第25話 お義父様、お義母様呼び
マクヴェイ公は《疑似種子》を受け入れた先、私にとっての生きる目的と理由、そして居場所を懸念していたという。《疑似種子》は《魔法の種子》をベースにしており、感情の起伏によって反応しやすい。
情緒不安定になれば、私自身に危険が及ぶかもしれないと心配してくれていたのだ。だからこそこの世界で地に足を付けて『どう生きたいのか』まで、具体的に考えてほしかったらしい。
(そんな先のことまで、心配して下さっていたなんて……)
「まあ、薄々は勘づいていたが『息子の嫁』になるところまで、承諾することになるとは予想外だったな」
「あら、アナタ。この子が私たちに頼み事をしたときから、こうなることは分かっていたのではないですか? それに『異世界転移者召喚の儀式に行きたい』って言ったときも」
「そうだな。しかしあの情けなくてメンタルがボロボロの姿を見せても幻滅しないとは、シャーロットは私の妻の次にいい女になるぞ」
「あら、アナタったら」
仲睦まじい夫婦の姿に場の空気も和む。
マクヴェイ公も昔、というか夫人と出会うまでは眉間に皺を寄せて常に無愛想だったらしい。今の姿を見るに全く想像できないのですが。
愛する人ができると、明朗闊達になっていったという。それを聞いていずれベルナルド様も、あんな風に笑う──まではいかなくても、微笑むぐらいの日が来るかもしれない。「いや絶対に無理」とベルナルド様の顔に描いてあったが、先のことは分からないだろう。
「あのマクヴェイ公、今後のことについてですが」
「そうだな。今後のことも考えて、私のことはお義父様と呼んでくれ」
「え」
「あら、アナタだけずるいわ。私はお義母様って呼んでね」
「……父様、母様、それは些か性急では?」
ベルナルド様はいつも以上に冷ややかな視線を両親に向けるが、まったく意に介さない。むしろ現状を楽しんでいるようにも思える。
「あら、いずれ家族になるのだからいいでしょう。それともシャーロットのことは遊びだったのかしら?」
「な、そんなことは──!」
さめざめと涙を流す夫人にベルナルド様は動揺を見せる。あのツンドラのベルナルド様の表情を崩すとは、さすがご両親としかいえない。
「では問題ないだろう」
「うぐっ」
(ベルナルド様がやりこまれている)
「シャル。お前も反論したらどうだ? ……いきなり両親のことを呼ぶのだって抵抗が」
「ないです。むしろ嬉しいですよ」
「「「ねー」」」
私はベルナルド様のご両親と声を合わせて頷いた。正直、裏社会のボスには二人とも全然見えないのだけれど、仲良くなれるのなら正直に嬉しい。
私の本当の両親はいつも私を見て泣いて「ごめんね」とばかり口にしていたから、「気にしないで」と言っても「もっと健康に産んであげれば」と泣いてばかりだった。父も優しかったが、申し訳ないという感じばかりで──家族団欒というのを異世界で、しかも義両親とするとは思わなかった。
「それで私に話しておきたいこととは、何だったのかな?」
「あ、はい。この異世界の知識はとあるゲーム設定にそっくりなのです」
「ゲーム?」
眉をひそめるマクヴェイ公──お義父様に私は言葉を付け足した。
「はい。そのこの世界を舞台した小説のようなもので、登場人物や状況は全く一緒なのです」
「だからこの世界に転移した時に、こちらの事情をある程度理解していた……と?」
「はい。……もちろん小説のように、何もかもその展開通りではないと思うのですが、起こりうる可能性として私が覚えている限りを書き出してみました」
テーブルに広げた紙には時系列順に書き記し、シナリオ展開と異なる部分も明記した。
現状でゲームとの相違点は、マクヴェイ公と夫人が存命なところだ。それによってベルナルド様の生き方も大きく変わってきている。これはシナリオ展開的にもかなり大きい。
「やはり息子があの日馬車での移動を止めたのは、大きな分岐点のようだったな」
(あ、そっか。私の知識よりも、ベルナルド様は二周目だから何があったのか体験している。私の行動はあまり意味が無かったかも……)
なんとも先走って恥ずかしいと思っていたのだが、誰も妄言だとか馬鹿にしなかった。一通り見終わるとベルナルド様は部屋の片隅に佇んでいた執事に声をかける。
「ジェフ、赤いインクと万年筆を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
「ベルナルド様?」
「俺の記憶に残っている出来事とシャルとの時系列も加えれば、より被害を最小限に抑えられるだろう」
「ベルナルド様……!」
その言葉でこの三日間の頑張りが無駄じゃなかったとホッとした。ちょっとでもベルナルド様の役に立っていると思うと嬉しくて、胸がいっぱいになる。
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次回は明日の8時以降に更新予定です。
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