第3話 日本をご案内
まずは腹拵えということで、フードコートに向かった。メニューを見ても分からんだろうから、適当にカツカレーにハンバーガー、ラーメン、餃子を注文した。体格がいいからこれくらい食えるだろう。
しかし、車を降りてからずっと周囲からやたら注目されている。原因はやっぱりオーウェンか。帽子を被ってもイケメンオーラは隠せないか。それにこんな田舎町だと外国人がいるのも珍しいのか。当の本人は全く気にした様子もなく、カツカレーとハンバーガーを黙々と食っているが。
箸が使えないだろうからラーメンは俺が食うことにしたが、食べたそうにこちらを見ていた。今度、自宅で作ってやるかな。この場で分けてやるようなことはしないぞ。俺は野郎と飯を分け合うようなことはしたくない。ただでさえ、周囲から注目を集めているのだから。
「どうだ?日本の飯は?口に合ったか?」
「うむ。美味い。こんなに複雑な味の物は初めて食べたよ。」
「飲食店を始めるって話だったろ?参考になるんじゃないか。」
「ああ、俺は料理に多少は自信があるつもりだった。少なくとも俺の住んでる街の一般的な飯屋が売っているものと同等のものは作れる自信があった。だが、他の店と同じレベルのものを売っても駄目だよな・・・」
「それだと集客は難しいと思うぞ。店の看板メニューとかないとな。」
「正直、飯屋くらい俺でもできると甘く見ていたな。反省している。この世界の飯を食えて良かった。色々と考えさせられたよ。」
「まあ、今はこの国を楽しんでくれ。午後は食品売り場にも行くから、もっといろんな食い物を買って帰るぞ。今日は俺の奢りだからな!遠慮はしなくていいぞ。こう見えて俺はそこそこ金持ちだからな。」
「ありがとう、リョースケ。持つべきものは金持ちの友だな。」
「気にするなよ。俺も久々に人とまともに会話できて楽しんでるからな。それにしても車に乗ってた時から思ってたんだが、オーウェンは割りと落ち着いてるよな。未知の世界ってもっと戸惑うもんじゃないのか?」
「すごく戸惑ってるよ。ただ、冒険者の先輩に何時如何なる状況でも冷静でいろって教えられたからね。冒険者の心構えが染み付いてるんだよ。」
「ああ、そういうことか。でも戸惑う姿が見れないのはつまらんな。」
午後はショッピングセンターを一通り見て回り、オーウェンが興味を示していた物をいろいろと購入してやった。やはり、飲食店を始めるということで料理や調味料、調理器具などに強い興味を示していた。
この世界の料理をよりたくさん知ってもらうにはどうしたら良いか?
俺は惣菜コーナーで少量ずついろんな料理を購入することにした。これを自宅で晩飯として食べてもらおう。
「リョースケ、この料理は買わないのか?」
「唐揚げか。それはここでは買わなくていい。後で唐揚げ専門店で買うから。」
「専門店?」
「ああ、この国でも人気の料理でな、専門で作ってる店があるんだよ。俺も定期的にその店には通ってるんだ。」
「ほう。つまりそっちの方が美味いということか。」
「まあ、そうだな。でも通ってる理由は味じゃないんだ。」
「ん?どういうことだ?」
「その店の店員さんがかわいいんだ!」
「ああ、看板娘ってやつか。」
「なんだ、素っ気ないな。こんな田舎町でかわいい店員さんがいる店なんてほとんどないんだぞ。」
「田舎町?こんなに巨大な店があるのに田舎なのか?」
「ああ、ど田舎だよ。都会はもっとでかい建物がぎっしり建ってるし、人口も多いぞ。いや、そんなことよりも看板娘の話をさらっと流すなよ!飲食店始めるんだったら看板娘は大事だぞ!」
「俺は飯が美味ければそれでいいと思うのだが。まあ、一人で店を切り盛りするのは無理だから当然人は雇うつもりだぞ。」
「はあ、これだからイケメンは・・・。ん?イケメン店主目当ての女性客が狙えるなら看板娘いらないのか・・・」
アホみたいな話をしながら唐揚げ専門店へとやってきた。
「こんにちは。」
「いらっしゃいませ!いつもありがとうございます!あら、今日はお一人じゃないんですね。外国の方ですか?」
「あ、ああ。友人が遊びに来ててね。」
「うむ。この店の唐揚げが美味いと聞いて来たんだ。よろしく頼む。」
「うわあ、日本語お上手なんですね!」
しまった!イケメンを連れてくるんじゃなかった。オーウェンも余計なこと喋んなよ!
