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44 風神と冥界神の喧嘩

総合評価ポイントが200超えました!ありがとうございます嬉しいです!

 フェルトス様に抱きしめられた絶対的な安心感により、さっきまで感じていた恐怖が薄らいだ。

 まだ涙は止まらないが、近くにフェルトス様の存在が感じられるおかげで少しだけ心の余裕も戻って来る。

 でもその余裕もフェルトス様の怒号に掻き消されてしまったけれど。


「落ち着けフェル! マジで俺は何もしてねぇから!」

「ならばなぜメイはオレに泣いて助けを求めたッ!? 貴様が何かしたのだろうがッ!」

「してねぇって!」


 トラロトル様に泣かされたという状況的には前回と同じ筈なのに、まったく違う二人の剣幕に口を挟む余裕がない。どうしてフェルトス様は前と違ってこんなに怒っているのだろう。


 しかもフェルトス様の口ぶりからして、またしても私は無意識にフェルトス様に助けを求めてしまったようだ。

 確かに会いたいとは思ったけど、実際にそれでフェルトス様に通じるとは思ってなかったからびっくりもしてる。


「うぉっ! ちょ、待てって! 話を聞けフェル!」

「黙れ! 絶対に許さんッ!」


 背後で何かが起こってるみたいだけど、フェルトス様にがっちり頭と体を固定されてるので何も見えないし、少し息苦しい。

 戦闘音のような物騒な音と二人の大きな言い争う声だけが私が得られる情報源。


 だめだ。早く止めないと。

 私のせいで、私が怖がっちゃったせいで、二人が争ってる。フェルトス様が怒ってる。トラロトル様が困ってる。

 止めないと。


 そう思っても、いつものフェルトス様じゃない。怖くて声が出ない。


 フェルトス様に抱えられながら、空中をびゅんびゅんと移動している。

 多分トラロトル様が空中に逃げて、フェルトス様が追いかけてるんだろうけど早すぎてよくわからない。


 もう全部が怖い。


 そして、怯えて目を閉じて、ぎゅっとフェルトス様にしがみつくことしかできない自分が情けない。


「ぐっ、いい加減にッ――しろやッ!」

「――ッ!」


 トラロトル様の怒った声が聞こえたあと、バチンッと何かを弾くような鋭い音がすぐそこで聞こえた。

 ついにトラロトル様が反撃し始めたのだろう。

 いよいよをもって取り返しのつかない状況になってきてしまった。


 どうしようどうしようどうしよう。

 はやくはやくはやく。


 気持ちばかりが焦り、私が行動に移せない間にも二人の神様の攻防は続いている。


 早く、なんとかしないと。でもどうやって。


 同じ言葉がぐるぐると頭の中で回るだけで解決策は思いつかない。

 チラリと見えた空が暗い。空気が重い。押しつぶされそう。


「――ぅぅ。ぁぅ、もぅ、やめ……」


 それでも勇気を振り絞り言葉を吐き出したけど、恐怖で喉が引き攣っているのか掠れたような声しか出ない。

 しかも二人の戦闘が激しくて、私の小さな声なんか簡単に掻き消されて届かない。


 ダメだ。もっと大きな声を出さないと。

 そう思って大きく息を吸い込もうとするけど上手くいかない。


 泣いているのも相まってか、小さく浅い呼吸しかできない。

 そんな自分のダメさ加減が嫌になり、さっきとは違う意味でも涙が止まらない。


 フェルトス様とトラロトル様の喧嘩を止めたいのに何もできない。

 いつものフェルトス様なら私が泣いてたらすぐに気付いて頭を優しく撫でてくれるのに、今は怒りに支配されているのかそれがない。寂しい。悲しい。


 誰か、助けて――


「そこまでですッ!」


 ガキンって金属みたいなものがぶつかり合う音と共に、ガルラさんの静止の声が空に響き渡った。


「むっ?」

「ガルラッ、なぜ止める!? コイツはッ――」

「――いいからすぐに頭冷やせフェル。んで、落ち着いたら自分の腕の中よく見てみろ」

「何を言って――ッ!」

「ひっく……うぇぇ、もっ、やめちぇ、よぉ……ひっく」


 ガルラさんに言われてこちらに意識を向けてくれたのだろう、フェルトス様が息をのんだのがわかった。


 そしてようやく私の嗚咽交じりの小さな静止の声が届いた。


「ぐっ!」

「わかったな? わかったならもうやめろ」

「あ、あぁ……」

「トラロトル様、主人が申し訳ございませんでした」

「どらしゃまぁ、ごべっ、なじゃぃぃ、ひっく――うわぁあああ!」


 ガルラさんに続いて私も謝罪する。

 涙でにじむトラロトル様の姿を確認すると、怪我をしているのか血が出ている。


 私のせいでトラロトル様が傷付いた。

 私のせいでフェルトス様に傷付けさせた。


 申し訳なさ、無力さ、不甲斐なさ、いろんな思いがない交ぜになってフェルトス様にくっついてわんわん泣く。


 ごめんなさい。弱くてごめんなさい。


「…………あー。チビ助は悪くねぇから気にすんな。俺も泣かせて悪かったな」


 ぽんっと頭に大きな手が乗せられた。

 フェルトス様の手じゃない。これはトラロトル様の手だ。

 乱暴に撫でるのではなく、気遣うように優しく撫でてくれるトラロトル様にさらに涙があふれてくる。


「うぅ――ごめっ、ちゃ……ひっく」

「大丈夫だ、チビ助。……だから泣くな。な?」

「ひっく、ふぁぃ……ぐずっ」


 鼻をすすりながら必死に涙を止める努力をする。

 ぐしぐしと目をこすっていたらその手を取られて、代わりに優しく目元を拭われた。

 そっと目を開けると心配そうに、バツの悪そうに、いろんな感情が混ざったよくわからない表情をしたフェルトス様がこっちを見ていた。


「メイ……すまん、怖がらせたな」


 フェルトス様の謝罪に首を横にぶんぶん振る。


「うぅん。ぐすっ。……わたしも、ごめ、ちゃい。ふぇるしゃま」

「あぁ……」


 なんだか歯切れの悪いフェルトス様に首を傾げる。

 どうしたのだろうか。


「…………嫌いになったか?」

「ふぇ?」


 続いた言葉に耳を疑う。

 どうして今そんなことを聞くのだろうか?


「オレが恐ろしいか? もうそばにいたくはないか?」

「フェル……お前」


 どこか不安そうにそう聞いてくるフェルトス様に、よくわからないまま私は首を横に振る。


「怒ったフェルしゃま怖かったけど、しょれで嫌いになんてなりましぇん。しょれに、わたしはフェルしゃまと離れたくもないでしゅ……いっちょにいたいでしゅ……」

「…………そうか」

「わっ……フェルしゃま?」


 私の答えを聞いたフェルトス様は心底安心したように抱きしめてくれた。


「――――よかった」

「へ?」


 小さく。本当に小さく呟かれた安堵の言葉。

 聞き間違いかと思って身を捩ってフェルトス様を見上げるけど、いつの間にかいつものフェルトス様に戻っていてよくわからなかった。

 空耳かもしれない。


「トラロトル」

「なんだ?」

「悪かったな」

「……おぅ。まぁ、俺も悪かったよ」

「あぁ」


 喧嘩していた二柱の神も仲直りしたってことでいいのかな。

 後ろでガルラさんが安心したように息を吐いてる。空を見上げてみたら、さっきの暗さが嘘みたいに晴れてる。

 神様同士の喧嘩は天候をも変える……また一つ賢くなりました。

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