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湖上の月城編1 クロノスティール十二神

大変お待たせいたしました。今日から新章、湖上の月城編全23話の投稿を始めます。楽しんでいただけたら幸いです。

※注意:この新章ではメインの視点主がメイからフェルトスに変わります。

なので今回のタイトル構成では通常タイトル=フェルトス視点となり、メイ視点は「とある幼女の独り言」と表記させていただきます。

 太陽神イルミナス。

 海神ユリウス。

 創造神クレアトーレ。

 破壊神ディストール。

 火神イグアス。

 水神ネロア。

 地神セシリア。

 風神トラロトル。

 星神シンヴィー。

 月神テスカトレ。

 鍛冶神デュロイケンフィーストス。

 そしてオレ。冥界神フェルトス。


 以上、十二柱。我らはクロノスティール十二神(じゅうにしん)と呼ばれ、神の中でも高位の存在として知られている。


 オレ達十二柱の間に上下は存在しない。しかし、オレ達十二柱の上には存在している。


 最高神。時空を司る神クロノス・アイビス様。

 オレ達が忠義を尽くすべき御方。

 クロノス様はこの世界をお創りになった方。神々の祖である偉大なる神。


 クロノスティール十二神とは、最高神クロノス様から世界を見守る役を直々に与えられた神の集まりなのだ。


 そんな我らクロノスティール十二神とクロノス様。合わせて十三柱が会する場というものが定期的に設けられる。


 内容としては定期報告であったり、何かしらの会議であったり。ただの宴であったり。

 名目上としては『十二神会議』などと大層な名が付いているが、その実はただの宴であることも多い。


 何故なら、何か議題があったとしても早々に終了し、そのまま宴へと移行することも少なくはないからだ。


『十三神会議』ではなく『十二神会議』である理由としては、クロノス様自身が「その方が語呂もいいでしょ」と仰ったから。

 他にも「みんなの方が数も多いし、十二神から取った方が良い感じじゃん」とも仰っていた。


 クロノス様が決められたことに異論を唱えるつもりはない。

 だがクロノス様が数に入っていない名称は、少々どうかと思うのも事実ではある。

 決して異論を唱えているわけではないがな。


 ともかく。十二神会議では基本的にクロノス様が我ら十二柱を招集する。

 我らはその招集に応じることも、拒むことも自由とされている。もちろん拒むのは重要な案件以外という注釈もつくが。


 そして現在。オレはクロノス様の十二神会議招集に応え時空神殿へと来ていた。


 時空神殿とはクロノス様が所有する白を基調とした荘厳な神殿。

 天界の一画に存在し、高位の神、及びその神に属するもの。或いはクロノス様が許可を出したもののみが立ち入りを許される神聖な場――というのが、一般的な神がイメージする時空神殿である。


