第27話 婚約公認いただきました
馬車から降りる際に、ベルナルド様が先に降りて、その後でエスコートする。そういう話だったのだが、私を抱きかかえたまま馬車を降りたことで、周囲の視線を掻っ攫っていった。
(これは、公開処刑なのでは!?)
「(合法的に、できるだけ長くシャルを独占しつつ、俺の大切な人だと見せつけられる)シャル、離れないように」
「はひぃ(この状態で離れられるわけないのに……。控えめに言って、幸せですぅ)」
別の馬車に乗っていたマクヴェイ公は、そんな私とベルナルド様を交互に見て「うちの息子もやるな」と満足そうだった。ええ、仰る通りです。ご両親が存命だけでこんなベルナルド様が見られるなんて、幸せすぎます。しかし周囲の視線が痛い。少しは自分で歩くと言うべきだろうか。
幸せを手放すのはどうかと思うものの、一応口にしてみる。
「べ、ベルナルド様……その、やっぱり、じ、自分で歩きますぅ」
「………(か、かわいい。あれ、なにこの可愛い子。余計に離したくない。いや、でもシャルが嫌がるなら……もしかして強引なところが嫌だったか? それとも注目を浴びたことで、俺と一緒に居たくないとか?)………………」
ベルナルド様からの反応がない。もしかして聞こえていなかった?
恐る恐る顔を見ると、ベルナルド様はあからさまに嫌そうな顔をしている。ぶすっとしていたものの、渋々私を下ろしてくれた。あまりにも名残惜しそうだったので、その姿にキュン死しそうになるのを耐えた。
「…………(嫌われたくない。でも離したくない)」
「ベルナルド様」
背伸びをして、耳元で囁く。
「帰ったらベルナルド様の気が済むまで、ギュッとするのは……そのいいですよ?」
「!???」
鋭い眼光が増し、クールで素晴らしい表情にキュンとしてしまう。ずるい。
(悪カッコイイ!)
「(いじらしいシャルが可愛すぎる。好きだ。あと嫌われてなくて本当によかった。独占欲丸出しでかっこ悪い奴だとか思われかねないから、気をつけなければ……)ん。では、さっさと要件を済ませて帰ろう」
「はい!」
無表情で言葉遣いも淡々としているものの、私の手を掴んで気遣ってくれることがとても嬉しい。
***
王城の一角にある第三宮殿に足を踏み入れる。既に国王陛下と王太子アルバート殿下、魔法学院教頭ローマン、魔法学院理事長ハイド卿、その息子のルディー様が揃っていた。
(錚々たるメンバーだわ)
ダンスフォール会場のような大広間に通され、大きな窓と薄いカーテンがあるだけで殺風景な所だ。
「(やはりハイド公爵家の屋敷で行うのを、断って正解だったな)シャル、俺の傍から離れないように」
「は、はい。(そ、それにしてもこんなに早くディフラの攻略キャラと顔を合わすなんて! ゲーム画面で見るのとは全然違う。というか顔面偏差値が高すぎる! それに神々しいほどの存在感、オーラはさすが王子。ルディー様の存在感がすごい。でも一番はやっぱりベルナルド様だわ)」
「さて、マクヴェイ公から話は聞いているが、マクヴェイ公の遠縁シャーロット・ラッセル・カルーヤとして《疑似種子》及び協力の申し出を承諾したと聞いたが──相違ないか?」
「はい、国王陛下。この国を長年苦しめて来た《呪い》の解呪を微力ながら、お役に立てるよう精一杯努めさせて頂きます」
「うむ、そなたの決意に感謝する。……何か望みがあるのなら叶えよう。それだけのことを。そなたは担ってくれるのだから」
「恐れ多いです」
一周目の私は何を願ったのだろう。その時と今では状況が大きく異なるだろうけれど、私の中でもし褒美を頂けるのなら有り難く頂いてしまおう。
ベルナルド様と義両親に相談したところ、お義母様も昔、同じようなことを現国王様に言ったらしい。
「……もしお許しができるのなら、ベルナルド様との婚約を王家の方々が、お認めになっていただけないでしょうか」
「……!」
「さすが、我が家に嫁ぐ気の娘は違うな」
「父様! シャルも褒美がそれでいいのか」
ルディー様は顔を顰め、アルバート殿下はニコニコとしている。当の本人であるベルナルド様が一番困惑して、私に聞き返してきた。
(最初に相談したけれど、本気だって思われていなかった? もしくは固まっていて聞いてなかった?)
