46 まさかの事実
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フェルトス様にトマトのおかわりを所望されたので、ガルラさんとともにトマトをいくつか収穫しに行きました。
それからみんなで――トラロトル様の許可を得てモリアさん達も呼んだ――トマトをもしゃもしゃ食べていたところ、唐突にフェルトス様が話を切り出す。
「ところでトラロトル」
「んあ?」
「貴様ここで何をしている?」
そういえばそうですね。いろいろあってぶっ飛んでいたけど、そもそもなんでトラロトル様はここにいるんだろう。
前回も唐突に現れて唐突に帰っていったので、今回も唐突に現れたってとこには疑問がなかったや。
そういう自由なイメージ。風の神様だし何者にも囚われないみたいな?
自分で言っててもよくわかんない。
「べつにぃ? なんか目的があったわけじゃねぇな。なんとなくメイの顔を思い出したから会いにきただけだ」
「またわたしに会いにきてくれたんでしゅか?」
「おぅよ。暇だったしな」
「はぇー」
風の神様って暇なんだ。
「したらメイがなんか困ってたから、手伝ってやるつもりで声かけたんだよ。まぁ、結局は怖がらせちまったようで泣かせた。んで怒った保護者に襲われたってワケよ」
「そのことについては悪かった」
「おぅ」
本当にただの親切心で声をかけてくれたみたいだ。
泣いてすみませんでした……でも仕方ないよね。だってトラロトル様って何もかもが唐突なんだもん。もっと予備動作が欲しい。
「それで、メイは何に困ってたんだ?」
「う?」
フェルトス様の方へ向いていたトラロトル様の視線が私に向けられる。
「えっちょぉ。あんなにたくしゃんのお野菜を、一人でどうやって収穫したらいいにょかなって」
最終的には頑張るっていう選択肢しかなかったわけだけど。
「なるほどな。しかしなぜだ? あれだけの量をすぐに使う予定でもあったのか?」
「え?」
「ん?」
トラロトル様と向かい合って、お互いに首を傾げあう。
使う予定はないけど、収穫しないと育ちすぎちゃう。
しかもこの成長速度なら明日にはダメになっちゃってるかもしれないし。せっかく美味しく育ったんだからちゃんと美味しいうちに収穫したい。
収穫さえしてしまえば、保存はどうにでもなっちゃうしね。保存方法と期限考えなくて良いのは本当にありがたい仕様だ。
そういえば収穫したあとってどうすれば良いんだろう。
せっかくの畑が空いちゃうな。こんなに早く収穫できるとは思ってなかったからなんにも考えてない。
そもそもこのあとどうすれば良いかの知識がないから、どっちにしろ意味ないか。今度セシリア様に聞いてみよう。
「あー、そっかそっか。そういやオレらには当たり前すぎてメイには説明し忘れてたな」
「そういえばそうだな」
「なるほどな。メイは知らないのか」
「へ? へ?」
周囲の大人達だけで何かを納得するように頷きあってる。
ずるい。いったい私は何を知らされていないんだ。
「ねーねー、ガーラしゃん。なんのことー? 教えてよー」
ガルラさんの服をちょんちょんと引きながら教えを請う。
「いやなに。あの畑が特別なのはメイも知ってるだろ?」
「あい」
セシリア様製の特別な神様チート畑ですね。
「人間の畑だったら育ったらその都度収穫するんだろうけど、神の畑は別に収穫しなくてもいいんだよ」
「ふぇ? どういうことでしゅか?」
「そのままの意味だ。実をつけた作物は急いで収穫しなくても一番良い状態を維持し続ける。そして、収穫してもまた一定期間で新しい実をつける」
「……はぇ?」
「つまり、あのまま放っておいてもメイが心配するようなことにはならんということだな」
「…………はぁー?」
ガルラさん、フェルトス様、トラロトル様と順番に説明してくれたが正直理解が追いつかない。
チート畑はまさしくチート畑だった……?
