番外編 お花見
改めまして。前回の相談に乗ってくださった方々ありがとうございました。
コメントをくださったお二人もありがとうございます。とても嬉しかったとともに安心しました。
そこで今回はお礼の気持ちを込めてフェルトス視点のお話を書いてみました。
ただ、欲望を汲もうと惚気話に挑戦し、失敗した感が強く…ただのセシリアとの会話に…。不甲斐ない作者で申し訳ありません。
それでもよろしければ楽しんでいってください。
「みてみてフェル様ー! いっぱい取れましたー!」
「あぁ。すごいな」
「ふへへ!」
己のスカートを広げ、舞い散る薄紅の花弁を集めているメイ。
花吹雪が吹き荒ぶ中、花に塗れながら楽しげに笑い声をあげている。
ここは天界にあるセシリアの領域。
メイがオレとも花見がしたいと言い出したので、わざわざ天界まで足を運んできたのだ。
そしてここにいるのはオレとメイのみ。ガルラ達が「たまには二人っきりで楽しんでこい」と送り出したゆえだ。
「ふふっ」
そんな時。隣から聞こえた笑い声に視線を向ける。そこには楽しげに笑うセシリアの姿。
急な頼みを聞いてくれたことについては感謝しているが、オレを見るその視線が少々気に食わない。
花を見るのならば。と何も考えずセシリアのところへ連れてきたのは間違いだったか?
「……何を笑っている」
「あんた、さっきまですっごく幸せそうな顔してたわよ」
「は?」
「自覚ないみたいだから教えてあげるけど、おチビちゃんを見つめるあんたの横顔。今までで一番優しい顔してたわよ」
「……そうか」
「そうよ。いつもの仏頂面が嘘みたいにね」
「……」
「そう、それそれ」
オレの顔を指差しセシリアはまたも笑う。何がそんなに面白いのか。女の感性はよくわからん。
だが考えてもみればメイもよくわからん所で笑っていることが多いな。
メイが笑っているのは愛らしいと思うのに、何故コイツの笑顔は気に障るのだろうか。不思議だ。
「フェル様ー! リア様ー!」
「ん?」
スカートを広げたまま、メイがこちらに向かって走ってくる。
何かを見つけたのかその顔には更なる喜色を浮かべていたが、個人的には転んでしまわないかの方が気がかりだ。
しかしオレのそんな心配は杞憂となり、メイは無事にオレ達のもとへと辿り着く。
そして花弁を溜めたスカートを片手で纏め持ち、その中から一つの花をオレ達へと差し出してきた。
「ふへへー。これ見てくだしゃー!」
そう言って差し出してきたのはそこらにある大量の花弁とは違い、元の花の形を保ったものだった。
「あら、綺麗じゃない。良かったわね、おチビちゃん」
「あい! にぇへへ。これは綺麗なので、みんなへのお土産にしましゅ!」
「土産に? それならばいっそ枝ごと持ち帰れ――」
「わー! 駄目でしゅよフェルしゃま! それはやっちゃダメなやつでしゅから!」
「そうよフェル。あんたサイテーね。ねー、おチビちゃん」
「ねー、リア様」
「ぐっ……」
くそっ。何が悪いのかわからん。
そんな小さな花一つ持ち帰るよりかは、花付きの枝を持って帰った方が豪勢だろうに。
何もそこらにある木をまるまる一本持ち帰らせろと言っているわけではないのだぞ。
セシリアからすれば枝の一つや二つ安い物だろうに。何故このような扱いをされなければいけないのか。
そんなオレの内心などつゆ知らず、目の前の女二人は揃ってオレを責める視線を向けてくる。
これはオレが悪いのだろうか。
「というか、おチビちゃんサクラ塗れね。髪もだけど、他にもたっくさんついてるわよ」
「はぇ! ほんとでしゅか?」
「ふふっ。取ってあげるからこっちへいらっしゃい」
「あーい!」
何も言い返さないオレを無視し、セシリアがオレのメイを奪い頭の花弁を丁寧に取り除いていく。
メイが花弁塗れなのはオレも気付いていた。
だからむしろそれはオレがやろうとしていた事なのだが、一手遅れたせいでセシリアに取られてしまった。
少しだけ腹が立つな。
「う? フェル様、どうしました?」
オレの変化に気付いたのか、メイがこちらを不思議そうに見上げる。
だが、素直に心の内を打ち明けるのも少々癇に障るゆえ適当に誤魔化した。
「んー? あ、わかった。フェル様お腹空いたんでしょー! えへへ、もうお弁当食べますか?」
「……そうだな」
「わかりました! じゃあ準備しますね!」
「あぁ、頼む」
「はーい! ……あ。花びらどうしよう」
「あら。それも持って帰るの?」
「あい! とってもきれーなので!」
「ふふっ。気に入ってもらえてよかったわ。それじゃあ何か入れ物を用意してあげるから、それに入れて持って帰りなさいな」
「わー、ほんとですかリア様! ありがとーございます!」
「どういたしまして。サクヤ、お願い」
「かしこまりました。少々お待ちください」
後ろで待機していたセシリアの眷属がどこかへ行く。
恐らく先程セシリアが言っていた入れ物を持ってくるつもりなのだろう。
「ふふふ」
「なんだ?」
「う? リア様?」
「ふっ、あはは。ごめんなさい。フェルがちょっと」
「オレがなんだ?」
「いいのいいの。気にしないで」
「意味がわからん」
「んー?」
何がおかしいのかセシリアがくすくすと笑う。
そしてそのまま笑い声が大きくなり腹を抱えて笑い始めた。
「もう、二人ともそっくりじゃない! さすが親子ね」
「何がだ?」
「何がですかー?」
「あはははは」
セシリアの言う意味がわからずメイと顔を見合わせる。