 オレ達高位神にとっては、定期的にクロノス様によって主催される宴の場。というイメージの方が強い。


 無論、ここが神聖な場であるということに異論はない。だが真面目な場としてよりも宴の場として使用されることの方が多いのだから、そう感じても致し方あるまい。


 故にオレは今までここへ来ること自体について、何も思うところはなかった。


 しかし今は違う。

 今回の招集に関してのみで言えば、少しばかり、いやかなり気が重いというのが本音である。


「……」


 神殿内にある一室。

 高い天井には煌々と輝く明かりの数々。オレや暗闇に生きるものにとっては少しばかり明るすぎるとも思える照明だが、我慢できない程ではない。


 広い部屋の中央には円卓が置かれ十三の席が用意されている。席次に決まりはないのでオレは手直な椅子へと腰を下ろした。

 そして一緒に来ていた男がすぐさま隣の席へ手を伸ばし椅子を引く。


「んじゃ俺はフェルの隣」


 そういってトラロトルがオレの右隣へ座った。

 今回の会議……とは直接関係もないが、諸事情により今回だけはトラロトルと共に来ていたのだ。


 勢いよく椅子へと腰を下ろしたトラロトルを視界の端に納めつつ、オレは小さく息を吐いた。


「……はぁ」

「お、なんだ珍しい。フェルでも緊張とかするんだな」


 ため息を耳聡く聞きつけたトラトロルがニヤケた面で此方を見てくる。

 いつもなら軽く流せるところだが、今のオレにはその余裕もなくただ眉をしかめた。

 さらにオレは睨みつける様にトラロトルへと視線を向ける。


「黙れトラロトル。自分でも自覚していることを指摘されるとイラつく」

「フハハ。そりゃ悪かったな」


 隣から発せられるデカい笑い声にイラつきが増す。


「とはいえ、だ。今回の会議の結果はわかりきってるんだ。そんなに緊張することもないだろうに」

「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?」

「いいだろ別に。まだ始まるには時間もあるしよ。暇つぶしだよ暇つぶし」

「……」


 確かにトラロトルの言う通り、現在この場にはオレとコイツの二人のみ。他の連中はまだ来ていなかった。


 原因は明白だ。いつもより早く家を出ることになった。それだけ。


 普段であればオレが到着するのは参加者がほぼ揃ったであろう時間帯。それが今回は一番乗り。


 無駄に早く着いてしまったことにため息をもらす。


「ぶっちゃけ今回はほぼ消化試合みたいなもんだろ? お前を抜いても俺達の約半分は賛成側。残りのやつらにしても明確に反対してくるやつなんかディストールとイグアスくらいだろうし」

「……だろうな。オレもそう思っている」


 無視したところで喋り続けるトラロトルに無駄だと悟ったオレは、嫌々ながらも相手をすることに決めた。

 会話をすることでオレの気も紛れるかもしれないからだ。


「だろう。それにお前が用意した証明だってある。ちゃんと結果も出してんだからそんな心配すんなって」

「それもわかっている」

「んー。わかってんなら、他に何が心配なんだ?」

「…………クロノス様だ」

「あー」


 オレの答えにトラロトルが理解を示す。


 正直に言えばディストールとイグアスが反対しようが構わない。

 十二神会議の結果は多数決で決まるからだ。


 今回はすでにほぼ半数の理解を得ている。結果が見えているも同義。

 残りの連中も姉上と仲が良い女神連中は賛成に回る可能性が高い。だから何も心配はいらない。


 しかし、だ。一つ。たった一つだけ。それが適応されない場合もある。


 それはクロノス様お一人の意見が通される場合。


 オレ達の結論の是非がどうあれ。クロノス様が是といえば是。非と言えば非になる可能性がある。


 勿論あの方は理不尽な方でもなければ、オレ達の意思を限りなく尊重してくださる優しい方だ。故に大抵のことではそのような事にはなり得ない。

 なり得ないのだが、それも絶対ではない。オレはそれが恐ろしいのだ。


 クロノス様は大抵のことは笑って許してくださる。好きにしろと応援もしてくださる。


 それでも一つだけ。あの方が決めた最低限の基準を守れない、満たせない場合のみ、最高神の一声がかかってしまうのだ。


 そして今回我々が集められた理由でもあり、議題内容がそのルールに抵触している可能性がある。


 故にいくら多数決の結果がオレにとって良いものだったとしても、クロノス様一人の反対意見で覆される可能性があるのだ。


「……はぁ」

「んー。まぁ確かに今回ばっかりはな。なんせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんて今までなかった事だ。いくらクロノス様でもお許しになるか微妙だもんな」

「今までは幼子の戯言として誤魔化すことも出来ただろうが、流石にもう無理がある」


 そうだ。まさに今回の議題はこれなのだ。

 メイを正式に、名実共に、冥界神(オレ)の娘として迎え入れること。

 そして神の子としての神格を与えること。


 この場はこれらを議論する場である。


 今現在でもメイは神格を有している。

 だがそれは極めて小さなもの。そして多数の人間から信仰さえ集められれば得られてしまう程度の小規模なものでしかない。

 世界に対する影響力としては微々たるもの。


 神の子は大人になれば新たな神としてこの世界へ影響を与える存在となる。勿論、それに伴い様々な権能すらも得られる。


 例えばトラロトルの子。アレもいずれは新たな風の神の一柱となるだろう。トラロトルが世代交代を考えているのならば次代のクロノスティールとしての風神として高位神にもなれる。


