第47話 天才魔法使いルディーの視点3
本当に欲しいものは、いつも手に入らない。
他人の手にしているものが羨ましくて、妬ましい。奪い取れば、手に入るかもしれないと思う時もあったが、一時的なもので心まで動かすのは難しいのだと知った。
それほどまでにシャーロットの心は、ベルナルドに向けられていた。近くに居たからこそ、彼女が心からベルナルドを思っているのが分かってしまった。もし気付かなければ、愚かにも足掻けたかもしれない。
恋い焦がれて破滅すると分かっていても「それでもいい」と突き進んでいただろう。
ブレーキをかけたのは、家族の存在だった。
母の墓を訪ねたのは、シャーロットの言葉と気まぐれだ。荒れ放題だと思っていたのだが、そんなことはなく、墓石や周囲の芝生も手入れされて百合の花はまだ新しい。
(丘の上だと身を隠す場所がない。父さんが来たらすぐに見つかってしまう……)
身を隠す場所もないので、盗聴用魔導具を墓石の後ろに設置して丘を降りて林の中に姿を隠す。腕輪のスイッチを入れると、墓石周辺の音が耳に入る。
音声に問題は無いと屋敷に戻ろうとしたが、距離が離れると音声が途切れつつあったので、仕方なく林の中で父が来るのを待つことにした。
仕事ばかりの父が墓の前で何を話すのか、興味本位──だったと思う。
シャーロットの情報通り父は朝日の出と共に墓に来て、昨日あったことを語っていた。
報告というのが近いかもしれないが、その声は驚くほど穏やかなものだった。
『異世界転移者を得て、ようやく魔力暴走という大きな問題に対して光明が見えた気がする。娘も君と同じく体が弱いから心配していたが、なんとか暴走は防げるだろう』
(妹の話ばかり、か)
落胆はしなかった。「やっぱり」というのが正しいだろう。
父の言葉を聞きたくなくて、その場を離れようとしたが、「ルディーが」と言う単語に足が止まった。
『あの子はまだ若いのに、私よりも更なる高みに行くだろう。お前を失ってから息子とどう向き合えばいいのか、接すればいいのか分からずここまで来てしまった。……あの子から母親を奪ったことを許しはしないだろうし、許されるものでもない。魔力暴走は、肉体の強度以外にも心が脆ければなり得る。そんなわかりきったことを知っていたのに、私は自分の娘と息子に愛情を注ぐことを──』
言葉を詰まらせ黙り込んだ。
何もかも今さらだろう。
後悔しても母は戻ってこないし、私と父との溝は簡単に修復できるほど浅くはない。かといって改善や歩み寄りも難しい。
『今さらだ。だが私も娘と息子は生きている。言葉では……難しいが手紙から始めてみようと思う。……あの子たちの時代には、魔力暴走などという不幸が降り注がないように頑張ってみるよ』
それが父の本音で、思い。
愛されていなかった訳ではないのだと、それだけのことなのに自分の中で壊れかけていた心が包まれるような形容しがたい気持ちになった。
父とのやりとりが少しずつ変わり、会話が増え、父と共に妹の見舞いにいく頻度も増えて『家族』というものがようやく機能し始めた気がする。
一緒に食事をとることや、研究の報告や方向性など意見がぶつかることもあったが、今までのように喧嘩腰ではなく、互いに意見を取り合うぐらいにはなった。
世間一般な親子とはまだまだ言えないが、それでも以前に比べればいい方向に変わったといえる。
定期的に魔力吸収の仕事で王城に訪れるシャーロットにそのことを話すと、彼女は嬉しそうに話を聞いてくれた。横にいるベルナルドが邪魔だったが、普通に話す分には別段割り込むこともしなかった。警戒は引き続き続けているようだが。
シャーロットにアプローチをかけても、彼女はベルナルド一筋だった。心から愛されているアイツが腹立たしい。
人の気持ちは変えられないし、奪えない。
例え肉体的に関係を強いても、心まで奪えるとは思えなかった。そのぐらいの判断能力は残っていたし、シャーロットが本当に好きになってからは彼女が悲しむようになってほしくない、と思うぐらいには気遣いができるようになっていた。
心の余裕が生まれたからだろうか。
ほんの少し見える角度を変えて、受け取り方を変えるだけで自分がこうも変わるとは思わなかった。誰からも認められず、愛されず、全てを巻き込んで自分が壊れる未来を想像していたのに、それが少しずつ変わってきたのはシャーロットとの出会いだ。
父と妹と『家族ごっこ』と揶揄されるかもしれないが、誕生日パーティーや贈り物など旅行を計画してみたら思いのほか新しい発見ばかりで楽しかった。父が釣り好きとも知らなかったし、妹は編み物が得意だと以前から話していたが、その後で私と父に刺繍入りの小物をもらったときは胸が温かく、泣きそうになった。父は滂沱の涙を流していたけれど。
「うぐ……おおお、がぼうにずる」
私も妹も固まって驚いていたが、いつの間にか私も妹も泣いていて、親子三人で抱き合って泣いた。なんとも恥ずかしい限りだが、それでも感情を家族の前で曝け出せたことが嬉しい。
この日、本当の家族になった──そんな気がした。
シャーロットが入学してからも口説いていたが、断られても「まあ、そうですよね」と簡単に引き下がることができた。多分家族仲が改善に向かうにつれて、ベルナルドに嫉妬する感情が薄れたのもあったのだろう。
怒りや憎しみ、憎悪はとほうもないエネルギーの維持が必要なのだが、それが霧散していく。
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