メイも意味がわかっていないのだろう。不思議そうに首を傾げていた。
その後。メイの集めた花弁も回収し、オレ達は持ってきた弁当を喰った。
腹が満たされたからか、先程抱いていた不愉快な気持ちはもうない。
その事に加え、膝の上にある温かさもオレの機嫌が直った原因だろう。
「寝たの?」
「あぁ」
オレの膝の上で眠る娘の頭を撫でながら答える。
「あんたもそんな風に笑うようになったのねぇ」
「……悪いか?」
「ふふっ。まさか。逆よ逆。良いことだと思ったの」
「そうか」
「えぇ、そうよ。本当に、ね」
「……ふん」
「あはは」
オレを見るセシリアが何故か姉上と重なり、誤魔化すように視線を逸らす。
「それにしても……おチビちゃん、かわいいわねぇ。見てて飽きないわ」
「……やらんぞ」
メイが愛らしいという事には同意するが、それで奪われたらたまらん。
そう考えたオレは、とっさにメイを翼で隠すように動いてしまった。
「嘘。あんたまだそんな心配してたの?」
「……」
「もぅ、呆れた。あんたもう少し自分に自信持ちなさいよ」
「…………持っている」
「声ちっさ。でも、まぁいいわ。確実に良い方に変わってきてるものね。これもおチビちゃんのおかげかしら。このまま根暗蝙蝠も卒業しちゃいなさいよ」
「……」
「だーいじょうぶよ。あんたの愛は重いけど、その重さをおチビちゃんは受け入れてくれてるもの。それに。ガルラもそうだけど、おチビちゃんだってあんたの事をまっすぐ愛してくれてるんだから。側から見てても相思相愛よあんた達。だから安心なさい」
「……あぁ」
「ふふっ。良い子」
頭に伸びてきたセシリアの手を払う。
時々コイツはオレを童扱いするが、心底辞めて欲しいものだ。オレは大人なのだ。
メイと違って頭を撫でられても嬉しいとも思わん。
「やめろ」
「あら。そこは素直じゃないのね。可愛くないわ」
「ふん」
セシリアから視線を逸らし、代わりに腹にある温もりの持ち主へと向ける。
オレに抱きつくようにして眠るメイは相も変わらず幸せそうで、その顔を見ているだけで心が安らぐ気がしてくる。
「ねぇ、フェル」
「なんだ?」
「あんたいま幸せ?」
その質問の意図はわからん。わからんが――。
「あぁ……そうだな」
「そぅ」
メイが娘になってくれて、オレは幸せだ。
オマケ
「おチビちゃん。これお土産にあげるわ」
「う? ……はわわわわ!」
そう言ってセシリアはサクラの花が付いた枝をメイへと差し出す。
しかしメイはそれを受け取らず何故か慌てふためいている。
「リ、リアしゃま!? これ、折っちゃったんでしゅか!」
「まさか。私が創ったものだから心配しなくても大丈夫よ。はい、どうぞ」
「はぇ……ありがとごじゃましゅ」
そこでようやくメイは枝を受け取り、まじまじと見つめている。
「リアしゃまこんな事もできるんでしゅね……しゅご」
「でしょう! なんといっても私は地の神。これくらいは造作もないのよ」
「おおお。さすがリアしゃまでしゅ! しゅごい!」
ここでようやく状況が飲み込めたのかメイは瞳をキラキラさせながらセシリアを褒める。
オレからすればただの花がついた枝でしかないが、メイはまるで宝物でも貰ったかのような反応だ。
そしてオレはメイのその反応が見たくて先刻土産にと提案をしたのだがな。
またセシリアに良いところを取られ面白くない。
メイはセシリアの力を知らなかったのだから良い。
本当に枝を折って持ち帰ると思ったからこその反応だろう。オレとしてはそれでも問題はないがな。些細な違いでしかない。
だが、セシリアは別だ。
オレがセシリアが創った枝を土産に、という意味で言ったのをわかった上でメイに同調したのだからな。
コイツは時々本当に意地が悪い。オレをからかっているということがわかっているからこそ腹も立つというものだ。
「うふふ。もぉー。どこかの誰かさんと違っておチビちゃんは素直で可愛いんだからー。大好き」
「わたしもリアしゃまだーいしゅきでしゅ!」
メイの純粋な賞賛が嬉しかったのだろう。セシリアはメイを抱きしめ、頭を撫でている。
そしてメイもそれを受け入れ、愛情を返している。
「…………」
やはり面白くない。そんな気持ちが強くなる。
しかし、オレ自身メイへの説明を放棄してしまったのも原因の一つであるのだから、この結果も受け入れるべきか。
「わぁこわい。そんなに睨まないでよ。ちょっとした冗談でしょう」
「……」
メイから離れ、オレの側へ来たセシリアが呆れたように呟く。
これがオレの自業自得の結果とわかってはいるが、それとこれとは別だ。セシリアを睨むのは止められなかった。
そんなオレ達には目もくれず、メイは貰った枝へ興味が吸い込まれている。
「これに懲りたらもっと自分の言葉足らずを意識しなさいな」
「……わかっている」
「素直でよろしい」
「やめろ」
再度頭に伸びてきた手を避けるように頭を動かせば、セシリアは楽しそうに笑う。
そして「あら残念」と、とても残念に思っているとは思えない声音を返してきた。
やはり……面白くない。
「フェル様! みてみて! リア様にもらいました!」
「あぁ。よかったな」
「あい!」
だが、まぁ。メイのこの笑顔が見れたので全てはどうでも良い。
やはりメイには笑顔が良く似合う。
世界で一番愛しい娘だ。
フェルトス視点とても難しい…。
とりあえず気を取り直して新章の構想頑張ります。




