第60話 剣術大会
大会当日に起こった騒動は内々に処理され、事実を知る者は少ない。
主犯のローマン教頭、ノア公爵、隣国ラスティマの王太子殿下は抵抗せずに捕縛され、兵士たちによって連行された。これからそれらについての会議が開かれるらしい。
ハンナのほうはあの後、お義母様と侍女のサリーとエリナーと共に戦場を変えたようだ。私はお義父様に手を取られて、自分たちの分までベルナルド様の応援をしてほしいと言われてしまった。お義父様はすぐにお義母様の元に駆けつけたのだろう。
大会は当初の予定通りに行われ大いに盛り上がった。魔法対戦ではアイリス様の完封勝利に終わり、剣術大会ではルディー様とベルナルド様の一騎打ちが白熱した。
激しい剣戟に怒濤の攻めは凄まじく、誰もが息を呑んだ。
しかも途中でルディー様が「私はシャーロットを愛している。貴公に勝ったら告白をする」と言い出したことで、ベルナルド様の剣技に鋭さが増した。
「そうか、ならこちらも全力で潰す」
「望むところだ」
会場の熱が一気に最高潮に達した。
盛り上がる観客席、白熱する戦い。
私も観覧席で両手に汗を握りながらベルナルド様を応援した。というかもう「キャー素敵。ベルナルド様」とか「格好いい、好き!」という感じの言葉を連呼していたらしい。恥ずかしすぎる。
キィン、と金属を響かせルディー様の剣が折れたことで、最終的にベルナルドの勝利となった。
「勝者、ベルナルド! 決勝戦の一人が決定しました!」
大興奮する歓声と共に拍手が贈られた。
ベルナルド様はすぐさま会場を去るかと思ったのだが、ずんずんと私のいる観客席にやってきて唐突に跪いた。
「え、あ」
「シャル、この勝利はお前に捧げたい」
「ベルナルド様」
差し出されたベルナルド様の手を掴んだ。
近くの観覧席からは、歓喜と祝福の声が湧き上がる。できるのなら今すぐにベルナルド様に抱きついて温もりを感じたい。そんなはしたない気持ちをグッと堪える。
近くで見ると至る所に切り傷を作っていて服に血が滲んでいて、血の気が引いた。
「ありがとうございます。でも、あの、傷の手当てを」
「ん、ああ、そうだな。見た目は酷いかもしれないが傷口は全部浅いし問題な」
「ダメです。自分を大事にしないベルナルド様は好きではありません」
「ぐっ……わかった。医務室に行ってくる……付いてきてくれるか」
「勿論です!」
私とベルナルド様は観客席から離れる。
すでに決勝戦の相手となる試合が始まっていた。なんの悪戯かアルバート殿下の対戦相手はベアト様だった。しかも互いに本気の本気で凄まじい剣戟が繰り広げられていた。
勝敗が気になるものの、ベルナルド様を医務室に届けるのが先決だと思い、心の中でベアト様にエールを送った。
***
医務室には先にルディー様が手当を受けていた。
傷が深いのは治癒魔法を使うが、さほど酷い傷でなければ自己治癒で直すため薬草と包帯で処置することが多い。これも肉体の負荷を軽減するためだとか。
「チッ。まだいたのか」
「ああ、誰かさんの剣技は重たかったからね」
冗談めいたことを言いつつ、ルディー様は私を真っ直ぐに見つめた。目をそらすこともできたが、そうしなかった。
「一度ぐらいベルナルドに勝って、私が本気だと言いたかったのだけれど上手くいかないものですね」
「ルディー様」
「ベルナルドとの戦いで負けた以上、君の恋人になることは諦めるよ。……代わりに私と友達になってくれないかな」
「ともだち……ですか」
「ああ。文通とか他愛のない話なんかでもいい。どんな形でも君との関係は断ち切りたくない」
真剣な言葉に私はいろいろ考え、視界の端に入るベルナルド様の顔を見た。彼は「そこまで器は狭量じゃない」と言ってくれた。
「(確かに今後もルディー様とやりとりした方がヤンデレ回避率も上がるだろうし、悪い人でもない)友人としてなら、喜んで」
「よかった」
「……本当に友人として、だからな」
「ああ」
話をしている間に、ハイド卿とそのご息女が訪れた。ルディー様に似て顔立ちが整っている妹さんは美人さんだった。
「兄様。すごくかっこよかったです!」
「残念だったが、三位決定戦はまだある。今のうちに回復しておくといい」
私とベルナルド様がハイド卿の屋敷に居た頃よりも両親や妹さんとの距離が縮まっている。それに雰囲気も明るい。この半年に間に彼は彼なりに家族と向き合って歩み寄ったのだろう。ベルナルド様も驚いていた。
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次回は明日8時以降の予定です。
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