「正直こんなに早く実をつけるのは予想外だったけど、美味いもんがこれからも食えるならオレとしては大歓迎だし何も問題はないけどな」
「そうだな。これからは安定的に美味いトマトジュースが飲める」
「いいなぁお前ら。少しばかり羨ましいぞ」
「フッ。そうだろう」
「……フェルのこんなドヤ顔初めて見るな。素直にムカツクわ」
私がボケっとしてる間に大人組が盛り上がってる。
それを尻目に私は近くにいたモリアさんへと視線を向けた。
『ん、なんだ。どうかしたか?』
「モリアしゃんもこのこと知ってたの?」
『このこと? 作物を収穫しなくても大丈夫ってことか?』
「うん」
『知ってたぞ』
話が違う。だってさっき聞いたときはわからないって言ってたのに!
ムッとしながらも、そのことをモリアさんに聞いたらあっけらかんとこう答えられた。
『ワシがわからんと言ったのはなぜ急に育ったかということで、別に収穫に関しては何も言ってない』
たしかに!
ちくせう、また私の一人相撲!
「むぅぅぅぅ」
『そんなにむくれてると破裂するぞ』
「しーまーしぇーんー!」
ぶーぶー小さく文句を言いつつ、一生懸命溜飲を下げようとする。
ここは地球じゃなくて別の世界だし、神様が普通に存在してるし、あり得ないようなことも神様的には普通な世界感だし、常識が違うし、私が知らなくても無理はないけどさ!
こうして時折ぶっ込まれる常識外れの出来事が起こると、あぁここは別世界なんだなぁって改めて実感するよね! ちくせう、そろそろ慣れたい!
「あれ、待ちぇよ?」
『どうした?』
「これこのままでも大丈夫って言ってたけどしゃー、雨とか降ったりして天気悪かったり、晴れの日が続いたりしても平気なのー?」
『……そのへんはワシにはわからん。フェルトス様に聞いてくれ』
「わかっちゃー」
モリアさんに言われたので、同じことを談笑中のフェルトス様に聞いてみた。
「……そういえばどうなるのだろうな。基本神の畑なぞは神域に存在してるもので人間界には存在しないから考えたこともない」
「うーん。一応この畑も神域にはなってるから大丈夫だとは思うんだけどなぁ。自信はねぇな」
「わからんのならセシリアに聞いた方が早くないか?」
「そうだな。トラロトル、貴様が聞け」
「なんで俺が」
「喰い物分けてやらんぞ」
「チッ。しゃーねぇなぁ。ちょっと待ってろ」
フェルトス様の地味な脅しに屈したトラロトル様。それで良いんですか風の神よ。
少しだけ生暖かい目を向けそうになるのを必死に抑え、何をするのかと見ていたらトラロトル様の周りにどこからともなく綺麗な蝶々が寄ってきた。
その青色が綺麗な蝶々はヒラヒラ舞うと、トラロトル様の差し出した指にとまる。
そして蝶々に何事か呟いたトラロトル様は、そのまま飛び立っていく蝶々を視線だけで見送った。
トラロトル様から離れ空へと舞い上がっていく蝶々は、そのうち空に溶けるようにして消えてしまったのだった。
「トラしゃまー」
「なんだ?」
「あのちょうちょしゃんはなんでしゅかー?」
「あぁあれか。あれは俺が使う連絡用の蝶だ」
「はぇーしゅごいでしゅねー」
「そうか?」
「しょうでしゅ」
「そうか! そうだろうとも!」
ふふんって鼻息荒くふんぞり返っているトラロトル様は無視して空を見上げる。
綺麗な青空が広がっているだけで蝶々の姿はない。
いつ頃帰ってくるのだろうか。
見上げていてもなんら変化のない空を見るのも飽きた頃、青空の中に急に鮮やかな青が現れた。
蝶々が帰ってきたようだ。
「ちょうちょしゃん帰ってきたー!」
「みたいだな。ちょっと待ってろ」
蝶々を迎え入れたトラロトル様はそのまま何事かを聞いているような様子をみせる。
私には何も聞こえないけど、トラロトル様には何かが聞こえてるんだろうな。
「――――なるほどな。おい、メイ」
「あい」
「セシリアが言うには、ここの畑も神域と同じように天候とかは気にしなくてもいいらしい。だがどうしても気になるようならフェルに言って結界を張ってもらえ、だとさ」
「はぇー大丈夫なんだ……しゅごっ」
なんとなくだけどさ、この言い方だと結界がビニールハウス的存在に聞こえてしまうのは私の想像力の問題なのでしょうか。
