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10 お出掛けの準備

「ごちしょーしゃまでちた!」

「よく喰うな」

「うっ、ごめんちゃい……」

「かまわん」


 調子に乗って食べ過ぎたかとしょんぼり反省してたら、頭の上に大きな手が乗った。

 そのままわしゃわしゃと私の頭を撫でる大きな手がとても気持ちいい。むへへ。

 先程のしょんぼり気分も一気に和やか気分に上がったというもの。


 そして、フェルトス様の血という名のご飯はとっても美味しかったです!


 お腹が満たされ、機嫌も良くなった私はほっぺを押さえながらニマニマと笑う。


「う?」


 そうしてフェルトス様の血の味の余韻に浸っていれば、突然フェルトス様が私の口元を拭った。


 え、汚れてました? 恥ずかしい!

 ちょっとフェルトス様! 笑わないでください!


「ふふっ。とりあえず腹は満たせたか?」

「……あい」

「ならばよし。……少し離れていろ」


 あまりにも恥ずかしくてまともにフェルトス様の顔を見られない。

 なので下を向いたまま返事をすれば、下がっていろと手の合図が視界に入る。


 よくわからなかったけど、とりあえず言われた通りに素直に従う。

 ベッドまで下がったところでオーケーの許可が出たので、そこで足を止めた。


 何をするのかと興味津々でフェルトス様に視線を注ぎます。


「さて、どうするか」


 するとフェルトス様は何かを悩みながらも、手品のように何処からともなく杖を取り出した。


 セシリア様もやっていたけれど神様ってすごいな。

 もしかしてあれが魔法なのでしょうか。私もできるようになるのかな?


 そんなことを考えつつわくわくした気持ちでフェルトス様を見守る。


「ふむ。アイツでかまわんか」


 装飾品がたくさんついた杖はフェルトス様の身の丈ほどもある大きさ。


 絶対私には持てない大きさですね、あれは。


 そのかなり大きな杖をフェルトス様は右手で軽く持ち上げた。

 そしてそのまますっと真っ直ぐに降ろして地面を軽く叩く。


 カツンッ! と小気味良い音が響くと同時、地面が光って魔法陣が浮かび上がった。

 さらにフェルトス様が何かを呟くと、魔法陣から放たれる光が強くなる。


「まぶちぃ」


 私は眩しい光に目を細める。

 キラキラした光が周囲に飛び散るとともに、光量もだんだんと小さくなっていった。


「ほわぁ」


 空中に光の粒が舞い散る光景。それがとても幻想的で見たこともないほど綺麗だった。

 その光の粒が溶けるようにして消えてしまうのを最後まで見届けた私は、上げていた視線を元に戻す。

 視界に入ったのは杖を持ったフェルトス様と――


「猫ちゃん?」


 ――丸い黒猫らしき存在がいつの間にか出現していた。


 フェルトス様の目の前にあった魔法陣は綺麗さっぱり消えており、かわりに現れたのは全身真っ黒のちょっと大きな猫さんだった。


 私からは後ろ姿しか見えなくて猫さんがどんなお顔をしてるのかはわかりませんが、まあるいお耳がすごくキュートです。

 腰から生えている尻尾は二本だし、さらに背中には小さな羽も生えている。

 出現の仕方からして普通の猫ではないとは思いますが、なんてファンタジーな存在なのでしょうか。


 それはそれとして丸っこくてかっわいいー!


「メイ。こちらへ来い」

「あい!」


 フェルトス様に呼ばれてウキウキ気分で近付く。

 猫さんは私を怖がる様子も見せずに、フェルトス様をじっと見上げていた。


 近くで見るといっそうかわいい! こっちを見てくれないかなぁ。


 そんなことを考えながらにこにこと笑う。


「コイツはこの冥界に住む獣だ。町にはコイツを供として連れていくがいい」

「ねぇねぇフェルしゃま。この子の名前はなんていうんでしゅか!」

「名はないな。呼びたければ貴様がつけてやれ」

「いいんでしゅか?」

「コイツらは(はなす)ことはできん。しかし貴様程度の知能はある。嫌ならば拒否するだろう」


 なんですと!? 私程度ということは一般的な大人レベルということですよね?

 それはかなり賢いんじゃないですか!


 ……いや待てよ。もしかしてバカにされている可能性もあるのか?

 だってフェルトス様は私のことを完全に子供だと思っている。色んな意味で。

 もちろんそう思われるような振る舞いをしてる私も悪いんだけどね。


「むー」


 どっちだろう。

 人間の子供くらいの知能か。はたまた大人くらいの知能か。


 うんうん悩んでいたら足にふわふわしたものが触れた。

 ふと視線を下げると、そこには思った通り、猫ちゃんが私の足へ頭を擦り付けているではありませんか。


「ふへへ。かわいいー」


 悩みなんてもうどうでもいいやという気分にさせられます。


 すぐさましゃがみこんで改めて猫さんに向き直った。

 黒くて大きな瞳が印象的な猫さん。

 よく見るとその大きな瞳がきらきらしていて、まるで夜空に星が舞ってるようだ。


「よち、決めちゃ。キミの名前は『しゅてら』! どう、気に入っちゃ?」

「シュテラ?」


 ぼそりと呟かれた疑問の声に顔を上げる。

 そろそろ私の舌足らずをくみ取ってくださらないだろうか。


「違いましゅ。す・て・ら、でしゅ!」

「そうか」


 欠片も興味がなさそうな声が返ってきました。


「むー!」


 いいもんねー!

