第54話 黒幕たちの視点
暗がりの地下室に、黒いローブを深々と被って現れたのは三人。
ローブを羽織って顔は見えないが、外見からして男二人に女性一人だっただろう。供回りはいない。
オレンジ色のランプが頼りなく深淵を照らす。
女性と思われる一人が指をパチンと鳴らした直後、その場に場違いな赤いソファが出現した。
廃墟ともいえる場所に場違い高級感のある赤いソファが三つ、円を囲むように配置される。
「立ち話なんて嫌だもの。さあ、座って話をしてしまいましょう」
残る二人は適当な椅子に座り、フードを被ったまま話し合いは始まった。
「それで計画は順調ですの? ローマン教頭」
「むろんだ。教会側が奮闘してくれたおかげで、第一の計画は潰されたが、その代わり魔法学院内での準備は滞りなく進んでいる。ドーム型の会場に『花女神堕とし』の儀式と魔獣転送も完璧だよ。私よりもジョルジュ、君の仕事は終わっているのかい?」
ジョルジュ・ド・ノア。
ローマン教頭の弟であり、ノア家当主、財務大臣という政治界の大物だった。一向にフードを外さず深々と被ったままだ。
「兄上。心配なさらなくても、こちらは大会当日に訪れる者のリストを事前にお渡ししていたかと。王族はもちろん、襲撃する生徒と保護者は全員参加するように手配しています。それと隣国ラスティマ王国との商談も無事に締結。もっとも肝心な《花女神堕とし》が成功すれば──ですが、ハンナ。貴女の仕込みは終わっているのですか?」
ジジジッと蝋燭の炎が揺らぎ、オレンジ色の光が怪しく踊った。
フードを被ったまま彼女は唇を歪めて頷く。
「もちろんです。王家に保管されている《赤い果実》は全て所定の場所に配置しています。これでローマン様の術式が完成し、会場に生贄が揃えば《花女神堕とし》が発動するでしょう。ああ、異世界転移者の排除も問題ないかと」
「(小僧一人がどう動こうと、計画には支障ない。あの娘が特異点だったとしても、不要なら排除すれば良い)ルディーか。当日、我らの思惑通りに動くだろうか」
「確かに。兄上の言うとおり、あの娘がいることで、因果律が狂ってしまうのは困りますからね(兄上の計画が崩れるようなら、真っ先に我が家の存続を考えて兄上自身が消えてもらうしかない。全ての責任は長兄がとるべきでしょうし)」
「いざとなれば、転移魔法で何処かに飛ばせばいいでしょう(この国が滅びようが、誰が犠牲になろうとどうでもいい。天界に戻れるのなら何を犠牲にしてでも戻ってみせる)」
三者三様の心積もりを隠して会話は弾み、計画は進行していく。
ここで結託して三人は、信頼ではなく各々の目的の為に共犯となった。
ある者は、かつて花女神と再会するために。
ある者は、自分の都合の良いように国を動かし、さらなる地位と権利を求めて。
あるモノは自らが天界に戻るため。
各々の欲望を現実化させる。
他人の犠牲も、痛みも、苦悩も、生死すらどうでもいい。
狂人たちの宴。
「(今度こそ、この世界線で目的を叶えてみせる)当日が楽しみだわ、本当に」
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次回は明日8時以降の予定です。再び1日2話更新していきます!
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