第57話 私にしかできないこと
ベルナルド様は、こそっと私に耳打ちしてくれた。低音の声にドキリとしたのは内緒だ。
ルディー様たちは席に着くと、そこである情報を開示した。
「三人目の主犯はハンナという元女神の一人、人外の存在です。そして私に取引を持ちかけてきました」
「ハンナ?」
「ハンナ……そうか。一周目で」
ベルナルド様やアイリス様、ベアト様は合点がいったという顔をしていた。しかし彼女が何者かは分かったが、神出鬼没な彼女を舞台に引っ張り出せるか、そして捕縛できるかは未知数だった。
ベルナルド様は一周目、私の傍にいた侍女がハンナだということを話してくれた。私とベルナルド様の仲を引き裂こうと画策していたのは、彼女だったということも。
当初、ルディー様の指示だとベルナルド様は思っていたが、もしかしたらそれも違っていたのかもしれない、と口にしていた。
(それって一周目で《花女神堕とし》できなかったから、強引に私の中にある《疑似種子》を開花させて、天界の門を開こうとした? 元の世界戻るために……)
ベルナルド様たちは一周目ではルディー様が黒幕だと言っていたけれど、真の黒幕はハンナだったとしたら、今回の儀式が成功しなかった場合、彼女はどんな手を使うだろうか。
《花女神堕とし》は、時間や手間はもちろん人員も必要だ。でも、もし、一周目と同じように私一人だけで、強制的に似た現象を起こせるとしたら?
「……もし三人目の主犯だというのなら、当日の会場に姿を見せるのではないでしょうか。そして自分の計画が達成したかどうか特等席で見たいと思うはずです。それに万が一、失敗するようなら私の中にある《疑似種子》を使って強制的に《花女神堕とし》を行うと接触するかもしれません」
「シャル……まさか」
いち早くベルナルド様が私の意図に気付いた。
私は震える拳を握りしめながら、言葉を続ける。これは――ヒロインでも、悪役令嬢でもない、私にしかできないことだ。
「私は大会に参加しませんし観覧席で応援しますので、もしその第三者の主犯がいるのなら接触しやすいと思うのです」
「ダメだ。危険過ぎる!」
「そうだ。私や妻と一緒の観覧席に居るべきだ」
「そうよ、シャル危ないわ」
「シャーロット、何かあったらどうする気?」
反対する意見が出る中で私は首を横に振った。もともと反対されるのは想定内だ。心配してくれるみんなの言葉は嬉しい。でもだからこそバッドエンドを回避するために、私は――。
「私はこの世界に呼び出された異世界転移者であり、イレギュラーな存在です。これは私にしかできないし、戦闘力の無い私にできる戦い方だと思っています。お願いです、この役割を私にさせてください。私も、大切な人たちを守るために役に立ちたいのです!」
「シャル、それでも、お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない。できるのなら今すぐにでも隔離して――」
「ベルナルド様」
「ぐっ……そんな顔をしてもダメだ」
いつになくベルナルド様の顔が強張っている。こんな時、私に戦闘力が少しでもあれば違ったのだろうか。
「そうですよね。……戦闘力ゼロですし、荒事になったらまったく役に立ちません。ので、その大変心苦しいのですが……ピンチになったら、その、ベルナルド様が助けに来て下さいませんか?」
「なっ――(ひゃああああああああああああ、何その可愛い顔。上目遣いで可愛すぎるんだけれど!? あれ、天使? いや女神だ。ずるい、ずるすぎない?)」
ベルナルド様が黙ってしまった。やっぱり難しいのだろうか。
「シャーロット嬢、ベルナルドが無理なら、私がはせ参じましょう」
「ルディー様、ありがとうございます」
「は?」
「あら、そういうことなら私が今度こそ、絶対に、シャルを守って見せますわ」
「ベアト様! カッコイイ」
「は?」
「当日、私は駆けつけられるか分からないから枢機卿と武闘派の精鋭を護衛に付けるわ!」
「アイリス様までありがとうございます!」
「(はあああああああああああああ? なんで俺が頼まれているに他の連中が出しゃばるんだ!?)いや、俺が誰よりも先にシャルの元に駆けつける。絶対に!」
「ベルナルド様……! ありがとうございます」
そう言って私はみんなに頭を下げた。
今回私にできるのは囮役ぐらいしかない。もしかしたら囮にすらならない可能性だってある。でも、何もしないなんてできなかった。
***
時は戻る。
美女――ハンナは「ありえない」とブツブツ呟き、漆黒の翼を生み出した。
宵闇に似た羽根が舞う中、彼女は自分の計画が砕かれていく様を傍観するしかない。
「魔獣事件で魔方陣が作れないのなら、ローマン教頭なら次の手を考える。国内でもっとも盛り上がるイベントなら、この大会しかないと導き出してからは慎重に準備を進めてきました。今度は私が貴女に問いましょう、全ての計画が失敗した気分はどうですか?」
「――ッ、ふざけるなあああああああ!」
激高した美女は私に襲いかかる。しかし、その刃が私に届くことはなかった。
剣戟が響き、美女の攻撃を侍女であるサリーとエリナーが防いだからだ。そしてマクヴェイ公爵夫人が私の前に佇む。普段のほんわかした雰囲気は消え、碧色のドレスに身を包んだ夫人は鉄扇を広げた。
「ここからは息子に代わって、我がマクヴェイ公爵家総出でお相手いたしますわ」
「――国家の犬が」
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次回は19時以降の予定です。
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