 フェルトス様に気に入っていただかなくとも、猫さんに気に入ってもらえたらそれでいいんですー!


 期待薄なフェルトス様から視線を外し、私は再度期待を込めて猫さんを見る。


「どう?」


 猫さんはじっと私のことを見つめて動かない。

 大きな瞳に見つめられてちょっと照れますね。


 あれ? この子、普通の猫と違って鼻や口が見当たらないな。

 真っ黒だからわかりづらいだけなのかな?


「はわ」

「フフッ。どうやら気に入ったようだな」


 私が猫さんの鼻や口を探していると、そっと私に近付いてきた猫さんが小さなお口で私のほっぺたをペロペロと舐めはじめた。

 ザリザリした感触が頬を撫でる。


 どうやら口はあったみたいです。

 そしてこの子も普通の猫みたいに、舌がザリザリしてるから舐められ続けると少し痛い。けど嬉しい!


「わたしはメイだよー。よろちくね、しゅてらー」


 言葉を話せないステラから、よろしくと言わんばかりに頭突きを頂きました。


 もちろんかわいいから許します。痛くもないしね。


「では次だな」

「う?」


 そうやってステラと戯れて遊んでいると、フェルトス様が指を鳴らす。

 高い音が響いた次の瞬間にはフェルトス様の頭の近くにバレーボールほどの黒い球体が出現しました。


 なんでしょうか、あれ?


 疑問符とともに現れた球体をじっと見つめる。

 すると突然球体はぐにゃりと歪み、小さな黒い塊として分裂しはじめた。


「ひょわっ!」


 あまりに突然のことに驚いた私は、咄嗟にステラを抱きしめる。

 肌に浮かんだ鳥肌が気持ち悪いです。


「みぇ……」


 情けない声を出す私を無視し、フェルトス様の周りでキィキィと鳴き声をあげる小さな物体。

 それはよく見るとデフォルメされたような。丸い体の小さな蝙蝠の群れだった。


 一匹だけならかわいいと思えるはずの紫色をした小さな蝙蝠達。

 だけどそれが大量に飛んでいると、可愛いというより怖いという感情が先に来てしまう。


『お呼びで?』


 一匹だけ他の蝙蝠より大きくて色の濃い個体がフェルトス様の前に出て話し始めた。

 ただ、実際に声を出しているのかはよくわからない。

 ちゃんと喋っているんだけど、なんというか……変な感じだ!

 実際に体験したことはないけど、念話的な? 脳に直接聞こえる! みたいな。そんな感じ。不思議な話し声だった。


「あぁ。メイとステラを町まで送ってやれ」

『メイ? ステラ?』

「そこにいる人型の子だ。オレの新しい眷属にした。ステラはそこのメテオルの名だ」


 聞き覚えのないメテオルという言葉に疑問を抱くが、恐らくはステラの種族名か何かだろう。

 そう当たりをつけた私は二人のやりとりを黙って眺める。


『ふむ』


 こっちを見た蝙蝠さんと目が合った。

 くりくりおめめがかわいいですね。


「こんちわー」

『……なるほど。承りました』


 見た目は可愛いけど、聞こえてくる声がかなりの低音でギャップがすごい。

 声がかっこいいですよこのミニ蝙蝠さん。


 そんなこんなで蝙蝠さん達と軽く挨拶を交わすと、フェルトス様は私達を置いてさっさと飛び立ち出掛けて行ってしまった。


 そして残された私とステラと蝙蝠さん達。少しだけ気まずい空間です。


「あにょ、こうもりしゃん」


 他の小さな蝙蝠さん達は話せないようなので、大きな蝙蝠さんに話しかける。


『なんだチビスケ』

「こうもりしゃんはお名前なんていうでしゅか? わたしはメイでしゅ、よろちくお願いちまちゅ」

『あぁ、よろしく。それと名前だが。ワシに名前はない。呼びたければ好きに呼べ』

「いいんでしゅか?」

『あぁ』


 仲良くなる第一歩として名前を聞いてみるも、ステラ同様蝙蝠さん達にもお名前はないようだ。

 もしかして冥界の住人さん達には名前がないのかしら?


「んー。じゃあこうもりだかや『モリア』しゃん」


 完全に音の響きで付けました。てへっ。


『モリアか……ふむ、わかった。次からはそう呼べ』

「あい! えっちょ。しょれでモリアしゃん。町まで送ってくえゆんでしゅよね?」

『あぁ。そういう命令だからな。任せておけ』

「……でもどうやっちぇ?」


 もしかして歩いていくんでしょうか。

 町までの距離がどの程度あるのかわからないけれど、徒歩だと今日中に着けるか怪しい気もしますよ。


 そう思い私が聞くと、モリアさんは『見てればわかる』とニヤリと笑った。

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