だけだった私の世界も、今では冥界の外――といっても最大で町までだけど――まで広がったし、人間関係……と言っていいのかわかんないけど、関係も増えてきた。


 フェルトス様とセシリア様だけがこの世界で知っている人だった。

 でもすぐにステラやモリアさんといった友達や保護者もできたし、それにガルラさんってお兄ちゃんもできた。


 身一つプラストマトジュースだけで別世界に落っこちたにしては、かなり出会いに恵まれた方じゃないでしょうか。

 冥界に落ちたと知った時はどうなるかと不安だったけど、幸運にも新しい家族とも巡り会えて楽しい日々でございます。

 なにげに濃い一ヶ月を過ごしてきたので、ありがたいことにまだホームシックにはかからずにいられています。


 他にもたくさんの出会いがあったしね。

 町で出会った人達。天界で会った人達。みんないい人でとても良くしてもらってる。


 そしてあの喧嘩の日からちょくちょく畑に遊びにきてくれるようになったトラロトル様。

 その度に構ってもらっているうちにだんだんと苦手意識も薄れてきました。

 でもまだちょっと怖いけどね。だっていまだに静かに後ろに立って驚かせてくるんだもん。しかもこれはワザとだってわかってるからタチが悪い。むぅ。


 さらにセシリア様も時々様子を見に顔を出してくれる。


 しかもこの前はトラロトル様が私を驚かせていた現場を偶然発見したセシリア様が、トラロトル様を正座させてこっぴどく叱ってくれた。

 怒られてるトラロトル様をセシリア様の後ろに隠れてニヤニヤ見ていたのは内緒だよ。


 そうそう。すでに何回か畑の収穫が終わっちゃったけど、まだセシリア様に料理のお供え物はしていない。

 でもこれには理由があって、説明したらちゃんと納得してくれたから大丈夫です。

 その代わり立派に育った野菜達を少しだけお裾分けしておいた。お家にもたくさんあるだろうから本当に少しだけだけど。それでも顔を綻ばせて喜んでくれたセシリア様は素晴らしい女神様です。


 ちなみに収穫した野菜達はフェルトス様達にも好評で、とくにやっぱりというかトマトが大人気でした。

 すでにトマトはフェルトス様の好物になっている気がします。

 そのまま人間の血を食べない方向に向かってくれると、私の精神衛生上とてもいいのでトマトだけは切らさないようにしたいと思います。


 畑の野菜は一度収穫すると一日か二日程でまた小さく実をつけることもわかった。

 そのあと何もしなかったら完熟するまで三日程かかり、私が歌ったりすると実をつけた次の日には完熟まで育ってる。

 しかも歌ってあげた方が美味しいと味に違いまで出てくることがわかったので、最近は実がついたら歌ってあげてる。


 この二週間で町にも何回か行きました。

 まだ一人では行けないのでモリアさんとステラが付いてきてくれる。あとそこにガルラさんも追加して三人でとかでも。


 ただフェルトス様とは一回も行ってない。

 フェルトス様が行くとみんな気を使っちゃうからね。フェルトス様はとくに気にしてなかったけど、私が気にするし嫌なので一緒に行くって言うフェルトス様を説得して押しとどめている。


 その度にしょんぼりフェルトス様、略してしょんトス様になっちゃうけど、心を鬼にして言ってます。

 帰ってきたら愛情たっぷり美味しいトマトジュースとトマト料理を振る舞ったので相殺にしてもらいたい。


 町へは基本的に食料調達に行ってます。あとはついでにちょこっと遊んでみたりですかね。

 その時に町おこし的なものなのか『冥界神様が買った○○』みたいなのを大量に見てしまったんだけど、あれはいったい……。

 あと『冥界神饅頭』とか『冥界神聖地巡り』とかなんかいろいろ……。こわい。


 しかも私が気に入ったあの牧場さんも大人気になってしまって、お店に行列ができてたり商品が売り切れてたりして嬉しいけど、ミルク買えなくて悲しかったよ。

 というか元々の常連さんであろう門番さんやラドスティさんにしてはいい迷惑かもしれないけど。私達のせいでなんかすみません。


 でもあの時のお姉さんが私のこと覚えててくれたみたいで、特別にミルクやアイスを取り置きしてもらえることになった。

 特別扱いが申し訳なかったけど、私のおかげで稼がせてもらってるからこれくらい問題ないと言われてしまった。


 さらにはお姉さんが私を使ってアイスを宣伝してもいいかって聞いてきたので、私だけならオッケーですって許可を出しておきましたよ。

 お姉さんは他所とは違い許可をとってくれてるので心の準備ができていいけど、あれをいきなり見せられるとなんだかなんとも言えない気分になる。

 別に怒ってないから、やりすぎなければ好きにすればいい。が、私達冥界一家の見解ですけどね。


 さてさて、そうやってこの二週間過ごしてきたわけですが、着々と準備を進めてきたものがもうすぐ終わりを迎えようとしています。


 それは何かって?


