第48話 天才魔法使いルディーの視点4
シャーロットは恩人で、気になる人だけれど、幸せになってほしい。こんな気持ちは彼女だけ。
休学していた学院生活に戻ると、友人たちも「雰囲気が変わった」と話しかけてくるようになり、私も適度な距離と言葉を選ぶことで交流関係が以前よりも広がっていった。特に同じ釣り仲間を見つけて屋敷に招待したときは、妹と父が歓迎しにわざわざ部屋まで現れたのだ。
しかも父は目頭を押さえて泣きそうになっているし。思いのほか父は涙もろい人だというのも驚いたが人間味があって、さらに親近感が沸いた。もっと非情で仕事人間だと思っていたのだが、そうではなかったみらいだ。
(私が勝手に思い込んでいた……ということでしょうね)
幸福ともいわなくとも「悪くない」そう日々を過ごしていた頃、胸に花女神のペンダントを下げた女性が姿を見せた。研究員の一人ハンナという。
茶髪の長い髪に、黒を基調としたドレスを纏ったその雰囲気は喪服めいていて不気味さがあった。
「まさか貴方様までもが魔力暴走、あるいはヤンデレ化せずにすむルートがあったなんて驚きましたわ」
「……どなたですか?」
「ああ、申し遅れました。敬虔な花女神の信徒であり、次期花女神となるハンナと申します」
「は?」
意味が分からなすぎて言葉が出てしまった。初対面で次期花女神を名乗るとは、頭がおかしいとしかいえない。だが彼女は別段気にした様子もなく、言葉を続けた。
「まあ、そう反応しますよね。でも私はかつて花女神と同じ神だったのですが、人間に《赤い果実》を奪われ権能を封じられた元女神の一人なのです。神であっても権能を奪われれば天界に戻れず、人間のように生きるしかありませんでした」
「──っ!?」
女の背から漆黒の羽根が生じ、室内に広げた。それはまるで大鎌のように不気味で恐ろしく見え、人と異なる存在に産毛が逆立つ。
「……それを、私に話してどうしたいのです? 目的は?」
「シャーロット。……彼女が、この世界における特異点の存在が邪魔なのですよ。前回はアレを器に《花女神堕とし》を再度試みたのですが、邪魔が入ってできなかったようなので、退場してもらおうと思ったのです」
「それはシャーロットに、危害を加えるというのですか?」
それを聞いた瞬間、殺意が芽生えた。人外の力がどれほどのものか不明だが、彼女が危機になるというのなら排除する。全魔力を使って相手に叩きつけても問題ないだろう。
両手にバチバチと白亜の稲妻を走らせる。
「勘違いしないで。『退場』って言うのは殺すことではありません。ベルナルド、アイリス、ベアトリーチェから引き離す、つまりは『他国に追放したい』と言えばいいかしら」
「追放? 残念だがシャーロットはベルナルドを好いている。無理矢理連れ出しても意味なんてない」
近くで見ていたからこそわかる。
彼女の目にはいつもベルナルドを見ていた。心から思っているからこそ、あの氷の貴公子と呼ばれているアイツですら心を開いたのだ。
二人の関係がゆっくりとけれど確実に割り込めないような絆が紡がれていくのを、まざまざと見せつけられた。それが羨ましくて、妬ましい。けれどシャーロットには、幸せになってほしい。複雑な思いが葛藤して澱を積み上げる。なんとも未練がましいものだ。
「無理矢理じゃなければ? そうね、彼女の記憶を真っさらにしてしまえば、関係ないでしょう?」
「!?」
耳を疑った。
記憶操作いや記憶消去は禁術の一つとされている。それをさらっと提案する人外の女に寒気を覚えた。
「しばし考える時間を差し上げます。剣術大会の三日前までにどうするのか決めてくださいませ」
「……一つ聞くが、貴女一人だけでことを起こしているのか、それとも組織だって動いているのか。こちらも考える上で、判断する取引材料がほしい」
「組織ではないけれど、私の仲間はノア公爵筆頭ジョルジュ・デ・ノア様、ローマン教頭、そして隣国ラスティマの王太子殿下からも協力を得ていますの」
「――ッ」
ハンナは証拠と言わんばかりに、封書を二通残して屋敷から去った。挨拶代わりということなのだろう。そして私がこれをアルバート殿下やベルナルドに届けないだろうことも計算していた。昔から二人を見て劣等感ばかりが募っていたからこそ、二人を手助けするようなことはしないと読んだということだ。
(ご丁寧に記憶消去の薬まで置いていって……)
私がどう動こうと、彼女たちの計画に支障はでないのだろう。
それとも別の思惑があるのか。
(シャーロットから記憶を奪う。……真っさらな状態で頼れる者が私しかいなかったら――彼女は私を見てくれるのだろうか)
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