表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/186

43 ホラー神再び

前回のお話にいつもよりいいねがいただけてて驚いております。

皆様のお優しさにいつも支えられております、ありがとうございます。


2024/10/21追記

誤字報告ありがとうございます!

「うーん。これは大変なことになっちゃ」


 私は目の前に広がっている光景が受け入れられず戸惑う。


「おかしい。これはどう考えてもおかしい」


 昨日の今日ですっかり変わった畑の光景。それは立派に育った作物の数々が風に揺られている光景。

 私の眼前には実りに実った畑が広がっていたのです。


 もちろん普通だったら喜ばしいことではあります。豊作なんですから。

 でも今の状況は嬉しいというより戸惑いの感情の方が強いわけ。


「ねぇケロちゃんズ。これって神様的には普通なのかなぁ?」

「くぅーん」


 私は隣で立ち尽くしているケロちゃんズを見上げる。

 でもケロちゃんズもわからないのか、耳がぺたんこになっている。


「わかんないかぁ。しょうだよねぇ。モリアしゃんはどう思う?」

『専門外だ』

「しょっかぁ」


 ステラの上にいるモリアさんにも聞いてみるが、予想通りの答えが返ってきたのですんなり引く。

 その流れでステラにも聞いてみたけど首を横に振ってる。冥界組全滅です。


 セシリア様から頂いたこの畑。お世話を始めて――頂いた日を一日目と考えて――今日で五日目。

 日に日にぐんぐん成長していく畑の作物を見ていて、なんとなく覚悟はしてたんですよ。

 昨日来た時には小さいながらもすでに実が生ってたわけですし。


 でも今日来たらこれですよ?

 さすがにおかしい。

 昨日は小さかった実が、今日は熟して大きく育ってるなんておかしいでしょ!

 しかも畑全ての作物が、ですよ?


 神様チートの畑怖いです……。


『ワシの予想でよければ言ってもいいが?』

「お願いしましゅ」

『おそらく原因はお前さんの昨日の歌だな。あれに反応して成長したんだろう』

「うちゃに!?」

『多分な』


 そんなことある? 目の前に広がってたね! あっはっは!

 …………はぁ。


 これ全部今日中に収穫しないと、育ちすぎて駄目になっちゃう感じ?

 うぅ、聞いてないよセシリア様ぁ。

 いやでも一気に植えたんだし、成長速度もほぼ一緒だったから遅かれ早かれこうはなってたな。

 想像力の欠如だった。恨み言言ってすみませんセシリア様……。


 とにかく気分を切り替えて次のことを考える。

 いつまでも起こってしまったことをぐちぐち悩んでいても仕方ないもんね。


 さて、どうするか。

 さすがにこれだけの数を一人で収穫するのは大変だぞ。

 ステラやモリアさんやケロちゃんズじゃ収穫できないかもだし、応援でフェルトス様達呼んじゃう?

 でもフェルトス様達もお仕事中だし、迷惑はかけられない。


「うーん。やっぱり一人でやらないとダメかなぁ」

「ふむ。ならば俺が手伝ってやってもいいぞチビ助」

「わぁ、いいんでしゅかぁ。ありがとうごじゃいま――――って……ぎゃあ! 出ちゃぁ!」


 私の独り言に突然返ってきた返事。

 その内容に嬉しくなりながら声をかけてくれた相手を見上げると、そこにいたのはかつて出会ったホラーの神――じゃなくて、風の神の……トラロトル様、だったっけ?

 あれから会わないし、話題にも出なかったからなんだかぼんやりしてる。オバケの恐怖ははっきり残ってるんだけど。


 苦手な方の突然の登場に驚きすぎた私は、失礼なことを叫んでケロちゃんズの足に隠れてしまった。


「ぎゃぁて……さすがの俺でも傷付くぞ」

「ご、ごめんちゃい……」


 そもそもここにいるはずのない存在だし、モリアさんの声でもなかったんだから、返事があった時点でおかしいと思わないといけなかったのに、なにをしているんだ私は。


「お、お久しぶりでしゅ、トラしゃま」

「久しぶりという程でもなかろう。ついこの間会ったばかりではないか」

「まぁ、しょうでしゅね……」


 前回会ったのはセシリア様のお家に行ったときだから一週間ほど前だろうか。

 たしかに久しぶりというほど経っているわけじゃないけど、それ以外の挨拶がパッと出てこなかったので仕方ない。


「ところで、いつまで犬コロの後ろに隠れているんだ? こちらに来い」

「ひゃい」


 おそるおそる顔を出しそっとトラロトル様に近付く。それでも結構な距離があいているが。

 これがフェルトス様やセシリア様ならピッタリくっつくぐらいの勢いで寄っていくのだが、私はこの神様がどうにも苦手なのだ。

 初対面で意味もなくホラー出現するトラロトル様が悪いと思う。


 本当ならステラやモリアさんのそばに行きたかったけど、トラロトル様の登場で二人ともいつの間にか後ろに下がっちゃった。

 ケロちゃんズも私が離れたら二人のそばに行っちゃったし。


 う、裏切り者……一人にしないで。


「ふむ。まだ遠いな。仕方ないから俺から近寄ってやろう! 照れ屋さんめ!」

「わっ、わぁっ!」


 フハハって豪快に笑いながらあっという間に距離を詰めてきたトラロトル様。

 反射的に逃げたんだけど、あっさり追いつかれ私は軽々と抱き上げられてしまった。こわい!


 トラロトル様の抱っこは抱っこというより、脇の下に手を入れられて持ち上げられてるような感じ。

 足がブラブラしてるし、後ろ向きに持ち上げられてて私からはトラロトル様の姿が見えない。

 視線も高いし、なんだか落とされるかもしれないって恐怖が湧いてきてぷるぷる震えてきちゃった。


 フェルトス様にも首根っこ持たれて持ち上げられたりするけど、フェルトス様だったらムッとはするけど怖くない。ガルラさんも大丈夫。


 でもトラロトル様はすっごく怖い。恐い。こわい。コワイ。


「うぇ……」

「上?」


 視界が滲む。鼻もツンとしてきた。目から涙がぼろぼろほっぺを伝って落ちていく。

 自分でもなんでこんなにこの人を怖がってるのかがわからない。

 悪い神様じゃないのもわかってる。わかってるのに怖くて怖くてたまらない。


 私の中で無性にフェルトス様に会いたい気持ちが強くなる。

 会って優しく抱きしめてもらって、大丈夫だよって頭を撫でてほしい。安心させてほしい。


「ん? ……は、え、どうし、え? チビ助お前なんで泣いて――危ねッ!」

「ふぇ?」


 止まらない涙をぐしぐし拭いながらフェルトス様のことを考えてたら、急に安心できる体温に包まれた。

 何が起こったのかはわからないけど、滲んだ視界に浮かぶ大好きな褐色の肌と紫の髪の毛が目の前にあることだけはわかった。

 安堵のあまりかの方の首元に抱きついたのも束の間、続く怒号に私は身をすくませる。


「トラロトル! 貴様ッ、オレのメイに何をしているッ!」

「誤解だ!」


 フェルトス様の聞いたことのない本気で怒った声と顔を、私はこの時初めて目にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