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1980年松本スケッチ ~元・信大生の追懐録~  作者: こまくさ
第1章 1980年松本スケッチ
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善光寺 二年参り ~夜明けを待ちながら~

 年越しは、家族揃って居間で食事をしながら『レコ大』と『紅白』を見て、引き続き『ゆく年くる年』を見たら就寝。

 我が家の年末は、絵に描いたようなステレオタイプの光景だった。

 アーティストの年越しライブもなく、遊園地の年越しイベントもなく、鉄道も終夜運転をしていたわけでもなく、多くの家庭が同じように年を越していたのだと思う。


 そして年が明けると、届いた年賀状を眺めているうちに雑煮が出来上がり、家族で新年の挨拶をしておせちとともに頂く。新しい服に着替えて近くの神社に初詣に行った。

 商業施設も三が日は休業が当たり前で、1月4日の初売りまでは、貰ったお年玉も使い道がなかった。



 1980年大晦日。

 クリスマスが終わってすぐに帰省したので、実家で子どもの頃と代わり映えのしない年末年始を過ごした

 自分宛ての年賀状が少なくなり、旧友を『薄情な奴ら』だなどと思っていたが、実は松本の下宿にそこそこの数が届いていた。


 そういえばあの年末は、松本駅で帰省する友人を盛大に見送るのがサークルメンバーのブームになっていた。

 夜行急行“ちくま”が発車を待つ静かなホームで、万歳三唱なんぞやられるとたいへん恥ずかしかった。ホームに残るほうは一瞬注目されるだけだが、車中に囚われる身は車内の周りの視線が痛かった。


 閑話休題。


 1982年大晦日。学部3年生の年末年始。この年末は帰省しなかった。帰省しない理由は特になかった。

 同様に、ただ帰るのが面倒だったとか、信州に浸っていたかったとか、バイトがあるとか、そんな理由で信州に残った10人ほどの面々が、後輩の下宿に集結し大晦日を迎えていた。

 工学部にほど近い長野市中御所にあったその下宿屋には、3人の後輩が暮らしていて“溜まり場”となっていた。

 

 長野の善光寺は“二年参り”といって、大晦日のうちから境内に入り、年をまたいでお参りする風習がある。

 夜10時を過ぎた頃に溜まり場の下宿を出発し、善光寺に徒歩で向かった。

 長野駅を越え、昭和通りを越えて、なんとか31日のうちに善光寺の中見世までたどり着いたが、すでに多くの人が山門を越えて待機していた。中見世の商店で酒饅頭を蒸す湯気が寒さを際立たせていた。

 まあ、年を越すまでは渋滞は動くこともなく、凍える寒さの中、除夜の鐘の音を聞きながら年が明けるのを待った。

 

 

 年明けと同時に渋滞が動き出し、ほどなく本堂前でお参りし、そのまま中御所までの帰途についたが、各町内にある小さな神社でも初詣客に振る舞い酒をやっていると聞き、あちこちの神社を回りながら帰ることになった。

 とは言え、スマホなどなく、どこに神社があるのかもわからないまま、勘だけを頼りに5つほどの神社を巡り、お神酒や甘酒を頂きながら、午前3時ごろに溜まり場に帰り着いた。

 そこそこの酔っ払いになったこともあり、寒さも感じないまま皆でこたつに潜り込んで駄弁っている間に寝てしまった。


 金はないけど時間があるのが学生というものだが、年末年始はその格言に拍車をかけた。

 元日は、年末に作っておいた“お節料理もどき”をつつきながら、朝っぱらから酒を飲んでいた。

 昼近くになると麻雀卓を囲むもの、トランプに興じるもの、ギターを弾くもの、寝てしまうもの。それぞれが思い思いの時間を過ごした。

 友人だけの年越し。二年参り。帰省しなかった背徳感。

 何の予定もない、何も決まっていない元日。イベントに出向くわけでもなく、贅沢な食事をするわけでもなく、ただただ漠然と過ごす新年。

 いろいろと新鮮だった。


 

 また今年も、慌ただしく年の瀬を過ごしている。

 年が明けてものんびりする間もなく、親戚関係への挨拶に忙殺され、すぐに仕事始めとなって日常に戻っていくだろう。



 “自由っていうのは 素敵なんだよ 何もないことさ”

 (高石ともやとザ・ナターシャ―セブン『夜明けを待ちながら』より)

 

 

お読みいただきありがとうございます。

よいお年をお迎えください。

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