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黒影編5 冥界祭

本日3本目の投稿です。

 冥界祭当日、町の門前にて。

 いつものように絨毯でやってきた私達を、お迎えメンバーが出迎えてくれる。

 メンバーは騎士団から五人と、門番から二人の計七人。いつもお勤めご苦労様です。


 騎士団のお迎えメンバーは騎士団長さんが固定で、残りの四名はその時で違う。

 でも今回はそのメンバーの中にシエラさんの姿を発見し、思わず笑みが零れた。

 シエラさんはこの町で初めて会った騎士団所属の人で、素敵でかっこいい金髪のお姉様だ。

 会えば何かと良くしてくれるし、この町の住人の中でも大好きな人の一人である。


 門番のお迎えメンバー側には固定の人はおらず、毎回二人が来てくれる。

 大抵はお仕事がお休みの人達で、護衛も兼ねてこのまま一緒に神殿へと向かい、そのまま優先販売に参戦する人達だ。

 お休みなのにお仕事も兼ねてるのは良いのか? と聞いてみたこともあるが、優先販売でお酒買いに行くついでなので気にしないでくださいと笑顔で言われてしまったので何も言えなくなってしまった。


 そんな事情もあるので、お休みでも何かあったときの為に制服は着用してる。

 そうなると本当にこれはお休みでいいのかメイちゃん不安になっちゃうよ。ちゃんと休んでほしい。

 そして今回はその二人の内の一人が、いつもお世話になってるノランさんだった。


 どうやら今回のメンバーには仲良しのお知り合いが多いみたいですね。やったね。


 今日はお祭り当日なので、町を出入りする人の姿は普段より多い。

 だから迷惑にならないように、門から少し離れた場所で待っていてくれるみんなに私は軽く手を振る。

 するとみんなも私に手を振り返してくれた。嬉しいです。


 そのままゆっくりと着陸した私は、カイルに手伝ってもらいながら絨毯を影へと放り込む。

 待たせているので手早く片付け終わると、少し急ぎ足になりながらもみんなのもとへと向かった。


「お待ちしておりましたメイ様。カイル殿」

「こんにちは騎士団長さん。あとお待たせしてすみません。今日はよろしくお願いします!」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 雪がちらちらと舞う中、少し鼻が赤くなった騎士団長さんがにっこりと笑う。

 ちょっと怖そうな顔をしてる騎士団長さんだけど、笑顔はなんだか可愛くて親しみが湧いてきます。


「ノランさんとシエラさんもこんにちわ!」

「はいこんにちは」

「こんにちはです、メイ殿」


 二人ともにっこり笑顔で返してくれたので嬉しくなった私はさらに笑顔になる。

 そして残りのみなさんにも「今日はよろしくお願いします」と順々に挨拶を交わす。

 全員と挨拶が終わりふと後ろを振り返ってみると、カイルとノランさんが楽しそうに何かを話していた。


 何を話してるのかはわかりませんが、相変わらず仲が良さそうで何よりです。

 多分だけど、カイルの一番のお友達はノランさんなんだろうね。唯一猫被りが発動しない相手がノランさんなのです。


 もちろん私だってカイルのお友達だけど、私はもう殿堂入りでいいでしょう。

 ……いいよね?なんか少しだけ不安になってきたな。


「ではメイ様。そろそろ移動をしても構いませんか?」

「あっ。ちょっとだけ待ってもらってもいいですか?」


 一通りの挨拶が済んだ頃合いを見計らって、騎士団長さんが移動を促すように声をかけてくれた。

 しかし私はそれに待ったをかける。寒いのにすみません。すぐ終わらせるのでご了承くださいませ。


「どうしました?」

「えっと、みなさんに紹介したい子がいるんです」

「紹介したい子……ですか?」


 騎士団長さんの問いに一つ頷き、私は自分の足元の影に向かって声をかけた。


「おーいシドー。出ておいでー」


 すると私の声に反応したシドーがひょっこりと影から姿を現す。

 突然の怪現象に驚いたのか、みんな目を丸くさせてシドーを見ていたのがちょっとだけ面白い。

 なんだかイタズラが成功した……みたいな。そんな感情が私の胸に広がる。ふへへ。


「驚かせてすみません。紹介しますね。この子は私の新しい使い魔のシドーです。ほら、シドー。みなさんにご挨拶して」

「シドーだ。よろしくな人間ドモ」


 私に促されたシドーは軽く手を上げて挨拶する。

 しかしその声音はいつもと違って平坦だ。

 そのことに少しだけ疑問を抱きつつも、今度はシドーにみんなを紹介する。


 ただ時間的にも全員は長いと思うので、申し訳ないけど代表してよくお世話になっている三人だけにした。

 門番のノランさん、騎士団長のセドリックさん、そして騎士団員のシエラさん。この三人だ。

 彼らに前に出てきてもらい、軽く説明を交えながらシドーへと紹介した。


「騎士団長のセドリックと申します。これからよろしくお願いいたしますシドー様」

「騎士団所属のシエラです。よろしくお願いいたします」

「門番のノランです。以後お見知り置きくだされば幸いです」


 私の紹介の後それぞれが名を名乗り頭を下げてくれた。

 そして彼らに続くように後ろに控えていた人達も揃って頭を下げてくれる。


 シドーはそんな彼らを視線で追ったあと小さく一言だけ返事を返した。

 その後とくに反応はなく、少しだけ気まずい空気が流れる。


「えっと、とりあえずこの人達のことは覚えておいてほしいかな! 特にノランさんはこの町の門番さんで良く会うからね。あっ、ちなみにノランさんはカイルのお友達でもあるんだよー!」


