41 冥界一家の団欒3
「できたよー!」
「待ってましたー」
すでに喧嘩は終わったのか、二人は仲良く並んでソファに座ってたので一安心。
ガルラさんにかけてたタオルケットは畳まれてソファの肘掛け部分に置かれていたので、あとで片付けようと心のメモ帳に書き記す。
問題なくご飯にできそうだと判断した私は、心置きなく魔法を使ってテーブルまで人数分のオムライスを運ぶ。
いやー、やっぱり楽ちんですね。
フェルトス様とガルラさんの前には大盛りを置いて、私の小盛りは二人の間に。
普通盛りはモリアさんとステラの分。一つはテーブルに、一つはお盆ごと床に。ステラ用の小さなお皿台とかも買っておけばよかったな。しまった。
人数分のお水を出してからフェルトス様とガルラさんの間に着席。
ただソファに座ると食べにくいから、ご飯食べるときはソファの上の雲クッションを下に置いて床に座ります。
テーブルが低いから、私にとってはちょうどいい高さになるしね。
それに私が床に座るからか、フェルトス様達も合わせて隣に座ってくれたのはちょっと嬉しい。
みんな着席したのでお手手を合わせて。
「いただきまーしゅ!」
「いただきまーす」
「……いただきます」
『いただきます』
別に強制はしてないんだけど、私が毎食いただきますってやってたらガルラさんもやり始めて、今ではフェルトス様も一緒にやってくれてる。
私の作法に付き合ってくれるなんて良い人達ですね。ここに人間は一人もいないけど。言葉のあやです。
「うん。今日の飯も美味いな。なんて料理だ?」
「ありあとー。おむらいしゅって名前でしゅ」
「オムライスか。気に入った!」
「えへへー。よかった!」
ガルラさんからのお褒めの言葉に、にっこにこになりながら隣にいるフェルトス様を見上げる。
「フェルしゃまはどうでしゅか? 美味しい?」
「……あぁ、美味い」
「でへへー!」
口の中のものを一旦飲み込んでから、こくりと頷いてくれるフェルトス様はなんだかかわいい。
『美味いぞメイ』
「ありあとー、モリアしゃん!」
器用にスプーンを使いこなして食べてるモリアさんにもオムライスは好評のようだ。
ステラは喋れない代わりに全身で美味しいって伝えてくれてる――気がする。
みんなに美味しいって言ってもらえて、心がほわほわになっていくのを感じる。
口がだらしなくニヤけるのもお構いなしに、私も自分の分のオムライスを口に運んだ。
「んふふー。おいしー」
ガルラさんから留守番中に何してたのかとか聞かれたので、そのことをお話ししつつ和やかに晩御飯の時間は過ぎていきます。
フェルトス様はあんまり会話に参加しないけど、ちゃんと聞いてくれてるしお話しするのはすごく楽しいから、私はこの時間が地味に好きでもある。
フェルトス様とガルラさんがおかわりをしたのでオムライスは完売です。
おかわりを見越して大量に作るけど、ちゃんと全部食べてくれるから作り甲斐がありますねぇ。
食後は私はお片付け。
ステラとモリアさんは帰っていった。ステラはこの冥界のどこかにいるらしいけど、モリアさんはどこに帰ってるんだろう。謎だ。
フェルトス様とガルラさんは背後で食糧庫の拡張作業中。
といってもなんだか一瞬で終わっちゃったみたいで、拡張魔法の発動を見損ねてしまった。残念。
「メイ」
「う?」
大人しくお皿を洗っているとフェルトス様から声をかけられたので顔だけで振り返る。
なんだか手招きをされているので、手を拭いてからたったかフェルトス様のもとへ。
ガルラさんは出来上がった食糧庫の中に大量の食料を移している最中のようだ。
「なぁにー?」
「これをやる」
差し出されたのはガルラさんが食糧庫と一緒に持ってきてたゴミ箱。
特になんの変哲もないただのゴミ箱――だと思ったけどよく見るとさっきまでなかった魔力の反応があった。
「ちょっとした細工を施しておいたから使え」
「さいくー?」
「その箱に魔力を流すと中の物が消える。これでオレがいなくてもゴミの処理ができるだろう」
「わぁ! ありがとごじゃましゅフェルしゃま!」
なんて素晴らしいものを作ってくれるのだろうか。
早速ゴミ箱を持ってキッチンへ行き、生ゴミを中へ入れて魔力を流してみる。すると綺麗さっぱり生ゴミは消えてなくなった。
「ふぉお……」
す、素晴らしすぎる……! しかも汚れも残ってないし、最高すぎるだろう。
神様チートで生活がどんどん良くなっていってしまう……! 便利すぎてもう元の生活には戻れないかもしれない……! いや、きっと戻れない……!
