番外編 おでん
念願だった総合評価1000ポイント超えを達成できました!
束の間の夢かもしれませんが、初四桁本当に嬉しいです。ありがとうございます!
「おでん食べたい……」
寒いとおでんが食べたくなる。
神域や冥界内では季節とか関係なく常に過ごしやすい場所だけど、外の世界はまだまだ冬なので普通に寒い。
「というわけで、今日はおでんを作りたいと思いまーす!」
「いぇーい!」
「おー」
私の掛け声にシドーとカイルが続く。
お揃いのエプロンと三角巾を装備して、いざ冥界クッキングの時間です。
場所はカイルの家のキッチン。
最近は何か大量に作るものがある場合だと、こっちで作ることが多い。
だって鍛冶神様に作ってもらったこのお家の方が、キッチン周りが充実してて使いやすいのです。
サイズは当然のごとく大人用だから私には合ってないけど、ロイ様は私用の台も用意してくれていたからそれも問題なし。
だから大きさ問題を差し引いてもこっちの方が便利なんだよね。
そう考えると、そろそろ私の家の方もロイ様にお願いしてキッチンとか整えてもらった方がいいかな?
あの家のキッチンはいまだに初期装備のままなんだよね。
私が使う分には問題ないけど、カイルは毎回使いにくそうにしているし。
それにどうせ私もこれからどんどん成長して大きくなる予定だし、大は小を兼ねるともいうし、ちゃんとした台を使えば問題もないしね。うん、そうしよう。
もうすぐこの世界に来て三年目になろうとしてるのに、一向に身長が伸びてないのなんか気にしない気にしない。もうすぐ、ぐっと伸びる予定なんだから気にしない……。
とりあえず、また今度フェルトス様にキッチンのことでロイ様にお願い事があることを伝えなければ。
そう心のメモ帳にメモを残し、みんなで食材や鍋なんかを準備していく。
今回のおでん用にお店みたいな仕切り付きの鍋……っていって良いのかな。とにかくそれもロイ様にお願いして用意しておいたので準備は万端です。
なんだかロイ様を便利屋さんみたいに気軽に使いすぎかな?
ちょっとだけ申し訳ない気もしてきた……。
それから、今回のおでん作成には海神ユリウス様の協力も得ております。
おでんに入れるつみれ用に新鮮なお魚が欲しいと思ったのが理由の一つ。
もう一つは、カイルの好物がエビや魚とかの魚介類らしい。なのでもっと気軽に食べられるようにストックが欲しいと思ったのでお願いしちゃいました。
ユリウス様には『お礼に完成したおでんと清酒を捧げます。ですので何卒よろしくお願いしますユーリ伯父様!』とフェルトス様経由でお伺いを立てたらすぐに送ってくれたんですよね。
なので、いま私の手元にはユリウス様から送られてきた様々な海産物が豊富にあります。
そうです。豊富なのです。
頼んでから数日もしないうちに届いた、小さい冷蔵庫のような形をした青い箱。
その中には大量の魚介類がたんまりと入っていたのです。
しかも使いやすいようにと、鱗や内臓処理なんかも済んでいたり、大きい魚は捌いて切り身状態にしてあったり。端的に言えば至れり尽くせりの状態でした。
そして同封された手紙には『姪に頼られ張り切ってしまった。たくさん食べて大きくなるといい。ハッハッハ!』みたいなことが書いてありました。
いや、さすがに多すぎますよ伯父様……。これ使い切るのにどれくらいかかるんだろうか……。
「えっと。大根よーし。じゃがいもよーし。トマトよーし。えーっと…………あと全部よーし!」
指差し確認で抜けがないか確認する。
具材は私の中で定番の大根は当然として。せっかくだし畑のじゃがいもと、フェルトス様の好物であるトマトも入れることにした。
あとは実はまだ使い切れてないクラーケン――タコ代わりです――と、ユリウス様に頂いたお魚のつみれ。
さらに町で買ってきた卵とウインナー。これで全部です。
あんまり多くても仕込みが大変だからね。
お裾分け用と捧げもの用の鍋は別に用意するから後でいい。
他材料や調味料、調理器具なんかは全部ある。
全て揃ってることを確認し終わり、私は腕まくりをして気合を入れた。
「よーし。それじゃあ、頑張っておでん作るぞー!」
「おー!」
レッツ、クッキング!
