第52話 放課後デート
王都の繫華街に到着すると、馬車を降りた。
日が傾き始め赤紫色の空の下、露店などが多くある中央広場に向かうと学生服の生徒たちが買い食いしている姿がちらほら見られる。元の世界で「高校生になったら買い食いしてみたい」と密かに憧れていたものだ。懐かしさと寂しさをない交ぜにした感情を抱きながら、美味しそうなクレープやアイスを食べ歩く生徒を眺めていた。
(夢みたい……。買い食いだけじゃ無くて、ベルナルド様と一緒……)
「食べたいのか?」
「え、あ。…………はい」
食べ歩くことに関してベルナルド様的には嫌かもしれないと思っていたのだが、興味深そうに「では、その店に行くぞ」と私の手を引いて歩き出した。
(手を……繋いでる!)
(外でシャルと手を……っ!)
「あ」
ふとクレープ屋が視界に入る。
魔法学院内でも有名なクレープ屋で、ハートや薔薇などの盛り付けが可愛らしいと好評だった。
(カップルで並んでいる生徒は他にもいるのに、なぜか私とベルナルド様に視線が集まっている? どうして?)
首を傾げるが、すぐにベルナルド様のご尊顔を見て気付く。
(あ、そうだわ。ベルナルド様は公爵家だし、格好いいから注目を浴びるのも無理ない。自慢の推しですし!)
「(シャルがこっちを見ている……可愛い)シャル、何にするか決めたか?」
「はい。イチゴハートのレアチーズです。ベルナルド様は?」
「ほろ苦コーヒーバナナクリームだな」
「あ、美味しそうですね」
「だろう」
並んで待っている間、ベルナルド様と学校でのことを話しつつ、半年後に行われる魔法対戦と剣術大会の話題になった。ちょうど今日から参加申し込みが開始されたらしく、ベルナルド様は剣術大会に参加申し込みをしたのだが「面倒だった」と呟く。
普段の彼らしい素っ気ない態度だが、私は話題提供してくださったベルナルド様の心遣いに胸がくすぐったい気持ちになった。
「でもお義父様とお義母様も、楽しみにしているって言っていましたよ」
「ああ。おそらく一家総出で応援しに来るだろうが悪目立ちしそうで嫌だな」
「え。垂れ幕とかプラカードで応援ってダメでしたか?」
ハッとして告げる私にベルナルド様は「そうか、あれはお前の入れ知恵か」と冷ややかな視線を向けた。おそらく侍女さんや使用人のみなさんが空き時間に裁縫で縫っているのに、薄々気付いていたのだろう。さすがベルナルド様だ。
(でも応援団の存在は、気付かれていないはず!)
「他に何も企んでないよな?」
「ええっと……」
ベルナルド様の圧が凄まじかったので、ベアト様とアイリス様の二人でチアガールをすることを打ち明けた。衣装のデザイン画を見せたら、かつて無いほど表情が凍り付いていた。
「シャル、これは、だめだ(俺以外に見せたくない。というかこれ以上シャルに惚れる馬鹿が出てきたらどうする!?)」
「ひゃ?」
デザイン画を一瞬で凍結させて、存在そのものを抹消してしまった。
「(あ。これは本気で怒っているときの……)えっと、やっぱり私が応援などおこがましかったですよね……。すみません」
「違う。(シャルの着ている姿は見たい。シャルの着ている姿は見たい。シャルの着ている姿は見たい。シャルの着ている姿は見たい。シャルの着ている姿は見たい)……いいかシャル、これ以上お前が目立ったら求婚者が増えるだろう。だいたい服の面積が明らかに可笑しい」
「きゅう……こん? そんな人いませんよ? 私よりもベルナルド様の方が人気なので心配です」
「安心しろ、シャル以外は案山子にしかみえない(シャルの着ている姿は見たい。シャルの着ている姿は見たい。シャルの着ている姿は見たい)」
「私だってそうです」
「証拠は?」
「え、ええっと……」
意地の悪い質問に私は言葉に詰まった。私が考えている間にベルナルド様はさっさとクレープを注文して、支払いも済ませてしまう。イチゴハートのレアチーズグレープを私に差し出した。
「ベルナルド様……私」
「(シャルを困らせてどうするぅうううう。あああああーーーーーー泣きそうな顔も可愛いけれど、って違う!)少し意地悪なことを言ったな。……お前が俺のことを好いているのは、わかっている」
顔を逸らしながら呟いた言葉に、一瞬で頬が熱くなる。
嬉しさと恥ずかしさと好きだという気持ちに口元が緩んでしまう。
「……! はい」
「……だがチアガールの服装はダメだ」
「……ええっと」
「ダメだ」
「じゃあ、普通に応援はいいですよね?」
「ああ、制服でならよしとしよう」
「はい(すみません、ベルナルド様。チアガールの件を言い出したのはベアト様なのです)」
表向きは応援洋服として作ろうとなった話は本当なのだが、実際はベアト様が「アルバート殿下が前に話したチアガールで応援してほしいとか言い出したんだけど!? どうしよう、助けて!」と言い出したのが発端だったりする。
露出度は高いし、まして他の生徒や保護者が居る中であの格好は恥ずかしい。元の世界ならこういうコスチュームという認識があるのでいいが、この世界では全くない。
腹出し膝上のスカートなんて論外だ。
(アルバート殿下はベアト様に着てほしかったのだろうけれど、ベアト様は全力で嫌だって言っていたものね)
「(シャルのチアガールは俺も見たいぃいいいい! だがシャルの肌を他人なんかに見せてなるものか。シャルの愛らしさを見せつけたいが天使がいると噂になって注目を浴びさせたくないっ! これ屋敷で着てほしいって言ってもいいか? いや時間をおいて?)……だいたい聖女は教会側からの許可はおりないだろうし、未来の王妃がそんな格好でアルバートを応援していたら、アイツ卒倒するぞ」
「あはは……(その王子が作ってほしいと望んだようです。でもベルナルド様が反対したと言うことを理由にこの計画も瓦解するはず!)」
とりあえずチアガール姿のお披露目が遠のきそうなことに、少し安堵する。
私とベルナルド様は近くのベンチに腰を下ろしてクレープを食べることにした。中央広場の街灯が灯り始め、オレンジ色の淡い光りが足下を照らす。
「んー、イチゴが甘くて生クリームはさっぱりで美味しいです」
「そうか」
「一口食べてみますか?」
「ん、ああ(シャルが可愛い。シャルが可愛い。シャルが可愛い。シャルが可愛い)」
クレープを差し出すとベルナルド様は一口食べた。その時に頬にクリームが付いてしまったようだ。なんだかその姿が可愛らしくて「クリームが付いていますよ」とハンカチでクリームを拭った。
「お前も口元に付いている」
「え?」
お読みいただきありがとうございました(о´∀`о)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次回は明日19時以降の予定です。
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