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29 勝負の行方

「まったく貴様らは。何故静かにできん」

「ごめんなしゃい」

「悪気はないんだって」


 ベッドから降ろされた私はベッド前で正座をさせられている。

 もちろん隣には絵下手男なお兄さんも一緒に正座をさせられています。


 フェルトス様は本気で怒ってるわけではないっぽいけど、ちょっとしたお小言はいただきました。本当にすみません、ちゃんと反省してます。


「……ふむ」


 私達のせいで完全に目が覚めたのか、フェルトス様はそのまま絵下手男お兄さんが描いた『偽物フェルトス様』のイラストをしげしげと眺めている。


「これは、オレなのか?」

「おぅ。似てるだろ」


 首を傾げるフェルトス様に対して、お兄さんは自信満々な笑顔で言い放つ。

 もちろん私は異議ありなのですかさず反論。


「似てにゃい!」

「似てるって」

「にーてーにゃーいー! でしゅよね、フェルしゃま!」


 フェルトス様に同意を求めるように視線を向けた。

 首を傾げてるくらいだ。やっぱりそれを自分だとは認識できていませんよね。


「いや……わからん。だが、ガルラがオレだと言うのならば、これはオレなんだろう」

「にゃんで!」

「はっはー。どうやらフェルはオレの味方のようだな。残念だったな、チビちゃん」

「むぅー!」


 あまりにも悔しくて地面をばしばしと叩いてしまう。隣で笑うお兄さんの笑顔がとてもむかつきます!

 フェルトス様は何でも受け入れすぎ。下手なモノは下手と言ってあげるのも本人の為なんじゃないでしょうかね。


「アハハハハ。勝ったな!」

「むきー!」

「うるさい……」


 その勝ち誇った顔がムカつく! 子供相手に大人気(おとなげ)ないぞ!


