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追憶と花束編1 ピクニック

大変お待たせいたしました。今日から新章の追憶と花束編全20話の投稿を始めます。

また長いですすみません。新章を書くたび少しづつ長くなってしまい誠に申し訳ありませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

 寒い冬から暖かい春に変わりつつある今日この頃。

 地球で斉藤冥(さいとうめい)として生きてきた私は、この世界に落ちてきてからは冥界神の眷属として過ごしていた。


 そして、冥界神(フェルトス様)の娘として受け入れてもらい、すっかり地球とは別世界であるここにも慣れた。


 私がここに落ちてきて、早いものでもう三年目。


 そうです。もうすぐ三回目の春がやってくるんです。


「ぴーくにっくー、ぴくにっくー。きょーおはぁたのしぃーぴーくにっくー。いぇい!」


 ポカポカ陽気なお日様の光を日傘越しに浴びながら、私はのんびり飛行で絨毯を操っている。

 どこに向かっているかというと、セラフィトの町近くの丘にある花畑ですね。


「ククッ。随分と上機嫌だな、お嬢」


 カイルの膝の上に座り、ノリノリで即興曲を歌っていたところ。くつくつと小さく喉を鳴らすような笑い声が頭の上から降ってきた。

 見上げてみればカイルが私を見下ろしながら楽しそうに笑っている。


「ふへへー」


 青と赤の色違いの瞳が優し気に細められたのを眺めながら私も笑う。

 そしてそのまま背後のカイルへ体重を預けるように寄りかかった。


「みんなでお出かけだかやねー」

「ははっ。なるほどな。そんじゃもっとお嬢渾身の歌を聞かせてくれよ」

「ふふん。リクエストされたのなら仕方(ちかた)にゃい。歌ってあげましょー!」

「よっ、さすがお嬢。待ってました!」


 日傘を持ちつつも器用に拍手のマネをしてくれたカイルに応えるよう、私は適当な歌を紡ぐ。

 こういうのはノリと勢いが大切ですからね。恥ずかしがってはいけません。


 そんな風に歌いながら進めば、あっという間に目的地へ到着。

 まだ少し時期が早いかもと思ったけど、十分お花も咲いていて問題なし。良いピクニック日和です。


「とうちゃーっく!」

「んぁ? 着いたー?」

「おはよー、シドー」

「ん。おはよーあるじ」


 絨毯から花畑へと降りれば、ずっと私の影の中で寝ていたシドーがひょっこりと顔を出す。

 大きな口を開けて欠伸をしているシドーは、なんだかちょっとフェルトス様に似ている気がした。

 良く寝るところとかもそっくり。そんなところも可愛いんですけどね。寝る子は育つといいますし。


「おーいお嬢。シートはこの辺でいいか?」

「うんいいよー」


 花畑の入り口近くにある大きな木の下。その下に立ったカイルが、カバンからシートを取り出しながら聞いてくる。

 私達がのんびりしている間に乗ってきた絨毯を片付け、次の準備をテキパキと進めていたようです。


 毎度のことながらなんて仕事が早いのでしょう。頼もしいかぎりです。


「よっ……と。っておいこらシドー。まだちゃんと敷けてないんだから乗んな。邪魔だ」

「えぇー。いいだろべつにー」

「ったく」


 カイルがシートを広げたそばから、その上にシドーが滑り込むように乗り込んだ。


 なんというか……わんちゃんが布団を敷いた瞬間に乗り込んで邪魔をしてくるような。そんな光景が私の脳裏に過った。


 うん、かわいい。和みます。


「待たせたなお嬢。もういいぞ」

「はーい」


 二人のやり取りをにこにこ眺めながら待っていれば、カイルの良しが出た。なので私も靴を脱いでからシートに座る。

 ここは木の下で良い感じの日影になっているからもう日傘は必要ない。

 というわけで、邪魔な日傘は失くさないように影の中へ片付けておきましょう。


「よしっと。それじゃあお弁当の準備ー。ふんふふーん」


 魔法で水を出し手を洗う。

 その後、朝から張り切って作ったお弁当をカバンから取り出した。


 メインとして用意してきたのは、おにぎりとサンドイッチの二種類。

 おにぎりはシンプルな塩むすび。それと焼きおにぎり。

 サンドイッチはカツサンドとたまごサンドですね。


 おかずにはタコさんウインナーや玉子焼き。肉団子やサラダなんかもあります。

 飲み物にはお茶を持ってきました。

 それと、デザート代わりに食後に飲む用としてのトマトジュース。


 気合を入れすぎて作りすぎた感はありますが、成人男性のカイルと育ち盛りで食欲旺盛なシドーがいるので問題ないでしょう。


 ついでにフェルトス様とガルラさんにも同じ物を用意して渡しておいた。なので、二人のお昼ご飯の心配もしなくていいから気楽です。


 それら全部をカバンから取り出してシートに広げる。

 あとは、カイルとシドーにお皿とフォークを渡せば準備万端です。


「なぁなぁあるじ。もう食べていいか?」