私を保護するときに、形だけでも婚約者としてマクヴェイ公爵家は迎えてくれた。一周目で私とベルナルド様が結婚したから、その流れで婚約者だという位置づけになっていたとしても変ではない──はず。
(一週目でも運良く? 結婚できたのだし、ベルナルド様も嫌だから、声を荒げているのではないのがわかる)
キッカケはなんであっても、ベルナルド様が一緒にいてほしいと言うのなら、正式な婚約者として隣にいたい。だからこそ私は胸を張ってこう答える。
「もちろんです」
「──っ、(シャルの言葉は嬉しい。それこそ飛び上がるほど。でも、……あのことを話さないで、受け入れていいのか。いや、受け入れる資格なんて俺には……)」
「ふむ。婚約か」
「それと魔力暴走を止めるため、ご助言を頂けそうな聖女候補のアイリス様、そしてアルバート殿下の婚約者であるベアトリーチェとの仲介とお願いできますでしょうか」
厚顔無恥な願いに、笑い飛ばしたのは国王陛下だった。
ハイド卿やローマン教頭は苦々しい顔──というより「褒美はそれでいいのか?」という困惑に近い顔をしていた。
「くくっ、マクヴェイ公のご子息との縁談は、地位の確保のためか?」
「いえ。ベルナルド様に惚れましたので、一緒になりたいと思いました。ただこの世界では、私の出生や存在をよく思わない方も一定数出ると思いますので、国王陛下の後ろ盾を頂ければ、いらぬ声も小さくなるかと心配なのです……」
「ふむ。……マクヴェイ公爵家が我が国で何を担っているか、そなたは知っているのか? それを承知で嫁ぐと?」
ベルナルド様の表情が僅かに強張ったのが見えたが、私は口元を緩め微笑んだ。そんなことで私の気持ちが分かるわけがない。
「無論です。その上でベルナルド様をお一人にしないと、約束もしましたので」
「シャル……」
「なるほど。して聖女候補と、我が息子の婚約者と接点を持ちたいというのは?」
異世界転生者の可能性があるから──って言えればいいのだけれど。さすがに難しいので、それらしい言葉を見繕う。
「この世界において聖女は、魔力暴走を抑えることに精通していますので、協力関係を築きたい。アルバート殿下の婚約者であるベアトリーチェ様は、いずれ国母と呼ばれる方、であれば淑女としての嗜みを教わりたいのです」
「ふむ」
「なにせ私は異世界転移した者ですので、この世界の常識や令嬢としてのマナーを身につけるのは、必要でしょうしできるのなら同世代がいいかな、と」
「なるほど」
「マクヴェイ公」
「報告書を送ったとおりですよ、陛下。それに婚約も無理強いではないですし、息子も乗り気です。そうだろう、ベルナルド」
ベルナルド様は国王陛下に向かって胸に手を当てて「はい。そうです」と簡潔に肯定した。隣にいたローマン教頭やハイド卿は「政略結婚とは」とか「茶番」とぼやいていたが、それを聞いたからか、それとも元々告げるつもりだったのか、ベルナルド様は言葉を続ける。
「自分が彼女に求婚を申し込みました。この世界で幸せにすると誓ったので、害虫が騒がぬよう陛下からの許可を頂けないでしょうか」
「言いおる。……そなたの父も昔、私に同じことを言ったものだ」
「ハハハッ、そりゃあ妻を守るためなら、陛下だって脅しますよ」
(脅っ……)
マクヴェイ公は国王陛下と旧知の間柄だからなのか、気さくに接している。というか若干どころか不遜な態度を取っているが、国王陛下はまったく気にしていなかった。
傍にいるハイド卿やローマン教頭の顔が引きつっているが、私は何も見ていない。見ていませんとも!
「まったく、親子揃って王族をなんだと思っているのだ」
「命を賭けるにふさわしい君主と思っておりますぞ」
「都合が良いことを。……まあ、相思相愛であるのなら、下手に首を突っ込めば馬に蹴られてしまうな。二人の婚約を認めよう。書面も後でマクヴェイ家に送るとして、聖女と令嬢の件は日程を改めて場を設けよう手配する」
「ありがとうございます!」
これでヒロインと悪役令嬢に接触するキッカケが作れた。
魔法学院に入学してから接触する手もあったが、できるだけ早めに味方は増やしておきたい。死亡率97パーセント鬱ゲー世界と称されたディフラの理不尽設定をなめたらいけない。石橋を叩きまくっても足りないぐらいだ。
お読みいただきありがとうございました(*´꒳`*)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次回は明日の8時以降に更新予定です。
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