ゴミ箱をキッチンに置いた私は感激しながらフェルトス様のもとに戻り抱きつきながらお礼を言うと、フェルトス様は笑顔で頭を撫でてくれた。
あ、ちょっとレアな表情だ。
「本当はなぁ、中に入れるだけで消えるようにしようとしてたんだぞーコイツ」
「え?」
私がレアフェルトス様、略してレアトス様を堪能していたら、食糧庫から顔を上げたガルラさんがとんでもないことを言い出した。
聞き間違いだろうか。
「でもさすがにそれは危ないってことでやめさせたわ。あはははは」
聞き間違いじゃなかった。
「ガーラしゃん、ないしゅ!」
「やはりダメだったか」
私はガルラさんにサムズアップを送り、さらには心の中で拍手も送ります。ガルラさんもサムズアップを返してくれた。
フェルトス様はなんという恐ろしい兵器を生み出そうとしていたのか……。
蓋がついてない入れ物なのに、中に入っただけで消えてしまうとか怖すぎる。
モノを落として入っちゃった。とかならまだマシかもしれないけど、最悪ゴミを捨てようとしたときに手ごと持っていかれる可能性もあったかもしれない。
そうじゃなくても何かの弾みに体のどこかがゴミ箱の中の空間に触れちゃった、とかになったら……!
想像しただけでゾッとする。
神様の感覚は一般市民の私にはついていけない時がある。
自分の右手をさすりながらちょっとだけフェルトス様から離れた。
安全装置がいかに大切かわかりますね。
「メイ。なぜ離れる?」
「べ、べちゅにー?」
「あはははは」
「わ、わたしおしゃら洗わないと! フェルしゃまガーラしゃんありあとー!」
「……あぁ」
「くくくくく」
さぁて、サクサクお皿洗ってまったりしましょうねぇ。
私の皿洗いも片付けも終わって、ガルラさんの作業も終わり、みんなでソファの上でまったりくつろぎ中です。
冷やしておいたトマトジュースを飲みながらだらだらしてます。
なんかもう神様への捧げものというよりただの日常になってきてるけど、フェルトス様が気にしてないっぽいのでおっけーです。
しかもその神様への捧げものをいつも一緒に飲んでるのも気にしない。気にしないったら気にしない。
本人ならぬ本神が良いって言ってるから!
それでもちゃんと捧げもの……というよりお供え(?)の体は取っているから大丈夫と思いたい。
渡すときに毎回正座して本日のブツですどうぞお受け取りくださいって恭しくやってるから。ほんとだよ?
「ねぇねぇフェルしゃまー」
「なんだ?」
「また雲クッション作ってくれましゅかー?」
「またか? もう三つも持っているだろう?」
そうフェルトス様の言う通り、私の持ってる雲クッションは計三つ。
一つは布団として使っているやつ。これはセシリア様作だけど。
もう一つはその後に作ってもらった、私の体ごと沈められる大きめの雲クッション。
そして最後の一つは、今まさにソファに設置して使っている小さめの雲クッション。この三つだ。
「わたしの分じゃなくて、ガーラしゃんの分でしゅ」
「ガルラの?」
「え、オレの?」
「あい」
二人の疑問にこくんと首を縦に振る。
「だってガーラしゃんがわたしの雲クッション取っちゃうんだもん」
「あぁ……ごめんて。使い心地が良くてつい、な」
「わたしが使ってないときはべちゅにいいよ。でもこうやって一緒にいるときはガーラしゃんが使いたくても使えないでしょ?」
「まぁ、たしかに」
「だからガーラしゃんの分の雲クッション作ってもらったらいいと思って」
「フム、なるほどな。……ガルラ、欲しいか?」
「へ? あぁー……作ってくれるなら、欲しい、かな? でもいいのか?」
「かまわん。――ついでにオレのも作るか……」
そういってフェルトス様はコップを置いて雲クッションの制作に取り掛かった。
フェルトス様の手の中でもこもこが大きくなっていくのは見てて楽しい。
「メイ、ありがとな」
「どいたまでしゅ」
いつもとなんとなく違う笑顔を浮かべたガルラさんに頭を撫でてもらったうえにお礼までいただいちゃいました。へへっ、役得。
なんとなくだけど、ガルラさんってフェルトス様にズケズケ物申すわりに、自分のことでフェルトス様に何かお願いしてるの見たことない気がしたんだよね。
変なところで弁えてる変な人だ。いや、眷属としては正しい姿なのか?
わからん。ガルラさんの基準がわからん。眷属としての正解ももうなにもわからない。
私は欲しいものは遠慮なく言うぞ!
一応私も分類としてはフェルトス様とは主従関係なんだから弁えた方がいいとは思うんだけどね。思うだけで実行はあんまりできてない。だって子供だし!
それにどちらかといえば私の中のフェルトス様って、ご主人様というよりお父さんみたいになっちゃったし、家族って意識の方が強いんだもんなぁ。ご主人様兼お父さんだね。
それでガルラさんがお兄ちゃんで、モリアさんは親戚のおじさん。ステラは……なんだろう。しっかり者の弟かな?
「できたぞ。そら、受け取れ」
「おぅ。フェル、ありがとな」
「かまわん」
「よかったねー、ガーラしゃん」
「ふふっ。あぁ、ありがとう」
出来上がった雲クッションをさっそくもふもふして堪能しているガルラさん。私のより一回りは大きいな。
フェルトス様も自分の分をサクッと作って使ってた。
「悪くないな」
「でしょー。フェルしゃまもあんな硬いベッドじゃなくてこれ使えばいいのに」
「まぁ、考えておこう」
「しょれ結局使わないやちゅー」
「む……」
「ふはっ」
「にししー」
そうやって和やかに私達一家の夜は更けていき、私はいつの間にかソファの上で寝ちゃってた。




