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UNDEAD HUNTER  作者: Navajo
第二章 新世界の幕開け
19/29

第十八話 怖かった思い出




 

 その翌日。とうとうホームセンターに行くこととなった。


 まずは偵察をし、危険があれば即時撤収するが、危険がなければ中に入る。

 ホームセンターの内部にはミノルが偵察に行き、外ではマキノとリコが待機。

 外で緊急事態が起きれば車のクラクションを鳴らし、車と銃と火炎瓶で応戦。

 ミノルを回収して逃げるという段取りだ。

 

 

 「つーわけでさ、もしも何かあったら敵に向かって火炎瓶投げて、車で体当りしながら逃げることになるから覚悟しろよ」


 「う、うん」

 

 「まぁ、そうなる前に調査して危なそうなら逃げるから、本当に戦うことは無いだろうから大丈夫だよ。でも、実際にどんな人々が外にいるのかはこれを機会によく見ておいたほうがいいよ」

 

 

 ホームセンターを目指しながら車を運転するマキノがそう説明する傍ら、ミノルはリコに今日の予定を改めて言い聞かせる。

 

 物資の補給もさることながら、実際の外の脅威をリコに理解させるのが今回の目的だ。

 

 女子だからと過保護なことをするつもりはミノルにはない。マキノも経験から女性がそこまで臆病で軟弱な存在などとは思っていない。現実に向き合うのは男よりも女のほうが強い点もある。っであるならば、体験させてから真実を伝えたほうが受け入れもしやすいだろうと判断した。

 

 リコが現実を知って受け入れるようになったら、彼女の協力はより必要になる。

 その時は彼女に車の運転を教えるのが良いだろうかとミノルは思案していた。

 

 三人が向かうホームセンターに行くには川を横断する必要があり、そのために橋を渡る必要がある。

 最短距離では二通り。

 グールの群れを倒した小さな橋を使うルートと、大きな橋を使うルート。

 しかし、マキノの話では大きな橋は封鎖されているというのだ。

 

 国道に作られた大きな橋は人間の処刑部隊によって封鎖されてる。

 迂回できるような他のルートは町内の生存者によってバリケードが作られていて通れない。

 マキノは唯一残った小さな橋を使うルートで助けを求めに向かった先で検問に出くわし、処刑部隊に撃たれて逃げ帰ってきた経緯がある。

 

 そんなマキノの話では、道中のホームセンターを通過した際には人影やグールの群れは見ていないということだった。


 検問が近いので一掃されてしまったのか、それとも隠れていたのかは分からない。

 それを確かめ、脅威がいなければ物資が入手するのだ。

 

 そしてマキノが運転する車はゾンビを倒した橋に到着した。

 最後に立ち去ったときには橋の上にはまだ死体が残っていた。

 

 それがない。明らかに無くなっている。

 橋の前で一時停止したマキノは橋の上の様子を見ながら言う。

 

 

 「ミノルくん、倒したグールがいないよ」

 

 

 ミノルは車の助手席から顔を出すと橋を見渡す。橋の上に目を凝らすと、いたる所に血の跡が残っている。


 それは歩いたような足跡。血の海をたくさんの足が歩き、踏み潰した跡。

 

 

 「も、もしかして生き返ったのかな」 怯えたような声をマキノは発した。

 

 「……もっと近づいてください」

 

 

 マキノは徐行で前進した。徐々に近づく殺戮現場。


 黙って成り行きを聞いていたリコはフロントガラスから見える光景に「ひっ」と悲鳴を漏らし、道路に散らばる衣類と血の跡、わずかな肉片などに恐怖する。

 

 助手席に乗ったミノルはそれらを車から見下ろし、血痕と残骸を観察する。


 血痕は死体の山から橋の対岸まで続くものがいくつも見られた。

 

 

 「……生き返ったんじゃなくて、引きずって持ち去られた感じですね。肉食動物のことは分かんないですけど、普通に考えてグールの別の群れが死体を持ち去った。……スカベンジャーがいるんだ」

 

 「は、ハイエナみたいな奴らもいるってことか」

 

 「細かい肉片とかはカラスとかが食ったんじゃないですかね? ハゲワシみたいに。それよりも先生。もっと大事なことがわかりますよ」

 

 「な、なんだい?」

 

 「死体の衣類が脱がされてる。俺が撃った散弾で穴だらけっぽい服だ。見覚えもある。それにベルトの付いたズボンも落ちてる」

 

 「……脱がされたのか」

 

 「ええ。グールは群れで行動してて、獲物の服を脱がせる知能がある。それを安全な場所に持って帰って食べる。……そうなると、自分たちも服を脱がなきゃ排泄ができないから、服を脱ぐか、着替えてるかもしれませんよ」

 

 「服を脱ぐって、今は真冬だよ?」

 

 「家の中で群れでこもってりゃ暖は取れるでしょ。それよりもクソまみれの服を着てたらニオイですぐに気取られる。厄介だな。これじゃニオイはあてにできない」

 

 「そうなると犬や猿と同じくらいは頭が良さそうだね」

 