 しかしメイは違う。


 現在の立場のまま大人になったとて、メイは新たな冥界の神の一柱とはならない。なれない。

 精々が、なり損ない程度の半端な力しか持てないだろう。


 仮にオレが隠居し世代交代を考えたとしても、メイを次代の冥界神候補に上げられないのだ。


 オレとしてもそのような事態は不本意である。


 メイ(アイツ)が冥界に落ちて来たばかりの頃のオレならいざ知らず、今のオレは心の底からメイを自分の娘と考えているからだ。


 この短期間でこうもオレの認識が変わるとは、当時のオレに言っても信じなかっただろう。

 もしかしたらメイが人の心に入りこむのが異様に上手いだけなのかも知れんが、今更そんなことはどうだっていい。

 いずれはオレからクロノス様へ、正式に許しを乞うつもりがあったのは事実。


 とはいえ、それはもっと先の予定としていた。


 メイが心身共にそれなりの成長を終えてから、と考えていたのだ。今のタイミングでは少々早すぎる。


 なので間に合わせではあるが、少しでも判断材料の足しになればとオレは行動へ移すことにした。

 先日起きた一件。霊魂を導くという仕事をメイへ初めて与えてみたのだ。

 途中不安もあったが、メイはあの幼さで見事仕事を最後までやり遂げた。


 これで冥界神の娘としての素質があると、多少なりとも主張ができる。そう安心したものだ。


 勿論、以前からクロノス様もメイの存在、及び扱いには気が付いておられた。

 だというのに何も言ってこられなかったのは、(ひとえ)にあの方が口を出す程の出来事ではなかったから。

 仮にそうだとしても詮無きこととし見逃されていたから。それだけだ。


 なのに今回このような場が設けられたのは口を出さざるを得なくなったから。見逃すには事が大きくなったから、なのだろう。


 理由はわかっている。オレ自身の認識の変化だ。


 メイを正式に自身の娘として受け入れた。受け入れてしまったのだ、愛しさのあまり。

 さらに他の高位神もそれを肯定し、受け入れ、オレの娘として扱った。


 それゆえの今回の招集である。


「せめてメイが初めからこの世界の人間だったのならば、まだオレの気も楽だったのだがな」

「たしかにそれはあるかもな。この世界出身ならクロノス様の子でもあるわけで、ただの落とし子よりも許可は取りやすかっただろうし。それに我が子に迎える……まではいかんとしても、元人間を天界や自身の領域に召し抱えることも、血を与え眷属にすることも、俺達は普通にやってることだしなぁ」

「そうだな。オレもガルラの時には何もお咎めはなかった」

「あ? あぁ、そういやガルラも元人間だっけ。忘れてたわ」

「あぁ」


 随分と昔にはなるがガルラも元は人間だった。

 メイのよく行くあの町が出身地のはずだ。思い返せばアイツもあの時から随分と変わったといえる。


「いやぁ、あん時はびっくりしたぞ。領域眷属しか持たなかったお前が血の眷属を増やすなんて、ってよ」

「ただの気まぐれだ」

「だとしても、だろ。それに、あん時だってやたらユーリとイルミナスの二人が喜んでたからなぁ。うんうん」

「……」

「ふはっ、照れんなよ!」

「照れてはいない」

「くくっ」

「笑うな」

「わりぃ……ふっ、はは」

「……はぁ」


 昔を思い出し笑っているのだろう。トラロトルの小さくも耳障りな笑い声がオレ達しかいない部屋に響く。


「あらあらまぁまぁ。なんだか随分と楽しそうな笑い声が聞こえるわねぇ。それにしては珍しい組み合わせだけれど」


 そんな時、不意に部屋の扉が開き新たな参加者が入室してきた。


「ん? おぉ、ネロアか。久しいな」

「えぇ、お久しぶりトラちゃん。フェルちゃんも」

「あぁ」

「ふふっ。相変わらずフェルちゃんはそっけないのねぇ。だめよ、お父さんがそんな感じじゃ。娘ちゃんが真似しちゃうんじゃないかしら?」

「メイはそのようなことはしない。心配無用だ」

「……あらまぁ。セシリア(リーア)から聞いてはいたけど、本当に変わったのねぇ。ふふふ」

「やめろ、撫でようとするな」

「あら、残念」


 一瞬目を丸くしたネロアはすぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべ、その後オレの頭へ手を伸ばす。