「彼は日本生まれの日本育ちなんですよ!だから日本語しか喋れないんですよ!」
「そうだったんですね!体格がいいからたくさん食べられるんじゃないですか?いっぱい買っていってください!」
「ああ、そうさせてもらうよ。唐揚げメニュー全種類3個ずつお願いね。」
「ありがとうございます!準備しますのでお待ち下さい!」
店員さんともうちょっと喋りたかったが、オーウェンがボロを出すかもしれないので早めに撤退することにした。
その後はショッピングセンターの隣近所のホームセンターや家具屋を見て回って帰宅した。
その夜、購入した惣菜を食べながら今後の予定と謎の穴の扱いについて話し合うことにした。
「おい、オーウェン。聞いてるのか?」
「ん?ああ。唐揚げは甘ダレが一番美味いな。シンプルな塩も捨てがたいが・・・」
「あの謎の穴の話をしてるんだよ!ずっと開きっぱなしだろ?そっちの世界からぞろぞろ不審者がうちの敷地内を出入りされると困るんだよ。」
「問題ない。向こうの穴は屋内なんだ。戸締まりはきちんとしている。店舗の改装はまだ先だから人の出入りはない。」
「だが、強盗とか入るかもしれないだろ?」
「ふむ、不測の事態の想定か。そうだな、あの部屋の扉の前に棚でも設置して隠すか。だが、そっちこそあの穴は隠しておいてくれよ?こっちは直接自宅内に侵入されることになるんだからな?」
「もちろんだ。とりあえず今日購入したベニヤ板で目隠しはしてる。後日、物置小屋でも設置しようと思ってる。でも他人に見られるわけにはいかないから、自分で作らないといけないんだよな・・・。」
「大工仕事か。それくらいは手伝うぞ。今日の礼もしたいしな。」
「礼と言うならそっちの世界を案内してくれよ。俺も興味あるんだよ。」
「こっちの世界を見た後だとなあ・・・。がっかりすると思うぞ?」
「いいんだよ。話にあった冒険者ギルドとか見てみたいしさ。町中を歩くだけでもいいんだ。」
「分かったよ。じゃあ、明日行くか。店の準備も今すぐやらなきゃならないわけでもないしな。」
「よっし!異世界の街!楽しみだな!しかし、あの穴はいつまであるんだろうな?突然消えたら帰れなくなるよな。」
「俺は専門家ではないから確かなことは言えないが、あの穴が自然に消滅する可能性は低いと思う。あの部屋の壁面に魔法陣があってな。それが起動していたんだ。何がきっかけで起動したのかは分からない。だが、魔法陣というのは一度起動すると、停止操作をするか、魔法陣自体を破壊するかしないと効果が止まらないんだ。」
「こういう魔法陣というのはよくあるのか?」
「ほとんどないな。一般的にはもっと小さくて簡略化された魔法陣が魔道具に使われている。あんなに大きくて複雑な魔法陣はダンジョンか古代遺跡でしか見たことがない。あの物件の元の家主が研究して完成させたのだろうが、大した魔道士だよ。何で今になって起動したのかは分からんがな。起動に時間がかかるタイプなのかもしれない。ダンジョンで遅効性の魔法陣トラップとかあったから。」
「停止操作の方法は分からないんだよな?となるとやっぱり開きっぱなしなわけだな。破壊するのは勿体ないし。未知の世界への入り口は貴重だ。明日が楽しみだな。」
「期待しないほうがいいと思うぞ。酒だってこのハイボールというものに比べたら、向こうのは泥水みたいなもんだよ。」
「オーウェンは酒強いんだな。」
「俺はそんなに強くないぞ。でもこのハイボールならいくらでも飲めそうだ。揚げ物を食べた後は特にサッパリしていいな。」
オーウェンは大量に購入した惣菜をすごい勢いで平らげていった。それはもう気持ちが良いくらいの食べっぷりだった。それにしても今日会ったばかりだというのに、俺はこいつに随分気を許してしまっているな。明日の異世界探索は警戒心を高めないとな。オーウェンみたいに良い奴ばかりなわけがないからな。
飯を食い終わるとオーウェンは自宅に帰っていった。
穴は見えないようにベニヤ板を立て掛けて隠しておく。ここに建てる小屋は早めに注文しておかないとな。ネットで検索してみるといい感じのやつを見つけた。
『倉庫小屋DIYキット:カントリー収納庫』¥118,000
扉を開ければそこには異世界への入り口が、と言わんばかりのオシャレな木製の倉庫小屋だ。大人2人で60分で組み立て出来ます、と書いてある。在庫状況も問題なし。3日以内には発送されると。これにしよう。早速、注文しておいた。
