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番外編 シャッフルシャッフル

すごく短いただの小話ですがお楽しみいただけたら幸いです。

冥界での日常の一コマ的な?

「お嬢、シドー。二人とも飴食べるか?」


 そういってカイルが見せてきたのは二つの飴玉。

 町で買えるいたって普通の飴玉で、一つはミルク味。もう一つはイチゴ味。ちなみに両方私の好きな味だ。

 そしてそんなものを見せられて食べないという選択肢は私にはない。

 シドーと遊んでいた手を一旦止めて、私はカイルに向かって大きく手を上げた。


「食べるぅ!」

「おれもー!」


 すぐさまカイルのもとまで行き足にまとわりつく。

 そして二人して手を差し出すと、それを見たカイルが何故か飴を持った手を高く上げ私達から遠ざけてしまった。


「ん? なんだよくれるんじゃねーのか?」

「そーだよ。いじわるー?」

「まぁ待て二人とも。せっかくだしちょっとしたゲームをしようぜ」

「ゲーム?」


 私とシドーの綺麗に重なった疑問の声に、カイルは笑顔を返す。


 何をするんだろうと首を傾げていたら、カイルが「ちょっと準備するからあっち向いててくれ」と私達の背後を指差した。

 どうやら準備している姿を見られたくはないらしい。

 なので私とシドーは素直に後ろを向いて待つことにした。


 むふふ、何が始まるんでしょうね。楽しみだ。


 なにやらごそごそと背後で聞こえてくる音に期待値が上がります。


「まだぁ?」

「もうちょい待ってくれー」

「はーい」


 そんなやりとりをしながら暇を潰すこと数分。

 ただ冥界の景色を眺めるのにも飽きてきたころ、カイルの「もういいぞ」との声にわくわくしながらふり返る。


 まず視界に入ったのは小さな簡易テーブルが一つ。

 そしてその上に逆さまの状態で置かれた二つの紙コップ。

 テーブルの向こう側には笑顔のカイルがいて、私達を手招きで誘っていた。


 ふむ。カイルの言うゲームが何か、なんとなくわかったかもしれないぞ。

 これはあれだな……コップの中に飴玉を入れて、ぐるぐる回して場所を移動させる。そして最終的に最初に飴玉が入ってたコップを当てる……ってやつ。

 正式名称はちょっとわかんないけど、多分それで合ってるはずだ。


 その証拠にカイルの口から同じような説明がされたからね。

 ふふん、さすが私だ。合ってたぞ! いえい!


「つーわけだけど、二人ともルールはわかったか?」


 テーブルの前まで来た私達にカイルが丁寧にルールを説明してくれた。

 コップは二つしかないし、これは楽勝ですね。

 子供相手だと思って手加減したカイルが悪い。ということで、この勝負貰いました、ぐふふふふ。


「うん!」

「おぅ!」

「うし。んじゃ始めっぞ。こっちのコップに飴入れるからなー。よく見とけよー」


 カイルが自分の右手側に置いてあったカップを持ち上げて、その中に持っていた飴玉を入れる。

 そして少しだけ早いけど、目で追えるスピードでぐるぐるとコップを無造作に動かしていった。

 右、左、左のまま、右……。


 ぐるぐるぐるぐる。


 ときおりコップを持たずに手だけが動く時があるけど、そんなのに私は騙されませんよ。

 ちゃんと飴玉が入ったコップから目を離さずに、ぐるぐる動くコップを真剣に見続けた。


 そしてようやくカイルの手が止まり「さ、二人とも。どっちが欲しい?」と聞く声を聞きながら、私は乾いた目をしぱしぱさせる。め、目が……。

 でもなんとか最後まで瞬きなしで観察することには成功したので、答えるのも余裕です。


 というわけで――


「こっち!」


 シドーと顔を見合わせてから、同時に右側――私達から見て右側――のコップを指差す。


「こっちでいいのか?」

「うん!」

「おぅ!」


 えぇもちろん。自信しかないのでね!


 私は大きく頷いてカイルに笑顔を向けた。

 子供相手のお遊びゲームだから、カイルが手を抜いているのはわかりきってる。

 だけど、勝負は勝負。かなりの低難易度だったから接待ゲームなんだろうけど、私は子供なのでそんなの気にしない。気持ちよく勝たせてもらいます! ありがとうカイル!


「なにが出るかなー?」


 そう言いながらカイルが左手でコップを持ち上げると、姿を現したのは当然ながら二つの飴玉。


「やったぁ!」

「ふふん、余裕すぎるな」

「おめでとう二人とも」


 結果が分かり切っていても嬉しいことに変わりはない。

 なのでシドーと二人、手を取り合って小躍りをする。勝利の舞だ。


「それじゃあ――」

「むぇ?」


 るんたったるんたった、と気分よくシドーと一緒にくるくる回っていたところ、カイルが話し出したのでそっちに視線を戻した。

 何か嫌な予感がするぞ……。


「――俺はこっちを貰おうかな」


 私達が選ばなかった方のコップ。その中から出てきたのは大量の飴玉。

 コップいっぱいに入っていたのか、支えを失った飴玉は勢いよくざらざらとテーブルに広がっていく。


「はぇ……」

「……むぅ」


 そして私とシドーはというと、目の前の光景をただ茫然と眺めることしかできなかった。


 しばらくして再起動を果たした私は、からからと楽しそうに笑うカイルに抗議の声を上げる。

 こんなのズルだー! 聞いてなーい! という私の虚しい叫びが静かな冥界に響いてたのは内緒です。

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