 「猿って教えたら服とか着るんでしたっけ? 服まで着替えてたら遠目じゃマジでグールかどうか判別できないですね。

 ……残ってる衣類の量からして、全部の死体を脱がしてない。

 服を脱がせた奴と、そのまま運んだ奴がいるんでしょう。同じグループなのか、別々のグループなのかは分かりませんが、あの騒ぎを聞きつけてここの死体の山を根こそぎ持ってったんだ……。

 先生、言ってましたよね? だんだん群れを作るようになるって。きっと時間とともに奴らも頭が良くなったんですよ」

 

 「前みたいに無鉄砲に襲ってこなくなるかもしれないね」

 

 「ええ。見つけて突撃してくるだけなら撃ちまくればいいですけど、物陰に潜まれてると厄介です。気をつけましょう」

 

 

 リコは二人の会話内容を黙って聞きながら外の光景を凝視していた。

 散らばる汚れた衣類。血肉。引きずった血痕と足跡。大量の薬莢。タイヤ痕。

 自分が乗る車と運転手たちはここであの亡者たちと戦い、殺した。

 そしてその亡者の亡骸を持ち去った集団。それがグール。

 

 吐き気がこみ上げたが、リコは声を殺した。

 

 その様子をミノルは見ていた。

 

 

 「リコちゃん、大丈夫か? 帰るか?」

 

 「……いいえ、行きます」

 

 「おし。女は度胸だ。まだまだこんなもんじゃねーぞ。吐くときはビニール袋にな」

 

 「はい……」

 

 

 マキノは二人のやり取りを見守り、車を発進させた。

 

 車は道路を走り続けた。

 放置された車や自転車、燃えた跡の家々も道中に見られ、障害物を避けるために速度を落として走り続けた。


 いくつも道を変え、とうとう片道二車線の目的のルートにたどり着く。道路の両脇には畑や運動場、紳士服のチェーン店、個人経営の飲食店や古本屋が並ぶ。

 

 そして次第に見えてきた目的のホームセンター。ゲートは開いている。広い駐車場の中には残された車が駐車されたまま。

 

 ピックアップトラックに乗った三人はホームセンターの敷地の外から周囲を観察し、マキノが車のクラクションを何度か鳴らした。

 そのクラクションに釣られて出てくる者はいない。それでも何度もクラクションを鳴らす。

 

 もう良いんじゃないだろうか? そう思ったときだ。

 

 

 「ほら、おいでなすったぜ」

 

 

 ミノルが言った視線の先、それはバックミラー。

 グールの集団がホームセンターに隣接するマンションから飛び出てくる。

 その人数は少ない。十人に満たない数がピックアップトラックの背後から走ってくる。

 

 グールのうち数人は全裸。残りは上の服だけ着ている。

 靴は履かず、陰部をむき出しにしたまま二足歩行で走ってくる。

 

 マキノは車を発進させた。

 事前にいくつもの打ち合わせを重ねている。

 この場合の事前対応と対策も決まっている。前回と同じパターンで行う。

 

 

 「あいつら走れるようになってますね」 ミノルは背後を見ながら言う。

 

 「走れるのだけ追ってきたんじゃないのかい?」 マキノは努めて冷静に分析した。

 

 ミノルはその話を遮るように言った。「車、停めてください。やります」

 

 

 ピックアップトラックが停車する。

 

 ミノルは助手席から降りると背後に広がる道路に目を向けた。

 

 諦めずに走ってくるみすぼらしい格好の男女のグループ。

 人間の面影を残した異常者。

 

 ミノルは右耳に耳栓を付ける。左手にはフルカバーのグローブ。右手には指ぬきのグローブ。

 防寒着の上に羽織った射撃ベストのポケットの中にはトラップ用の弾と九粒の00バックショット。

 今回は自動式散弾銃のレミントンM1100。ミノルは弾を薬室に装填し、追加の弾を弾倉に送り込む。

 

 事前の指示に従い、リコは後部座席から火炎瓶を取り出してミノルの座っていた助手席に置き、イヤープロテクターを付ける。

 リコはさらに後部座席から弾倉に二発の弾が入った自動銃と、上下二連銃を運転席のマキノに手渡す。

 

 二丁の銃を受け取ったマキノは、上下二連銃を折って薬室を開放させ、いつでも撃てる準備を整える。

 そしてもう一丁の自動銃を外で待つミノルへ手渡し、耳栓を耳に詰めた。

 

 ミノルは受け取った自動銃の負い紐を使って自動銃を背中に背負う。万が一の予備として。

 

 二丁のレミントンM1100を装備したミノルは、手にしたレミントンM1100を構えて銃床に頬を付け、照門で狙う。

 

 風は冷たく、曇り空。

 グールの表情も観察できるほど集中できている。

 

 

 _ダァン!!

 

 

 破裂音と同時に倒れる男のグール。銃声に怯む様子を見せない仲間たち。

 

 銃口をわずかに横にスライドさせ、再びミノルが引き金を引くと爆ぜる火薬。弾着する鉄の粒。仰け反るグール。

 

 この日のために模擬弾で一週間以上の練習を繰り返した、銃を構えたままでの弾の装填。流れるよう弾倉に送り込まれる二発の12ゲージ。

 

 

 _ダンッダァァン!!

