黒影編3 お勉強
本日3本投稿予定です。次話は昼に上げます。
「よし。では次は眷属と使い魔。そして双方の違いなどを教えてやる」
「はーい!」
フェルトス様の言葉に右手を上げ返事を返すと、隣に座っていたシドーも同じように手を上げた。
私の使い魔が可愛すぎる。
「まずは使い魔だ。使い魔とは魔力で契約した者のことをいう。そしてその契約者は使い魔の魂を握っている……それは実際に貴様も実感しているだろう?」
「あい」
「それゆえ契約者にとって使い魔とは使い勝手のいい存在ともいえる。むしろ自身が使える手足が増えた、と考えても間違いではない」
「はぇ……」
なんか使い魔の扱いが雑な気がするのは気のせいかな?
チラリとシドーに視線を落とすと、もう飽きちゃったのかそわそわと体を揺らしていた。心ここにあらずといった感じだ。
いいのか君はそれで。そして飽きるのが早いよ。もうちょっと頑張ろうよ。
「次に眷属だ。とりあえず今は血の眷属の説明をする」
「はーい」
「血の眷属とは読んで字の如く血で契約した者のことをいう。契約者の血を取り込むことで己の見た目や能力が変化するという特徴があるな。これは貴様も経験したのでわかりやすいだろう」
「たしかにー」
これは実際に体験しているのでわかりやすい。
あのときフェルトス様の血を飲んだら髪が黒から紫に、目は黒から赤に色が変わった。そして牙なんかが生えたりもしたね。
あと、地味に耳の形が変わってたりもする。耳の先の方がちょっとだけ尖ってる、みたいな。そんな感じ。
でもほんとに些細な違いだからあんまり気にしてない。気付いた時にはびっくりしたけど。
「……ふむ。ついでだ。これも教えといてやるが、自身で創り出したものの場合は、真名や契約などは不要になる」
「なんでですかー?」
「その過程で契約を組み込んでいるからだ」
「なるほどー」
フェルトス様の説明にうんうんと頷き返す。
だからモリアさんにはお名前がなかったわけですね、納得しました。
「だがすでに存在しているものを使い魔とする際には真名が必要になる。今回の場合で言えば貴様の考えたシドーという名があの幼体の真名ということだ」
「ふむふむ……って、あ! ダメだよシドー。ちゃんとお話聞かないと!」
やっぱり話に飽きてたのだろう。
いつの間にかシドーは私の隣からカイルの頭の上に移動していた。それはもう楽しそうにカイルの頭の上で跳ねている。
カイルはどうしていいのかわからず困った顔をしているだけで、怒ってもいなさそうだし、降ろそうともしていない。寛容だな。
そしてそんな二人を見てガルラさんは小さく笑ってる。
呼び戻せばカイルから降りて素直に戻ってきたけど、なんだかしゅんとしてしまった。
人間でいうと肩を落とした、みたいな? 小さくなっちゃった、みたいな? そんな感じだ。
まだ小さいシドーのそんな姿を見てしまい、少しだけ罪悪感のようなものが胸にこみ上げてくる。
「……まぁ。メイが理解していればいい」
「いいんですか?」
「あぁ。おいシドー。飽きたのならばその辺で遊んでいてかまわんぞ」
フェルトス様のお許しに、さっきまでのしゅんとした態度はどこへやら。
マジですか! やったー! みたいな雰囲気を醸し出しながらシドーは元気に駆けだしていった。
まるでやんちゃ坊主のようだ。今の私より小さいようだから仕方ないっていえば仕方ないのかな。
「あまり離れるなよ。見えるところで遊んでいろ」
「怪我しないようにねー」
そのまま遠くまで遊びに行きそうなシドーにフェルトス様が一言釘を刺す。
するとぴたりとシドーの勢いが止まり、少しだけこっちに戻ってきてから一人遊びを始めた。
うん。やっぱり素直でいい子だ。
「続けるぞ。次に眷属と使い魔の違いだが――」
その後もフェルトス様の講義は続いた。
フェルトス様の話をまとめるとこうだ。
眷属と使い魔の大きな違いは二つ。
まず一つ目が自由度。
使い魔は契約者である主人の許可なくあまり離れることはできない。
そして普段から顕現させるかさせないかも主人によるらしい。
だから呼ばれない限りは契約者である主人と存在を共にするようだ。
それに比べて眷属にはその制限がなく自分の意志で自由に移動できる。一つの個として独立しているし、確立しているのだ。
つまり、モリアさんはフェルトス様に呼ばれない限り表に出てこれないし、遠くへ行くのにもフェルトス様の許可がいる。
でもガルラさんや私はそんなの必要ないし関係ない。