「いいよー。あ、いただきますしてからね」


 私が準備をしている間に、二人にも手を洗ってもらったので食べるのに問題はありません。

 さぁ召し上がれ。


「いただきまーす!」


 元気よく挨拶を済ませたシドーは、さっそくとばかりにカツサンドへと手を伸ばす。

 一つ二つと軽快にお皿へ取り分け、たまごサンドも同様に二つ。計四つのサンドイッチを盛って食べ始めた。


「うまー」


 うんうん。相変わらず美味しそうに食べてくれてあるじは嬉しいよ。

 いっぱい食べて大きくなってね。


「ほらお嬢。お茶」

「ありがとーカイル」


 差し出されたお茶をにっこり笑いながら受け取り、一口飲む。

 そして私も塩むすびへと手を伸ばした。


 うん、美味しい。塩加減がちょうどいいですね。


「あるじ、うまいぞ!」

「む? ふへへー。ありがと、いっぱい食べてね」

「おぅ!」


 あっという間にお皿に盛ったサンドイッチを平らげたシドーは、次に焼きおにぎりへと手を伸ばす。

 さらにおかずもたくさん盛り、またモリモリと食べ始めた。いい食べっぷりです。


「――ふっ」

「う?」


 そんな時。ふと、隣でカイルが笑ったような気がして視線を上げる。

 見上げた先では何故かカイルがカツサンドを見つめて笑っていた。


 なんだろう。ちょっと怖い。

 何か面白いものでもあったのかな? それとも思い出し笑い? なんでしょうね。


「どしたのカイル?」

「ん? あぁいや。ちょっと……懐かしいなと思ってよ」

「う? ……あ、しょっか。しょういえば、あの時もここでカツサンドだったっけ」


 カイルが何を言っているのか理解した私はしみじみと頷く。


 時間が経つのはあっという間ですねぇ。


「あれからもうすぐ一年、か……。早いもんだな」

「だねぇ。……ふへへ」

「どした?」


 チラリと見上げた先にあったカイルの顔を見た私は、あの時と今を比べて小さく笑ってしまった。


「いやぁ。あの頃に比べてカイルも元気になって明るくなったし、すっかりここにも馴染んでくれて嬉しいなぁ、ってなってた!」

「――ふ、ははっ。おかげさんでな」


 カイルと二人、顔を見合わせて笑う。


 初めて会った頃の刺々しさはなくなり、すっかり丸くなったカイル。

 笑顔も増えたし、自信だって取り戻してくれたみたいで私としては大満足です。


 まだちょっとだけフェルトス様や他の神々に対してぎこちなさみたいなものはある。でも、それだって最初に比べればかなりマシになりましたからね。


「……何の話だ?」

「俺とお嬢が出会った時の話」


 話が見えなくて首を傾げているシドーにカイルが笑って告げる。


「そういえば、おれその話詳しく聞いたことないな。聞かせろ!」

「んー。お嬢と俺だけの思い出だからダメー」

「んだよケチー!」

「ははは」


 正確にはステラやモリアさん。その他の人達も知ってるから、別に二人だけの思い出というわけではない。ないけど、カイルが楽しそうだから野暮は言わないでおこう。うん、お口チャックです。


「いやぁ。平和だねぇ……あむっ」


 じゃれあっている二人を微笑ましく眺めながら、私は再度おにぎりを頬張った。


 その後、お弁当を食べ終えた私は恒例のお昼寝タイム。

 シドーと一緒にカイルの膝を枕にしてお昼寝をすることになりました。


 せっかくだからカイルも一緒にお昼寝しようと誘ったんだけど、見張りが必要だからと断られちゃったんですよね。ちょっと残念。

 膝枕をしてもらうのでいざという時にカイルがすぐ動けない問題はある。だけど心配ご無用。今回も寝る前にしっかり結界を張っておくので問題はありません。


 よし、準備万端。それではおやすみなさーい。


 そうしてまったりと睡眠を貪った後。

 私達はカイルの指導のもと花冠作りを始めていた。


「見て見てカイル! 上手にできたよ!」

「おっ。やるじゃねぇかお嬢。上手くなったな」

「えへへー」


 一年前はあんまり上手にできなかった花冠。今回は結構上手く行ったんじゃないでしょうか。

 出来上がった花冠を目の高さに掲げ眺める。


 よし。わりと自信作なのでこれはフェルトス様へのお土産にしよう。

 フェルトス様喜んでくれるかなぁ。むへへ。


「ぐっ……上手くできない……」


 一方、シドーは大苦戦中のようだ。

 手の中にある花冠はボロボロで、花を強く握り過ぎたのか若干萎れているようにも見える。花びらも散っちゃってますね。

 でも一生懸命頑張って作っているシドーの姿は素敵だと思うし、何よりその挑戦心が素晴らしいとあるじは思います。


「大丈夫だってシドー。初めはみんなそんな感じだよ!」


 一年前の自分を思い出し、励ますようにシドーの頭を優しく撫でる。


「でも……これじゃあるじに喜んでもらえない……」

「う? もしかして、それわたしにくれるの?」


 私の問いに小さくこくんと頷いたシドー。


 なんですかこの子可愛すぎませんか!


