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4 夢オチを期待したのになぁ

 どうも。暇を持て余している斎藤冥(さいとうめい)ことメイです。


 なぜ暇を持て余しているかと問われれば、フェルトス様がどこかに飛んでいってしまったからですね。行き先は知りません。教えてもらえませんでした。

 でも、多分ですがトマトジュース関連だと思います。出かける前に材料を聞いてきたので。恐らく食材調達でしょうね。


 私への聞き取り調査を終えた後に「少し待っていろ。逃げたら殺す」という恐ろしい言葉を言い残し、バッサバッサとお空の彼方に消え去っていきました。さよならバイバイです。


 いやぁ。もう怒涛の展開についていくことと考えることを放棄してしまいました。ハハハ。……はぁ、なんかどっと疲れちゃった。


 一人残されたあとは極度の緊張から解放されてしばらくの間脱力してたけど、それでも十分(じゅっぷん)程休憩したら復活できましたけどね。

 だけどフェルトス様に待っていろと言われたので、そのまま大人しく待っているのが現状です。


 とはいえ。そのフェルトス様が一向に戻ってくる気配もないので、それだけが気がかりなんですけど。


「……はぁ。おしょいにゃぁ」


 逃げる絶好の機会ではありますが、私に逃げるという選択肢はありません。

 だってまだ死にたくありませんもの。


 というか、この小さな体だと絶対逃げきれませんからね。

 ぽてぽて走っていてもすぐに追い付かれるだろうし、体力だってすぐになくなりそう。そんな光景が簡単に想像できてしまう。

 そもそもどこに逃げるのかという問題だってあるし。


「はぁ」


 もう一度小さくため息を吐く。


 鏡がないのでいま自分がどんな姿をしているのかはわからない。

 だけど多分小さい時の私の姿……なんだと思う。多分だけど。


 そう考えたら絶対に体力なんてありませんよ。

 私は子供の頃からインドア派だったんですもん。ついでに運動音痴でした。


 改めて自分の姿を見下ろす。

 小さくて短い手足に、丸いお腹。大きな頭にもちもちのお肌。


 うん。まごうことなき幼児体型ですね。


 少し癖のある黒い髪を持ち上げながら、写真で見た幼い時の自分の姿を思い出す。

 肩より長い髪。毛先が少し跳ねた癖のある髪。間違いなく自分の髪だ。


 現状で答えを出すのなら、やっぱりこの体は幼い時の自分の体なのでしょうね。

 あーあ。せっかくなら大人の体のままが良かったなぁ。なんで子供の姿になっているんだろう。


「しょれにしても……」


 いつまで待っていればいいのか。

 暗い空を見上げても月が浮かんでいるだけで、フェルトス様の大きな影は見えない。


 ……いい加減待ちくたびれたので、少しだけこの辺りを見てまわってもいいかな?

 ただ、逃げた判定がどこからになるのかがわからない。だから一応言い訳も出来るように、ここから見える範囲だけで行動すれば怒られたりしない、よね?


 とはいっても、ここは山の天辺。いや、岩場の天辺って言った方がいいのかな。わかんないや。

 周りにはゴツゴツした山脈がたくさんあって、ここはその中でも一番大きくて高い場所のようです。


 場所的にはけっこうな広さがある。その広い空間に存在しているのが、フェルトス様が寝転がってた祭壇……いやもうベッドでいいか。ベッドが一つ、ポツンと置いてあるだけ。他にはなんにもありません。


 はい、探索終了! 見るものがなさすぎますよフェルトス様!


 ここにはいないフェルトス様へ心の中で文句を言いつつ、私は再び大人しくフェルトス様の帰りを待つことにした。


「――きろ。おい、――ろ」

「むぃ」


 誰かに体を揺すられる感覚で意識が浮上してきた。

 きっとお母さんだな。


「起きろ」


 やめてよお母さん。私まだ眠いの。せめてあと五分は寝かせてー。

 だって変な夢を見ちゃって寝た気がしないんだよー。

 なんかトマトジュース好きの変な人喰い神様が出てくる夢でね。とっても疲れたんだよー。


「んぅ……?」


 あれ、お母さん?

 いや、今の私は一人暮らしだったはず。お母さんが部屋にいるわけがない。いるとしてもいつの間に来たんだろう?


