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25 隠し味が効いてるのかしら?

 お昼ご飯を食べて、お昼寝もして。疲れも取れて元気いっぱいなメイです。

 お昼寝をして体力も戻ったので、約束通り今からフェルトス様達御所望のトマトジュースを作ります。

 倒れてから買い出しにも行けてないので、トマトジュースは三日ぶり。

 気合を入れて献上品(トマトジュース)をお作りしますとも。むんっ!


 材料諸々は私がお昼寝している間にセシリア様が用意してくださった。やはりできる神様は違います。


 怪我のないように保護者の目の届くところで作りましょう。ということで中庭に簡易キッチンが設置されている。なので本日の作業は中庭での野外クッキングです。


 材料はトマトのみ。多分だけどこれだけでも十分(じゅうぶん)美味しいものができるはずだ。

 私は用意してもらったエプロンを身につける。セシリア様直々に手渡されたつば広帽子も被って日光対策もしておく。あとは手を洗って準備完了です。


 さて、作っていきますよ。とびきり美味しいものを作るので、楽しみにしていてくださいねお二人とも。


 むんっと再度気合を入れて離れた場所で待機している二人へ視線を向ける。


 フェルトス様とセシリア様はテラスのような、東屋のような場所で寛いでいます。

 私達がここへ来た時に通された場所でもある。


「――――」

「…………」


 良く聞こえないけど二人はなんのお話をしているのでしょうか。

 セシリア様はとても楽しそうに笑っているけど、対するフェルトス様はなんだかムスっとしてます。盛り上がってる、のかな。


 それにしても二人は一体どういう関係なのだろう。仲良しなのは間違いなさそうだけど。むむむ。気にはなるけど今はこっちに集中しましょう!


「よち」


 前回私一人では作るのが大変だったので、今回はお手伝いのお姉様を貸していただいた。

 ちなみにこの人も美人です。美人のインフレがおこっています。


「今日はよろちくお願いしましゅ」

「こちらこそ。よろしくお願いいたします」


 お互いに頭を下げて挨拶を交わしたら、いざクッキング。


 とはいえ以前作ったときと手順は同じだ。

 まずはお姉様と一緒にトマトを洗ってヘタを取りざく切りにする。

 そして鍋の中へ投入。お姉様はさすがというか手際も良いしとても作業が早い。助かります。


 なんてったって今回はフェルトス様の注文で、とても大きな寸胴鍋での調理なのだ。

 しかも家庭用じゃありません。絶対業務用サイズはあるくらいの寸胴鍋です。

 こんなの私一人じゃどれだけ時間がかかるかわからないですよ、まったく。


「……」


 この鍋はいったい何杯分になるんだろう。というかフェルトス様はそんなに飲むつもりなのだろうか。もしかして保存用も兼ねているのかな?


 そんなことを考えていたら鍋がトマトでいっぱいになったので、頭の中の疑問は一旦置いておく。次は火入れだ。

 私一人だとかき混ぜられないので、お姉様に手伝ってもらいながら混ぜていく。二人の共同作業ですね。うふふ。


「おいちくなぁれー」


 焦げないように気を付けながら混ぜる。そして隠し味で魔法の呪文をたっぷりと。実際に味には関係ないけど気持ちの問題だからね。

 今回はセシリア様にも飲んでいただくんだから余計にたくさん入れないとだ。むふふ。


 そんな作業途中にチラッとフェルトス様達へ視線を向ける。すると何故かフェルトス様がテーブルへ突っ伏していた。しかも厚手の黒い布のようなものを頭からすっぽり被せられながら。


「んー……むぇ!」


 何があったんですかフェルトス様。思わず二度見をしてしまった私は悪くないだろう。


 驚きながら見ているとセシリア様と目が合った。

 セシリア様は本を読んでいたようだけど、私の視線に気付いて笑顔で手を振ってくださった。なのにすみません。今の私には振り返す余裕がありません。


 フェルトス様はどうしたのだろう。もしかして太陽に当たりすぎて死んじゃったとか?


 私があわあわしながら不敬なことを考えていると、お姉様がそっと近付いてきた。


「ご安心をメイ様。冥界神様はお昼寝をしておられるだけです」

「ふぇ。お昼寝?」

「はい。あの黒い布は遮光性がありますので、それで擬似的に闇を作りそこでお休みになられているのです」

「はぇー」


 お姉様の説明で納得したけどマヌケな声で返してしまった。

 なるほど。でもびっくりしました。まったく人騒がせな!


「メイ様。そろそろよろしいのではないでしょうか?」

「う? あ、ほんちょだ。しょれじゃお願いちてもいいでしゅか?」

「お任せください」


 お姉様がトマト鍋を持ち上げる。次はトマトを()す作業だ。

 お姉様は細いし、鍋を持てるのか心配しながら見てたんだけど軽々と持ち上げていてびっくりした。意外と力持ちさんでした。かっこいい。尊敬の目を向けてしまう。


 私は大きなボウルに、これまた大きなザルを設置してトマトを受ける。

 量が多いので何回かに分けてトマトを()していきます。

 綺麗に()せたら一旦完成。あとは粗熱を取って冷やすだけです。


 後片付けや冷やす作業はお姉様がやってくれるらしいので、お礼を言ってからフェルトス様のところへ向かう。


「メイ様。お待ちを」

「あい?」


 なんでしょう?