 ふふん。それはですねぇ、ちょっとしたホームパーティです!

 子供主催のパーティだからそんな大それたものじゃないけど、セシリア様とトラロトル様、あとジェーンさんも呼んで畑でパーティをする予定なのです!


 私が作った料理でおもてなしさせていただきます。

 そしてセシリア様へのお供え物をしていない理由がこれです。せっかくなのでたくさん作って食べてもらおうと思って。


 フェルトス様とガルラさんに新しく専用の料理保存アイテム箱を作ってもらって、その中にこの二週間でちびちび作ってきた料理を保存してました。

 いや、本当に便利ですこのアイテム。

 出来立てで保存しておけば、いつでも出来立てが食べられるんですからね。


 神様特別仕様だから時間経過がないのが素晴らしい。


 トマトジュースも定期的に作っては追加してあるので、いつでも好きな時に飲めるってフェルトス様も喜んでる。


 作ってる途中フェルトス様やガルラさんのつまみ食いイベントが発生したけど、つまみ食いだったので許しました。

 私は良いのです。私のはつまみ食いではなく味見ですから。ちょっと回数の多い味見です。断じてつまみ食いではありません。ほんとです、フェルトス様もガルラさんもそんな目で見ないでください!


 そんなこんなで着実にパーティの準備は進んでおります。


「ガーラしゃんや」

「なんだい、メイさんや」

「チュンチュンってもしかしてアレのことでしゅかい?」

「お目が高い。その通りですよ」


 私達はいま町の近くの森の中で息をひそめてチュンチュン狩りをしている真っ最中です。

 すでに神域になってしまった私の畑周辺には、獣避けの効果も相まって動物とかいなくなっちゃったから少しだけ遠出しております。

 チュンチュンはこの辺り一帯ではどこにでもいるんだって。ただ森の中の方が出会える確率があがるらしいから森に来てます。


 魔鳥と呼ばれたチュンチュン。

 どんな姿をしているのかと思いえば、とても大きなスズメでした。ただしかなり顔がいかついですけど。

 色合いや姿形はほぼ地球のスズメって言ってもいいんじゃないかな。

 ただ目付きが鋭かったり、嘴が大きかったり、リーゼントみたいなトサカがついてたりして可愛げはこれっぽっちもないけど。でもぱっと見はスズメ。よく見たら違う。


 鳴き声も『ちゅんちゅん』みたいなかわいい感じじゃなくて、『ジュンジュン』みたいな重低音。かわいくないです。

 もうこれチュンチュンじゃなくてジュンジュンに改名した方がいいんじゃないかな?


「んじゃオレが取ってくるから、メイはここで大人しくしてろよ」

「あーい。よろちくおねがいちまー」

「うーい。いってきまー」


 なんでチュンチュンを狩りに来てるかというと、今度のパーティで使おうと思って。

 野菜をメインに使った料理とかデザートとかはたくさんできたけど、お肉メインがまだ少ないからね。

 唐揚げとかチキンカツとか食べたい。

 トラロトル様は野菜よりお肉の方が好きみたいだし準備しておかないと。

 ちなみにセシリア様やフェルトス様は野菜の方が好みで、ガルラさんはお肉派。私はどっちも好き。


 お肉を狩りに行かなくても町で買えばいいと思われるかもしれません、その通りです。

 でも一回でいいから生でチュンチュンを見てみたかったのです! それだけなんです!

 だからガルラさんに狩りに連れて来てもらいました。えへっ。


 あっさりと二匹のチュンチュンを仕留めちゃったガルラさんは、手際よくチュンチュンを影に片付けてこっちに戻ってきた。


「それじゃ町に行って解体してもらうか」

「あい!」


 ガルラさんも解体できるらしいけど、せっかくだから町に行って解体してもらいます。

 ついでに町ぶらしたいなんてこれっぽっちも思ってませんよ。えぇ、これっぽっちも!


 町に着いた私達はまず冒険者ギルドに行ってチュンチュン二匹の解体を依頼。お肉以外は買い取りに出します。

 ギルドに所属してなくても解体してもらえるのはとてもありがたい。

 職員さんの話では解体は夕方には終わるとのことなので、その間は町ぶらで時間潰しをしますよ。やっほい!


「ガーラしゃんガーラしゃん」

「なんだいメイさん」

「わたし、あしょこに行きたいなー」

「ふむ。あそこですか……いいでしょう、行きましょう!」

「やったー!」


 冒険者ギルドから出てきた私はガルラさんへ行きたい場所にお伺いを立てる。


 快く許可を出してくれたガルラさんと手を繋ぎ、私達は目的地へ歩き出した。

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