第45話 ヒロインの肩代わりをする存在
そう否定しようとしたが、一周目の記憶を持たない私が何を言っても表面上の言葉になってしまうことに気付いた。それを否定できるのは、一周目の私だけだ。
グッと言葉を飲み込み、今の私にできることをしようと考えを改める。それを見て、アイリス様は笑みを深めた。
「……さて話を戻しましょう。現在、教会の独断で魔獣の討伐を行っていますが、これは政治的に関与していない教会だからこそ柔軟かつ速やかに動けているわ。現段階でベルナルド様たちは、ローマン教頭を捕縛できる?」
「……!」
ベルナルド様は一瞬考え、眉間を深い皺を寄せながら首を横に振った。
「……無理だな。確実な証拠があったとしても、一時的に拘束が限界だろう。それほどまでにローマン・ド・ノア個人の権力、そして三大貴族の一角、政治の中枢を担うノア公爵家の影響力は大きい」
「でしょう。国家反逆罪レベルのことをしてようやく、って感じだったもの」
「……シャルの起こりうる最悪の展開にもあったので警戒だけはしているが、なるほど一周目の《花女神堕とし》をギリギリの段階で回避したあたりが抽象的だったが、聖女がなんとかしたのなら納得だ」
ベルナルド様が抽象的と称したのは無理もない。
ゲームシナリオでは、最終的にヒロインが花女神の力を解放してローマン教頭の自爆を止めるのだが、ベルナルド様たちに詳細に伝えてしまうと、アイリスの正体がばれてしまう。その辺りを隠すため聖女の力で改心させたと書いておいたのだ。
(実際、ローマン教頭は花女神ともう一度再会するのが目的だったからこそ、《花女神堕とし》なんて大それたことを考えていたわけだし。その魔法円を刻むため魔獣を放って、連続事件を起こした設定はゲームシナリオ通りだけれど……。一周目の記憶を持ったベルナルド様がこのことを知らないのは、教会側で隠蔽が完璧だったからと、一周目の私は彼にこの辺りの事情を話していなかったのね)
もっともこの世界では魔力暴走による死の満開が発現しそうな、あるいは魔力量の多い王侯貴族から順々に私が魔力吸収を行い《赤い果実》を結晶化して体内から取り除いているので、巻き込まれ事故や事件などは起こっていない。
(改めて考えたら《花女神堕とし》を行おうとしているローマン教頭や、《赤い果実》が失うことによって不利益になる人たちにとって私って相当邪魔なんじゃ……。あ、それがヒロインの肩代わりするはずの面倒ごとってこと?)
ようやくアイリス様とベルナルド様の懸念が理解できた。一周目の私たちはシナリオ展開上クリアとなっても、私たちの人生は続いていく──という当たり前の事実を失念していたのだろう。
たぶん一周目の私も暢気に考えていたはずだ。大好きな人と結婚して暮らしていて、忍び寄る魔の手に気付かなかった。
以前ベルナルド様やベアト様の話から一周目ではルディー様が黒幕だったと聞いているし、元々ルートによってはラスボスにもなっていた人ので違和感は無かったけれど、よく考えればヒロインの肩代わりをしたことでルディー様のヤンデレ化を私が解消していなかった落ち度でもあるのだろう。
(ヤンデレ化を防ぐためにも、ルディー様の思いに応えるべきだった……? そうすれば、一周目は……)
「私は私で魔法学院入学までできることをしておくつもりよ。だからシャーロットはベルナルド様との時間を沢山作っておくことを勧めるわ」
「え」
一瞬アイリス様の言葉の意図が理解出来ず、私の脳みそは宇宙空間に放り出された感覚だった。アイリス様やベアト様が奮闘すると言っているのに、私はベルナルド様と楽しい時間を進められたのだから困惑するのは当然だろう。
それに今の話からして「ルディーと時間を作るように」と言う方が確実じゃないだろうか。
しかしアイリス様は至極真面目で、真剣だ。
「え、あ。でも、私はヒロインの肩代わりをするのなら……」
「でもそれでシャーロットの精神的負荷が増えたら本末転倒でしょう。それにシナリオ上だからとか、都合がいいからとかじゃなくて、シャーロットには心から好いた人と幸せになってほしいの」
「今さらルディーに乗り換えるとか言い出しても、俺は執拗にお前に求婚するからな」
「きゅう……こ、え」
「とりあえず、日を見て王都デートもする予定だが他にも別荘で過ごすのも悪くないか。魔法学院に入学するまで時間はあるしな」
(べ、ベルナルド様まで乗り気!?)
途端に緊張感のない話題に変わって私は困惑しつつも、デートという単語が胸に響く。
それから今後の連絡手段として通信用魔導具をベルナルド様は用意してくれて、アイリス様との連絡が楽に取れるようになった。
帰りの馬車でベルナルド様とデートの日程や何処に行きたいかなど話し合った。とても楽しみにしていたし、ワクワクもした。けれど入学前に王都デートが現実になることはなかった。
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次回は明日の12時過ぎを予定してます。
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