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第59話 ヒロインであり聖女アイリスの視点2

 真っ白な火花ともに光が会場内を包んだ直後、ローマン教頭と私だけが《オレオルの森》へと転移魔法で移動した。鬱蒼と生い茂る森の中で、とある遺跡の跡地にローマン教頭は佇んでいる。


「くそっ、くそっ、くそ! また失敗した。また……!」


 魔方陣の失敗に彼は地面を叩き叫んでいた。魔獣事件、そして今回の一件でも悉く私たちに先手を打たれて、失敗したことが相当腹立たしかったのだろう。


「ローマン教頭、いい加減諦めたらどうです。そんなことをしても、花女神と会うことはできませんよ」

「はっ、小娘に何が分かる。この計画にどれだけの年月と労力をかけたことか! 何度やってもどうあっても、天界の門は私を拒絶すると言うことか!」

「わかりますよ、ローマン教頭……いえ()()()()。私はずっと地上でずっと貴方を見てきましたから」

「なぜ、その名前を」


 クライン、それは花女神である私の権能を奪った男の名前。私の愛した男の名前でもあった。

 一つの事実を開示することで、ローマン教頭は目を見開き、爪先から頭のてっぺんまで私を見つめる。当時の面影はあまりないが、瞳の色は変わっていないはずだ。

 もっとも儀式を成功させるためだけに生きていた彼が私の目を真っ直ぐに見つめたのは、前回と今回だけだ。


()()()()()()……まさか」

「そのまさかよ。天界の門を開いても、そもそも私は天界にはいないもの。会える訳ないわ。……でも私はそれを知っていても、私を裏切った貴方を許せなくて黙っていた」

「許せないのは当然だ。……私はカーディナルと一緒になりたくて《赤い果実》を口にした。君を騙して、油断させて、傷つけた」

「ええ、そのせいで私以外の神も権能を奪われた。呪われて当然だわ」


 力なく彼は膝を突いて私を見上げている。ようやく私を視界に入れてくれたようだ。

 本当は彼が私に気付いてくれたのなら、すぐに許すつもりだったけど、彼は私が天界に居ると思い込み周りを見ようとしなかった。

 私も意地を張っていたのだ。


 クラインの手紙を読んだときから彼の目的は分かっていたのに、許せなかった。本当は彼が今も好きで、「愛している」と伝えたかった。

 あまりにも長く転生を繰り返す内に、私に気付かない彼に苛立って腹が立ったのだ。素直になれなかった私の気持ちを変えたのは、シャーロットだった。


 一周目で彼女はあの氷の心を持ったベルナルドを変えていったのだ。鋭く、冷たく、絶望の淵に立っていた青年の心を見事にすくいあげて、結ばれたのだから。

 まっすぐに愛し続けた彼女の生き方を、私は尊敬する。前回も彼女が居てくれたから私は彼を許そうと思えたし、素直になれた。


「貴方の計画をめちゃくちゃにして、私を見るようにしようとしたの。それでも貴方が私に気付くかどうかは半分賭だったけれど」

「……っ、また私は視野を狭めて、手が届くところに最愛の人が居ながら、気付いてなかったのか」


 絶望と失意の中でローマン教頭は私の話に耳を傾けず、自爆する可能性もあったのだ。

 その賭は勝ったのだろう。私を見つめる彼はあの頃と何も変わっていない。

 溢れんばかりの──重すぎるような愛情を私に向ける。


「カーディナル……後生だ。……一度だけでいい。貴女に触れる許可を……」

「ダメよ。……私が貴方に触れるの」


 ローマン教頭が返事をする前に、私は彼の腕の中に飛びこむ。

 抱きついた彼は驚いたけれど、しっかりと私をきつく抱きしめた。髭が少しジョリジョリしていたかったけれど、それでも久し振りに感じた彼の温もりは心地よかった。


「やっと私を見てくれた」

「カーディナル。愛している、本当だ。どんな手を使ってでもずっと貴女に伝えたかった。あの時の思いを」

「……あの頃の私は、人間の多感な感情が理解出来なくて、ただ裏切られたことが悲しくて、辛かった。でも長い、長い年月をかけて人とともに生きてクラインの気持ちが少し分かるようになったわ。……それでも意地になって、地上にいると言い出せなかった」

「カーディナル」

「ここに辿り着くまで沢山の人と出会い、たくさんのことを教わったわ。その経緯があった今だからこそ貴方を許せるし、もう一度やり直そうと思えるようになった」

「本当に? ……いやしかし、もう私は年老いてしまって君とまったく釣り合わないのでは?」

「そんなことはないわ。この世には枯れ専という属性があって──つまりは今の貴方が、好みだと言うこと。そういう趣向や性格なら、あの頃と大分変わってしまったかもしれないけれど、そのあたり、クラインはどうなの?」


 少し抱きしめる力を緩め、私を見つめる彼は「ふむ」と考え込みつつ呟いた。


「正直、いろいろありすぎて思考が追いつかない部分があるけれど、年齢差的に犯罪ではないのかな。君と私は親子ほどの年が」

「そういう御託はいい。年齢を持ち出したら、元女神の私に勝てるはずないでしょう」

「そ、それは……たしかに」


 変なところで常識人な彼に笑ってしまった。何度転生して容姿や性格など変わってしまったところはあるけれど、根っこは変わってない。それがなんだか嬉しい。


「急がなくても、これからお互いに接点を持って関わっていけばいいわ。またゼロから貴方に恋をするのも面白いもの」

「……ふむ。となるとまずは自分が処刑台に立つのを回避するところから始めなければならないか」

「ああ、それなら──もう手は打っているわ」



お読みいただきありがとうございました(о´∀`о)

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次回は19時以降の予定です。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・イイネもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡嬉しいです!

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