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湖上の月城編23 とある幼女の独り言5

 テスカトレ様が私とギルバルト君の誘拐事件を起こしてから早いものでもう二週間が経ちました。

 私自身怪我もなかったし、わりとすぐに日常へと戻ることができた。


 だけど早々に日常へ戻った私と違い、保護者達は誘拐騒ぎで過保護が加速してしまったようなのです。

 いやはや。テスカトレ様のお家から帰って来てからの数日間は本当にどこへ行くにもべったりでしたね。


 外出禁止は辛うじて回避しましたが、いつもの朝の日課へ行くにはフェルトス様の同伴が必要になった。

 朝の日課が終わったらフェルトス様は冥界へ戻って行くんだけど、戻る前に「知らないヤツについて行くな」とか「珍しい小動物がいても勝手に一人で動くな」とか毎日懇切丁寧に言い聞かせてくるようになってしまいました。


 こんな心配をさせてしまうのが本当に申し訳ないです。不甲斐ないお子様ですみましぇん。反省してます。


 他には、フェルトス様と一緒にいる時は――作業中以外ですけど――常に抱っこ状態。ソファとかでくつろいでいる時はお膝の上が定位置となりました。

 さすがにフェルトス様がお仕事の間は離れていたけど、それ以外は常にフェルトス様に捕獲されていました。


 そしてガルラさん。表面上は普通だったけれど我が家へのお泊まりが増えた。

 普段から夜は自分の家に帰ることもあれば、我が家に泊まることもあったし、お泊まり自体はおかしなことでもない。

 けど、この二週間はずっと我が家で夜を過ごしております。おはようからおやすみまで一緒です。


 とまぁ、この二人はこんな感じでまだ良かった。


 保護者二人以上に酷かったのがカイルとシドーの二人。

 カイルは誘拐事件で精神的に参ってしまったのか、私が自分の視界から消えることに恐怖を感じるようになってしまったみたい。

 私の姿が見えないと焦ったように私を呼んで探す。その時の顔が忘れられなくて、私はなるべくカイルの傍へいるようにした。


 シドーは私の影に帰ることを拒否するようになった。

 ずっと一緒といわんばかりにべったりと引っ付いてくる。多分シドーもカイルと一緒で私が視界から消えるのが嫌なんでしょう。

 だから作業の邪魔さえしなければ良いかと思って何も言わなかった。


 二人にはかなり心配をかけてしまったから、落ち着くまではと好きにさせることにしたのです。

 それが功を成したのか、五日程経った頃には異常行動も落ち着きを見せた。一週間もすればいつも通り。少なくとも表面上は普通、というだけですけど。


「トマトちゃん。コレおかわり」


 そう言ってシンヴィー様が私の前にコップを差し出す。

 さっき注いだばかりのトマトジュースは一気に飲み干されてしまい、良い飲みっぷりに笑ってしまった。


「はーい。どうぞシンヴィー様!」

「ありがと」

「ふへへぇ」


 今はシンヴィー様と畑でお茶会の最中。

 シンヴィー様は私がこの世界へ落ちてきた初めての夏に出会った不思議なお姉さん。

 あの時から只者ではないと思っていましたが、まさか高位神の一人の星神様だったなんてビックリです。


「ねぇトマトちゃん。僕さ、実は辛い食べ物が好きみたいなんだ。また今度でいいから僕の為に何か作ってほしいな」

「ふぇ? 辛いもの、でしゅか? うーん。なにかあるかにゃあ?」

「ふふふ。思いついたらでいいよ」

「わかりまちた。考えときましゅね!」

「うん」


 そんなやりとりをしつつ和やかに時間は進んでいく。


 あの事件後。落ち着いた頃に一度シンヴィー様が改めて我が家にやってきた。

 どうやら初めて出会った時にした約束を果たしに来てくれたようなのです。

 でもその時はまだ過保護警報発令中だったので、大したおもてなしもできず。

 申し訳なく思いつつも日を改めてもらったのが今日というわけですね。


