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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

宇宙豪華客船スペースウォーカー号事件

<SpaceWalkerEpisodes[2980]>ハイドアンドシーク|かくれんぼ

作者: Dolenon

<2980年4月12日>

 宇宙豪華客船スペースウォーカー号、ここには宇宙"豪華"客船と名を打っているだけあって乗客は超一流企業の成金達が集う、もちろんその家族もだ。

 そんなスペースウォーカー号で遊びに興じる子供達の姿を目にすることも少なくはない。


 ◇


かくれんぼ(ハイドアンドシーク)をしよう」と子供達のうちの一人が提案した。それに乗る子供達は、すぐさまジャンケンをして鬼を決め始める。

 決まる鬼、隠れる子供達。10のカウントを数える鬼。思い思いの場所に隠れる子供達。

「も〜ういい〜か〜い?」

「も〜ういい〜よ〜!」

 かくれんぼの始まり。鬼は隠れる子供達を探しに動き出す。

 隠れる子供達、鬼に見つからないように隠れ続ける。

 それがかくれんぼ。たわいのない遊びだ。


 ◇


 突然の揺れ、かくれんぼに参加していた子供の1人は巨大なモニュメントの下にある空間にすっぽりと入り込んでいた。それが幸いしたのか揺れにより倒れてくる物から身を守ることができた。その視線の先には、その場にしゃがむ鬼の役となった子供。次の瞬間、その子の顔は一瞬で消えた。一拍おいてから真っ赤な液体が噴水のように溢れ出る。

「え?」

 突然の異変に隠れている子供は呆けた。それが引き金なのか徐々に怒号と悲鳴が飛び交い始めた。素早く動く何かに襲われる人々、つい先程まで豪勢で煌びやかだったアトリウムは、一瞬の間に血と肉塊が撒き散らされる地獄の様相へと変貌を遂げた。

「ひっ!」

 上から落ちてきた男が、子供の目の前でグシャリと肉が潰れる音を立てる。

 本能が告げる、遊びのかくれんぼは終わったのだと。ここからは死のかくれんぼ兼おにごっこ……鬼は正体不明の何か。


 終わりの見えない遊びが始まった。


 ◇


 子供は走る。安全な場所を求めて走る。その道中には夥しい人数の死体。中にはまるで獣に食い荒らされたように身体が失っている死体もあった。むせかえる臭いに子供は不快感を覚える。ほんの数時間前まで平和だったはずが一転して地獄絵図へ変貌してしまう経験は幼い子供にあるはずがなかった。

 また誰かの悲鳴が上がる、子供は振り返らず逃げる。向かう先は両親がいる宿泊エリアの客室。

 息が苦しくなる。がむしゃらに走る。脇目もふらず走る。


 逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、鬼から逃げろ、見つからないうちに逃げろ。


 ◇


「パパ、ママ!」

 やっとの思いで部屋にたどり着いた子供は、がむしゃらに扉を叩く。父を、母を呼びながら、泣き叫びながら必死に扉を叩く。

 悲鳴は今も上がり続ける。

 不意に扉が開く。少年は倒れる。ピチャリとした水音と生暖かい不快感、鼻につく匂いが少年の嗅覚を刺激する。

「あ……ああ……」

 部屋の中には物言わぬ肉の塊となった両親の姿があった。

「ヒッ!」

 廊下からゴトリと音がした。少年は部屋の中へ入り、辺りを見渡す。


 早く隠れないと。


 不意に目に飛び込んだのは扉の開いたクローゼット。

 少年は無我夢中で飛び込み、中からクローゼットの扉を閉める。

 泣くのを堪え、声を押し殺す。

 やがてヌチャリ、ヌチャリという水音が近づいた。


 見つかりませんように……。


 しばらくしてグチュグチュと肉を咀嚼する音が少年の耳に入る。

 かくれんぼは続く……。

 ふいにクローゼットの扉がゆっくりと開く。

「……」

 少年の目には悪夢と絶望が鮮明に……。


 ◇



<2982年5月10日>

「うっ……」

 国際宇宙警備隊の調査員が宇宙服のヘルメット内で吐き気を懸命に堪える。

「これはまた……」

 国際宇宙警備隊の戦闘員は目の前の死体を見て言葉を漏らす。

 その死体は、頭部を食われた少年だった肉の塊。


 宇宙豪華客船スペースウォーカー号。

 そこで起きた悪夢はその時そこに居た者だけしか知る由もない……。


EPISODE CLOSE

スペースウォーカー号シリーズの新作にして、初めて小説としての書き方の話となりました。

2980年、スペースウォーカー号で起きた悲劇はその時その場に居た者だけしか知らない。

今回は公式企画「夏のホラー2021」を知って、それを基に話を書いてみました。


他の乗員乗客がどうなったのかは……それもまたその時その場に居た者だけしか知る由もないでしょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 怪物について情報が全然ないのが不気味ですね。
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