「お兄しゃん、わたしにも描くもにょくだしゃい!」

「お、なんだなんだ。チビちゃんも描くのか。ちょっと待てよ」


 お兄さんが自分の影から紙とペンを取り出す。それを器用にキャッチして私へと差し出してくれた。


「そら」

「あいがとごじゃましゅ!」


 お兄さんにお礼を言って紙とペンを受け取り、早速私の憤りをぶつける為にペンを取った。


「あっ」


 しかしここで問題が発生。地面がぼこぼこしていて少し書きづらい。でも私はめげない。

 顔を上げフェルトス様へ訴える。


「フェルしゃま! ベッドに乗せてくだしゃい!」


 フェルトス様のベッド表面はツルツルしている。だから地面よりは描きやすいはずだ。

 そう思った私は紙とペンを持ったままバンザイの体勢でベッドへ乗せてもらうのを待つ。


「う?」


 突然の浮遊感とともに私の体は浮いてベッドへと着地した。

 フェルトス様は動いていない。なら犯人は――。


「ほいよ。これでいいかチビちゃん」

「むぅ……ありあとごじゃましゅ」


 お兄さんしかいませんよね。とはいえなんだか悔しい気持ち。


「よち!」


 気を取り直して私はペンを握る。

 自慢じゃありませんが、絵には多少の自信があるのです。

 私はフェルトス様の顔をじっと見てから紙にペンを滑らせた。


「……ところでガルラ。今回は長かったな」

「あー。本当はもっと早く帰ってこれる筈だったんだけどな。誰かさんが鍛冶神様に無茶振りしたせいで伸びたんだよ。だ・れ・か・さ・ん・の・せ・い・で・な!」

「そうか。それは災難だったな」

「くっそ。わかってたが嫌味がきいてねぇ」


 フェルトス様とお兄さんの会話を聞きながらも、ざかざかと手を動かす。結構良い感じだ。むふふ。


「だがまぁ。このチビちゃんの杖を作る為だってんだから許してやるよ。オレの妹みたいなわけだし? 妹の為なら仕方ねぇよ」

「あまりイジメるなよ」

「わかってるって」

「……んむ?」


 二人の会話に引っ掛かりを覚え顔を上げる。

 このお兄さんは今妹がどうとか言いませんでしたかね。


「どうした?」

「お、描けたか? 見してみー」

「わっ、まだでしゅ! 見ちゃダメ!」


 お兄さんが紙へ手を伸ばしてきたので慌てて紙に覆いかぶさる。

 危なかった。まだ途中なので見ないでほしい。


「ん? 違うのか? もしかして描き損じたからもう一枚欲しいのか?」

「違ましゅ……んー」


 笑顔で私の事を見てくるお兄さんをじっと見返す。


「どした?」


 紫の髪に赤い目。フェルトス様と似た翼。そしてお兄さんの妹発言。

 以前フェルトス様が何か関連することを言っていた気がする。あれはたしか――。


「お兄しゃんが、わたしのにいちゃ?」

「そうだぞー。……って、そういやまだ自己紹介してなかったな。オレはガルラ。チビちゃんと同じフェルの眷属――兼、友人だ。よろしくな」


 やっぱりこの前フェルトス様が言っていた新しい家族の人だった。

 なるほどと納得してから、差し出されたお兄さん――もといガルラさんの右手をじっと見る。そしてもう一度ガルラさんの顔を見た。


「ん?」

「がりゅりゃしゃん……」


 この人がガルラさん。なんだろう。思ってたのと違うな。

 明確にこんな人! と想像していたわけではないけど、なんか……違う。


「ぷっ! あはははは! なんだよ『ガ』しか合ってねぇじゃん! マジかよ、かわいいなチビちゃん!」

「あぅ、ごめんちゃい」

「謝るなよ。呼びやすいように呼んでくれ。なんなら『お兄ちゃん』でもオレは構わないぞ?」

「しょれはちょっと……」

「なんでだよ」

「なんとなく」

「そっか、なんとなくかー! じゃあ仕方ねぇなー!」


 アハハハハハとガルラさんは大袈裟に笑う。

 テンションの高い人だな。どうやってフェルトス様と友達になったんだろう。接点がなさそうなのに。もしかしてガルラさんも私みたいにここに落ちてきた、とかなのかな?


 いやそれはないか。たしか落とし子の眷属は私が初めてって言ってた気がする。


「んっと。じゃあガーラしゃん」

「ふむ。ガーラか。良いじゃん!」

「ありあとごじゃましゅ。わたしはメイでしゅ。よろちくお願いちまちゅ」

「メイか。良い名前だ。改めてよろしくな、メイ」

「あい!」


 名前を褒められて悪い気はしない。この名前は私も気に入っているからね。

 絵のセンスはないし、意地悪してくるけど、ガルラさんは意外と良い人なのかもしれないな!


 私はガルラさんから差し出された右手をそっと握る。

 二人でニコニコと笑いながら握手を交わしたあと、手を放したガルラさんがそのまま私の頭を撫でてくれた。


「ふへへ。もっと撫でてくだしゃ――」

「メイ。オレの絵はまだか?」

「はっ!」


 フェルトス様の言葉に正気を取り戻す。

 完全に忘れていました。すみませんもう少しなのでしばしお待ちくださいませ!


 そうして私は必死にペンを躍らせた。


「――できちゃ! むふふ」


 これはかなりの自信作だ。


「おぉ、完成したのか?」

「見せてみろ」

「あーい!」


 手を差し出してきたフェルトス様に完成したイラストを渡す。


「どうでしゅかー?」


 静かに紙を眺めるフェルトス様と、横から覗き込むガルラさんに私は自信満々に問う。

 絶対に私の方がガルラさんよりも上手いはずだ。もう自信しかない。

 少しばかり漫画チックというか、現代のイラストチックというか、デフォルメが効いたフェルトス様のイラストになったけれど特徴は掴めているはず。


「ふふーん!」


 腰に手を当てふんぞりかえる。

 どうだガルラさんこのやろう。まいったか!


「フム」

「へー。オレには負けるけどメイも絵が上手いな! 良く描けてるじゃん」

「むっ! わたしの方が上手でしゅけど?」

「いやいやオレでしょ」

「いやいやわたしでしゅ」


 絶対に負けてない。自信もある。

 私とガルラさんは二人で睨み合う。怒ってるのは私だけで、ガルラさんは笑顔だけど。


「こうなったらフェルに判断してもらうか」

「望むとこりょでしゅ!」

「さぁフェル。オレとメイ。どっちが上手い?」

「もちりょん、わたしでしゅよね?」

「いやいや。オレだよな?」


 二人してフェルトス様に詰め寄り、じっと判決が下されるのを待つ。

 詰め寄られている本人は、私の描いたイラストとガルラさんの描いたイラストを交互に眺めたあと私達へ視線を向けた。


「フム。オレにはわからん」

「にゃんで!」

「だはははは。フェルらしいっちゃフェルらしいな!」


 絶望の宣告に項垂れる。

 私とガルラさんの絵が同列だというのですかフェルトス様?


「だが――」

「ん?」

「ふぇ?」

「メイの方が心がこもっている。故にオレはメイの方が好きだ」

「ふぇ、ふぇりゅしゃみゃあああ!」


 落とされた後に持ち上げられ、感激のあまり突撃する勢いでフェルトス様へと抱き着いた。

 フェルトス様の仰る通り心は全力でこめましたとも。フェルトス様のかっこよさとかわいさを表現しようと頑張りましたとも。ガルラさんに勝ったぞ!


「あー。たしかにちゃちゃっと描いたから心はこめてなかったかもだ。ざーんねん」

「へへん! 勝っちゃ!」


 私はフェルトス様に抱き着いたままガルラさんへ勝ち誇った笑みを向ける。


「くっそ。そんな顔もかわいいなオマエ! オレの負けだよ負ーけ!」

「ふっふーん!」


 今世紀最大のドヤ顔を披露している自覚があります。

 大逆転劇に心がスカっとしますね。むふふ。


「まぁ。フェルの好き嫌いの勝敗がついただけで、絵の上手さに関しては何も決まってないけどな」

「う? …………はっ!」


 それはたしかにそうだった。

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