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追憶と花束編2 相談

 絨毯を飛ばし、早々にセラフィトの町へ到着した私達は、決めていた通りに真っ直ぐ領主様のお屋敷へとやってきていた。


「はぇ……サーカスキャラバン、ですかぁ」

「はい。そのキャラバンの団長を務める男が是非ともメイ様にお目通りを、と願い出ておりまして。いかがいたしましょうか」


 そこで応接室に通された私達が領主様に聞いた話を纏めるとこうだ。


 次回の冥界祭に合わせて砂の国からサーカスキャラバンがやってくる。

 このサーカスキャラバン。名前をグレンカムア団というらしいのだが、これがなかなかの有名どころなんだとか。いろいろな国や地域で興行をして回っている一団らしい。


 そのグレンカムア団の次の興行先がこの町の予定だということで、そこの団長さんがその許可取りと挨拶に領主様のもとへと先日やってきたそうだ。


 その際に、是非とも私にも挨拶をと希望している。とのこと。


 どうやら私がよくこの町へやって来るということを噂か何かで知ったようですね。


「むー」


 領主様からそんなお話を聞いた私は腕を組んで考える。


 サーカスキャラバンとは、様々なパフォーマンスを見せてくれるショーをメインに、珍しい品物なんかも販売してくれる隊商さんだと教えてもらった。

 メインの大きなテントでサーカスショーを。その周囲で商売を。みたいな感じらしい。


 正直言って……すごく魅力的だ。見たいか見たくないかと聞かれれば、すごく見たい。

 サーカスという単語も。キャラバンという単語も。どちらもとても惹かれる。それが組み合わさっているんだから、興味を惹かないはずがないってものでしょう。


「むむむー」


 ただ見に行くだけでいいというなら喜んで行く。むしろ自主的に行くし、全力で楽しみます。


 だけど、そこに偉い人との挨拶が入るとなると話が別だ。改まった場というのがまだまだ苦手なんですよね、私。礼儀作法とか勉強してないし。


 このセラフィトの町のみんなならまだいい。私に対して甘い所が多分にあるので、やらかしても温かい目を向けてくれるはずだ。

 でも他所(よそ)から来た人相手となると、下手なことをすればフェルトス様の名前に傷が付いちゃうかもしれない。

 それを考えるとどうにも一歩踏み出せず……悩ましいものです。


「もし、メイ様のお気が向かれないのならば、ですが。キャラバンの団長には私から断りを入れます故、お気軽にお申し付けください」

「うーん……」


 私があまりにも悩むからか、領主様が気を利かせてそんな助言をくれた。


 正直。挨拶しないという選択肢も私の立場ではアリといえばアリだと思う。『挨拶はしない。でもサーカスショーとキャラバンは見たいから見に行く』それを言ってもまかり通ってしまう立場だから。


 だけど、個人的にそれはしたくないんですよね。不義理だと思うし、印象も悪い気がするから。


 だから、私の取る選択としては『挨拶もしないし、サーカスキャラバンにも行かない』もしくは『挨拶もするし、サーカスキャラバンも楽しむ』の二択しかない。


 領主様によれば冥界祭と同時期開催にする予定らしいので、挨拶に行かないなら今回の冥界祭は申し訳ないけど初の欠席ということにもなる可能性がある。


 だって、行けば絶対に心惹かれてしまう自信がありますからね。誘惑には勝てません……私は自分が欲望に弱いということを知ってるんです。えっへん!


 なんだか虚しくなってきたな。


 悩んでばかりで領主様の時間を無駄に浪費させるのも申し訳なくなってきたところだし、ここは一度お(いとま)して家でゆっくり考え……。


 ん? あれ、待てよ……。そうか。勝手がまかり通る立場ってことはつまり――。


「うん、決めました……。その謁見話。受けてもらって構いません」

「よろしいので?」

「はい!」


 領主様からの確認に笑顔で答える。


 よく考えたら私は冥界神であるフェルトス様の娘なんだから、人間界の常識的には特別枠にいる。

 そのことは前にあった窃盗犯のおじさんの件で、実体験とともに本当の意味でキチンと理解しましたからね。いやぁ、あの時は大変でした。


 とにかく。私はそういう存在になっちゃってるんだから、この世界の人間社会での礼儀作法やマナーが多少できてなくても許されちゃうはず。

 実際。私が気付いてないだけで、今まで許されてきたことなんてたくさんあるんだろうし。


 とはいえだ。できないよりかはできた方が良いのは確実だけどね。

 知っていてやらないのと、知らないからできないの間には天と地程の差があるわけだし。

 

