第22話 一周目との相違点
あの無愛想でツンドラのベルナルド様が、デレた。もう一度言おうベルナルド様がデレてるぅーーーーーーーー!
これはもう衝撃というか、情報量がパンクしてもしょうがない。
(目を潤ませて感情的なベルナルド様、イイ、推せる!)
「……やっぱり俺なんかの言葉じゃ、信じてもらえないか」
「(今度は、ウジウジネガティブなことを言い出した!? これはこれでギャップ萌えでやられる)……そ、そんなことないです」
しょんぼりするベルナルド様に、私の心音は速まってばかりだ。今ひとつ状況がわからないけれど、ベルナルド様と一緒に居られるのなら何でもいい。
「私はずっとベルナルド様の傍に、いたいです。(ベルナルド様を死なせないし、独りにさせたらダメだ)独りにはさせないですから」
「……っ、俺もできるだけシャルの傍にいて、独りにさせない」
本当に過去の私は、ベルナルド様に何をしたのだろう。『ずっと大好き』だと言って、傍にいたことぐらいだろうか。
(推しと同じ空気に居るだけで、幸せすぎる。しかも本人も一緒にいてもいいと許可をもらえるなんて、私は最高に運がいいのでは?)
「シャル?」
「あ、そうです。そのシャルというのは、この世界での私の名前ですか?」
「ああ。……一周目の世界で、シャーロットと呼ばれていた」
「確かに向こうの世界の名前だと、一発で異世界転移者だってバレますもんね。シャーロットで愛称がシャル、なるほどです」
話をちょっとずつまとめると《時戻りの魔法》を使って、ベルナルド様が十五歳に戻った時から、一周目と状況が大きく変わったらしい。
「もっとも一番の変化は……」
「グーテンモルゲン♪ 我が息子アーンド将来の娘よ!」
「朝ご飯ができたわよ♪」
「俺の両親が健在なことだ」
(唐突に、ベルナルド様のご両親とのお食事会!?)
***
《DEMISE OF FLOWERS》、通称ディフラの世界設定では、ベルナルド様のご両親は彼が魔法学院に入学した十五歳の頃に亡くなるのだが、健在とのこと。
広々とした部屋で、マルクヴェイ家の皆様方と朝食を一緒にしているのだが、長方形の六人掛けのテーブルと椅子で普通の家族っぽい。こう、もっと貴族の細長いテーブルでかしこまった食事かと思ったけれど、全然違った。
しかも料理がとっても美味しい。サクサクのパンに厚切りベーコンに半熟目玉焼き、コーンスープも絶品だ。
(ああ……病院食とは違う普通の朝ご飯! 幸せ……)
「ふふっ、本当に美味しそうに食べる子ね」
「ああ。見ているこっちまで食欲が出てくる。それに息子が料理に注文を付けるとはな」
「ええ、本当にこんなに気遣いができるなんて」
(ん? もしかしてこの料理のメニューは、ベルナルド様が考えてくれた?)
真偽を確かめようと彼を見たら、見事に顔を背けられてしまった。
けれど耳が真っ赤になっている。トスッ、と私の心臓にハートの矢が連続で突き刺さる。思わず身悶えしそうになったのを、なんとか堪えた。
(どうしよう、すごく可愛い!!)