 努めて明るい声を出しながら空気を変えようと頑張ってみた。

 その甲斐あってかシドーが少しだけ興味を示してくれたようだ。よかった。


「……カイルの?」


 本当に? とでもいうかのように頭上に疑問符を乗せてシドーはカイルを見上げた。


 うーん。なんだかさっきからシドーの反応があんまりよろしくない。どうしたんだろうか。

 出発前は元気そうだったのになぁ……お腹でも痛いのかな?


「ん? まぁ、そうだな。飲み友達ってやつだ」

「飲み……? まぁ良くわかんねぇけど、そういうことなら……まぁ?」


 カイルの答えを聞いたシドーは、ちらりとノランさんを見てからすぐに私に顔を向けた。

 どうやらもう興味を失ったらしい。


「なぁあるじ。もう挨拶は終わりか?」

「え? あぁ、うん……そうだね」

「そか。じゃあおれは帰る。祭り回るときにまた呼べ」

「えっ」


 宣言通り、言い終わると同時にシドーはにゅるんと私の影に引っ込んでいった。


 行動が早い。止める間もありませんでした。


 でも止めたとしても気まずい空気がまた流れそうなので、これはこれでよかったのかもしれない。


「あーっと……すみませんみなさん。時間取らせちゃったのにうちの子が失礼な態度をとってしまって」


 ぺこりとみんなに頭を下げる。


「お気になさらずメイ様。お見受けしたところシドー様は闇の精霊なのですよね。ならば人間に興味がないのも道理です。むしろお目通り願えただけでも我らとしては幸運なことです」

「う? そうなんですか?」

「えぇ。精霊も神と同じく滅多に人間の前に現れたりはしません。それに、人間に対しての興味関心というものも精霊ごと、属性ごとによって違うと聞き及んでおります。その中でも闇の精霊は闇を好みますので、人間社会や人間なぞには欠片も興味はない……というのが通説となっております」

「はぇー」


 騎士団長さんの説明にマヌケ面を返す私。

 知らなかった。やっぱり私もっと勉強した方がいいかも。


 そういえば魔法の訓練とか、薬の作り方なんかはよく教えてもらってるけど、ちゃんとした勉強ってしてないもんな。

 しなくても生活に支障がなかったのが災いした……いまだに文字も読めないし……うん、もうちょっと勉強がんばろ。

 まずは文字から勉強を始めよう。絵本とか買ってみるのも良いかもしれない。

 あとはカイルに教えてもらってノートにも練習しよっと!


「フフッ」

「むぇ?」


 突然笑い出した騎士団長さんに首を傾げる。どうしたのだろうか。


「失礼しました。あまりにもメイ様がお可愛らしい顔をされていたので、つい」

「……あぅ」


 騎士団長さんから笑顔で放たれた一言が私の胸に容赦なく突き刺さる。


 さすがに面と向かってマヌケ面なんて言えませんよね。でもちょっと恥ずかしいです。


「……こほん。ではそろそろ移動を始めましょうか。皆も待っておりますゆえ」

「……ぁぃ」


 騎士団長さんの言葉に小さく頷き、カイルに抱っこをしてもらう。

 はらはらと舞う雪の冷たさが、うっすら赤くなったこの顔を冷ましてくれたらどんなにいいか。

 現実は無常なり。

 私は少しでも赤くなった顔が隠れるようにと、カイルの服に顔を埋めた。


 ぎゅっとカイルにくっつくと、カイルが喉で笑っているような振動が伝わってくる。

 それに周りの空気が暖かい気もするぞ。今は雪が降ってるのに、だ。ちくせう!


 しかしさすがに神殿に着くころには火照った顔も元通りになったので、待っていた神官さん達とお酒の販売の準備を始める。


 その合間に領主の息子さんであるジェイドさんに清酒と果実酒の瓶を預けるのも忘れない。

 今回はこのお酒達は誰の手に渡るんでしょうかね。


 ちなみに領主様も毎回メインイベントの抽選に参加しているそうだが、いまだに清酒も果実酒も当たったことがないそうだ。もしや領主様……運が悪い、のかな?


 毎回抽選結果を見てがっくり肩を落としている光景を見てるので、そろそろ当たって喜んでほしさはある。うん、がんばれ、領主様!


「メイ様。優先販売の準備が整いました」

「わぁ、ありがとうございますシンシアさん。それじゃ今から優先販売を始めますので、優先権持ってる方は並んでくださーい」


 私の掛け声に非番の騎士団組や門番組、領主様のお使い組がぞろぞろと集まってくる。

 みんな行儀が良いので優先販売もスムーズに終わった。


 さて、これからが本番ですね。今回の冥界祭も恙なく終わりますように!

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