 もちろん下手なことをしてフェルトス様の名前に傷を付けちゃったり、舐められるようなことがあってはならないのは当然。


 なので、マナーだなんだ気にしすぎて下手(したて)に出ちゃう可能性があるのは宜しくない。

 なんならちょっと不遜なくらいが丁度いいのかもしれない。


 もうすでに私のホームにもなったセラフィトの町の人達相手には今更感はあるけど。

 だとしても、これからは謁見話(こういう機会)が増える可能性だってある。

 それなら他所の人達相手の対応だって本格的に気にかけていかないと。


 そう考えれば今回はいい機会だ。

 失敗しても気にしない。それがどうした、私は冥界神の娘だぞ――の気持ちでいきましょう。

 個人的にはまだまだ庶民の気持ちが強いので、自己認識との擦り合わせが厳しいですが頑張ります。


 こういうのは過去にも色々考えたけど、考えるだけ時間の無駄かもしれない。

 なら、もういっそのこと良いとこ取りだけして生きていこうと思います!


 この世界に落ちてきたばかりの頃と比べるとちょっとはマシになったとはいえ、染み付いた庶民感情はなかなか消えないのです。


 とりあえず今回は心にフェルトス様を宿して乗り切ろうと思います。くはははは!

 フェルトス様はこんな笑い方しないけど……まぁいいや。イマジナリーフェルトス様ということで。


 いやぁ。一度決心したら気も楽になったし、今からすごく楽しみにもなっちゃったなぁ。

 サーカスキャラバンが来るのは冥界祭に合わせてらしいからまだ先だけど、今からわくわくしちゃいます。


「承知いたしました。ではそのように進めさせていただきますね。……あ。当日は私と息子も同席させていただきますので、よろしくお願いいたします」

「わぁ。ご一緒してくださるんですか? 心強いです、ありがとうございます!」


 踏ん切りがついたといってもやっぱり不安だし、領主様が一緒にいてくれるならもう無敵ですね。


 その後。私は領主様と予定の調整をしてからお屋敷を後にさせてもらった。


「ねぇカイル。まだ時間ってあるー?」

「お待ちを」


 懐から懐中時計を取り出し、カイルは小さく頷いた。


 よし。ならちょっと遊戯エリアで遊んでいきますか。


 だけど少しばかり気疲れしちゃった私はカイルに抱っこを要求。さらには日傘も差してもらって準備万端ご満悦です。


 ちなみにシドーは町に着いてからずっと影に入ったまま。一度も顔を出していません。

 もしかして寝ているのでしょうか? だとしたらそっとしておいた方がいいかもしれない。


「むふふ。サーカスキャラバン楽しみだねぇ。どんな感じかにゃぁ……カイルは見たことある?」

「いえ。噂を聞いたことがあるぐらいですかね」

「しょっかぁ! じゃあカイルも初めてだね。楽しみ?」

「ふふっ、そうですね。お嬢様と一緒ならどんなことも楽しみです」

「え? ふへへ。しょ、しょう?」


 素敵な笑顔で嬉しいことを言ってくれるカイル。

 ある程度耐性ができてきてるとはいえ、至近距離で見ちゃうとやっぱりまだちょっと恥ずかしい。


「ふへへ」


 なので照れ隠しとしてカイルの首元に顔を埋めてしまった私は悪くないだろう。


 まったく、顔が良い人はずるいですね! まったく!


