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第2話 異世界との邂逅

side:日本のとある田舎

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パソコンに向かい、変動する数字を眺める。相場状況は刻一刻と変化する。別のモニターには監視している銘柄がズラリと並び、こちらも数字が動いている。

15時になり、動いていた数字は一斉にピタッと止まる。今日の取引は終了だ。


冷めたコーヒーを飲み干し、画面を切り替える。

『掛川 亮介 様 口座番号・・・・』、資産を確認すると3億円を超えていた。

5年前、20歳の時から投資を始めたのだが、思っていた以上に儲かってしまった。そして、働くのが阿呆らしくなって当時勤めていた会社はすぐに辞めた。儲かるのは良かったのだが、個人投資家というのは職業ではない。個人投資家として活動している『無職』、それが俺だ!

しかし、やはりと言うべきか、無職というのは世間体がよろしくない。実家に居づらくて、遠く離れた田舎町に中古の一軒家を購入し、一人暮らしを始めて今に至る。


毎日パソコンに向かってひたすら株の値動きを追うだけの人生。

最近、自分が何の為に資産を増やしているのか分からなくなってきていた。最初は、何十億、何百億も稼いでいるすごい投資家の人たちに憧れていた。しかし、稼いでも使い道がなかった。

俺の人生これでいいのか?そういえば、買い物に行く以外は引き籠もっているから、人付き合いもほとんどない。会社勤めしてた時は煩わしかった人付き合いが、人生にはやっぱり必要なものだったのだろうかと、今になって考えるようになった。


というわけで毎日パソコンと睨み合う生活を辞めることにした。資産の大部分は高配当な利回りの良い銘柄の長期投資に切り替えた。年間配当1000万円位が貰える予定だ。もうしばらくは口座は見ないことにしよう。


さて、それでは何をしようか。今から就職活動という気にはならない。庭があるから家庭菜園でもやってみるか。畑仕事で汗を流すのも悪くなさそうだな。今日はホームセンターの園芸コーナーに買い物に行こう。作業は明日からだな。

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俺は今、とても焦っている。


朝、久しぶりに庭に出て見渡していると、家の外壁がぐにゃっと歪んで大きな穴が空いたのだ。


さて、どうしたものか。とりあえず穴の向こう側が気になる。薄暗くてよく見えないが部屋だろうか?奥に見慣れない扉が見える。懐中電灯を持ってきて明かりを照らすと、その部屋の床にファンタジーな模様が描かれていた。

これはまさか、異世界から勇者召喚の儀式でも行われているのか!この穴に飛び込んで向こう側に行けば、俺は勇者になれるのかっ!?


興奮していると、奥の扉がガチャッと開いた。


扉の向こうから入ってきたのは、勇者のような風貌の精悍な顔立ちの外人の男だった。


バッチリ目が合った。そして悟った。召喚された勇者は俺ではないと。


穴の向こう側のイケメンの勇者(?)に何だか負けたような気がして、悔しかったのでそのまま俺は目を逸らさず睨み続けた。イケメン勇者が何か話しかけてきたが、何を言っているのか分からない。


「あんたが何を言っているのか分からない。この穴は何だ?あんたは誰だ?」


穴を指さして問いかけるが、言葉は通じないようだ。


イケメン勇者は何か思いついたように踵を返して部屋を出て行き、すぐに袋を手にして戻ってきた。袋の中から銀色の輪っかのようなものを取り出して頭に被ると、突然流暢な日本語を話し始めた。


「これで会話できるかな?聞こえる?俺はオーウェンという者だ。君と話がしたい。」

「あ、ああ。聞こえる。聞こえてるぞ。俺は・・・亮介だ。話というのは何だ?この穴のことか?あんたがこの穴を開けたのか?」


日本語を話しだしたイケメン勇者に戸惑いながらも、謎の穴を隔てて会話が始まった。


「良かった。会話ができそうだね。この穴のことだけど詳しいことは俺にも分からないんだ。最近、この物件に引っ越してきたところでね。その様子だと君・・・リョースケさんにもこの穴のことは分からないんだね?」