「……メイちゃん。我もトマトジュース(それ)欲し――」

「あ、まだ動いちゃダメですよテスカ様。ちゃんと時間まで案山子になってくだしゃい」

「……はい」


 案山子に扮したテスカトレ様が畑から声をかけてきたけど、私はそれをバッサリと切り捨てた。夕方までは私の畑で案山子をする約束なのだ。


 畑にあるパラソルの下で私達は優雅にお茶会を楽しむ。

 それに反してテスカトレ様は私達から少し離れた畑に一人でぼぅっと立っていた。


 テスカトレ様が何をしているのかと言えば罰を受けている真っ最中。

 実はあれからテスカトレ様はクロノス様という一番偉い神様からこっぴどくお叱りを受けたらしい。

 そして叱られた後に言い渡された罰が、ここで一日一時間。一ヶ月案山子をやること。らしいです。


 何故私の畑で? とはフェルトス様も疑問に思ったようで一応異議を申し立てていたけど、最終的には合意に至ったようで今に至ります。


 なんでもテスカトレ様はフェルトス様同様引き篭もり体質らしい。

 だから家の外、しかも苦手なお昼の時間帯にすることで苦痛を与えることが一つめの罰なのだとか。


 二つ目の罰が屈辱と羞恥を与えること、らしい。

 誰もいない場所に行かせても意味がない。他人の視線があること。それが大事だとかなんとか。

 特にカイルとシドーの視線が良いらしい。自分が下に見ている存在からの視線は堪えるだろうと。


 ついでに言うと、今日は好きな人(シンヴィー様)の視線も加わって「精神的にクるものがある……」とこぼしていたのを私は聞きました。


 そもそも私の畑に案山子はないし、案山子を置く意味もない。

 クロノス様もそれは承知の上であえての案山子刑を決定したようだ。


「……つらい」

「自業自得なんじゃないの?」

「そう、だな。うぅ」


 シンヴィー様からのツッコミにそっと涙をこぼすテスカトレ様を心の中で応援する。あと二週間頑張れ!


「背中が曲がっていますよテスカカシ様」

「そうだぞ、しっかり案山子になれよテスカカシ様」

「ぐぅ……」


 カイルとシドーの冷たい視線と言葉を受けながらテスカトレ様が拳を握った。


 この刑罰中のテスカトレ様は誰から何をされても受け入れることになっている。報復も禁止。


 だからなのか、ここぞとばかりにカイルとシドーが毎回のようにテスカトレ様に嫌味を言いに行くんですよね。シドーに至ってはちょっと手も出てる。

 でもそれで恨みを解消しているのか、最近は随分と嫌味もマイルドに変わってきているので良い傾向でしょう。


 ちなみにフェルトス様とガルラさんも時々やってきてはテスカトレ様を弄って帰っていく。もう一種のコンテンツと化していますよ。ははっ。


 冥界組から嫌われすぎてちょっと可哀想になってきた。でも自業自得なので私には何もできない。

 その代わり終わった後は労いのお茶とお菓子を出すようにはしてる。


 テスカトレ様もこの二週間でセシリア様、風神親子、ユリウス様、ロイじいちゃん。とここへ来た人達みんなにこの案山子姿を見られて弄られているので十分罰になっていると思う。いや、思いたい。


 髪に混じってわかりづらいけどテスカトレ様にもラビビ耳がついている。

 そのお耳が憐れにもぷるぷる震える様を眺めている毎日です。


「むー」

「どうかしたトマトちゃん?」

「はっ。いや、何でもにゃいでしゅ」

「そう?」

「あい!」

「ならいいけど」


 そういってシンヴィー様がタマゴサンドへかぶりつく。

 私は曖昧に笑いながらその姿を見ていた。


 実は昨日。私は改めて領主様や町のみんなへ謝罪に行ってきたんですよね。手土産のお酒も持参して。

 で、みなさん良い人なので謝罪自体はすぐに終わったんですよ。

 だけどその時に変な噂を耳にしてしまったのです。


 その噂というのが『月神様はメイ様に頭が上がらないらしい』というもの。『さすが我らのメイ様』やら『メイ様は高位神をも従えてしまう存在』やら『メイ様最高最強幼女』などなどですかね。