さて、今日はもう寝るか。明日は異世界観光だ。
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翌日、例の謎の穴の向こうで、ランタンのような物を持ったオーウェンが待っていた。
「おはよう。」
「ああ、おはよう。いよいよ俺は異世界に行けるんだな。」
「そんなに期待するほどの場所でもないから、早くこっち来なよ。」
俺は緊張しながら異世界へ足を踏み入れた。
問題なく入ることが出来た。謎の穴の先は入った瞬間に明らかに空気が変わった。土っぽい匂いもする。
後ろを振り返ると2つの魔法陣が描かれていた。謎の穴の左右の壁に1つずつ。そしてその2つの魔法陣が淡く発光している。
「ようこそ、キリクスの街へ。じゃあ、早速外に行くか?」
「いや、その前にこの建物内も少し見たいな。」
「こっちが倉庫だ。この魔方陣部屋の出入り口はここだけだ。この倉庫の棚を一つ移動して、魔法陣部屋への扉を隠すつもりだ。」
テニスコートくらいの広さの倉庫だった。前の家主が使っていたであろう棚だけがいくつか置いてある。
「なあ、飲食店にこんな倉庫が必要か?」
「全く必要ないな。でもあったら便利そうじゃないか?」
「なんか嫌な予感がしてきた。店舗フロアも見せてくれ。」
「ああ、こっちだ。でも昨日も言ったが調理場はまだないからな。」
店舗フロアは何もない状態でスッキリしていた。調理場がどれくらいのスペースをとるのか知らないが、パッと見た感じ4人掛けテーブル席が10席以上は余裕で入りそうだ。ファミレスみたいな配置なら倍の20席はいけるかもしれない。
「店舗広すぎだろ!フロアスタッフ何人雇うつもりなんだよ!俺はてっきり小料理店みたいなのをやるつもりなんだと思ってたよ!」
「ん?小料理店みたいなのをやるつもりだぞ?」
「じゃあ、こんなでかい物件じゃ駄目だろ!客席スカスカで全然流行ってない店みたいに見えるじゃん!もう物件選びの時点で失敗してるよ!」
「大は小を兼ね・・・」
「兼ねないよ!用途にあった物件選べよ!」
「でもこの物件、大きさの割に安かったし・・・」
「はぁ~・・・、どうすんだよ、これ。失敗する未来しか見えないぞ・・・。」
隣で「でも・・・だって・・・」と言い訳する残念なイケメンを横目に、俺はため息をついた。
「オーウェン。お前とは昨日会ったばかりだが、友人だと思ってる。だからこそはっきり言うが、お前がやろうとしてることは絶対に上手くいかない。」
「うっ・・・。俺の考えが甘かったのは、昨日、ニホンの飯を食って反省しているよ・・・。」
「済んだことは仕方がない。この物件でやっていくしかない。友人として俺も協力しよう。」
「従業員になるのか?」
「従業員か・・・。うん、そういう形をとるか。俺は仕入れ担当だ。この街で入手できない物を日本から仕入れよう。」
「おお、それは心強いな!」
「だが、異世界を繋ぐ穴がいつまで開いているか分からない。全ての商品が日本に頼り切りは駄目だ。そのあたりは追々考えていこう。」
「ああ、そうだな。あの穴が閉じたら何もできなくなるのは困る。」
「それと報酬なんだが、俺はこの世界の通貨をもらっても意味がない。」
「そう言われるとそうだな。それに仕入れしてもらうには日本の通貨が必要だな。」
「日本の通貨の心配はしなくていい。ただ、俺への報酬は前払いにしてくれ。その『智慧の冠』だったか?あらゆる言語が話せるようになるという、その冠が欲しい。」
「この冠か。いいぞ。どのみち、リョースケはこれ被ってないとこの世界では喋れないし、文字も読めないだろうからな。」
「随分あっさり手放すんだな。高価な物なんだろ?」
「ああ、貴重なダンジョン産の魔道具だ。でもいいんだ。その分、働いてくれるんだろ?」
「ああ。それがあれば、他の従業員とも意思疎通が図れる。手が空いてる時は調理場の助っ人にも入ってやれると思う。こう見えて多少は料理もするからな。」
「契約成立だな。じゃあ早速、これが報酬だ。」
オーウェンは被っていた冠を外して俺へ差し出した。
友人のためにも何とかしてやらないとな。丁度、俺も何か新しいことを始めようとしていたところだったんだ。異世界での労働。おもしろそうじゃないか。この街で・・・いや、この世界で一番のレストランにしてやろう。
俺は決意を新たにして冠を受け取った。