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UNDEAD HUNTER  作者: Navajo
最終章 後戻りできない世界
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第二十四話 間道





 ミノルとリコは歩き続けた。

 

 舗装された道路を歩き、急勾配を上るために作られたジグザクした長い道路を上り続け、山の稜線を目指し続けた。

 

 山を越えるならば山の稜線を通って渡り、稜線に沿って県を跨いで突破して検問を通過してやろうとミノルは考えていた。

 

 まだ日は明るい。

 

 遠くでまだボンボンと爆撃する音が聞こえる。

 

 リコがへばらないようにと、ミノルは拾った軽くて丈夫な木の枝を剣鉈で枝打ちし、ストックの代わりになるようにと、リコに二本手渡した。

 

 リコはストックを使った四本の足で道路を歩き続け、ミノルはその先を先導しながら歩き続けた。

 

 三時間ほど歩くと、ミノルは道路から外れて山の斜面を登るとリコに説明し、先頭に立って山の斜面を登り始めた。

 

 そこはどことなく踏み荒らされており、知る人ぞ知る山の稜線を目指すための登山道だった。

 

 急勾配を上るために作られたジグザクとした緩やかな坂道から一転し、急斜面を登る険しい山道に変わった。

 

 リコの足は途端に遅くなる。ミノルは手を使って登るようにと指示し、リコのストックを預かってバックパックに括り付ける。

 

 リコはミノルから貰った登山用の手袋を手につけた状態で木々や岩に捕まりながら必死に登った。

 

 苔と砂利で足元は滑り、盛り上がった木の根を這い上がり、木の樹皮に捕まるとベロリと剥がれて滑落しそうになったが、ミノルが手を掴んで支え、懸命にしがみついた。

 

 荒い呼吸で冷たい空気を肺に満たし、胸が痛くなった。

 

 けれど全身は汗でビショビショ。体が熱くて上着を脱ぎたくなったが、ミノルから汗は我慢しろと止められた。

 

 タオルで額の汗を拭い、氷のような強風に体を煽られる。

 風で舞い上がった小石が頬にツブテのように当たり、吹きすさぶ風は露出する顔を凍らせるほど冷たく突き刺さる。

 

 体は熱いほど温かいのに、顔と両手の指先は凍えるほど寒い。

 

 ミノルが先頭に立って先を行き、振り返ってリコに手を伸ばす。

 

 リコはその手を掴んで這い上がる。

 

 ミノルがかじかむリコの手を握り、彼女を引っ張り上げて自分の横に立たせるとミノルは言う。

 

 

 「リコちゃん、体は熱いのに顔と手足は超寒いだろ?」

 

 「う、うん」

 

 「アイスクリームの倉庫でもこんな感じなんだぜ?」

 

 

 ミノルは笑った。

 

 リコも釣られて引きつりながら笑った。

 

 

 「もうちょっとで稜線だ。山のてっぺん。そこに登ればこんな急斜面はほとんどないぜ」

 

 「う、うん。頑張る」

 

 

 リコの顔が青い。

 少ない体力が精神的な疲労とストレスで追い打ちをかけられているのだろう。

 

 ミノルはバックパックのベルトのサイドポーチからロープを取り出すと、ロープを輪っかにし、ベルトにくくりつけて尻尾のように後ろに垂らした。

 

 

 「リコちゃん、後ちょっとだからそのロープに掴まれ」

 

 「うん」

 

 

 リコはミノルの腰のベルトにくくりつけられたロープに掴まりながら足を動かした。

 

 腿上げをするように小型な体で足を高く上げ、斜面を上り、ミノルに食らいつく。

 

 一歩、また一歩と進むが、終わりの見えない斜面。

 

 杉の落ち葉が積み重なり、砂利と合わさってズルズルと滑る地面。

 

 リコはミノルの腰のロープを握りしめ、ただひたすら足を動かし、青空をめざし続けた。

 

 段々と木の隙間が増えていき、青々とした空が見えてくる。

 

 先を行くミノルは立ち止まった。

 

 振り向いて手を差し伸べる。

 

 その手をリコは握りしめ、グイっと引っ張られて登りきった。

 

 杉の木が生い茂る稜線の上には見渡す限りの青空。

 

 雲ひとつ無い晴天が十二月の真冬の空に広がっている。

 

 前を向けば山の上から見下ろす町の風景。

 

 黒煙を上げ、ボロボロの廃墟と残骸が立ち並び火を吹く町。

 

