37 ミルクを求めて
長くなったので分けました。
一応キリがいいところまで載せてますが、あまり話は進んでません。すみません。
「見て見てフェルしゃま! ガーラしゃん! 牛しゃんがいるよ!」
やってきました、西の外れにある牧場近くです。門番さんが言ってたミルク売ってるところですね。
なんでわざわざこっちに来たのかというと、あわよくば牛が見たかっただけです!
だって牧場っていうくらいだから遠目でも見れるかなーって。そして見れましたよぐふふ。
しかも私の知ってる白黒の牛と一緒です。別の世界なのに同じなんて不思議だなぁ。
外れにある牧場だから遠いかと思ったけど、フェルトス様とガーラさんの足だと意外と早く着きました。
長くて羨ましいかぎりですよ……ちくせう。
「うし? モウモウのことかぁ?」
「もーもー?」
鳴き声ですかね?
首を傾げながら牛こともーもーを眺めるガルラさん。
そういえば初めてこの町に来た時に食べたお肉の名前がチュンチュンだった気がする。
この世界の名付け方……もしかしてかなり単純な可能性高かったりします?
「モウモウだ。メイのいう“うし”とやらは、こちらでは“モウモウ”というのだ」
「もうもう……」
フェルトス様の口から“モウモウ”などというかわいい響きの言葉が出てくると、どうにも口元がもにょもにょしてしまいますね。フェルトス様かわいいです。
「もうもうかわいいねぇ」
近くで見たら大きくて怖いかもしれないけど、ここから見てる分にはかわいい。
「ねー。フェルしゃま」
同意を得ようと近くにあるフェルトス様の顔を覗き見る。
でもどうせ『オレにはわからん』とか言うんだろうなぁ。別にいいけどね。
「……そうだな」
「ふぁ!?」
「なにぃ!」
『えっ』
「どうした?」
いや、こっちがどうしたですよ!
思わず全員でフェルトス様の顔を凝視してしまうくらいには衝撃です。
ステラとステラの上に乗ってるモリアさんでさえこっち見上げてるもん。
なにか変なものでも食べたんですか? ここに来てから何にも食べてなかったね!
「……なんだ?」
「なんにも」
熱はないようだ。
無意識にフェルトス様の額に手を当ててたので、そっと放す。
不思議そうな顔でこっちを見てくるフェルトス様。
多分なんで私達がこんなに反応してるのかわかってないのだろうな。
もしかして、最近私を筆頭に頻繁に同意を求めるようにしてたから、わからないって言うんじゃなくて同意をしてくれるようになったのかな?
そしてそれはフェルトス様の優しさということですか?
そのことに気付きなんだか嬉しくなった私は、思いっきりフェルトス様に抱き着いた。
「フェルしゃま大しゅきー!」
「……そうか」
頭を撫でてくれるフェルトス様の手がとても優しくて、さらに心が温かくなる。
「フェルも成長するんだなぁ。オレは嬉しいぞ」
「何をしみじみと言っているんだ貴様は」
「いやはや気にするな! ハハハハハ!」
大きな声で笑いながらフェルトス様の背中をバシバシ叩いてるガルラさん。
振動がこっちまでくるからやめてください。
フェルトス様に埋めていた顔を上げて、隣に立ってる陽気なお兄さんを睨みつける。
せっかくいい気分だったのに!
「ごめんて。そんな睨むなよ」
「むぅ。わかればいいんでしゅよ、わかれば」
ガルラさんは基本的には面倒見も良くて、いい人だし大好きなんだけど、時々すごくめんどくさくてうざい人になる。まったく、仕方がないお兄ちゃんだ。
「ところでメイ。ミルクはどこで売っているんだ?」
「う? うーん……多分あしょこじゃないでしゅか?」
現在地は牧場の入り口近く。
きょろきょろと周囲を見回すと、大きなミルク缶の看板が掲げられた建物があったので恐らくそこが販売スペースなのでしょう。
私の指示した建物へとみんなで仲良く向かいます。
窓ガラスから見えた建物の中にはミルク缶やミルク瓶などが並んでいる。
他にもいろいろ商品があるのが見えたので、ちょっとワクワクしてきました。
ガルラさんが開けた扉をフェルトス様とともにくぐる。
カランカランってなるドアベルの音が耳に心地よい。
店内をぐるりと見回せば、抱っこされたままなので視線も高く商品が見やすい。
私達が入ったあとステラとモリアさんを入れてから、ガルラさんが最後に入ってきて扉を閉めた。
「い、いらっしゃいませ!」
ちょっと甲高い店員さんの声音に緊張を感じ取りましたが、私には何もできないのでにっこり笑顔だけを向けておきます。
黒い髪のおさげと眼鏡がかわいいお姉さんと目が合ったから手も振ってみたけど、すぐに視線を外されて下を向かれてしまったのでちょっとだけ悲しみ。
「いらっしゃいましたよー。ちょっと商品見せてもらうけど、こっちから話しかけない限り基本放っておいてくれ」
「はい! かしっ、かしこまりました、です! ごゆっくりどうぞ!」
本日何度目になるかわからないガルラさんの店員さん牽制。
やっぱり庶民の私からすると偉そうな感じがしてそわそわしちゃうんだけど我慢我慢。
フェルトス様は人間の人達に構われるのあんまり好きじゃないみたいだから。
でもこういうのいつかは私もやらなきゃならないんだよね?
ちゃんとできるのか果てしなく不安だ……。
「メイ。どれが欲しいんだ?」
「えっちょ……とりあえずあっちのやちゅ! あ、ガーラしゃん。そこのカゴ持ってきてくだしゃ!」
「はいよー」
フェルトス様と一緒に広く取られたミルク売り場へと足を向ける。
ざっと視線だけで見渡してもいろんな種類がある。大きさも様々。
さてと、どうしようかな。とりあえず大きいミルク缶一個買っときます?
冷蔵庫には飲む分だけ冷やしておいて、残りはリュックにでも入れておけば消費期限とか気にしなくていいもんね。
その理論で食材もいっぱい買ったわけですし。
というわけで大きいミルク缶と瓶入りのミルク、その他いろいろ種類いっぱい購入決定。
あ。あっちにあるのはチーズでしょうか。バターらしきものもある! これも買っときましょうね!
こっちのはヨーグルトでしょうか。いっぱいあって嬉しい!
全部買っちゃうよ。ミルクがあれだけ美味しんだから、他の商品だって絶対美味しいに決まってるもんね!
「これくだしゃい!」
「は、はい!」
カゴいっぱいに入れた商品をレジに持っていっていざお会計。
結構な量を買ってしまったのでお姉さん大変そう。
申し訳ない……欲望を抑えきれませんでした。