 

 

 倒れるグール。まだ二人。残り六人。ミノルは試すチャンスだと判断した。

 

 

 「先生! 一本、着火!!」

 

 

 ミノルはそう叫ぶと、左手で人差し指を一本立ててハンドサインをマキノに向けて送る。

 

 マキノは助手席に置かれた火炎瓶を一本手に取り、ライターで導火線の布に火を付けて外に出る。

 

 車の前方と周囲に敵影無し。その間にもミノルが銃を撃ち続けている。

 

 さらに二人がやられ、四人が倒れている。その後方から迫りくる仲間のグール。

 

 

 「おい! 投げろ!!」

 

 

 ミノルの合図にマキノは火炎瓶を投げた。

 

 倒れている四人の近くに火炎瓶が投擲され、瓶が砕け、ボワンとあっという間に炎が広がる。

 

 燃えるアスファルトの道路。焼け、悶えるグール。

 

 炎の壁に狼狽える後続の四人。

 

 

 「先生も撃ってみな! 練習の成果だぜ!」

 

 

 マキノは言われた通りに運転席から上下二連銃を取り出し、ポケットの中から二発の弾を取り出して装填。


 銃を構え、炎を避けるように向かってくる一味に向けて狙いをつけて引き金を慎重に絞る。

 

 ドン!っと音とともに動きの止まるグール。血しぶきが飛んだが、倒れていない。

 

 撃ったこと、命中したことにマキノは動揺した。

 追撃が必要だと思い、頭を狙おうと試みる。震える手で引き金を引いた。


 ドォン!っと再び炸裂した散弾。グールの顔にビチビチと散弾の破片が弾着したが、倒れない。

 狙いがぶれて当たりが浅い。散弾の大多数が外れて逸れた。

 

 マキノは弾を再装填する必要性に気が付き、開閉レバーを動かすと機関部が開放されて薬莢が飛び出る。


 マキノが再装填するさなか、先程撃ったグールがマキノを見ていた。

 左目が潰れ、右肩と胸がグチャグチャのグールがマキノに向けて歩き出す。

 

 その姿を見たマキノは装填しようとした弾をポケットから取り落とす。間に合わない。

 襲われる。そう思ったマキノは動けなくなった。

 

 

 _ダンッダァァン!!

 

 

 マキノを見ていたグールが吹き飛ぶ。

 側頭部と左肩をグチャグチャにしながら吹き飛び、倒れた。

 

 

 「いいね先生! 撃ててるじゃん!!」

 

 

 ミノルはそう言うと即座に装弾して残りの脅威に向けて銃を撃ち続けた。

 

 マキノはその殺戮の様子を傍観し、リコも車の後部座席から見ていた。

 

 火が引火して焼ける亡者。

 撃ち抜かれて倒れ、痙攣するグール。

 散弾に脊髄をやられ、上半身だけ動かすグール。

 

 八人の襲撃者は迎撃され、生き残っているグールにもとどめの一撃をミノルは送り込む。

 

 そして終わった。

 

 ミノルにとっては何度目ともなる。

 マキノにとっては二回目の、リコにとっては初めてのグールの掃討。

 

 呆然としたリコは後部座席に座ったまま。

 

 ミノルは動揺しているマキノの肩を叩き、優しく車に戻ることを促して二人で車に乗り込む。

 

 車に乗ったミノルは後部座席のリコの足元の床に残りの火炎瓶と予備の銃を置く。

 マキノからも上下二連銃を受け取り、機関部が空であることを確認してからそれらの横に並べた。

 

 リコは車の中に持ち込まれた火薬のニオイに気がつく。

 ニオイのもとはミノルであり、彼の手にする銃。その銃の銃身からは白い煙が出ている。

 

 ため息をついたマキノは車のハンドルを握りながら周囲を見る。


 グールはいない。出て来ない。あれだけの騒ぎを起こしたのにも関わらず。

 

 

 「……ホームセンター、行ってみましょうか?」

 

 「そうだね」

 

 

 マキノはミノルに従った。従うしか無いとも思った。


 彼は仲間に暴力を振るうことはしないし、敵意を向けることもしない。気遣いもしてくれる。


 けれでも彼の行動力と不思議なカリスマ性、そして暴力的な行為への躊躇のなさに恐怖も覚える。

 

 これについてはミノルも感じていた。怖がられていると。

 けれどもそれで良いと考えている。ボスが強いと思えたほうが部下も安心する。

 信頼と恐怖の両方を持たれたほうが出しの抜こうされたり、裏切られる不安も少ない。

 

 信頼関係は時間がかかる。

 即席のパーティーでは実力と威圧感、行動力と結果が結束になる。それがボスとチームを作る。

 

 ミノルは全てを承知していた。

 相手を平気で殺せる人とは違う、狂った自分にしかボスにはなれない。


 そんな自分でなければこの二人を守ることもできないと。

 



 

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