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13 とある門番の独り言1

主人公が町に来る前日の話です。

門番さん視点なんですが、長くなったので一旦分けます。すみません。

 俺の名前はノラン・カルーベル。

 冥界に一番近い町として知られるセラフィトの門番だ。


 この町は『冥界に一番近い』というだけあって冥界神フェルトス様を信仰している。

 フェルトス様は他の神々と違い、我々人間の前に現れることはない。

 もちろんただの一般人の前においそれと神が現れるわけでないのは知っている。


 それぞれの神を祀っている神殿の神官。英雄と呼ばれるような特別な存在。

 そんな人間の前に現れるって話だ。


 といっても御姿を現すことは滅多になく、神託という形で声だけが届けられるとか。

 そして我らがフェルトス様はその神託すら一切ない、というのが現状だ。


 どちらにせよ。俺みたいなただの凡人が神様と関わり合いになる。そんなことは俺が生きている内にはないだろうから関係ないといえば関係ないのかもしれないけどね。


 フェルトス様は冥府の王であり、死の神でもある。

 故に、()の方の御姿を拝見できるようなことがあるとするならば、それは死ぬときくらいなんだろう。ってのがもっぱらの噂だ。


 実際。俺の婆さんの婆さんは若い頃に死にかけたことがあったらしく、その時に一度だけフェルトス様とお会いしたことがあるらしい。


『貴様はここへ来るにはまだ早い。帰れ』とか言われて追い返されたそうだけど。


 そこで見たフェルトス様の御姿は俺の代にまで伝わっている。

 濃紫(こきむらさき)色の艶やかな長い髪。妖艶な赤い瞳を持ったとても美しい男神様。

 体は人と獣が合わさったような姿で、身の丈は二メートルを超える神秘的な御姿だったとか。


 ぶっちゃけて言うと。口で説明されてもあまり想像はできなかった。

 蝙蝠はフェルトス様の神使としてこの町では祀られているから、獣部分は蝙蝠なのだろうか?

 だとしても上手く想像ができないけどな。


 この町には冥界関連を纏めた書籍というものがある。

 そこに纏められた記述や絵姿を見たときに、初めて俺の中でイメージが固まった思い出だ。


 ただ、フェルトス様は人前に出てこない。なのでその記述や絵姿が本当に正しいのかは怪しいところではあるが。


「明日はついに冥界探索に出発だ! 気合入れてけよお前ら!」

「いやぁー。俺もついに大金持ちの仲間入りだなぁ」

「おいおい。俺()だろ!」

「お宝が沢山あるといいわね!」

「はぁ……久しぶりの馬鹿発見」


 そして。とても不敬な話ではあるが、この町には定期的にフェルトス様の冥界へ足を踏み入れようとする馬鹿が現れる。

 踏み入ったが最後。二度と人間界へ戻ってくることはないが、踏み入る前ならば止めることができる。


 しかし制止も聞かずに、あまつさえこっそりと向かうような連中はもうどうしようもない。

 俺達門番や騎士団だってできる限り阻止はする。だが完全には無理だった。

 コソ泥よろしく、こそこそとこの町を離れていくやつ。他にもここへは立ち寄らず直接冥界へ向かうやつなど。困ったものだ。


 そんな馬鹿どもは恐らくフェルトス様の怒りを買ったはず。だから帰ってこないからといって捜索隊などを出すことはない。

 この町では領主様許可、及び騎士団の同行を得ずに冥界へ行くことは犯罪だからだ。

 危険を冒してまでわざわざ犯罪者を探しに行く道理はない。


 そもそもこの町の人間ならばまず冥界へ行こうとも思わない。思っても許可を取るだろう。

 なのでこれは完全に外の人間に対する法になっているのが現状だ。


 冥界は神の領域。神域だ。

 町の住人だとしても、おいそれと人間が近付いていい場所じゃない。

 意味もなく神の怒りを買う必要もないのだから。


 冥界の品物を手に入れれば高く売れる。馬鹿は金に目が眩んで冥界へと足を運ぶようだ。

 しかし冥界に存在しているものなんて俺は本の中でしか見たことがない。

 今の時代に実物を見たことある人間がどれ程いるか。

 むしろ誰も見たことはないだろうに、どうしてそんなに求めるのか謎だ。


 単純に珍しいからだろうか?