シドーの場合は闇の精霊なので、その特性上私の影に住まわせておけばいいとのお言葉もいただいた。
呼ばないと出られないなんてちょっと可哀想じゃないかと思ったけど、使い魔本人的には気にならないらしい。
あとで本人にも聞いておこうと心のメモ帳に記入。
そして二つ目が能力の差。
眷属は主人の血を分け与えられたことによって主人の能力の一部が使えるようになったり、能力の向上がみられる。
反対に使い魔は自身が元々持っている能力以上の力は使えないし、使い魔になったからといって能力が向上することもない。
私がいつの間にか影収納能力とか使えるようになってたのはそういう理由らしい。
フェルトス様の話ではカイルも私の眷属なので影収納が使えることは使えるらしいけど、今のままじゃ魔力量がまだ少なくて私達みたいに自由に使うのは無理とのこと。
意外と使う際に制限があったんだね。普通に使えちゃってたから知らなかったや……。
ここからさらに血の眷属と普通の眷属の違いなんかも説明してもらったけど、とりあえず割愛します。
でも今回詳しく説明してもらったおかげで、なんとなくの違いはわかったのでちょっとすっきり。
一通りの説明が終わり、混乱しそうになる頭を纏めていてふと思う。
もしカイルが眷属じゃなく使い魔を選んでいたらちょっと大変なことになっていたんじゃないかな、と。
あの時は流れと簡単な説明だけで詳しくは聞かされてなかったからなぁ。危なかった。
フェルトス様にとっては人間が眷属になろうと使い魔になろうとたいした違いなんてないって本気で思ったから説明を省いたんだろうけど、私にとってそこは大きな違いだ。
これからは使い魔にする人は選ぼう。というか人間を使い魔にするのはよそう。そう心に誓った冬の日の午後だった。
「ついでだ。メイ、そろそろ貴様にも本格的な影の使い方を教えてやる」
「う? 本格的?」
「そうだ」
そういってニヤリと笑ったフェルトス様の顔はすごく悪人顔でした。カッコいいです。
そしてそのままフェルトス様から師事を受けつつ練習すること数時間。
「わぁ……なんていうか……改めて自分が人外化していってるって自覚するなぁ」
自分の影から触手みたいなのが出ていて、うにょうにょと蠢く目の前の光景。
そんな光景を目の当たりにした私の口は、気付けばまぬけに開いていた。
いやこれ自分でやっといてなんだけど……ちょっと気持ち悪いな。
「さっすがお嬢。こんなこともできるなんて、かっこいいぞ!」
「え、そう? でへへへ照れるぅ!」
だけど私の練習を隣でずっと見守ってくれてたカイルに褒められたことで、ちょろい私はすぐに上機嫌になってしまった。
いやぁ本当にちょろすぎないか自分。でも嬉しいから気にしない気にしない。
この触手みたいなのは私の意志で自由に動かせるし、影自体の形を変えたりもできた。
これは攻撃したり防御したりなんかにも使えるようだけど、私の場合は荷物持たせたりとかの使い方の方が多くなりそう。地味に便利な能力を教えてもらってしまった。
他にも使い方があるらしいけど今日のところはもう時間がないのでこれで終わり。
説明だけはしてもらったのでまた今度練習しようと思います。
「初めてにしては上出来だ。やはり貴様には素質がある。その内ガルラも追い越すのではないか」
「むへへへ……いやいや、しょれは言いしゅぎ……むふふ」
「いやほんと。オレもうかうかしれらんねぇなー」
「えー、ほんとにー? にゃはは」
お世辞とわかっていても保護者二人に褒められて悪い気はしない。
すみません嘘です。謙虚に言い過ぎました。本当はとてつもなく嬉しいです。
それはもうほっぺたがふにゃふにゃになるくらい。
ニヤけた顔が元に戻りませんね。ふへへ。
「――わっ。え、シドーも褒めてくれてるの? ありがとー!」
にへにへ笑っていると、突然シドーが私の肩に飛び乗ってきた。
そして体を私のほっぺに擦り付けてすりすりしてくれる。
もう、みんなそんなに優しくしてたら、私は調子に乗ってしまいますよ。
というかもう乗ってるか。でへへ。
「さて。そろそろ引き上げるか。飯の時間だ」
「はーい!」
フェルトス様の号令に締まらない顔のまま手を上げて答える。
すると肩の上にいるシドーも私と同じように手を上げた。
私の真似っこをしてるのがわかり愛しさが増す。
この子本当にかわいいです……!
責任もって大事に育てようと固く心に誓いました。
それじゃあ、これからよろしくね、シドー!