「……ところでお嬢様」

「う?」

「シリル殿のお話ですが。悩んでいた割に最後はあっさり決めてましたね。どんな心境の変化ですか?」

「え? へへ。気になるー?」

「まぁ。多少は」


 コソコソ話をする様にカイルの耳に顔を近付ければ、それに気が付いたカイルも私に耳を寄せてくれた。


「ないしょー」

「ふはっ。そうですか内緒ですか。なら仕方ありませんね」

「にしし」


 カイルと二人、顔を見合わせて笑い合う。


 本当は内緒にする程の内容でもないから言ってもいいんだけどね。

 先程不意打ちを食らったので、ちょっとした仕返しです。えへへ。

 そして軽く遊んだ後に私達はお家へと帰った。


 夜。お仕事から戻ってきたフェルトス様とガルラさんに、お土産の花冠を渡すついでに今回の話も伝える。

 すると二人とも笑いながら「頑張れよ」と応援の言葉とともに頭を撫でてくれました。

 さらにガルラさんに至っては「記念すべきメイの正式初お披露目だ!」と謎に気合が入ってしまったようで、私の謁見時衣装なんかも用意してくれることとなった。


 初お披露目ではない気がするのは気のせいか……。と首を傾げつつも、ガルラさんが楽しそうなのでお口チャックしておきました。


 それから時間が経つのは早いもので、サーカスキャラバンの話を聞いてからあっという間に二週間が経った。


 その間。私はいつもの日常を過ごしつつも、団長さんとの謁見時に備えてコツコツ準備も進めていました。


 カイルから謁見時の立ち居振る舞いなんかを教えてもらったり、当日着る服なんかを新調したり、領主様と打ち合わせをしたり、当日のセリフを覚えたり……ですね。

 まぁでも、立ち居振る舞いに関しては、当日は座ってるだけでよさそうなのであまり意味はないかもだけど。


 そして衣装。これは大人達が私に似合うものを、と張り切って作ってくれた。

 どうやらガルラさん曰く。私が神の娘として正式な場に出るのは初めてのことだから、らしい。


 今までも冥界祭とかで人前に出ることはあったけど、それは――私の意識の問題もあるけど――成り行きかつ、なぁなぁで済ませていたのでカウントしないそうだ。


 今回は領主様から事前にキチンと私に話が通ったこと。

 私が自分の立場なんかを考慮した上で、ちゃんと考えて答えを出したこと。

 それら諸々を考えたら、今回が私の初お披露目回と言っても過言ではない! とのことらしい。


 なので、舐められないようにと気合が入りまくった衣装に仕上がりました。

 今回会うのが他所(よそ)の国の人だということもあるそうですが……かわいいけど、すごく動き辛そうなフリフリ衣装が完成してます。


 しかもわざわざセシリア様までもが冥界にまで来てくれて、「おチビちゃんの正式なお披露目だって聞いたわよ! 恥ずかしくないように私が完っ璧に仕上げてあげるわ!」と。それはもうテンション高めのウキウキ気分で協力してくださいました。ありがたいことです。


 後で聞いた話だけど、どうやらセシリア様の参戦はフェルトス様からのお願いだったようです。いつかの時を思い出しました。


 まさか領主様から話を受けた時には、こんな大事(おおごと)になるとは夢にも思っていなかった。

 なのでちょっとみんなの熱意に押され気味になりつつも、私は頬を叩き気合いを入れることにした。


 何はともあれ、ここまでやってもらったのだ。後には引けない。


 というわけで、ありがとうございますフェルトスパパ。そしてみなさま。

 大袈裟かもしれませんが、不肖メイ。今回の初謁見。精一杯頑張らせていただきますからね!


 そんなこんなでバタバタしつつも、なるべくいつも通りに過ごした二週間。

 無事にこの日を迎えることになりました。


 そう。ついに今日はサーカスキャラバン。グレンカムア団の団長さんとの謁見日なのです。


 朝からガルラさんとカイルに仕上げてもらい、見た目だけは立派な冥界のお姫様に仕上がりました。

 全体的な色合いは紫と黒で纏められていて、差し色に赤が入ってる感じでしょうか。これは私達の色という感じで落ち着きます。


 メインのお洋服は、膝下より少し長めなふわふわスカートの長袖ワンピース。袖口がふんわり膨らんでるのがお気に入りポイントです。


 胸元には大きめのリボン。そのリボンの真ん中には、加工されて宝石のようになった冥府石(メイフセキ)が取り付けられている。


 靴は危なくないようにペタンコの靴だけど、デザインはちょっと大人っぽく仕上がっております。


 髪の毛はガルラさんが可愛く結ってくれました。


 そして、鍛冶神であるデュロイケンフィーストス様。通称ロイじいちゃに頂いた蝙蝠イヤリングも忘れずにつけてもらっています。


 仕上げとしてカイルに少しだけお化粧もしてもらって、私の準備は完璧。


「えへへー。どうかにゃぁ? 似合う? 可愛い?」


 みんなによく見えるようにと、その場でくるりと一回転してみる。


「ウム。よく似合っている」

「いいじゃん、いいじゃん。似合ってるぞーメイ」

「世界一かわいい」

「いつも可愛いけど、今日はさらに可愛くなってるぞあるじ!」

「で、でへへへへ。いやー、しょれは褒めしゅぎではぁー? でへへへへ」


 フェルトス様、ガルラさん、カイル、シドーの四人から順に褒めてもらえ、私の顔面が大変なことになっている気がする。いや、確実に溶けてますねこれは。ふへへ。


 すでにセシリア様にはこの衣装が完成した時に一度お披露目をしている。もちろん、可愛い。似合ってる。と、とても褒めて頂けたのは記憶に新しい。


 こんなにみんなからベタ褒めを頂けたのなら、もう今の私は無敵で最強と言っても過言ではないのでは? ぐふふふふ。


 みんなのおかげで完成した冥界のお姫様仕様な(わたくし)メイ。

 今日の私は一味違います。みんなからの「可愛い」というお墨付きで自信満々ですよ。むふん!


 そうして準備を終えた私は、今日の為におめかししたカイルと、いつも通りのシドーを連れて絨毯に乗り込む。

 フェルトス様とガルラさんの激励付きお見送りで背中も押してもらい、最後まで頑張る気力も頂けました。


 よし、行ってきます!

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