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38 冷たくて美味しいやつ

コレと前回のお話と合わせて一話分の予定でした。

「これで全部か?」

「あい。ガーラしゃんありあとね!」


 フェルトス様に降ろしてもらった私は、影の中に買った商品を入れてくれたガルラさんにお礼を言う。


「これで美味いもん作ってくれるならお安い御用だ」

「まかしぇて!」


 ドンっと胸を叩きながら力強くお返事をします。

 そしてちゃんと美味しいもの作るので、こういうときはまたよろしくお願いしますね。へへっ。


 それにしてもこれだけ商品の種類があるのに、アレがありませんね。

 きょろきょろとお店の中を見回してみるけど、それらしいものも見当たらない。もしかしてないのかな?


「どうした?」

「なんだ? 買い忘れかぁ?」

「うーんと……しょふとくりーむないかにゃぁって思って探ちてまちた」

「ソフトクリーム?」

「あい。冷たくて美味しいやつでしゅ」


 正確に聞き取ってくれたガルラさんに頷いて返す。

 牧場のアイスとか絶対美味しい。間違いない。


 これだけ地球と食材が似通ってるならあると思ったんだけどな。ちょっと残念。


「……おい、そこの人間」

「ひゃ、ひゃい!」

「ソフトクリームはないのか?」

「も、申し訳ありません。当店にはお嬢様がおっしゃるソフトクリームは置いておりません……」

「そうか。メイ、ソフトクリームはないそうだ」

「しょっかぁ……」


 私がしょんぼりしてたからか、フェルトス様がお姉さんに聞いてくれた。わざわざありがとうございます。

 でもないなら仕方ないので、大人しくお暇致しましょうか。


「フェルしゃま。しょろしょろ帰りましょ」

「もういいのか?」

「あい」


 欲しいものも買えたし、食料もいっぱい買えた。

 これでしばらくお外に出してもらえなくてもなんとかなるでしょう。


「――お、恐れながら!」

「ぴゃっ!」


 さて帰りましょうと扉に向かおうとしたとき、突然お姉さんが大きな声を出した。


 なんだなんだ何事だ。びっくりした。お姉さんそんな大声出せたんですね!


 バクバクいってる心臓を押さえながらお姉さんへ振り返れば、赤い顔をしたお姉さんが視界に入った。ばちりとお姉さんと目が合う。

 するとお姉さんは何度か口をパクパク開閉したあと、覚悟を決めたように口を開いた。


「恐れながら……その、発言を、許可していただきたく……」


 さっきとは違い、ちょっと小さくなった声のボリューム。でも強い意思を感じさせる瞳で、はっきりとフェルトス様に許可を求めた。


「構わんが……手短に話せ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 フェルトス様からの許可をもらったお姉さんは嬉しそうに一度頭を下げると、私の方に顔を向けた。


「う?」

「お嬢様がおっしゃったソフトクリームはありませんが、冷たくて美味しいというものなら心当たりがあります」

「ほんとでしゅか!?」

「はい」


 お姉さんの言葉に思わずテンションが上がり、お姉さんへと駆け寄る。


 もしかして、名前が違ったからお姉さんがわからなかった可能性があるもんね。


 わくわくした期待を抑えられず、カウンターの向こうにいるお姉さんを覗きこむように熱い視線を注ぐ。

 カウンターが高くて、背伸びしてもちょっとしか顔が出せてないけど。


「……かわいい」

「はぇ?」

「し、失礼しました!」


 突然の褒められにきょとんとしてしまう。


 え、かわいいですか? えへ、えへへへへ。照れる。

 でもお姉さんの方がかわいいと私は思うワケ。綺麗というよりかわいいといった言葉の方が似合うお姉さん。

 シエラさんとはまた違った美人さんで目の保養です。


「あの、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか? すぐにお持ちいたしますので」

「あい! 待ってましゅ!」


 うふふふふ。楽しみだなー。


 お店の奥に去っていくお姉さんを見送り、一人ふくふくと笑っていたらガルラさんが近寄ってきた。


「よかったなーメイ」

「あい!」


 それからすぐに戻ってきたお姉さんの手にはお盆。

 その上には小鉢みたいなお皿が三つ乗っていた。


 むふふ。それが冷たくて美味しいものですね?

 ソフトクリームではなさそうだけど、アイスでもオッケーです!