 それに、お母さんにしては随分と声がひっくいような――


「はぁ……さっさと起きねば――喰うぞ」

「ひゃい起きまちた! おめめぱっちりでしゅ!」


 恐ろしい言葉が聞こえた気がして飛び起きる。すると頭上からため息が聞こえてきた。

 寝惚け眼のまま見上げてみれば、そこにいたのは私を覗き込むように見下ろすフェルトス様。

 若干不機嫌そうに見える視線がちょっと怖いです。


「あぅ。おはようごじゃましゅ。おかえりなしゃ」

「あぁ」


 残念。夢オチにはなりませんでしたか。とほほ。


 小さくあくびをしつつ目を擦っていると視界に赤い何かが見えた。

 そこに視線を持っていけば、フェルトス様が手に瑞々しい赤い実を四つ持っていた。

 これは見た感じトマトですかね。なんとも美味しそうです。


「ホレ。持ってきてやったぞ、作れ」

「わっ、うわわっ――あっ……」


 フェルトス様が突然ぽいぽいっとトマトを雑に投げ渡してきたので、落とさないよう慌てて受け取る。思ったよりも大きなトマトだったので、この小さな体では一つだけでもかなり大変だ。

 一個だけ受け取り損ねて潰れちゃったのは見ないフリをしましょうね。


 仕方ないよ。寝起きでいきなり反応しろっていう方が無茶だと思います。

 むしろ三つも受け取れたことを褒めて欲しいくらいですよ。


「もっちゃいにゃい……」


 せっかく美味しそうなトマトだったのに、無惨にも地面に激突し潰れてしまった可哀想なトマトを見下ろす。

 これはフェルトス様が悪いですよね。私は悪くない。うんうん。


「何をやっている。せっかく持ってきてやったのだ。無駄にするな」

「無茶言わないでくだしゃい……」


 ほぼ真上を向くように、じっとりとフェルトス様へ向けて抗議の視線を送る。

 しかし当の本人であるフェルトス様はどこ吹く風。

 私の抗議の視線なんて華麗に無視し、早くトマトジュースを作れと催促してきました。


「あにょ……これだけでしゅか? しょにょ、お鍋とか、漉し器とか……コンロ的なもにょ、は?」

「ない」


 いやそんな腕を組んで不遜に言われましても。私も困るんですけど。


「しゃすがに材料(これ)だけじゃムリでしゅ……」

「なんだと?」

「ぴぇ」


 私の答えにぴくりと器用に片眉を持ち上げたフェルトス様。すごく怖いです。


 でも私はちゃんと説明しましたよね? あれ、したよね? ここまでフェルトス様が自信満々だと自分が間違ってたんじゃって気分になる。自信もなくなってきたよ。


「……フム。そういえば何か忘れていると思っていたが……ソレだったか」


 顎に手を当て、いま思い出したかのようにぽつりと呟いたフェルトス様を見上げる。


 やっぱり言ってたじゃないですか。私は合ってた、よかった!


「だがもう一度出かけるのも面倒だ。これだけでなんとかしろ」

「にゃんとかと言われても……」


 無茶振りがすぎる。

 しかも今思い出したけど、仮にトマトジュースを作れたとしてもです。ここには冷蔵庫とかそれらしいものもないし、どうやって完成したトマトジュースを冷やせばいいんだ。


「……」


 なんだか考えるのもめんどくさくなってきちゃったな。

 もういっそ生のままで食べれば良いんじゃないでしょうか。


 そんなことを考えながらチラッとフェルトス様を盗み見る。


「みっ!」


 ムッとした赤い目がこっちを見ていた。こわいっ!

 うぅ。このまま食べたらどうでしょう。なんて絶対言い出せない。どうしよう。どうしよう。


 必死で思考を回転させるけど、そんなにすぐにいい案なんて思いつかない。

 しょせんはポンコツな私の脳みそ。


 ぐああどうしよう。なんだかフェルトス様からの圧が強くなった気もするし、早く何か言わないと。

 だってこのまま「できません」なんて言ったら、代わりに私が食べられそうな雰囲気を醸し出されているんだもん。


 やばいやばいやばい。


 早くしないと、と焦れば焦るほど頭の中は真っ白になっていく。


「ふぇ」


 あ、涙が出てきた。ぼろぼろ出てくる。止められない。


「おい、なぜ泣く。泣くな」


 頭上からフェルトス様の焦ったような声が聞こえてくる。


 もしかして私のことを心配してる? なんで?


 フェルトス様の声を不思議に思うも、流れる私の涙は止まらない。

 むしろどんどん出てくる始末です。


 おかしいな。私はこんなにすぐに泣くような女じゃなかったと思うんだけど。

 もしかして肉体年齢に精神年齢が引っ張られているんでしょうか?


「ううぅぅぅ」

「おい。泣くな」


 トマトを抱えているからあふれる涙を拭えないし、ぼたぼたとトマトの上に私の涙が落ちていく。


「あーあ。そんなに泣かせて。かわいそー」

「む?」


 そんな時。フェルトス様の後ろの方から知らない声が聞こえてきた。

ブクマが増えてて驚いてます。ありがとうございます。

思いつきで書いていてストックとかはありませんが、よろしくお願いします。

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