 デレデレに顔が蕩けている自覚を持ちながら、私はシドーに向かって笑顔を向けた。


「ふへへ。シドー、それ、貰っていい?」


 ボロボロでもちゃんと完成している花冠。

 私にはなんだかそれが輝いて見えた。


「……でも」

「頭に乗せてー。ほら早く早く」

「……ほい」

「にぇへへー。ありがとシドー! 大事にするね!」

「…………次はもっと上手く作る」

「わたしはこれでも十分だよ?」

「ダメだ! あるじが良くてもおれがダメだ! おいカイル、もっと上手く作れるように教えろ! あるじにもっと良いのやるんだ!」

「ははっ。わぁったよ」


 よほど気に入らなかったのか、シドーはもう一度花冠を作り始めた。

 私的には本当にこれでも十分嬉しいから満足してるんだけどな。

 でもシドーの気に入らない気持ちもわかるので、ここは微笑ましく見守ることにしましょう。


「……できた! ほらあるじ。これやる」

「わぁかわいい! ありがとー」

「そんでもって、さっきのは回収な」

「えっ。だめだよ。これはこれで貰うから」

「むぅ」

「にへへ」


 シドーの奮戦により、最初よりかは綺麗さを保った花冠。

 それを新たに手に入れた私は、お返しにと作っておいた花冠をシドーの頭に乗せた。


「わー! シドーかわいいー!」

「ふふん! あるじだってかわいいぞ!」

「ふへへ」

「あはは」


 ちょっとだけ不恰好な花冠を頭に乗せ、私達は顔を見合わせて笑う。


 なんて平和な空間なんでしょうか。最高ですね。


 その後。花冠作りも一段落したところで、私達は簡単に後片付けをする。

 最後にゴミが残ってないかを確認してから、花畑を後にした。


 絨毯に乗りこみ、次に向かう先はセラフィトの町。

 まだ家に帰るには少し早い時間なので、遊技エリアで遊んでいくことにしたのだ。


「あっ……」


 そうして飛び始めてしばらく。町の門が見えてきたあたりで突然カイルが何かを思い出したような声を上げた。


「どしたのカイル?」

「どしたー?」

「あぁいや。そういや昨日、おっさんからお嬢宛に伝言頼まれてたなぁってのを、今、思い出した……わりぃ」

「別に良いけど、ノランさんから?」


 バツが悪そうに視線を逸らして小さく頷くカイル。

 確か昨日はノランさんと飲みに行くって夕方に出掛けて行ったから、その時に頼まれたんだろう。

 それで今日の朝に伝えようと思っていたところで、私が急にピクニックに行こうって提案しちゃったから、その準備でバタバタしてそのまま忘れちゃった、と。


 うん、それは忘れてても不思議じゃないね。仕方ない仕方ない。無罪!

 あ。シドーが興味なくしてまた前を向いちゃった。こっちも仕方ないですね。


「それで、ノランさんはなんて?」

「ちょっと待ってくれ……」


 昨日の記憶を思い出すように、カイルは斜め上を見上げた。

 カイルはわりとお酒に強い方だし、記憶をなくす程飲んだりもしない。

 だから伝言内容を忘れたりもしないだろうからすぐに思い出してくれるはずだ。


「えっと……シリル殿がお嬢に会いたいらしい。なんか聞きたいことがあるんだとさ。だから暇なときにでも会いに来てほしい、だったかな」

「はぇ、領主様が? なんだろ」


 私の頭の中に領主様の優しいお顔が浮かぶ。何のご用事でしょうね。

 ちなみにシリルというのは領主様のお名前です。シリル・エルコディアというのが領主様のフルネームだったりします。

 ついでに言うとシェイドさんは――親子なので当然ですが――ジェイド・エルコディアですね。


「さぁ? おっさんもシリル殿の使いから伝言預かったってだけで、用件までは聞いてねぇらしいからな」

「そっか。……うーん、じゃあ予定変更して、先に領主様のお家に寄っていこっか。それで時間が余ったら遊びに行こう。二人もそれでいい?」


 確認するように二人の顔を見る。


「もちろん」

「おれもー。あるじがそうしたいならそれでいいぞ」

「ありがと。それじゃまずは領主様のお家にレッツゴー!」

明日からは朝、昼、夜で1話づつ。1日で計3話投稿していく予定です。

それぞれ7時10分、12時10分、18時10分に投稿予約しておきますので、何事もなければその時間帯に投稿されていると思います。

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