第58話 ヒロインであり聖女アイリスの視点1
花女神の生まれ変わり。
遙か昔、花女神から力を奪った人間は私が最も愛し、最も憎んだ人だった。彼は私を天界に帰したくなくて、その権能を奪ったと言う。
そんなことをしなくても、私は彼の元に残るつもりだったのに、彼は他の人間たちを焚きつけて神の権能狩りを始めた。
私を愛しているから権能を奪ったのではなく、権能が欲しかっただけなのだと思い知らされた。他の花女神たちの囁いた声が、呪いとなって耳に残る。
愛していた訳じゃない。
力がほしかっただけ。
だから彼らは私たちを利用した──。
ただ力がほしかっただけ。
仲間の言葉を信じて「愛している」と言ってきた彼の手を振り払って旅に出た。
彼を愛していたからこそ、憎くて──だから呪ってやった。
沢山苦しんでやればいいと。力を得た代償を支払わせてやった。それがのちに魔力暴走と呼ばれる呪い。
次に元の国に戻ったら、男は死んでいた。
何十、何百という手紙を残して、あっという間に死んでいったそうだ。
沢山後悔して、絶望して、苦しんだという。
最期の手紙は震えた字で「何度生まれ変わっても必ず君を天界から連れ戻す」と書かれていた。彼は死ぬまで私がこの地を離れたことを「天界に戻った」と勘違いしたのだ。
私は旅に出てずっと地上にいたのに、ずっと天界に向かう方法を考えていたようだった。
最期まで馬鹿な人。
私も──意地になっていた。
私は何度か転生を繰り返し、人という存在がどういう者なのか知った。
あの男も転生を繰り返して、天界の門を開く方法を模索しており、そのたびに失敗を繰り返してあっけなく死んでいく。何度目かの転生で、聖女アイリスとして生まれ変わった。
この時代において『時戻し』の能力を持った人物が数人出現してしまったことにより、無限ループが生じ未来が閉ざされてしまった。
一人目はマクヴェイ公爵家当主、ベルナルド。
二人目は公爵令嬢、ベアトリーチェ。
三人目は天才魔法使い、ルディー。
特にこの時代は、魔力を多く持つ者が多く魔力暴走も頻繁に起きた。それによりこの三人が様々な理由で、時間を戻し続けた。
何度も、何度も。
自らの過去を清算し、未来を変えるために足掻き続けた。
ルディーは自らが壊れたことで、何度も時を戻し、ベアトリーチェは愛する者の死に耐えきれず、あるいは自分が殺される瞬間に時を戻し続けた。どうあってもハッピーエンドになることのない未来。
それは魔力暴走による死亡確率が高いから。
私はこの世界線を解決するため、あらゆる次元に情報を発信し続けた。
それが遙か彼方の別次元、チキュウと呼ばれる星では《DEMISE OF FLOWERS》、通称ディフラとして誕生し、死亡率97パーセント鬱ゲー世界といううたい文句のゲームが発売した。
その結果、ハッピーエンドの解決方法を見いだすキッカケとなり、この世界にこのチキュウで一時生活してみることを思いついた。
単なる気まぐれだ。
繰り返される時間軸の僅かな隙間。
ある不良少女の体に憑依する。
そこでスケバンという文化を知り、バイクを走らせて楽しんだ結果事故って入院。
なんとも自分の間抜けぶりというか、羽目を外してしまったと思った。この世界は娯楽に溢れ、秩序もあり、生きているのがとても楽しいと久し振りに感じたのもあったのだろう。
そんな折、病院でシャーロットと出会った。
元の名前は花の名前に似ていた気がする。
彼女はディフラを心から楽しんでいて、私の元いた世界を心から好いてくれていた。
中でも攻略キャラでも隠しキャラでもない、死亡率がとても高い、ベルナルドを好きだと言った時は驚いた。
彼女は二十歳まで生きられないという。
だから死亡率97パーセントのゲームであっても、残り3パーセントも可能性があるのなら、全員救えるルートをコンプリートすると意気込んでいたのだ。
「もしできるのなら、ベルナルド様が幸せになるルートがほしいです! うんん、登場人物全員が死なない大団円のルート。特にアイリス様とローマン教頭は悲しすぎるでしょう。ほんの少しどちらかが歩み寄れば幸せになるのに!」
「アハハハッ、大団円ルートか。そんなのがあったら私も見てみたいよ」
「なら私が見つけ出して見せます! もしかしたら裏ルートが……」
「ぷっ、アハハハ。本当に──は」
その日から、私は彼女が好きになった。
それと同時に、彼女が閉じた世界を変えてくれる──そんな期待を抱いた。
元は女神なのだ。彼女が延命できる《疑似種子》をハイド卿に渡して、王家に神託することも容易い。もっともその程度しか力が残っていないのだ。
元々異世界転生することで、状況を変えようと王侯貴族たちが考えていたこともあり、異世界転移の儀式はアッサリと許可が下りた。
ハッピーエンドではなく、トゥルーエンドによって被害者が最も少ない未来が生じた刹那、一番厄介だったルディーを狂人に仕立て上げた人物がいた。
その存在だけは確認できたが、特定する前に私は死亡してしまい最悪の終わりになる。数年先の未来を切り開くものの、この世界は閉じたまま。
しかし今度の《時戻り》は違った。
ベルナルドは《赤い果実》を口にして《時戻り》の能力を底上げすることで、私以外にも以前の記憶を保持したまま過去に戻ったのだ。それにより最悪の未来を回避するため各々が動き、その結果未来はゲームシナリオでも、今までのどの未来とも異なる世界線に突入した。
魔力暴走で攻略キャラが誰も死なず、精神崩壊も、ヤンデレによる事件もない。なによりベルナルドの両親の健在により、シャーロットの受け入れ体制も万全になった。
ベルナルドに慕われ、絆を深めることでシャーロットも成長し、それが周囲の人たちにも影響を及ぼす。
小さな波紋が大きな波となり、世界を鮮やかにする。
そして今、最終決戦で私は彼と向き合う。
儀式失敗で自爆するつもりの彼を説得する──それが私のできることだ。
お読みいただきありがとうございました(о´∀`о)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次回は明日8時以降の予定です。
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