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黒影編4 シドー

本日2本目の投稿になります。次は夜に上げます。

 シドーと使い魔契約をしてから、早いものでもう三日が経つ。


「め、い」

「え、い」


 シドーと出会った初日は晩御飯を食べたあと寝るまで一緒に遊んで友好を深めました。

 そして寝る時間になれば、シドーは自分から私の影へと入っていった。

 どうやらやっぱり影の中(そこ)が落ち着くようです。フェルトス様の言った通りでした。


「おしい! もう一回。め、い」

「めぇー、い!」


 二日目は朝からシドーを呼び出して朝御飯を一緒に食べた。

 そして朝の日課を一緒にこなし、そのままいつもの日常を過ごしました。


 その合間に冥界や神域(この場所)のことを教えたり、町のことを教えたり、シドーができることを確認したりとなかなか充実した日でした。


「言えたー! すごいぞーシドー!」

「すおいぞー」


 そして三日目の今日はシドーに言葉を教えています。


 実をいうと昨日から声だけは発するようになってたのですよ。

 成長速度が速すぎてびっくりしたけど、フェルトス様によればどうやら私の教育の影響もあるらしいとわかった。


 元々精霊というのは基礎能力が高い生き物らしいので、教えたものはスポンジが水を吸うように覚えていくんだって。


 精霊ってすごい……それに比べて私は……。いや、これ以上は考えないでおこう。

 私は私。シドーはシドー。うん、それだけだよね。みんな違ってみんな良い!