「……あんまり見るな。食べづらい」
「はい、ベルナルド様」
夢みたいな現状に暢気でいたが、私は肝心なことを決めていないことに気付いた。《疑似種子》を受け入れるかどうかだ。食後にマクヴェイ公から話があるのだろうか。猶予は三日と言っていたが、私の中では結論は出ている。
少なくとも、この死亡率97パーセントの鬱ゲー世界において《赤い果実》を取り除くことができないままだと、ヒロインや攻略キャラたちも極めて危険な状態だ。たとえるなら、地雷原のある場所をスキップするぐらいの行為に等しい。
このディフラに登場するキャラクターは、どれも個性的で好きだから、私の力が役に立つのならなんとかしたい。
「ウサギみたいに可愛いわね」
「ああ、見ていてほっこりする」
「なぜかもっと食べさせたい」
「?」
ウサギを飼っているのだろうか。周囲を見渡しても、ペットらしき姿は見られない。マクヴェイご夫婦とベルナルド様の会話内容が気になるものの、今は今後のことだ。
(んー。攻略キャラと接点を持つよりも、ヒロインと悪役令嬢に接触するほうがいいわよね)
そんなことを考えていたらいつの間にか完食し、食後のお茶が運ばれてきた。
今後の行動を目的化したとで、ふとなぜマルクヴェイ家には快く受け入れられており、温かな眼差しを向けられている。用意されたお茶は、野イチゴのような甘い香りだがスッキリとして飲みやすい。
「美味しいです」
「そうか。……よかった」
ベルナルド様は無愛想な表情こそしているが、私を見つめる視線や声は柔らかい。なんだか勘違いしてしまいそうになる。今のベルナルド様は人嫌いで、他人を寄せ付けない雰囲気がまったくないのだ。
それもこれも、ご両親が顕在だからだろうか。考えて見れば十五歳でマルクヴェイ家当主になって、裏社会を取り締まる立場になったのだから、隙を見せないように毅然とした態度を取っていたのも理解できる。
「あの」
「ん? なんだい? 何か欲しいものや、足りないものがあるのかな?」
「私、《疑似種子》の件を受けようと思います。この世界において《赤い果実》の脅威は、いずれたくさんの悲劇が起こる可能性がありますし、私がなんとかできるのなら頑張りたいです」
私の決意に今まで優雅にお茶を飲んでいたマクヴェイ公は困った、という顔でため息を落とした。
「……気持ちは嬉しいが、将来のことだからもう少し考えてもいいんだよ。ハッキリ言って、この世界の問題に年端もいかないお嬢さんを巻き込んで、人生を大きく歪めてしまったのだから」
「(さすがベルナルド様のお父様。とてもお優しい!)……元の世界でも、二十歳までしか生きられないと医師にも言われていましたし、一年以上長く生きられるかもしれないと思えば、儲けものだと思います」
「ん? ……シャル、お前は今自分が何歳だかわかっているのか?」
「えっと、今年で十九歳になるはず」
「十九!? 十三、四ぐらいだと思っていたが……」
今度は私の頭の上に、ハテナマークが浮かんだ。なぜ外見で、ここまでの差が出てしまうのだろう。確かに同世代と比べれば、背丈や色々と成長してないだろう。
ふとここで、自分の姿を確認してないことに気付いた。顔を洗う時は温かいタオルで拭い、服装も侍女が数人がかりで、テキパキと着替えをさせられたため鏡を見ている暇が無かった気がする。
マナー違反かもしれないけれど、今は非常事態! 私は立ち上がって、窓硝子に近づいて気付いた。そこには黒髪の病弱な自分の姿はなく、十四歳ぐらいの灰色の髪に、青色の瞳をした可愛い感じの女の子が立っている。
人形のようだが、これが今の私の姿らしい。
「え、元の姿と違う!? 体も若返っている?」
思えば闘病生活が長かったこともあり、自分が普通に歩けていることに感動して、視線やら体の縮んだ感覚に気付いていなかった。鈍すぎる。
「転移する際に必要なエネルギーを使うらしく、それによって年齢が若返ることが稀にあるらしいが、髪や瞳まで変わるとか」
(なるほど……。異世界転移で、そのままの姿なのかと思ったけど違うのね)
私はくるくると自分の背格好や服装を鏡で見ていると、侍女たちが姿見をわざわざ持ってきてくれた。その好意が、ありがたくもなんだか申し訳ない。
でもずっと闘病生活だったので、美味しい食事、自分の足で歩いてと思うと、自然と口元が緩んでしまう。
お読みいただきありがとうございました(*´꒳`*)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次回は19時以降に更新予定です。
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