「じゃあ、まずカイルには大根切ってもらおうかな」
「おぅ」
「えっとね。大根は輪切りにして、少し厚めに皮を剥いてね。あと、面取りと十字に切り込みも入れてほしいな。それ全部終わったら、次はじゃがいもの皮を剥いて、食べやすい大きさにカットして、こっちも面取りもしてほしい」
「んー。了解」
カイルにやってほしい事を一気にさらっと説明すると、すぐさま調理に取り掛かってくれた。
ちなみに私の場合は切った大根を一度凍らせます。地球なら冷凍庫だけど、ここではもちろん魔法を使う。時短テクですね。いやはや日常で使える魔法は便利すぎてやめられません。
「あるじあるじ! おれは?」
「んーっと。……それじゃあシドーはクラーケンをこうやって――このくらいの大きさで、こんな風に切ってくれる? 大丈夫? できそう?」
「大丈夫だ! 任せろあるじ!」
「包丁危ないから気を付けて使ってね」
「おぅ!」
クラーケンの塊を乱切りにしたものを見本で切ってみせると、シドーはきちんと理解してくれたのかすぐさま元気な返事が返ってきた。
それでも少し心配なので、隣にいるカイルにシドーのことを頼んでおく。
大丈夫だとは思うけど念の為ね。
「よし。それじゃあ私はつみれを作りますか!」
せっかくいろんなお魚をたくさん頂いたので、今回のつみれはちょっと豪華にマグロを使います。
マグロに手を付ける前に、つみれに混ぜるネギをみじん切りにする。そのあとはしょうがをすりおろして、卵を溶いておけば準備は完了だ。
まず切り身になってるマグロをまな板に乗せ、魔法を使いながら包丁で叩いていく。
叩き終わったらマグロをボウルに移して、味噌、お酒、醤油、片栗粉、しょうが、卵、ネギを加えて混ぜたらタネは完成。
あとは鍋に入れる前に軽く炙っておけば完璧ですね。
ふぅ。魔法を使ってるとはいえ、さすがに疲れました……。量が、ね。うん。
カイルやシドーも切るだけとはいえ、こちらも量が多いので時間もかかる。
特にシドーは神様に捧げる用と知っているので丁寧に作業をしているから、余計に時間もかかるというものです。
さて、残りの卵とトマトとウインナーも頑張って仕上げちゃいますか!
「で、できちゃー!」
「量が多すぎる……」
「二人ともお疲れさん」
出汁をとって味を整えた鍋に、用意した食材を火が通りずらい順番で入れる。その後、落とし蓋をすればとりあえずはオッケーだ。
現在はその全ての工程を終えて煮込み時間中です。
「あとは俺が片付け諸々やっとくから、二人は休んでな」
「ありあとぉー」
「さんきゅーかいるー」
料理を作るのは体力がいるので、今回みたいに大量に作る場合はへとへとになっちゃう。
それでも食べてくれる人の笑顔が見れれば十分報われるんだけどね。さらに「美味しい」なんて言ってくれればもう万々歳だ。疲れなんて吹き飛んじゃう。
「はぇー」
「あるじ、だいじょぶか?」
「へーき。シドーもお手伝いありがとね」
「おぅ!」
にっこり笑ったシドーの笑顔を見ながらリビングに移動しソファで休む。
お鍋の様子はカイルが見ててくれるらしいのでお任せしてしまおう。
「フェル様おでん美味しいって言ってくれるかにゃぁ」
「あったりまえだろ。それに、あるじの作ったやつでまずいもんなんてないしな! 自信持て!」
「えへへー。ありがとー、シドー」
嬉しい事を言ってくれるじゃないですか。あるじ笑顔になっちゃう。
そんな風にシドーとまったり過ごしていれば、具材がいい感じに煮えたようなので火を止める。
そして粗熱をとったら蓋をして、このまま一晩時間をおけば完成だ。
一晩寝かせなくても食べられるけど、私は一晩寝かせたおでんの方が美味しいと思うのでそうします。
もちろんカイルにもキッチンを占領しちゃうことの了承は得ているので問題ありません。
保存箱に入れちゃったら時間が止まっちゃうので、こういうときには不便を感じちゃいますね。