 いつの世も珍しいものが欲しくなるってのが人間だもんなぁ。


 しかしそのせいでこちらがとばっちりを食らう可能性もある。

 俺達町の住人からすれば心底いい迷惑だ。やめてほしい。


 今のところフェルトス様の怒りがこの町にまで及ぶことはなかった。

 だが、絶対にないとは言い切れないのも事実。


「なぁ、あんた。悪いんだけど騎士を呼んできてくれるか?」

「おぅ、いいぞ」


 手直にいた男へ騎士を呼んできてもらい、俺は席を立った。


「フェルトス様を刺激しないでほしいねぇ」


 フェルトス様はあまりその御姿を見せないことから、セラフィト(ここ)以外ではかなり軽んじられている神様だ。もしくは単純に死の神として、恐怖の対象として見ているか。


 軽んじられる理由はただ一つ。

 他の神と違い露出が皆無といっても過言ではないから。

 実は存在しない神だ、などとも言われているらしい。


 なら存在しないはずの神が治める冥界とはなんなんだよって言いたくもなるがな。


 冥界は事実存在している――らしいが、俺自身見たことはない。行ってみたいとも思わないけどね。

 フェルトス様に会うとするなら、それは死んでからで十分(じゅうぶん)だ。


 誰だってそうだろうに。

 なのにいま俺の目の前にはその物好きがいるんだよな。


「くそっ、いきなりなんなんだてめぇ! 俺はなんもしてねぇだろうが、さっさとこの縄をほどきやがれ!」

「だーめ。だってお前さん達冥界へ行く気なんだろう? そんなヤツをこのままほっぽっとくわけにはいかないっての。騎士団に引き渡すから、それまで大人しくしとけ」


 リーダーらしき一番元気で反抗的な若造を締め上げる。

 無駄に暴れてはいるが、問答無用で俺はその上へ座り騎士の到着を待つ。


 他の仲間はこいつが捕まってびびったのか大人しくしている。

 少しくらいなら放っておいてかまわないだろう。


「ふざけんな! どうせあそこは誰もいない墓場なんだろ! だったらちょっと行くくらいかまわねぇだろうが!」

「かまうから言ってんのよ」


 怒りが収まらない若造、もとい馬鹿に冷めた視線を向ける。

 酒が入って気が大きくなっているのかは知らないが迷惑な奴だ。

 こいつは昨日この町へ来た奴だ。俺が対応したから覚えてる。


 そこそこの冒険者のようだが、頭の方もそこそこなのかね?

 そこそこだろうからそこそこの冒険者にしかなれないんだろうけど。


「はぁ。せっかく仕事終わりに気持ちよく酔ってたのに。お前さんのせいで良い気分が台無しだよ」


 俺は馴染みの酒場で楽しく飲んでいただけだ。

 それなのに『冥界に行って大金持ちになる!』みたいな馬鹿なことを大声で話していたから現行犯で捕まることになったんだろうに。


 とはいえ、こいつみたいに全員がわかりやすく冥界行きを公言してくれたのなら、俺達の仕事も楽になるんだけどなぁ。


「あっ。君らも騎士団に引き渡すから逃げないように。逃げるならそれなりに痛い思いをすることになるよ。それは――嫌でしょ」

「は、はい……」


 俺が何もしないと判断したのか、残ったやつらがこそこそと逃げだそうとしていた。

 なので馬鹿の仲間へ軽く警告を発しておけば、観念したのかまた大人しくなった。


「よろしい」


 子供は素直が一番だからな。

 

 酒場の入り口を見ながら騎士団の到着を待つ。


「ノラン殿!」


 騒ぐ馬鹿と意気消沈した馬鹿の仲間をぼんやり見張っていると、聞き覚えのある高い声が俺の名を呼んだ。

 そちらに目を向ければ酒場の照明に照らされた美人さんが部下を引き連れ、こちらへとやってきていた。


「どうも、シエラさん。遅くに悪いね、待ってたよ」

「いえ、お気になさらず。――それで、コイツらですか?」

「そっ。さっさと引き取ってくれる? もう、うるさくてかなわないよ」

「んだとてめぇ!」

「たしかにうるさいですね。――おい、コイツらを連れていけ」

「ハッ!」

「おい、くそっ! 放せ! ちくしょう! 俺は無実だ!」


 彼女の部下である騎士たちに連行されていく馬鹿とそのお仲間を見送る。


 何か喚いているが、俺はフェルトス様に殺されないよう助けてやったんだ。

 あの馬鹿達もいつかきっと俺に感謝する日が来るはずさ……なんてな。


「ノラン殿。犯人逮捕にご協力、感謝いたします」

「いえいえ。これも仕事の内だからね。シエラさんも遅くまでご苦労さん」

「いえ、その……私も仕事ですので。あの、それでは私はこれで失礼します」

「はいはーい。夜道には気を付けてねー」

「はい!」


 きっちりと礼をして去っていくシエラさんを手を振って見送る。

 少し顔が赤かったような気もするが、大丈夫なのだろうか?

 あの子は頑張り屋さんだからムリしすぎないか心配だ。


「さて、と。マスターお酒ちょうだい!」


 気分を切り替え改めて席へ着く。

 邪魔者もいなくなったことだし飲み直すとしますか。

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