 その手を軽く払いのけ睨みつけるも、大した効果はなかったのかネロアはくすくすと楽しそうに笑い続けた。

 

 何故女神連中はすぐに人の頭を撫でようと手を伸ばすのか。心底理解不能だ。


「……何を笑っているトラロトル」

「いんや別に。『今日も弟属性大爆発だなぁ』なんて思ってないぞ」

「なんだそれは意味がわからん」

「くくっ」


 ニヤニヤ笑うトラロトルに首を傾げる。

 だが、言葉尻からなんとなくではあるが馬鹿にされている気配は感じとれた。


「ねぇフェルちゃん。せっかくだからお隣、いいかしら?」

「好きにしろ」

「ありがとぉ。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」


 水の神ネロアは常に穏やかな笑みを携えた女神だ。

 鮮やかな青い髪と目、青白い肌が特徴である。

 クロノスティールの女神の中では一番まともな部類の女だとオレは認識している。


「ところで二人とも今日は随分と早いのねぇ。フェルちゃんはなんとなくわかるけれど、トラちゃんまでいるなんて珍しい」


 オレとトラロトルを順に視界へ収めたネロアは首を傾げ不思議そうな声を発する。

 オレもトラロトルも遅刻はしないが集合時間ギリギリに来ることは珍しくない。

 反対にこのように早い時間に来ることは珍しい。ネロアが疑問に思うのも当然である。


「ん、あぁ。今回は俺ら二人一緒に来たからな」

「あらまぁ。一緒に? 本当に珍しいわねぇ」

「フェルのところへ息子を送り届けたついでだ。わざわざ別で来る必要もないだろう?」

「あぁなるほど。そういうことなのね。……あら? でもギルちゃんのお迎えはどうするの? 確か今回の解散予定は早くても日を跨ぐのではなくて? 大丈夫なの?」

「おぅ。今回ギルはメイのところで世話になる予定だからな。そうだろ、フェル」


 オレを挟んで会話をしていた二人の視線が向けられる。


「……不本意ではあるが、そうだ」


 軽く頷き同意をすると、ネロアの顔が喜色に満ちた。


「あらあらまぁまぁ! 子供同士仲良しさんでいいわねぇ。素敵!」

「せっかくだ。今度お前の子とも会わせてやれ。メイとならすぐ仲良くなれるだろう」

「あら、いいの? ならうちの子もお友達に混ぜてもらおうかしら? いい? フェルちゃん?」

「…………メイ(本人)に聞いてからな」

「えぇ、もちろん。良いお返事を期待してるわね。ふふっ」

「……はぁ」


 言われて思い出す。ネロア(コイツ)にも子がいたのだった、と。


 メイに新しく友が増えること。それ自体は良いことだと思うが、少しばかり寂しいと感じてしまうのは何故だろうか。

 とはいえ、確かネロアの子は女だったはず。そこはトラロトルの子と違い余計な心配はしなくても済みそうだ。


 現状は目の前の会議を無事終えることが先決だがな。

 無事に終わってくれれば良いのだが……。


 一抹の不安がオレの心に降りかかった。

明日からは朝、昼、夜で1話づつ。2~22話までは1日計3話投稿していく予定です。

それぞれ朝7時10分、昼12時10分、夜18時10分に投稿予約をしました。

最後の23話だけは朝昼投稿無しで夜18時10分に投稿予約しています。


長くなりましたが、お付き合いいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
わぁ~♪一日3話の更新ですか!大奮発ですねー 愉しみにしてまーす(⌒∇⌒)
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