 自分が通った学校も、家も、友達も、そして最後に過ごしたミノルのアパートも跡形も無い。

 

 滅びた町。


 破壊された思い出。


 不要だと判断され、死を望まれる行為。

 

 リコは握ったミノルの手を抱きしめ、彼の胸に飛び込んだ。

 

 ミノルは優しく彼女の頭を撫でる。

 

 悲しみと疲労と達成感、理不尽な世界への悔しさにリコはまた泣き出した。

 

 ミノルはそのまましゃがみ込み、泣き続けるリコを自分の膝の上に寝かせて荷物を下ろさせた

 

 どれも同じような、ろくに枝打ちもされずに手の行き届いていない杉の木の根本により掛かると、ミノルはバックパックの中からエマージェンシーシートを一枚取り出す。それをリコの上に被せ、静かに時を過ごした。

 

 どれだけの時間が経ったのかは分からないが、涙が枯れ果てたリコは顔を上げ、タオルで顔を拭って鼻をかんだ。

 

 もう悲しみを表情には出していない。

 

 ミノルは携帯食料と水筒をバックパックから取り出すとリコに与え、二人で一緒に食事を取った。

 

 これがこの日の最初の食事だった。

 

 必死な思いと行動が疲れを無視し、空腹も渇きも忘れさせていた。

 

 ミノルはリコの唇が紫色になっているのに気がついた。

 

 

 「リコちゃん。俺、疲れちまってさ。ちょっと休ませてくれないか?」

 

 「……うん……私も、何だか疲れたかも」

 

 

 ミノルはバックパックの中から帆布製のフィールドシートを取り出すと場所を移動し、木の陰で風を遮れそうな地面にシートを敷いた。

 

 リコのバックパックには寝袋型のエマージェンシーシートを入れていたので、それも取り出してシートの上に置く。

 リコに靴を脱がせ、エマージェンシーシートの寝袋に入るように説明すると、リコは素直にその薄っぺらい寝袋の中に潜り込む。

 

 次いでミノルはハクキンカイロにオイルを注入し、火をつけると専用ケースにしまってリコの寝袋の中に入れた。

 

 これで彼女の体温とカイロの反射熱で十分な暖が取れると考えたミノルは、今度は自分がもう一枚のエマージェンシーシートを体に巻いて暖を取って休み始めた。

 

 本当は火を起こそうとも考えたが、煙が見つかるかもしれないという恐怖で焚き火をする気になれなかった。

 そしてそれ以上に、疲労で地面に穴を掘って焚き火の準備をする気力が湧いてこなかった。

 

 

 「ミノルくん、寒いよ」

 

 「……え?」

 

 

 リコのささやきにミノルは首を傾げた。

 

 彼女は厚着しているし、足元もカイロで温めている。寝袋型のシートもあるので少なくとも自分よりはずっと温かいはずだった。

 

 

 「……そうか地面が冷たいもんな」

 

 「うん。だからミノルくんも一緒に入ろう」

 

 

 それが彼女の思いやりであり、甘えてもいるのだと気がつくと、ミノルは体に身に付けていたプロテクター類を外してバックパックにくくりつけて靴を脱ぎ、リコの使っている寝袋型のエマージェンシーシートに潜り込んだ。

 

 少し窮屈だったが伸縮性のあるエマージェンシーシートの中でミノルがリコを抱きかかえるようにして横になった。


 小柄で華奢なリコはミノルに抱きつき、ミノルは二人に風が当たらないように二人のバックパックで壁を作り、残ったエマージェンシーシートで二人の頭部を覆った。

 

 一つの薄い寝袋の中で身を寄せ合い、吹き付ける風を遮断した二人は薄暗い簡易シェルターの中で安息の時間を過ごし始めた。

 

 靴下越しのお互いの足も、くっつく体も握った手も暖かかった。

 

 

 「あ、リコちゃん、トイレ平気?」

 

 「うん、ちょっと今は出そうにないかな」

 

 「行きたくなったら言えよ? 俺もそのとき一緒に行くから」

 

 「うん。……ミノルくん」

 

 「どうした?」

 

 「まだ寒いね」

 

 「どこが?」

 

 「……あのね、お口が寒いの……」

 

 「そっか」

 

 

 ミノルはリコに唇を重ねた。

 

 確かに冷たかった。

 

 温めるように唇を重ね続け、リコも求めるように押し付ける。

 

 遠くで聞こえていた爆音はかすれるように収まり、二人は唇を寄せ合いながら眠りに落ちた。

 

 

 


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