2:因幡鵜鷺 2
この度はぶれいぶすとーりー! 2:因幡鵜鷺 2を読んでいただきありがとうございます!
サース・アルドが話終えたタイミングで、イルビルが件の本を持って部屋へと入ってきた。
主人が話終えたタイミングを見計らって入ってきたのだろう。
本職執事っぽさに少し感動していた。ぽさではなく実際に本職なのだから相当に失礼な感想だ。
「こちらにございます」
イルビルが飾り台の上に乗った赤茶けた布にくるまれた本を、孝弘の前に静かに置いた。
赤茶けた布自体はかなり厚手で、飾り台も布も古く見えるがもともとはかなり価値のするものだろうと容易に想像できる。
もちろんこの世界だと本というだけで価値がある。しかしこれだけ価値があるものに置かれ包まれてている本、
「失礼します」
孝弘は一言断りを入れた後、白の手袋をつけ赤茶けた布をゆっくりと捲った。
見覚えが有った。
本の表紙、背、裏まで焦げ茶の本革で、豪華な装飾の施された本。
というか爺さんが修繕してくれと渡してきた本だった。
確かにこの世界に来る前は持っていたはずだった。しかし来たときには、制服の上に黒の無地のエプロン姿。そのときの着の身着のままだった。
その時に鵜鷺が孝弘にくっついていたから一緒にこっちに来たと思っていた。
そうならば、持っていた本も一緒に飛ばされるのが道理ではないか?と、今更ながら思い立つ。
「スリーブのようにものに入っていませんでしたか?」
3日前の記憶が正しければ、スリーブを見ればもしかしたら同一の物かどうか確認できるのではと思い質問してみた。
「…?いいえ。当家で保管される以前は分かりませんが、当家ではそのようなものは」
「もしかして何か修繕にご不都合がありますか?」
イルビルと目を合わせ互いに確認を取ったのだろう。
その結果なかったのかイルビルが答えた。
そしてサース・アルドはもしかして治らないのではないかと不安に思ったのか少し焦ったような声で訪ねてきた。
「そういうわけではないです。ただその表紙とかの擦り傷とかからそうかな?って思ったんですよ。はははっ」
嘘をついた。表紙の擦り傷とか見てもぶっちゃけそこまでの判断は孝弘にひつかない。
その場を流すための適当な嘘だった。
閑話休題とばかりに、修繕できるかと必要箇所に目星をたてる。
「…そうですね。表紙とページ自体が剥がれているのと破れた貢が結構多いのでそれを治すぐらいはできそうです。完全に失われた部分はどうしようもないですが、破れた紙片も残っていれば繋げます。回収をお願いできますか?」
「かしこまりました。他に何か必要なもの等はございますか?」
「糊と布と繋ぐための紙。あとはアイロンのようなものはないですか?」
アイロンは伝わらなかったので、ジェスチャーと説明でなんとか用意してもらえそうだ。
あと紙も種類があるらしく、最適なものを選ばしてもらえるよう頼んだ。
いつもエプロンのポケットに手袋とピンセットとデザインナイフの類いは入っているので、なんとかなりそうですと伝えるとぱぁと花が咲くような雰囲気をサース・アルドが醸し出した。
翌日、イルビルに数種類の紙を見せて貰い、一番和紙に近く扱いやすそうな紙を選び仕事に取りかかった。
作業を始めて5日。歩けば床を踏み抜いていた鵜鷺が、怪しい動きだが床を踏み抜かなくになった頃。
作業自体は難航を極めていた。洋紙の耐久年数は良いとこ100年、和紙で1000年と言われている。いかに保管しようと、数千年前の石板の方が保存状態がいいのは自明の理である。
つまるところ、1000年もすれば紙はなくなってしまうということだ。
しかしこの本は数千年以上前に作られたと言うのだから驚きである。単に魔術の力の凄さに感動すら覚えた。
