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第51話 変わらないところ

 魔法学院での勉強は、入学前にベルナルド様に教わったのと、元の世界で義務教育まで学んでいたこともありそこまで苦ではなかった。なにより元から学ぶのが好きだったし、一から語学を学ぶことなく済んでいるのが大きい。これは『異世界転移転生者の特権(ギフト)』とベアト様が言っていた。


 語学、数学、地理と歴史が一般にあり、魔法学、魔法実習、薬学、経営学、剣術は選択で選ぶ。私の場合、魔法実習は免除されているので、魔法学と薬学、経営学の三つを取っている。

 ベアト様とアイリス様も、薬学の授業を取っているので班を組むときは一緒だ。それに今日は一日魔法学院の所有している《オレオルの森》で、薬草採取がある。


 指定された薬草を見極める目と、知識を養うための実習で、学年が上がるごとに難易度が徐々に上がるらしい。昔から図鑑が好きだったのと、ベルナルド様との勉強のときにいくつか図鑑を貸して貰えたのもあり、結構簡単にほしい薬草は見つかった。

 あとマクヴェイ公爵家の領土に生える薬草探しをしていた成果でもある。


(解毒薬で有名なドクダミの葉、独特の香りのするクチナシの花、このあたりの薬草は元の世界と同じ形をしているのよね。まあクローバーに似た青色の葉や、顔のある白カブは、完全にファンタジーだけれど……。そういえばゲームでお使いに、似た薬草があったような?)


 ふとガサガサと物音がしたので振り返った瞬間、硬直した。薬草採取に夢中になって、気配に全く気付かなかったのだ。


「──っ!?」


 獣、と息が止まりそうになった。しかし獣道から姿を現したのは、血まみれのアイリス様とベアト様だった。


「え、な!」

「あら、シャル。薬草がいっぱいとれたのですね」

「本当、すごいな!」


 血塗れだというのに、二人とも爽やかな笑顔を浮かべている。凜とした姿に見惚れそうになるが、そう言う問題じゃない。


「あ、アイリス様、ベアト様もその怪我とか大丈夫ですか? その血は?」

「これは返り血ですわ。獣がちょっかいを出そうとしたので、軽く締めておいたの」

「うんうん。レベルは低けれど群れているってほんと、面倒なのな」


 そうは言っているが、頬や手足は擦過傷が見える。平気そうな顔をしているが無理をしているようにも見えて、私はアイリス様とベアト様の手を掴んだ。


「シャーロット?」

「シャル?」

「怪我をしたのは事実ですから、先生に言って保健室に行きましょう!」

「「!」」


 手を引く私にアイリス様とベアト様は「しょうがない」という感じで最終的に折れてくれた。お二人は戦闘関係になると、お淑やかは何処に行ったというぐらい勇猛果敢に戦う。

 その姿に憧れを抱くと同時に、傷つく姿を見るのが辛い。戦闘面で私は二人を心配することしかできない。


(何もできないなんて……歯がゆいな……)


 講師に事情を説明して、一時的に転移魔法で保健室に向かう許可を貰えた。


 石鹸と消毒液の香りが充満した真っ白な部屋に転移すると、保健室の先生に治癒魔法をかけてもらう。その姿を見ているだけしかできないのだが、それでも傷が癒えるとホッとして力が抜けた。


「もう、シャルは大げさなのに」

「そうね。この程度なら死にはしないし、心配しなくても治癒魔法ですぐに直るわ」

「そうですけど痛いことに変わりは無いですし、女の子なのですから、もっと自分を大事にしてほしいのです!」


 私の言葉にアイリス様とベアト様は顔を見合わせ、二人揃って私をギュッと抱きしめる。二人とも着替える前で返り血塗れなのだが、それよりも抱きしめられたことに困惑してしまう。


「え、あのアイリス様、ベアト様?」

「ふふっ、まさか二周目でも同じようなことを言われるとは思わなかったわ」

「本当に。記憶がなかろうと、シナリオ展開が異なっても、シャルはシャルなのね」


 二人は懐かしそうに、それでいて奇跡が起きたかのように告げる。


(二周目……。一周目の私も、二人に寄り添うことができていた?)