 キラキラした視線をお姉さんに注ぐ。すると、お姉さんは私の少し手前で止まり、フェルトス様の方へと視線を向けた。


「う?」


 なんだろうと首を傾げるのも束の間。すぐに動き出したお姉さんは私のところまで来てくれた。

 そのまま目線を合わせるようにしゃがんでくれて、お盆を差し出してくれました。


「試食として持ってまいりました。当店自慢のアイスクリームです」

「わぁああ!」


 お盆に乗っていたのはアイスクリームでした! やった! ひゃっほい!

 真っ白のアイスクリームがキラキラ輝いて見えますね。美味しそうです。

 渡された小鉢はアイスが入っているからか冷たい。だが、それがいい!

 添えられたスプーンを手に取ってアイスを掬う。


 いざ、実食。


「んー!」

「花が飛んでるなぁ」

「そうだな」


 さすが牧場のアイス。濃厚なミルクの味がすんばらしいじゃないですか!

 百点満点中、百二十点だよ!


「あ、あの。よろしければ冥界神様達もいかがですか?」

「オレは貰うけど、フェルどうする? 食えそうか?」

「やめておく」

「んじゃオレが二つとも貰うわ」

「あ、じゅるい!」


 あまりの美味しさにパクパク食べてしまったけど、試食用だから量が少ない。

 あっという間になくなったアイスの余韻に浸っていると、ガルラさんから聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。


「フェルしゃま要らにゃいにゃら、わたしも欲ちいでしゅ!」


 むーむー唸りながらガルラさんのズボンをぐいぐいと引っ張る。

 片手に小鉢を持ったままなので落とさないように注意しつつも圧力をかけていきます。

 独り占めは許しません!


「あーあー。わかったからズボン引っ張るな。脱げるー」


 ガルラさんが私の圧に屈したところで手を離す。


 ふっ、勝ったな……。


 ニヤリと笑う私の顔を呆れたように見ているガルラさんなんか見えません。

 食い意地が張っているなんて言葉も聞こえません。


 あーあー、きこえなーい。


 そんなやりとりを二人でしていると、私の手から小鉢の重みが消えました。

 見るとフェルトス様が私の小鉢を回収していて、空いた手に新しいものを持たせてくれました。


「わぁ! ありがとごじゃましゅフェルしゃま!」

「あぁ」


 にっこり笑ってお礼を言い、新しいアイスを頬張ります。おいしー!

 一口分掬ってモリアさんに差し出すと、美味しそうに食べてくれました。

 もちろんそのあとステラにもお裾分けです。ペロペロアイスを舐めて食べてました。


 ガルラさんは自分の分をさっさと食べてお姉さんに小鉢を返してた。もっと味わって食べたらいいのに。


「ガーラしゃんもいりゅ?」


 さっき欲しそうにしていたので、ガルラさんにもアイスを乗せたスプーンを差し出す。

 だけど全部私達で食べていいって言ってもらえたので、遠慮なく三人で食べました。


 うまうまと味わって食べていたアイスも終わりを告げる。

 名残惜しいけど食べ終わった小鉢をお姉さんに返し、満面の笑みをお姉さんに向けた。


「しゅっごく美味ちかったでしゅ! ありがとごじゃまちたお姉しゃん!」

「いえ。お嬢様にそんなに喜んでいただけたのなら光栄の極みです……」


 照れたようにはにかむ笑顔がまた素敵です、お姉さん。


「えっちょ、このアイスって売ってもらえるんでしゅか?」

「もちろんです。ご用意させていただくのでご入用の数をお申し付けください」


 アイスの大きさを聞くと、大体カップアイス一個分くらいらしいので十個も頼んじゃった。

 晩御飯のデザートで食べようと思います。楽しみが増えましたね、ぐふふ。


 どうやらアイスクリームはまだ本格的に売りに出してるわけじゃなくて、知る人ぞ知る商品だったみたい。

 ここの商品は全体的にちょっとお値段がしますが、アイスはさらに値が張っちゃうみたいで買いに来る人が少ないらしい。

 でもその分味は確かだし、この味でこの値段ならちょっとお安いくらいじゃないかしら? と思う私はお金を持っているからかもしれない……。


 でもこの味を知っちゃったら他のミルクじゃ満足できないよ!


 アイスの代金を払った私は商品を受け取り、お姉さんにまた来ますとお礼を伝えて牧場を後にしました。

 満足感に包まれながらフェルトス様に抱っこしてもらい帰路につく。


 じんわりあったかいフェルトス様の体温を感じながら、ゆらゆら揺られていたせいか、町の門に向かってる途中で寝ちゃってたみたい。気が付けば家のお布団の中でした。


 また寝落ちしちゃいましたか……すみません。

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