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第53話 今までできなかたこと

 ベルナルド様は指先でクリームを拭うと、そのまま口にしてしまった。


(か、間接キス!?)


 間接キス、しかも屋敷ではなく外で。これは結構恥ずかしい。


「す、すみません。……食べ歩きとか、クレープも殆ど食べたことがなかったので」

「(よかったぁ、思わずそのままクリームを食べてしまったが、引かれていないようだ)……俺も同じだ」

「え、ベルナルド様も?」

「俺もこうやって学校帰りに寄り道をして、誰かと食べるなんて初めての体験だ」

「あ……(そっか。ゲーム通りなら当主としての仕事に奔走していた時期……)」


 街灯とは別にそれぞれの露店にも明かりが灯り、中央らしいにある噴水が一層美しくライトアップする。目映い光に賑やかな声が遠のく。

 私とベルナルド様の間だけ音が小さくなったようだった。


「……学院生活は二度目なのだが、こんなに日々が充実するものなのかと少し驚いている。遊ぶことも息抜きも、時間をドブに捨てる行為だって思っていた自分が恥ずかしい」

「ベルナルド様……(そっか。一周目の私とは、こんな風な時間を取ることはなかったのね)」

「(一周目は……シャルに声を掛けてくれたのに、俺は……)……まだまだ至らないところがある俺だが、シャル……今後も傍にいてほしい」

「も、もちろんです」


 喰い気味に答えると、ベルナルド様は安堵したのか破顔した。

 それは反則過ぎる変化で、ずるい。


「……ありがとう」

「……その……私……元の世界では学校生活ができなったので、この世界で仲のよい友人や大好きな人居られて幸せです。食べ歩きとか、放課後デートとか、ずっと憧れだったので。……だからベルナルド様が提案してくれて、叶えてくれたことがとても嬉しいです」

「そうか」

「はい。私だってできなかったことがあったのですから、今からできることを一つずつベルナルド様とできるようになったら嬉しいです」

「……そう、だな。ああ、その通りだ。本当に」


 そう言うと、ベルナルド様はクレープをあっという間に食べてしまった。どこか吹っ切れた顔をしているのは私の気のせいかもしれないけれど。



 ***



 それから時間が合うと、帰り道にデートをする日が増えた。

 特に本屋などの寄り道は、私とベルナルド様も足に根が生えたようにその場から動けず、どの本を買うかで悩んでお互いに相談しあった。

 宝石店ではベルナルド様が、「好きな物を選んでくれ」と言い出した時は、心臓が飛び出しそうになった。


「べ、ベルナルド様……これって」

「婚約指輪、贈ってないだろう」

「そんなことないですよ? ドレスとか贈り物も沢山もらっていますし!」

「……それでどれがほしい?(シャルならどれも似合う。だからこそ迷ってしまうぅう!)」


 ベルナルド様はしれっと誤魔化して、指輪に視線を向けた。沢山もらってばかりなのに、と辞退しようとしてもダメだった。


「ベルナルド様……その高価すぎるものは……」

「そうか。俺への愛は受け取れないの──」

「そんなことありません!!」

「じゃあ、贈っても問題ないな」

「うぐっ、でもいつももらってばかりで」

「そうか? 俺の方がいろんなものをもらっていると思うが」


 日に日にベルナルド様とのやりとりも増えて、前よりも距離が近くなっていく。それは急ではなく、ゆっくりと時間をかけて紡いできた結果なのだろう。

 平凡で日常に埋没してしまいそうな小さな積み重ね。

 それがとても愛おしくて、宝物のように煌めく。


(これがあの死亡率97パーセントの鬱ゲー世界とは思えないほど、穏やかで毎日が楽しい)

「これなんかどうだ。加護もついている」

「ベルナルド様、金額を見てください。クレープが百回以上は食べられます!」

「ん? そこまで高くないだろう(クレープ百回ってたとえが一々可愛すぎる)」

(そうだった。ベルナルド様は、金銭感覚が貴族様でした!)


 クレープや本を普通の人感覚で買っていたけれど、贈り物などを考えても金銭感覚のズレを今さらながらに痛感した。ドレスの金額とか怖くて聞けない。


「(あー、シャル可愛いな。うん、すごく可愛い。最近はもっと甘えるようになってきて、さらに可愛い)安心しろ。クレープは今度の大会が終わった後に連れて行ってやる」

(クレープ屋のことを嘆いているわけではなく……)


 店のスタッフの人たちは、終始温かな眼差しでいる。最近、屋敷でも似たような感じで、私とベルナルド様のやりとりを微笑んでいた。

 お義父様やお義母様も最近は仕事が少し落ち着いたのか、夕食時は一緒に食卓を囲むことが増えたのもあり、私とベルナルド様の話に一喜一憂している。

 いつの間にか笑顔の絶えない一家として侍女であるサリーとエリナー、使用人から「シャーロット様のおかげ」とお礼を言われることが増えた。

 私殆ど何もしていないのだけれど。



お読みいただきありがとうございました(о´∀`о)

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次回は明日19時以降の予定です。



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・イイネもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡嬉しいです!

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