「へぇー。結構すんなりと喋れるようになるもんなんだなぁ。さすがは精霊だ」

「だねぇ」

「ねぇ」

「ふへへ。まねっこかわいい」

「ふへへ」


 少年のような高い声で話すシドー。

 まだまだたどたどしいけど、フェルトス様によれば話せば話すだけ上達も早いとのことらしい。

 なので今日は一日シドーとのお喋りを楽しみたいと思います。


 今は朝の日課が終わって畑にあるテーブルで休憩中。

 シドーをテーブルに乗せて、私はその前の椅子に陣取り、カイルは私の隣に座ってる。


 そしてそんな私達の後ろではケロちゃんズがお昼寝中。

 カイルの時と同様、シドーも挨拶はしたんだけど、そこまでシドーに興味はないみたい。

 ケロちゃんズ的には新入りがまた増えた、みたいな。そのくらいの認識なのかな。


「この人はカイルだよ。カ、イ、ル。シドーの先輩ね」


 私は隣にいるカイルを示しながら、シドーが聞き取りやすいようにゆっくりはっきりと言葉を繰り返す。

 初日にみんなの名前と関係は教えてあるから、そのあたりはちゃんとシドー自身も理解はしてる。

 けど今は言葉の練習なのであえてもう一度口に出して言っているのだ。


「あいうー?」

「違ぇ。カ、イ、ル、だ」


 またもや母音しか言えてないシドーにすかさずカイルが修正をかける。

 さらに口を見ろとでもいうかのように、カイルは自分の口元を何度か指で指し示す。

 その仕草を見たシドーは素直にカイルへと向き直った。


 そしてシドーがちゃんと聞く体制が整ったところで、カイルは自分の名前をゆっくり、はっきり何度か口にする。


「か、い、る」

「か、い、う」

「おしい。もう一回」

「かいりゅー」

「もう一声」

「かいるー」

「よくできました」

「できあいたー」


 ようやく言えたシドーに笑顔を向けたカイルは優しくシドーの頭を撫でる。

 まるでお兄ちゃんと年の離れた弟のようで、そんな二人のやり取りを見ているとなんだかほっこりします。


 それにしてもやっぱりシドーは賢いなぁ。どんどん言葉を吸収していってる。

 この調子だとあと数日もすれば完璧に喋れるようになるんじゃないだろうか。

 楽しみでもあるけど……そんなに急いで成長しなくても大丈夫だよという気持ちもある……。

 むしろもっとゆっくり一緒に成長していきたいな。


 そんな気持ちを込めてカイルと戯れていたシドーの頭を私も撫でる。


「うーあー」

「ん? どしたのー?」


 するとシドーが私に何かを伝えようと口を開いたので落ち着いて待つ。

 急かさないのがポイントです。隣のカイルも興味深そうにシドーの様子をうかがっている。


「あー……あう、い」

「うんうん。ゆっくりでいいからね」

「むー。あー。あ、るじー」

「むぇ!」

「あるじ、あるじー!」

「あ、あ、あ、あ、わあああ」


 シドーの紡いだ言葉に今度は私が言葉を失う。

 今、この子、私のこと、主って呼んだ!


