エピローグ
私たちは無人の集落の一角に車を停めている。
水と食料、それ以外にも使えるものを物色をしている中で、古びた民家の棚にあるものを私は見つけた。
「ミノルくん、ほら。テープ見つけたよ」
「お。やったじゃん。何があったの?」
「えとね、ユーミンと……ろきしー・ミュージック? とキャンディーズって書いてある。……良かった。落語以外のお笑いのテープってあるんだね」
「……? ああ、南海キャンディーズじゃねーよ。ピンクレディーとかの時代のアイドルグループだよ」
「へー……」
「ロキシーはいいな。それから聴こうぜ」
「ロキシーってリュックサックと関係ある?」
「ない。イギリスのロックバンドだ」
「そっか。宇多田ヒカルとかないかな」
「まぁ、ねーだろうな。藤圭子がいいところだろ」
「ふじけいこ?」
「見つけたら聴いてみな」
亡くなったお爺さんやお婆さんの亡骸に手を合わせつつ捜索した収穫は、いくつかのカセットテープと缶詰やインスタント食品。そしてペットボトルの備蓄用飲料水。
持ち主のいなくなった車の中からガソリンを抜き取って携行缶に移し替え、降り始めた雪に備えてタイヤにはチェーンを巻いた。
手に入れた物資を荷台と後部座席に積み込むと車は走り出す。
「ねぇ、ミノルくん。私にはいつ鉄砲を撃たせてくれるの?」
「魚くらいは一人で捌けるようになったらな」
「……」
「そんなこともできねー奴が触るもんじゃねーよ」
「こ、コイが大きくて怖かったんだもん。美味しくなかったし」
「向こうでならヤマメやイワナが釣れるぜ。餌を取るところから教えてやるよ」
「餌って何食べるの?」
「向こうで教えてやるよ。楽しいぞぉ。でもよ、まずは車だな。向こうに着いたら車の運転を覚えるほうが先だ」
「中学生でも運転できるの?」
「大丈夫だよ。俺は小学生の時から親父に教わってマニュアル運転できたんだから」
ミノルくんはそう言うと、私が見つけたカセットテープをデッキの中に押し込んだ。
カチャリと音が鳴ると、動き始めたテープから音楽が流れ始める。
チラチラと降る雪。
音楽に合わせて流れる景色。
見える風景は無人の森と山。
揺れる車。
人のいない町。
いつまでも続く道路。
車のリアガラスは割れてしまったので、ダンボールとブルーシートとガムテープで塞いでいる。
隙間風がなんとか入らないようにと二人でずいぶん頑張ってガチガチに固定した。
なのでバックミラーで車の後ろを見ることができない。
私たちは後ろを振り返れない。後戻りもできない。前に進むしか無い。
新しい道を。
人ではない私たちは、私たちが生きる場所を探さなくてはならない。
私たちは人間でなくなった。
甦りし者。その名はアンデッド。
死ぬはずが死ななかった者。
死を運び死を撒き散らす者。
死を望まれ死に追い込まれる者。
死を嫌い死を跳ね返す者。
どんな理由で、誰が招き、何が原因なのかは私たちには検討もつかない。
それでも新しい世界はやってきた。
同じ人間だったはずなのに、人間はアンデッドを恐れ、疫病神とみなす。
私たちはゾンビと呼ばれ、人としての意思も記憶も感情も残ったまま人間の外敵となった。
同じアンデッドでもグールはゾンビを仲間とみなさない。
ときには同じアンデッドのゾンビにも脅威だとみなされる。
グールは私たちを獲物とみなして狩る。
人間も私たちを有害生物として狩る。
ゾンビにだって貴重な資源として狩られる場合がある。
私たちは逃げる。ときには反撃し、奪い取る。
私たちは襲いかかるグールを倒し、待ち構える人間も倒す。
敵対すれば同じゾンビすらも。
私たちはアンデッド。
襲われる前に倒さなければならない。
生きるために動植物を狩り、ときにはアンデッドも人間も狩ることになるだろう。
私たちはアンデッドのハンター。
アンデッドハンター。
この世界の獲物は私たちであり、彼らでもある。
生き残るために、生きる全ての存在が獲物となってしまった。
お互いが生き残るために狩り合う世界。
未来がどうなるのかまだ誰にも分からない。
彼にも、私にも。
誰にも。
The End