「どうする、メイ。結界張るか?」
「うーん。お願いしてもいいでしゅか?」
「わかった。やってくる」
「ありあとフェルしゃま」
フェルトス様の申し出にありがたく頷くと、さっそく行動に移してくれたのできちんとお礼を言っておく。
「トラしゃまもありあとごじゃましゅ」
「おぅ」
そしてトラロトル様にもお礼とともにぺこりと頭を下げた。
「うぉっ、おま、フェル。そんなクソデカイ結界張る必要なくねぇか?!」
「ついでだ」
「ワハハハハ! これまた景気の良いこって!」
「んむぅ?」
トラロトル様にお礼を言っている間に結界を張り終わったのか、何故かガルラさんが驚いている。
少しだけ離れた場所で結界を張る作業をしていたフェルトス様の方へ振り返ってみるが、とくに何か変わった様子はない。
ガルラさんは何を見て大きいと判断したのかと疑問に首を傾げていると、みんなが空を見上げてることに気付いた。
私もつられるようにして空を見上げるけど、何もない。
いや、目を凝らしてよく見てみると魔力でできた薄い壁みたいなのが見えた。光を反射して七色に輝いてるようにも見える。
結界を目で追っていくが、森の向こうにまで続いているようで端っこは見えなかった。
たしかに大きいな。この畑周辺部分だけ囲ってくれたらよかったのに。
「どうせこの辺り一帯はいずれオレのモノにするのだ。ならば今から大きめに場所を取っておいても無駄にはなるまい」
「お前のモノっつってもよ……冥界の一部にしちまったら、せっかくの畑が死んじまうぞ?」
「冥界にはせん。ただオレの神域の一部に組み込むだけだ。どうせオレがここに通っているうちにそうなるのだから遅かれ早かれだろう」
「それもそうか。しかも俺やセシリアも顔を出すしな」
「あまり来るな」
「そう固いことを言うな、ハハハ!」
フェルトス様とトラロトル様が何か話してるけど、私にはイマイチよくわからない。
うーん、つまり神様が通うことによって神様の気的な何かが満ちて普通の場所が神域になっちゃうってこと?
今は畑部分だけが疑似的な神域だけど、そのうちこの辺り一帯が神域になる、のか?
…………自分で言っててよくわからん! そういうものだと納得しとく!
「まぁ確かに正式に神域にすればメイが心配するようなこともなくなるしいいのか?」
「しょうなの?」
ガルラさんの呟きに反応する。
「あぁ。神域は天気とか気温が安定するからな。神の気に満ちてて穏やかなんだよ。天界行ったとき居心地よくなかったか?」
「よかったー! でもちょっとだけ眩しかっちゃ」
「あー、俺らは冥界に属してるからちょっとした例外だな。とにかく例外を除けば居心地はすごく良いんだ。それは野菜とか作物も同じなんだよ」
「はぇー。なるほどねー。全部理解しちゃわー」
「絶対してない顔してるわ、くくくっ」
キリっとした顔で頷き返したけど、あっさりと見破られてしまった。てへっ。
だってなんだか途中でめんどくさくなっちゃったんだもん。
「とにかく神域にすればいずれ結界はすべていらなくなる。だからあらかじめ神域にしたい分を囲っておいたってことだ。結界の維持もめんどうだしな」
「にゃるほどね」
「くくくくく。オマエその顔やめろって」
うんうん頷いてるけどもう話半分しか聞いてません。
そのあと結界を張ってもらったお礼を改めてフェルトス様に言った私は、せっかくなので野菜の収穫も手伝ってほしい旨を願い出た。
せっかく集まってくれたんだからついでですよついで。
それにみんな快く受け入れてくれたから、わいわい楽しく収穫します。
放置してても大丈夫らしいけど、記念すべき畑にできた第一号作物なので全部収穫してしまいます。
ちょっとばかし大変だったけど、トラロトル様の魔法が大活躍してくれたので、お土産は奮発しようと決めました。
そして一時間も経たないうちに収穫は終わり。おかげさまでたくさん野菜が取れました。
これで何を作ろうか思いを馳せながら、トラロトル様に渡す分を選り分ける。
好き嫌いはないようなので全体的にどっさり盛って渡しておきましたよ。
野菜を受け取ったトラロトル様はとてもいい笑顔で帰っていきました。
さて、そろそろ私達も帰ってお昼にしましょうね!