「ああ、ここは俺の家の庭だ。今、突然穴が空いたんだ。」

「そうか、うん、どうしようかな。お互いに異常な状況に陥っているということだね。まずは敵対する意思はないことを示すためにも、会話を続けよう。改めて自己紹介をさせてくれ。」


オーウェンと名乗ったイケメン勇者は、落ち着いた様子で自身の身の上を語りだした。話を聞いていると俺も少し落ち着いてきた。お互いに警戒心を解くための会話か。なるほど。俺も自己紹介しながら(無職であることは伏せて)オーウェンに質問をしたりした。


しばらく会話をしていて穴の向こう側はやはり異世界らしきことが分かった。そして、向こう側の部屋にある魔法陣が今回の件の原因らしい。何故、その魔法陣が突然起動したのかは分からないとのことだ。


どうやらオーウェンは悪い奴ではなさそうだ。


「そうだ、ちょっと飲み物をとってくるよ。」


俺は家に入ってコーラとグラスを2つ持ってきた。


「さてこの穴の向こう側にいけるのか。検証だ。」


コーラを注いだグラスをゆっくりと謎の穴へと近づける。グラスは穴を通過し、穴の向こう側でオーウェンが手を伸ばして受け取った。


「おっ、通れるみたいだな。それはコーラという飲み物だ。飲んでみてくれ。」


俺が先に飲んで見せて飲み物であることを証明する。オーウェンは匂いを確かめながらゆっくりと口にした。


「おお、冷たくて美味いな。口の中でパチパチ弾けるのもおもしろい。こんな飲み物があるんだな。」

「炭酸飲料はそっちの世界にはないのか?こっちは食文化が発達してるからいろんな飲み物や食い物があるぞ。」

「ふむ。興味深いな。このグラスも見事な物だしな。俺もそちら側に行けるのかな。」

「グラスが通れたから行けるんじゃないか?さっき俺の手も少しそちら側に入ったし。」

「よし、試してみたい。」


庭は塀に囲まれているから近所の人に見られることはないだろう。

オーウェンは慎重に足を踏み入れて謎の穴を通り抜けてこちら側に来た。


「通れたな。なるほど。確かに別世界だな。風の匂いが違う。それにこの建物も見たことがない形だな。」

「ようこそ、日本へ。立ち話もなんだし、家の中へ入ってくれ。ああ、靴は脱いで入ってくれよ。」


家の中に案内するとオーウェンは興味津々といった感じでキョロキョロしていた。

お茶を淹れて、常備している俺のお気に入りのどら焼きを食べてもらった。テレビをつけてみたりして、こちら側の世界の紹介を続ける。


「はあー。本当に別世界だな。このどら焼きというのも素朴な甘みがいいな。美味かったよ。ところで街の様子も見てみたいんだが、案内してくれないか?」

「む、外の案内か・・・。大丈夫かな。服装さえ何とかすれば外国人で通せるか。うん、そろそろ昼飯の時間だしな、どっかに飯食いに行くか。」


この前、ネット通販でサイズを間違えて買った上着がある。これを着せよう。オーウェンは俺と同い年のようだが、引き籠もって痩せてしまった俺と違って、体格がいいからサイズが合わないのだ。ズボンはそのままでも大丈夫かな。


「あと、この帽子を被ってくれ。」


オーウェンは銀色の輪っかのような冠を被っている。智慧の冠という魔道具らしい。これを被るとあらゆる言語の会話が可能となるそうだ。ダンジョン探索をしていた時に偶然入手したとても貴重な物なんだとか。俺も欲しいが、とりあえず目立つので帽子を被って隠してもらった。


オーウェンの希望はいろんな物を見てみたいということなので、ショッピングセンターに向かうことにした。というより田舎町は他に案内する場所があまりない。寂れた駅前の商店街なんて見せてもなあ・・・。

準備が出来たので、オーウェンを車に押し込んで俺は運転席に座る。田舎では車がないとまともに生活ができないのだ。


さあ、出発だ。日本を楽しんでもらおうじゃないか。何もない田舎町だけど。

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