第44話 イレギュラーな存在
「そうよ。魔獣は私が倒しているの」
「なっ! お前が!?」
ベルナルド様は声を荒げて急に立ち上がった。
黒犬とはベルナルド様、この世界ではマクヴェイ公爵が継承している特別機関であり、裏社会のボスとして、諜報活動から暗殺まで手広く対応している。
その機関ですら尻尾を掴めなかった魔獣討伐の当事者が、アイリス様だというのだ。ベルナルド様が驚くのも、無理はないだろう。
けれどそれらが可能なのは、ヒロイン単体の力では無く、彼女が花女神の生まれ変わりであり、教会側の教皇と四大枢機卿たちの上に立つ存在だからだ。もちろん王家や貴族も、知られていないトップ・シークレットだったりする。
(ゲーム設定の情報だし、迂闊に出せない情報だったからベルナルド様たちには伝えてなかったけれど……。アイリス様があっさり教会側の圧力だって教えるのは、何か意図があるはず)
「しかし聖女とは言え、あれだけのことを隠し通せるとは……」
「あらシャーロットから聞かなかったの? 私、聖女だけど枢機卿クラスの権限があるのよ。まあ王家や貴方たちに情報が流出したら、被害者が増えるだろうから黙っていたのよ。感謝してほしいぐらいだわ」
(あ、なるほど。花女神の生まれ変わりという部分は隠して、教会側の権限があると示唆するつもりなのね)
「……シャルは知っていたのか?」
ベルナルド様とアイリス様の視線に、小さく頷いた。
「すみません。教会側のトップ・シークレットでしたし、確証のない情報は混乱するかもしれないと思って黙っていました……。ごめんなさい」
「(しょんぼりするシャルが可愛い、可愛すぎる)……いや、教会関係はデリケートだからな。第三者が確証もないことを口にするのは、不味いだろう」
「ベルナルド様」
優しい声音に、私は安堵した。
一周目、いやゲームシナリオのままのベルナルド様なら、激高していたかもしれない。それは彼自身に余裕がなかったからで、今の状況とは全く違うからこその反応なのだと思う。
「……そういえば一周目では、魔獣の出現や事件はなかったのですか?」
「ないな。いや正確言えば王侯貴族側には、その手の情報はなかったな」
「ラストステージぐらいには出ていたけれど、アレは教会側の圧力で隠蔽したから、ベルナルド様たちには気付かれていないわ。……そもそも今回はローマン教頭との接点を早めにもったからこそ、起こった一件なのよね。なにせ私とベアト以外に記憶保持者がいるとは思わなかったから、問題を早期解決しておこうと動いていたもの」
「あ。そういえばベアト様も、私に会いに来た時にも言っていましたね……」
ベルナルド様が時を戻したのは、家系魔法によるもので、ベアト様とアイリス様の場合は異世界転生の特権、死に戻りの祝福の恩恵によるものらしい。
ベルナルド様と同じく二人が私と出会う前に時が戻ったのなら、一周目と違う最良の未来を目指すために動き出すのは当然だろう。比較的動き回れるベアト様が私の元に突貫して、アイリス様はローマン教頭との対決に向けて先手を打とうとした。
「そう。ベルナルド様が二周目で環境を変え言動を改めたように、私たちもまた来る最悪の状況を未然に防ぐべく、動いていた。シャーロットが幸せになるように、今度は私たちが頑張る番だもの」
「……ふぇ? わ、私ですか?」
そこでまさか私の名前が出てくるとは思わず、変な声が出た。私はモブなのに?
アイリス様とベルナルド様から視線を注がれる。
「あら気付いてないの? 死の満開の呪縛を解く貴女がいる以上、ゲームのレベル難易度は、グッと下がっているのよ。その分、イレギュラーとして、本来ヒロインが肩代わりするはずの面倒ごとに巻き込まれやすい体質になっているでしょう」
「巻き込まれ……ええ!? そうなのですか?」
「ああ。シャルの特異性を考えれば、悪事に利用しようとする者がいても可笑しくはない。現に一周目では、見事にしてやられたからな」
(あ。私が死ぬことになった……ルディー様のヤンデレ化。ベルナルド様が少しだけ話してくれた)
「一周目でそれがもっと早く分かっていたら、もっとやりようはあったと思うわ。なにせ私とベアトは自分自身のバッドエンド回避に奔走しっぱなしで、ずっと支えてくれた貴女の特異性を軽視していた。……きっと罰が当たったんだわ」
「そんなことは──」
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