「あるじー!」

「わあああ! ねぇねぇ聞いたカイル! 今シドーがわたしのこと主って!」

「おぅ。ばっちり聞いたぞ。良かったな」

「すごいすごーい。シドーは天才だね!」

「しどーはてんさー!」


 親バカモード全開ですが気にしません。うちは褒めて伸ばす教育方針なんです。


 シドーを持ち上げ二人してきゃっきゃと騒ぐ。

 そんな私達をカイルが微笑ましく眺めているのを見てしまったので、そんなカイルも巻き込んで一緒に騒ぎ始めた。

 ただ、寝ていたケロちゃんズが私の声に驚いて起きちゃったのだけは申し訳ないと思います。ごめんね。


 さて、この調子でフェルトス様やガルラさんの名前も言えるように頑張ろうね。


 シドーに言葉を教え始めてからさらに一週間が経った。

 彼の成長速度はすさまじく、もう完璧に言葉も覚えたし、しっかり会話も成り立っている。

 滑舌もすっかり良くなった。むしろ私より上手です……驚いた時や、気が抜けた時とかに甘くなることもないし……どんどん私の主としての立場が……。


 気にしないようにしても、やっぱりちょっとは気にしちゃいます。がくり。


「あるじ。どした?」

「うぅん、なんでもないよー」

「そか?」

「うん。心配してくれてありがとね」


 小さくため息を吐いた私の顔をシドーが覗き込んできたのですぐに笑顔を向ける。


 一週間前までは少年のようなかわいらしい高い声だったのに、今ではすっかり青年くらいの落ち着いた声音になったシドー。

 精霊も声変わりをするんだという小さな気付きを得ましたよ。


 姿も小さなお餅フォルムじゃなくなって、私と同じ大きさくらいの人型フォルムになった。

 ただ、完全な人型ってわけじゃなくて足はない。

 地面からにょっきりと生えてるみたいな、そんな感じかな。


 でもシドーは闇の精霊。人の姿をしていても、形は自由に変えられるみたい。

 基本の形が人型で、好きに変形もできる。そんな存在です。


 あと例に漏れずシドーもお日様が苦手のようだ。

 そこはやっぱり私達と同じ属性。どうやらこれはもう私達闇の住人の宿命みたいなもの、ですかね。ふふ。


 ……自分で言っといてちょっと恥ずかしくなってきちゃった。こほん。


 だから日光が差す場所だと基本的に私の影の中にいる。

 でも一緒の空間には居たいみたいで、私の影からひょっこり上半身だけを出していることが多い。

 歩く時にちょっとだけ気を遣うけど、シドーの方も気を遣ってくれてるのかぶつかったことはない。


 反対に冥界の中とかだと薄暗いから元気いっぱいだし、自由に動き回っている。

 まさしくわんぱく坊主といっても過言ではないだろう。


 それから、私は使い魔(シドー)の顕現に関しては基本的に自由にした。

 シドーだってまだまだ子供だし好奇心も旺盛だからいろんなものを見て、経験したいだろうからね。

 私からあんまり離れることは出来ないけど、せめてそれくらいは好きにさせてあげたい。


 使い魔の原動力は主人の魔力だけど、私の魔力は多い方だからシドーが出っ放しでも問題はない。

 というか、使い魔を持ってる人は基本的に魔力量が多いんだろうし、そこを気にしてる人はいないかも。というのが私の考えです。


「えっと。清酒と果実酒よし。ビールは……よし。ウイスキーも……よし」

「なぁなぁあるじー。これ、こんなにどうすんだ?」


 これ、とシドーが指を差したのは明日の冥界祭用に用意してるお酒の数々。

 今の私は酒蔵に来ていて、お酒の瓶が並べられた箱を前に種類と数がちゃんと足りているかの最終確認中なのです。


「んー? これは明日のお祭りで売るんだよ」

「お祭り?」

「そう! お祭り!」


 首を傾げたシドーに私は笑顔で頷く。


 私はギリギリになって慌てたくないタイプなので、いつも準備だけは余裕をもって終わらせることにしている。

 だから冥界祭前日である今日はもう確認作業だけで済むという寸法ですね。

 あらかじめ明日持っていくものを一ヶ所に纏めておいて、それを出発前に影に収納する感じです。

 ちなみに酒蔵自体が保存箱みたいな性質を持ってるので、外に出さない限りは痛んだりはしない。


 いやはや本当に神様万歳です。

 便利すぎる施設や道具に慣れ過ぎて、もはや人の生活には絶対に戻れない自信がある。戻ることはもうないんだろうけどね。


「そういえばシドーは初めてのお祭りか。えっとねぇ、お祭りっていうのは人がたくさんいて、美味しいものもいっぱいあって! ……あー。えっと……とにかく楽しいとこだよ」

「ふーん」


 私の話を聞いてるシドーの表情があんまり楽しくなさそうなのに気付いた私は、苦笑いを浮かべながら雑に話を締める。

 返事も芳しくないし、やっぱり興味なさそうな感じだ。

 シドーはこういうの好きそうだと思ったんだけど勘違いだったかな。


 前回の冥界祭は一周年記念ということで、領主様達も奮発して盛り上げてくれたし、派手な花火もあってとても楽しかった思い出がある。


 でも今回の冥界祭はいつも通りの規模。

 どうせなら前回の冥界祭のときに連れて行ってあげたかったけど無理なものは無理。

 そこはちょっと残念。


 とはいえ、いつも通りといっても楽しいイベントなので、きっとシドーだって楽しめると思うんだけどなぁ。


「なぁ、あるじ」

「ん? なぁに?」

「祭り、楽しみか?」

「え? うん。もちろん!」

「そか! あるじが楽しみならおれも楽しみだ!」


 愉快そうにシドーの赤い目がにっこりと弧を描く。さらにはルンルン気分な鼻歌まで聞こえてきた。


 シドーの外見はぱっと見、影のオバケのように真っ黒で、目だけが光ってるように見える。

 人型っぽい形になったのでちゃんと顔もあるし、表情も結構豊かだ。

 そしてちょっと大きめの手には指が四本。

 さらには胸の部分に紫色の核のようなものが出来上がっている。


 なんというか……正直に言って……めちゃくちゃかっこいいし、かわいいんですよ!

 ザ、ファンタジーの精霊さんって感じですね。


 他の闇の精霊さん達もこんな感じなのかなと想像しつつ、いつか他の精霊さん達にも会えたらいいなと思い描く。


 フェルトス様によるとシドーはまだまだ成長途中らしいので、もっと大きくなるそうです。

 今はまだ私と同じ子供体型だけど、どのくらい大きくなるのかな。

 カイルくらい? はたまたフェルトス様くらい? まさかのケロちゃんズくらいとか?


 どうしよう。私の使い魔がもっとかっこよくなってしまう!