ただやはり限界に近かったのだろう、触ると崩れる貢も多かった。
そんなものを1ページずつ1ページずつ、丁寧に処理し数百ページ治すのだから、それはもう膨大な労力である。
そんな労力も報われる瞬間がある。
そう、点検と称して貴重な本を読み耽る瞬間だ。もちろんちゃんと依頼人に了承をとってから読んでいた。
しかし、しかしだ。
「…読めん…!」
一日に12,3ページ。難易度の高い作業に高い集中力を要求されながらも、かなりのハイスピードでこなしていた。
それでも作業も難航し、集中力が切れた瞬間にポロっと嘆くように呟いてしまった。
少なくとも日本語では書かれいなかった。
ぶっちゃけると、話し言葉が伝わるから本ももしかしたらと、そう考え日本語を久しぶりに読めると思っていたからこそ、作業を請け負った節もある。
もちろん鵜鷺の壊したものの謝罪も込めてというのもある。
こんなめんどくさい作業も飴があれば頑張れるというもの。
「よろしければ読み方お教えいたしましょうか?」
「ほんとうですか!いやー、ありがたい!ぶっちゃけ…あっ、いえ。お願いできますか?」
ぶっちゃけめんどくさいと、要らんことを言いそうになったので誤魔化した。
そこからさらに10日。鵜鷺は歩けるようになり、孫を見守る爺さんのようにイルビルが涙を流す頃。
孝弘は孝弘で文字が大まかに読めるようになっていた。
そしてこの本が所謂、英雄譚とか童話集とか呼ばれるものに該当することが分かった。
そして製作時期はラグナロク中のころということまで分かった。
全体的に破損が激しかったので前の方から進めていた。そのため本全体の後ろの方までたどり着いた頃に読めるようになっていた。
本から仕入れた情報によると、ラグナロク終盤の頃に神殺しの一族因幡が数柱な神を地に引きずり落とした。
一族はみな目麗しい容姿をしており、子供のような身長に白髪に赤目。その姿はまさに御使いの兎に称されるほどだった。
常人離れした素早さとその体躯からは想像できないほどの力をもっている。
しかし、好戦的で一族徒党で神を貪る姿はさながら悪魔のようであった。
「…目麗しい容姿。子供のような身長、白髪、赤目、好戦的。」
誰もが2,3度振り返るほど目麗しい容姿。子供のような身長、低身長と読み取れるな。白髪、赤目で兎っぽい。好戦的も負けず嫌いと読み取れるな。
常人離れした素早さ。確かに走るのは早い。
そして、体躯からは想像できない力。少し歩くだけで床を踏み抜き、金属のスプーンすら指先で手品なしに曲げてしまうほどの力。
「因幡…」
因幡鵜鷺。
「因幡ぁ!?」
「ふぇ!?」
孝弘は該当する人物を1人知っていた。よく知っていた。
今急に大きな声で名字を呼ばれ、変な格好で固まっている。
物心つく頃には一緒に生活してきた。
まるで宇宙人のように、普通の人間とは別次元の異次元的強さを持った少女。
【速報】俺の彼女が異世界人だった模様、とかスレ建て始めてもおかしくない真実にたどり着いた。
「どったの!?孝ちゃん!」
「落ち着いて聞けよ鵜鷺。お前は異世界人だ!」
「…気でも狂ったの?」
頭おかしい奴を見る目で気でも狂ったかと聞かれ無性に腹が立った。
そうか、幼い俺はハイスペック異世界人相手に向きになってこてんぱんにされて来たのか!頑張ってたんだ俺は!
「狂っとらんわ!」
「…疲れたのね?一緒に寝よう?」
優しい顔で諭され、強制的にベッドまで運ばれた。
意外なほど早く寝付いてしまったので、疲れてはいたのだろう。
後書きですよ後書き!
どうもこんばんはなつみんです。
1日に2話も書くなんて久しぶりもしくは始めてかもしれない。
そういえばどなたか存じ上げませんが、評価してくれた方がいらっしゃいました。ありがとう!謝謝なす!
次話2:因幡鵜鷺 3でお会いしましょう。