聖女と公爵令嬢(私たち)をただの女の子として、ううん、純粋に心配してくれる人ってそういないのよ」

「そうでしょうか? きっと沢山いると思いますけど」

「言葉だけならね。この世界は王侯貴族たちの一挙手一投足において、少しでもボロが出たら貶められないかと画策する者が多い。より爵位を、利益を虎視眈々(こしたんたん)と狙う連中は何処にでもいるのよ」

「そうそう。裏表もないシャルは、この世界において稀だってことをもっと自覚すべきだわ」

「ナル……ホド?」


 アイリス様とベアト様の力説されて、改めてここが元の世界と違うのだと理解する。

 元の世界では私のように心配する人は多いだろうが、環境や倫理観やら諸々が異なる異世界であれば、その世界の当然がベースとなる。色々考えたものの「二人が癒やされるのならなんでもいいか」と、私はますますお二人が好きになった。



 ***



 帰りの際に、侍女のサリーが血塗れの制服を持っていたので、ベルナルド様の顔が怖いぐらい真っ青になって詰め寄られたが私は慌てて弁明した。それはもう必死に!

「こ、これは返り血で、怪我とかじゃないです。汚してすみません」と、しどろもどろに説明したら、ベルナルド様は「そうか」と力なく笑った。


 そこまではよかったのだが、帰りの馬車に乗り込んだ後瞬間、ベルナルド様に抱き寄せられて膝の上に乗せられてしまう。


「べ、ベルナルド様!?」

「瞬くは、このままで」

「はぃ」


「心臓に悪い」とぐりぐり私の肩に顔を埋めて、何度目かに分からない溜息を吐き出す。確かにもしベルナルド様の制服が血塗れだったら、酷く動揺していただろう。

 この世界は危険でいっぱいなのだから。だから気軽に「大丈夫」と言えないし、言わなくなった。

 元の世界では呼吸をするように、呟いていた言葉だったのに。

 ベルナルド様と一緒の時間を過ごして私も、少しずついい方向に変わってきたのかもしれない。


「……心配させてしまって、すみません」

「謝らなくていい。(シャルが獣に襲われたのかと思ったぁ。ああ、心臓に悪い。シャルは無事。シャルは無事。生きてる。心臓の音も聞こえる)……にしても《オレオルの森》で獣か。いよいよローマン教頭も四の五のいっている場合じゃないようだな」

「それって……アイリス様とローマン教頭との戦いに決着が付くということでしょうか」

「そうだな《花女神(ガーディナル)堕とし(フォールン)》の準備をことごとく潰されているし、彼を閑職に回すよう手続きも進んでいる。いずれ八方塞がりになるが、あまり追い詰めすぎると暴走しかねないのでまだまだ注意は必要だ」

「はい……」


 私の知らないところで、大きくシナリオ展開は進んでいた。今回は被害者も最小限で済んでいるのも全ては、魔力吸収(マジック・ドレイン)による魔力暴走を未然に防いだのが大きいらしい。私自身あまり実感はないのだけれど、ベルナルド様やアイリス様、ベアト様たちの役に立ったのならよかった。


「それとルディーにも、気をつけておくように」

「ルディー様も? 魔力暴走の心配は無いはずですが……」

「違う。未だにお前のことをデートやら食事に誘っているんだろう。毎回断っていると聞くが」

「はい。……って、断っているってベルナルド様に言いましたっけ?」

「公爵令嬢と聖女が逐一報告に来る。嫌み付きで」

「そ、そうだったのですね! ……あ、しっかりお断りをしているので安心してください!」


 ルディー様との誤解を疑われたと思い、真剣に告げたのだが、ベルナルド様は「ああ」と少し口元を緩めた。


「別にお前を疑ってはいない。ただアイツも水面下で何か企んでそうだから気をつけるように」

「はい。アイリス様の傍にいる私から攻略して、最終的にアイリス様に近づくでしょうから、注視しておきます」

「ん? ……いや狙われているのはお前だけだ」

「え? ……あ、ベルナルド様を潰すために私を利用するつもりなのですね」

「いや、まあ、そういう側面もあるんだが」


 ベルナルド様は珍しく歯切れが悪そうな口調で呟く。なにやら葛藤し最終的に「とりあえずあの男には気をつけるように」と念を押されたので、何度も頷いて応えたのだった。


お読みいただきありがとうございました(о´∀`о)

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次回は明日19時以降の予定です。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・イイネもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡嬉しいです!

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