 お姉様を見上げると微笑みながら私のエプロンを外して回収してくれました。

 そうでしたね、忘れていました。すみません、ありがとうございます。てへへ。


 改めてお礼を言い、今度こそフェルトス様のところへ。


「あら、もう終わったのかしら?」

「あい! 冷えたら出来上がりでしゅ!」

「それは楽しみね」


 うふふと綺麗な笑みを浮かべるセシリア様は美しい。思わず見惚てしまうくらいに。


「んー。フェルしゃま、寝てゆの?」


 黒い塊となったフェルトス様をつんつく(つつ)いてみますが反応がありません。


 返事がない。ただの――なんちゃって。


 有名な一文が脳内をよぎったけど頭を振って追い出す。

 フェルトス様のお膝に座れないので余っている別の椅子に座りましょうね。


「おチビちゃん」

「う?」

「こっちにいらっしゃい」


 フェルトス様から離れると、セシリア様からお誘いを受けた。膝をぽんぽんと叩きながらの優しい笑顔。そんな魅惑のお誘いを私が断れるはずもなく、諸手を挙げて飛びついた。


 セシリア様のそばでバンザイの姿勢をとれば、帽子を脱がされてから抱き上げてお膝の上へと乗せてくださいました。柔らかいし良い匂いがします。役得すぎる。


「ふへへ。リアしゃま、ありあとごじゃましゅ!」

「いいのよ」


 にっこり笑ってお礼を言えば、セシリア様が頭を撫でてくださいました。

 フェルトス様とは違う柔らかくて小さい手の撫で心地も最高です。ふへへ。


 そうやってしばらくセシリア様と戯れていると、さっきのお姉様がトマトジュースの入ったピッチャーと、コップを三つワゴンに乗せて戻ってきた。

 ただ、三つのコップの内の一つがどう見てもジョッキのように大きい。まさかとは思うけど、あれはフェルトス様用のコップなのだろうか。


「お待たせいたしました。メイ様特製トマトジュースをお持ちいたしました」

「やった。楽しみね!」

「……できたか」


 ウキウキと手を合わせて喜ぶセシリア様はなんだか少女のようで可愛いです。

 フェルトス様は布から顔だけ出して目をしぱしぱさせています。こちらも可愛いですね。


 なんということでしょう。ここには可愛い人達しかいないのかもしれない。別世界侮りがたし。


「ふあぁ……」


 大口を開けてあくびをしたフェルトス様が体を起こして伸びをする。

 そのとき被っていた布がバサリと椅子の上に滑り落ちた。それを雑に掴んだフェルトス様は無言でお姉様へと手渡す。お姉様は布を丁寧に受け取って畳み、ワゴンの下の方へ片付けていた。


「……おぉ」


 目の前で繰り広げられる主人――ではないけど――と従僕のような仕草に思わず感嘆の声がもれる。私なら絶対に何か一言言ってしまう。さすがは神様だ。敬われるのは当然ということですね。


 そのあとお姉様が私達の前にそれぞれトマトジュースの入ったコップを置いてくれた。

 予想通りフェルトス様の分はジョッキ。やっぱりそうなんですね。お腹ちゃぽちゃぽになりそう。


「へぇ」


 配膳を終えたお姉様が後ろに控えたタイミングでセシリア様がコップを持つ。


「たしかにこれは美味しそうね――ってフェルあんた。少しは味わったらどうなの?」

「味わっている」


 すでに飲み終え舌でペロリと口の端のジュースを舐めとったフェルトス様がお姉様へジョッキを差し出しおかわりを要求していた。あまりにも行動が早い。


「まったく。ともかく、私もいただくわね」

「あい、どーじょ!」


 トマトジュースに口をつけるセシリア様をドキドキしながら見つめる。

 フェルトス様はグビグビ飲んでいるので美味しいと思っているのは確実。でもセシリア様はどうかな。口に合うかな。心臓がドキドキして煩い気がする。


「――たしかに。フェルが言うだけあるわね。とっても美味しいわ」


 開口一番のその言葉に思わず頬が緩む。


「ほんとでしゅか!」

「えぇ。ほんとに。こんなに美味しいのは初めてよ」

「え、えへへ。いやー、しょんなー、うへへ。しょれは褒めしゅぎでしゅよー。でへへへへ」


 自分でも顔が溶けているのがわかるほどでろでろだ。素敵な笑顔と共に言われた恥ずかしさと嬉しさで顔がすごいことになっている。いっぱい愛情を込めた甲斐はありましたね。


「おチビちゃんもどうぞ」

「ありあとごじゃましゅ!」


 セシリア様がコップを取ってくれたので、早速私も一口頂く。


「んむ」


 口の中にトマトの濃厚な味と甘みが広がっていき、飲んでいると幸せな気分になる。不思議だ。


「――ぷはっ。おいちー!」


 予想通りセシリア様のトマトを使ったジュースはとても美味しかった。

 町のトマトも美味しかったけれど申し訳ないがこっちの方が格段に美味しい。

 やはり神様が作る野菜は一味も二味も違うということなんですかね。さすがです。


 グビグビ飲んでるフェルトス様と違って、セシリア様は味わってゆっくり飲んでいらっしゃる。

 それでもおかわりをしてくれたので、これは気に入ってくれたと思ってもいいかな。


「にぇへへ」


 二人に喜んでもらえて私も嬉しいです。

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