「えっと。リア様のとこに、トラ様親子のとこでしょ。それからロイ様と、ユーリ様。ついでにティルキス様。あとはノランさん達に騎士団のみなさんに、あとは…………うん。これで全部かな」
「お嬢。鍋は八個でいいんだよな?」
「うん。大きいの二個と小さいの六個ね」
「りょーかい」
おでん鍋に蓋をして、取り分け用のお鍋を準備しておけば、おでんの仕込みは終わりです。
あとは神様達に渡す清酒を必要分用意しておけば準備は完璧ですね。
ふふふ。明日が楽しみだ。
「ふむ。やはりトマトはどう食べても美味いな」
「たくさん作ったので、いっぱい食べてくださいねー」
「もちろんだ」
「他の具も食べてくださいねー」
「あぁ。わかっている」
そういってフェルトス様はガルラさんにお皿を渡して、再度トマトのお代わりを所望していた。
この人、本当にわかっているのだろうか。
……でもフェルトス様が美味しそうに食べてるからまぁいっか。
トマトはおでんの具としては変わり種かもしれないけど、フェルトス様に気に入ってもらえてよかったです。すごい勢いで消えていくけど。
予想してたしたくさん仕込んだから大丈夫といえば大丈夫。なんだけど……本当にフェルトス様はトマトが大好きみたいだ。
「むへへ。大根おいしー」
大根も味が染みてて美味しいです。
おでんを仕込んだ翌日の朝。
カイルと二人で出来上がったおでんをそれぞれ取り分け、残りを家で食べる用として鍋ごと影に入れた。
そして晩御飯として、今みんなでおでんをつついています。
「ウインナーうめぇ」
「シドー。ウインナーばっかりじゃなくて他のも食べようね」
「……はーい」
注意されたシドーが何か言いたげな視線をフェルトス様へ向けたが、何も言わずに大人しく返事を返した。
うん。何が言いたいかはわかるよ。
フェルトス様もトマトばっかり食べてるじゃんって言いたいんだよね。
でもフェルトス様はもう大人だから自己責任だけど、シドーはまだ子供だしバランスよく食べてほしくてさ……勝手なあるじでごめんね。
ただ、精霊にバランスのいい食事が意味あるのかはわかんないんだけど……。
「それにしても、おでんって酒に合うなぁ……」
「ですね。酒が進んでしまいます」
「なー」
ガルラさんとカイルはバクバク食べてる私達三人とは違い、お酒メインにゆっくりとおでんを楽しんでいる。なんか大人だ。
「なぁなぁあるじ。次おでん作るときは肉の塊入れてくれよ」
「う? お肉かぁ。じゃあ今度はチュンチュンのお肉入れようかな」
「やったぜ!」
私がそう答えると、シドーは嬉しそうに笑っておでんを食べることに戻っていった。
いっぱい食べて大きくなってね。
それに次に作るときは、ちくわとかこんにゃくとかもあれば入れたい気持ちはある。
私の中の定番食材が大根、こんにゃく、ちくわなんだよね。
地球にはこんにゃくに唐辛子が入っているやつが売っていて、私はそれが大好きだったんですよ。
だからこっちにも唐辛子入りのこんにゃくがあれば嬉しい。
あれ? そういえば今の私は唐辛子入りって食べられるのかな?
……いま気にしても仕方ないか。
そんなことを考えながら晩御飯の時間は過ぎていく。
みんな笑顔で会話も弾み、大人組はお酒も進んでいるようでなりよりです。
「やっぱおでんはおいしいにゃー」
捧げもの用のおでん鍋は明日ガルラさんが神々に届けてくれるらしいので、すでにお手紙とお酒も付けて渡してある。
門番さん達にお裾分けするおでん鍋は保存箱に入れてあるから、明日取り出してお届けしに行けばいいかな。
明日の予定をたてながらお箸を置き、手をあわせる。
「ごちしょーしゃまでちた!」
ふぅ、お腹いっぱいです!
この辺りでシドー加入関連の話は終わりです。
もう1話番外編を書いたらまた新しい章に取り掛かりたいと思いますので、気長にお待ちください。




