番外編 大きさの違い
カイル視点のとても短い小話です。
「ふふふーん」
鼻歌交じりにおにぎりを握るお嬢の姿を眺める。
小さな手で一生懸命握っている姿はとても微笑ましい。
「これはねぇ、鮭おにぎり。カイルの分だよ!」
俺を見上げて屈託のない笑顔を見せるお嬢に頬が緩む。
「美味そうだな」
「ふへへ。カイルのは何おにぎり?」
「これは焼きおにぎりにする予定だ」
「焼きおにぎり! 美味しそう」
「だろ」
今日のお嬢は外で食べる気分らしいので二人で弁当作りに励んでいる。
シドーが大食いなのでそれなりに量が必要なのだ。
「よしおにぎり完成! 次はおかず作る!」
そう言ってお嬢は完成したおにぎりを皿へ置き、おかず作りに移っていった。
「ははっ」
皿に乗せられたおにぎりを見て小さく笑いがもれる。
俺とシドー用に作った大きめのおにぎり。そして自分用だろう、ころころとした小さなおにぎりの数々。この大きさの違いにお嬢からの愛情を感じて笑ってしまった。
お嬢の小さな体で、小さな手で、大きなサイズの料理を作るのは大変なはずだ。
それなのにお嬢はいつも食べる側のことを考えて作ってくれる。手間を惜しまない。これを愛情と言わずなんと言えば良いのだろう。
カイルスフィアとして生きてきた中で俺は愛情に飢えていた自覚がある。だからこそわかりやすい愛情を求めていたし、それ以外は見ようともしなかった。
そんなカイルスフィアだったら、こんなにも小さく些細な愛情表現なんてきっと気付きもしなかったんだろうなと考える。
「……ふ」
小さく口端が上がる。心が幸せで満ちていく。
「う? カイル何笑ってるの?」
「いや、ちょっとな」
「んー?」
「ははっ。気にすんな」
愛情を噛みしめていた。なんて気恥ずかしくて言えるわけがない。
なので卵焼きを作りながら首を傾げているお嬢に向けて軽く笑い、強引に話を流した。
お嬢も深く追求する気はなかったのだろう。納得していないながらも卵焼き作りに戻っていった。
「うし。こんなもんかな」
握り終わったおにぎりを皿へ乗せる。
「ふはっ」
隣にはお嬢の握った鮭おにぎりが鎮座しており、俺の握ったおにぎりと見比べて思わず笑ってしまった。
お嬢の作った大きなおにぎりと、俺が作った小さめのおにぎり。それがほぼ一緒の大きさなのだ。お嬢も食べやすいようにと小さめで作ったつもりだったが、俺もまだまだだな。
「やっぱり笑ってゆ……」
「悪い。気にしないでくれ」
「むぅー」
不満げに頬を膨らませるお嬢。
申し訳ないがそんな姿も可愛くて、愛しいと、そう思う。
「さてと……焼くか」
気分を切り替えた俺は小さくも大きなおにぎりへと手を伸ばした。