 最後に至っては何が最高最強なのか意味もわかりませんし。


 町も人も完全に元通りに戻ったのは事件の日に私がテスカトレ様を叱ったからだ。

 私に嫌われたくないテスカトレ様が癒しの奇跡を起こしてくれたんだ。


 みたいな話から始まって、たくさん尾鰭が付いた結果今の噂話になったらしい。

 微妙に合ってるから否定しずらいけど、私は別にテスカトレ様を従えてないので困ったものです。


 一応フェルトス様に報告もしておきましたが「放っておけ」と一言言って終わりです。本当に良いんでしょうかねそれで。


 町のみんなからの視線もいつもと違ってキラキラしたものが多くて少しむず痒かった。

 そもそもテスカトレ様が変な事しなければ起こらなかった事件だし、自作自演みたいでなんとも言えない気分です。


 そうやって町で私の株がひっそりと上がっているのとは裏腹に、テスカトレ様の株は駄々下りしている様子も見てとれた。

 ここでも嫌われ始めてて可哀想――いや、これは正当な評価だからいいか。気にしない気にしない。評価は御自分で取り戻してもらう方向でお願いします。


「メイちゃん、そろそろ時間じゃな――ゲフン。時間なのではないか?」

「たしかに。じゃあ今日は終わりですね、お疲れ様です!」

「ふぅ。疲れた」


 シンヴィー様がいるからか猫を被るテスカトレ様にちょっと笑ってしまう。

 もう本性は見られちゃったしバレてるんだから今更な気もするけど。好きな人の前ではカッコつけたい心理なのでしょうか。


「ふへへっ」

「トマトちゃんが笑ってる。可愛い」

「え、しょんな。照れましゅ……へへっ。シンヴィーしゃまも可愛いでしゅよ」

「ふふっ。ありがとう」

「メイちゃんの言う通り。し、シンヴィーは世界で一番可愛い、と我は思ってるぞ?」

「そういうの良いから。入ってこないで」

「……はい」


 バッサリと切り捨てられたテスカトレ様がしゅんと肩を落とした。可哀想すぎる、見ていられない。

 しかも後ろでカイルとシドーの二人がニヤニヤ笑っているのも見てしまった。哀れすぎる。


 心の中で溢れる涙を拭いながら私はテスカトレ様へトマトジュースとお菓子を差し出した。


「テスカ様。どんまい」

「ありがとぅ」

「えへへ」


 フラれてもめげないテスカトレ様を見守りつつ、私達のお茶会の時間は過ぎていく。

 途中でフェルトス様とガルラさんも参加して賑やかな会となった。


 少しだけ変化したけど、私の日常が戻ってきた。

 こうしてみんなでまったりのんびり楽しく過ごせることがやっぱり好きだな。とみんなの顔を見ながら再確認した夏のとある日だった。

これにて湖上の月城編は終わりです。少しでも面白かったと思っていただけたら、いいねボタンだけでもぽちっと押していただけると励みになります。


それと以前のアンケート結果に甘え、今章は他視点をかなり入れてしまいました。

場面がころころ変わって読みづらい、分かりづらいなどございましたら大変申し訳ございませんでした。作者の力量不足です…お詫び申し上げます。

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― 新着の感想 ―
湖上の月城編、ありがとうございました^^ 毎日、更新時間前に待機してお待ちしておりました笑 ガルラさんとフェルトス様の出会いについても、機会があれば知りたいと思っていたので知ることができて良かったで…
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