「おーいシドー。これそっちに運ぶの手伝ってくれー」

「ん。いいぞ」


 私がシドーの未来の姿に思いを馳せていると、カイルに呼ばれたシドーが影を伝って離れたカイルの影に移動した。


 私命名、影移動である。


 一度私の影に入ってから離れた場所にいるカイルの影へと瞬間移動したように、にゅっ、と出てくる技だ。


 何度見てもかっこいい。

 私もアレをやってみたいという気持ちがむくむくと育っていってます。


 一応私もアレをできるって話はフェルトス様から聞いてるけど、今の私じゃムリぽい。

 もっと実力をつけないといけませんね。

 また一つ新しい目標ができて、頑張り甲斐があるというものです。


 シドーはカイルの指示で積まれた酒樽を自分の影の体で覆いつくし、元の形に戻るとまたカイルの影へと入る。

 そして今度は私の影からにょきっと現れ、空いているスペースに取り出した酒樽をそっと置いた。


 カイルは影移動が使えないので歩いてこちらまで戻ってくると、シドーの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「いやー。シドーが来てから荷物運びが楽で助かるわ。さんきゅーな」

「ふふん! そうだろう。もっと褒めていいぞ」

「よっ! さすがはシドー様! かっこいい! 頼りにしてるぜ!」

「ふふふん! おれは力持ちだからな。こういう仕事は任せろ。それにカイルはおれより先輩だから、特別に助けてやるのも吝かではない」

「おー。あんがとなー」


 得意げに腰に手を当て、シドーがふんぞり返る。

 体内に取り込んでから影移動で運んでいるので力は関係ない気もするけど、そこは気にしない。

 ちなみに体内に取り込んだものをそのまま保存しておくか、消化するかはシドーの意思で決められるらしい。

 シドーの体自体に影収納の機能も付いてるって感じですかね。


 そんなことをぼんやり考えつつシドーを眺める。

 カイルに甘えるようにじゃれている姿がなんだかかわいくて、私もシドーの頭へ手を伸ばした。


「ところでお嬢。酒樽(これ)ここに置きっぱでいいのか?」


 酒蔵の入り口近く。今さっきシドーが積み上げた酒樽を見ながらカイルが口を開く。


「うん。あとでガーラさんが取りに来るんだって」


 今朝フェルトス様からそう言付けられた。


 実は近々、急遽神様の集まりが開催されるらしくて、そこに私のお酒を持っていくことになったらしい。これはその準備だ。

 神様基準の『近々』なので正確にはいつかはわかんないけどね。近い内ではあると思う。


 ちなみに私はお留守番。

 丸一日フェルトス様とガルラさんがその集まりで天界に行くので、何気に初めての長いお留守番である。

 でも大丈夫。今の私にはカイルとシドーという新しい家族もいるからね。

 それにモリアさんはダメだったけど、ステラも呼んでおいてもらえるようだからもう無敵だ。


 こうなったらみんなでパーティでもしようかな。

 親が出かけている間にお家でパーティ…………いいですね!


「ガルラ様はいま天界だっけか?」

「うん。ティルキス様のとこに行ってるらしいよ」


 私は酒神様である女神様の姿を思い出す。

 神様なのにいつも酔っぱらってるだらしないイメージしか出てこない。うーん。大丈夫かあの人。


「ガルラ様も大変だなぁ。――よし、んじゃ少しでもガルラ様の手間を省けるように俺らも気張って作業するか」


 これは秘密だけど、どうやらティルキス様は私のお酒を飲む気満々のようで、今回もお仕事をサボったと聞いた。

 そのせいでまたガルラさんがヘルプで駆り出される羽目になったとか……。

 私のお酒だけじゃ足りないからって要請されたようなのに……本当に駄女神様だよあの人は。


「それが終わったら畑に行ってトマトの収穫ね」

「了解。とりあえずこっちはやっとくから、お嬢はそれ頼むな。んじゃシドー、行くぞー」

「ふふん。力仕事はおれに任せろ」

「おっ。頼もしいな」

「二人ともよろしくねー」


 去っていく二人の背中に手を振り見送る。

 私は冥界祭の最終確認を済ませてから二人のお手伝いに参戦だ。


 といってもシドーが次々運んじゃうだろうから私の出番はないだろうけどね。


 それにしても今回でごっそりとお酒の在庫が減る。

 なので明日からまた地道に在庫補充を頑張ろうと心のメモ帳に記入した。


 とりあえずフェルトス様とガルラさん、そしてカイルの飲む分くらいは優先的に造らないとね!

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